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42話:試験〈4〉

43話目です。

あの後、俺とケリフは今の受験生は良かったとか、

あの子可愛いなとか世間話をして自分の出番が来るまでの間時間を潰していた。

その中でケリフが何でレベルが高いのかを聞いたら、


「俺ってさ家の周りに魔物がうようよいてさー、

普段は親父が狩ってるんだけど、

たまに俺が手伝ってたらいつの間にか俺だけになってて。

あっはっは、まいったなーって感じだよ」


なんて笑いながら言っていた。

確かに腕周りの筋肉がしっかりしていたし、

自分の身長よりある大剣を軽々持っていたから納得できる。

ふと親父を思い出したことは内緒だ。


時々会場が沸き、合格者は今のところ数十人といったところか。

一番見ててすごいと思ったのは、

この国の現国王の息子だ。

流石大国の長の一族。

今までの合格者に比べると剣の握り、振り方、体の流れ。

全てにおいて他を寄せ付けない実力だった。

それでも王の一族とあってか、

レベルはさっきの少女の方が上といったところだ。

やはりカエラみたいに親を説得して魔物狩りに行くのは難しいのだろうか。


そんな見物を繰り返していると、

ついにケリフの番が来た。


「おっ、俺の番だな。じゃあ行ってくるわ!

多分お前のこと見れないと思うから頑張れよ!」


「あぁ、全力出してこい!」


俺はその背中を強くたたいた。


「痛えな」


「おまじないだ。早く行ってこい」


「ありがとよ!なんかやる気出てきたわ!」


相変わらず元気な男だ。

そしてその背中を見送った。


「さて、メルビー、シル、そろそろ起きろ」


声をかけながら俺の膝の上にいるメルビーの肩をゆする。

彼女は目をこすりながらゆっくりと顔を上げ、


「おはよー…ごはん?」


頭の中はいつでもご飯でいっぱいのようだ。

そんな彼女の頭を覚ますため、少し水を生成してかけてやった。

言ってなかったが、俺はカエラ達ほどじゃないが魔法が使えるのだ。

まあ俺は魔法よりも剣で戦うのが性に合ってるけど。

なんていうか、イメージが難しんだよ。

やってると頭の中で他のことを考えちゃって。


「おっと、こんなことしてる暇じゃない」


そう言って俺の背中でいまだに眠り続けている、

眠り姫こと、シルを起こしにかかる。


「シル、そろそろ起きないと仮面取るぞ?」


「むっ!」


やはりシルを起こすにはこれが一番だな。

まだ人に慣れないうちはこの方法が有効だ。


「はいはい、起きたな。早く準備しろ、もうすぐ俺たちの番だ」


「うぅぅ」


睨んでるんだろうが仮面で見えない。

起こしているうちにまた一人、リングから男の子が下りてきた。

時間切れのようだな。


「ほら、メルビー出番だ。全力で倒してこい!」


順番はメルビー、俺、シルの順番で行く。

一番騒いでいたメルビーが最初に行きたいと言っていたので最初にし、

シルはなんかいつでも行けそうだから俺が真ん中にしてもらった。


「うん!うーん」


行こうとしたメルビーが急に止まり、顎に手を置いて唸りだした。


「どうした?トイレでも行きたくなったか?」


もしトイレならもう一回最初から並ぶことになるが…。


「違うよ!あの人、ジャックさんより弱い!」


「おまっ!バカ!大きな声で言うな!」


確かにさっきから思ってたけど。

あぁー、ほらあの人の顔がみるみる赤くなってるじゃん。

知らないぞー、それで落とされても知らないぞー。


「じゃあ行ってくる!」


それからうんっ!っと、笑顔で振り向き、とてとてとリングに上っていった。

いや、俺からしたらとてとてか。

正確にはびゅんっ、が正解だ。


「おい小娘。さっき何と言った」


明らかに煽られて怒っている。

煽った本人はそんなつもりなく言ったんだろうが、質が悪い。


「え?さっきって…弱いってこと?」


「…死ねぇえええええ!」


ついに緒が切れてしまったようだ。

合図もなしに試験は始まってしまった。

他の試験官は止めに入る。

だが走り出してしまった相手を止めるのは容易ではない。

そのまま剣がメルビーに…。


「ほいっ」


入るなんてことはなく、

走る勢いのまま顔から倒れてしまった。


会場はその一部始終を見て静まり返ってしまった。

皆口が開いたまま閉じない。

まるで餌を待っているこいのようだ。


パチパチパチ…。


どこからか始まったその拍手は段々と大きさを増し、

寸刻後には会場を埋め尽くす賞賛の声で溢れていた。

メルビーはやあやあといった感じで手を振り、

リングから降りてきた。

そのまま俺とタッチを交わし、俺が変わってリングに上る。


ここでメルビーが何をしたか話しておこう。

まず下に落ちていた石を拾い。

投げる。

次に…終わりだ。

こんな簡単に言っているが、

会場にいる人にその動きが見えた者は何人もいないだろう。

せいぜい数人。

試験官のランクはB。

つまり一番下だったわけだが、あの時間で倒したなら大したものだ。

まあ俺たちもBランクの端くれなわけで、倒せるのは当たり前といったところだが。

そうでなければジャックさんに顔向けできない。

でも文句なしの合格だ。


シルはメルビーに任せて…。

すごい勢いで往復ビンタされてる…。

あっ、起きた。


「おい!これから戦おうって時によそ見するな!

問答無用で不合格にするぞ!」


「すいません」


いけない。

メルビー達に気を取られていた。

ん?こいつは…。

さっきケリフと話していた時に聞いたが、

こいつはランクA。

そしてこの試験官の中で一番当たりたくない試験官一位らしい。

なんでも、わざと試験を長引かせて受験生をケガさせるとか。

今も会場からうわーとか言った声が聞こえてくる。

ほほう、こいつには話を聞いたときから当たりたいと思っていた。

今までの受験生の分、返させてもらおう。

俺、人を意味もなく傷つける奴嫌いだしな。


「ふん、まあ良い。ゆっくり試験させてもらうからな」


そういって試験官の男はにやにやと笑い、自分の剣をなめた。

周りにいる救護班は既に担架の準備をしている。

…そこまでするなら止めようよ。


始めっ!


開始の合図が声高く上げられる。

俺たちは見つめあい、何もしない。


「おいおい、早くしないと俺から行くぜ?」


「先を譲りますよ、だからどうぞ?」


「ちっ!後悔しな!」


こんな安い挑発に乗るなんて、頭は鶏なのか?

俺は突進してくるそいつをしゃがんで躱し、

足を引っかけた。

見事に顔から地面に突っ込んだ。


「あっ、すいません。避けたらつい」


俺は全力で嫌なことを言っている。

自分でもわかる、でも今までのこいつがしてきたことを考えたら可愛いもんだろう。

会場もそいつが転んだことで大爆笑の渦に囲まれている。


「クソガキがっ!」


俺はその後も決定打は撃ち込まず、わざとそいつに恥をかかせた。


「クソクソ!もういい![ファイアボール]!」


ついに魔法まで使ってきたぞこいつ…。

もう終わりにするか。

俺は体を捻って躱し、相手の腹に一発。

そのままそいつは倒れた。

先ほどよりも大きな拍手と歓声が会場に響き渡る。

皆の鬱憤も晴らせたなら一石二鳥だ。

しかしその数秒後、

また会場は静寂に包まれることになった。

一人の男の登場によって。

男の名はロール。

この世界に数人しかいないランクSの冒険者の一人だ。

皆口々に言う。

ロールが試験官かよ…ダメだな。

ロールが出てくるなんて聞いてないぞ。

あの子も可哀そうに…。

そんな中俺は一人、颯爽とリングから下りた。

銀髪の少女とすれ違うように。

すれ違う瞬間、シルが何かを言ったような気がする。

確か…今は違う?

何のことだ?

わからない。でもシルなら余裕で勝ってくるだろう。

相手がランクSだろうが、いつもの通り、眠そうにしながら帰ってくるに違いない。


「君が…仮面なんてつけて、見づらくないのか?」


「ん」


「残念ながら僕は鑑定ができなくてね、

でもわかるなぁ、君は強い…じゃあ、やろうか」


会場は静まり返ってる。

今まで三人ずつやっていた試験も今はリングに二人しか上っていない。

皆食い入るようにその成り行きを見ている。

ランクSの戦いがどれほどのものなのか、

あの少女はどうなってしまうのか。

そんな感じだ。


始めっ!


まずはロールが走り出す。

それに比べてシルは微動だにしない。

ロールは怪訝そうな顔をしながら切りかかる。

一瞬の出来事だった。

走り出しから切り終わる。

その一連の動作が極まれているようだった。

ロールは切りかかる直前、目を閉じたが、

目を開けたときにはそこに少女はいなかった。

あぁ。

懐かしい。

俺も彼女との出会いはこんな感じだったか。

相変わらず眠そうにする彼女を俺は心から尊敬する。

俺の唯一の師匠として。


「本当に人間か、君は」


その言葉にシルは肩をビクっ、っと震わせた。


「まあいい。次は当てるからね!」


それから攻防戦は続いた。

いや、ロールが攻めで、シルが防御だ。

何分かその戦いが続いているが、一度もその剣がシルに当たっていない。

そして、試合は意外な人物が終わらせた。


「そこまで」


ピタ、っと剣が止まる。

そしてロールはそちらを向き、


「分かりました。この子の才能はすごいですしね。

あなたの言った通りです」


一言そういうと、シルに手を差し出し、


「ありがとう」


感謝の言葉を口にした。


シルもそれに応えるように手を伸ばし…


「あれ、大丈夫かっ!…寝てるな」


倒れたと思ったら寝ていたようだ。

すかさず俺がリングに上がり、シルを背負い、そのまま足早に出て行った。


「君も!強かったな!」


背中からそんなことが聞こえてきたが俺は振り向かなかった。

何故かこの人とはまた会いそうな気がしたからだ。

それに加え、背中にはたくさんの歓喜の声が降り注いだ。


読んでくださりありがとうございます。

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