41話:試験〈3〉
本日2話目です。
「…あった、あったよ!」
一人の少女が歓喜の叫び声をあげる。
「そっかぁ、よかったよかった。
これで三人とも次の試験が受けられるな」
自慢の薄緑色の髪をなびかせる風も一緒に喜んでいるようだ。
その目の下にはうっすらと隈ができている。
メルビーに聞いた話だと今日は緊張で寝てないとか。
「本当によかった。
これでみんなで学校に行けるね!」
「おいメルビー、まだもう一つ試験はあるぞ」
メルビーは既に受かったと言わんばかりに
「だって私そっちの方が自信あるんだよ?
筆記が受かったんだからいけるよ」
胸をポン、っとたたいた。
「そうだけど、あんまり調子乗るなよ?」
「はいはい、分かりましたよ。
お祝いは特上のお肉ね」
「はぁ、リスタはいつまで泣いてるんだ?」
「だってぇ、だって受かったんだもん」
「そうか、でも早くしないと試験始まるぞ?
今のうちから準備しとかないと間に合わなくなる」
筆記で9割以上が落ちたからと言って、
元の人数が人数だけに実技もそれなりに人がいるのだ。
俺たちの周りには泣いている人もいれば、
その結果が当たり前と言う人もいて、
多種多様だ。
まあ今見た感じ、
俺たちの周りには受かった人が数人、片手で数えられるほど。
「うぅ、分かってるよぉ」
「そういえばシルはどうだったんだ?」
今俺の背中で寝息を立てている少女の結果を俺は知らない。
「むぅ?はぁ、アーグが受かったなら受かってる」
「久しぶりに声聞いたな。
ていうか俺が受かってたらって何?」
「ぐぅ…すぅー」
「もう寝てんのか…」
でもシルに関しては実技の心配する必要はないな。
何で俺が受かってたら受かってるのか気になるところだが。
「じゃあリスタはこっから分かれるな」
「そうだね、私だけ魔法だから」
俺がシルと話しているうちにリスタは泣き止んでいたようだ。
俺たちの実技は近接だからここからリスタとはお別れだ。
「そうだな、あっちにはカエラ達もいるだろうから心配はいらないな。
終わったらそのまま宿に行っててくれ。
こっちは人数が多そうだしな」
「うん、頑張ってね」
そういってリスタは小走りで魔法の試験会場へ向かった。
「じゃあこっちも行くか。
早く行かないと更に遅れる」
魔法を使える人はいるが、
その力を使いこなせと言われると難しい。
だから近接にはたくさんの人が集まるのだ。
2次試験、つまり実技からは人数がかなり減るので、
貴族と平民一緒の会場で行われる。
だからあっちに行けばカエラとスフィアに会えるだろう。
「アーグ、お腹すいて力でない。ご飯食べよ?」
「お前はどこのパンだよ。
早くしないといけないって言ってるだろ?
ほらこの肉でも食べて我慢しろ」
俺は収納袋から一口サイズの肉を一つだけ取り出し、
メルビーに渡した。
「パン?肉じゃない?」
「あー、そのことは気にするな。行くぞ」
あっちは水で濡れると力でなくなるんだったか、
まあどうでもいいか。
会場に着いたが、やはりというべきか。
俺たちは少しで遅れてしまったらしい。
「ほらアーグがすぐにご飯出さないから」
「俺のせいなのか、それは」
メルビーの食い意地にも困ったものだ。
この人数だと、かなりの時間がかかりそうだな。
この肉でも食べて気長に待つか。
「あー…え?」
俺は自分の手を食べてしまった。
今この手で肉を持ってたはずだよな…。
「おい、それは俺のだ!」
「何のこと?」
「とぼけるな!俺にお前が見えないと思ったのか!」
「うぅ、最近のアーグは成長してる。
前まではバレなかったのに…」
犯人はこの狼少女。
だから昔俺の食べてるものが急に消えるなんてことがあったのか。
「メルビーだけお祝いの肉はなしにするぞ?」
「あぁごめん!出すから許して!」
そういって自分の口に手を入れようとした。
「いいから!もう、許すから出そうとするな」
こいつも一応女の子のはずなのになぁ。
あれから数時間が経ち、
試験を行っている人の様子が見えるようになってきた。
メルビーは並ぶのに疲れて、
1時間ほどで寝てしまった。
今は俺の膝の上だ。
幸い会場は闘技場なので、座ることができる。
さっきまでは会場の外だったからな。
試験の内容は試験官がランクB以上の冒険者で、
対人戦を模した物だ。
運が悪い時はランクSに当たってしまうそうで、
ほぼ勝てなくなってしまう。
勝利の基準は相手に自分の実力を見てもらい、
認められたら合格らしい。
何とも曖昧な基準だ。
今見ている感じだとかなり難しそう。
筆記を合格しても実技ができる者は少なく、
開始十秒で自分からリタイアが多い。
中には奮闘する者もいるが、
そいつも同じようにあしらわれていく。
俺たちは12歳だしな。
今まで剣に触れたことのない人もいるだろう。
そういう者は2次試験で別の筆記を受けることになる。
救済措置といったところか。
1次試験の何倍も難しいとか。
そちらで受かる者はそれこそ指で数えられる程だ。
おっ、今までの受験生とは違うな。
今リングに上がってきた受験生は一見すると今までの者と同じだが、
俺は始まってから今までずっと鑑定をしてきた。
だからそいつのステータスの高さに驚いている。
ただ、Lv1だ。
これが才能なのだろう。
そいつの試験は終わった。
結果は多分受かった。
かなり遠くから見ているのでわからなかったが、
試験が終わった後互いを抱き合っていたのでそうだろう。
見ていた感じ、やはり剣の握りがなっていない。
振り方も雑で、次の攻撃が見え見えだ。
それを才能、ステータスで補っているという感じか。
確かに努力すれば伸びると思う。
でもあれは今まで剣を数回しか握ったことのない奴の動きだ。
それからも何人かは受かった。
でもそれはいずれもLv1の才能だった。
今はまだ序盤だから貴族だろう。
どいつもメルビーの足元にも及ばない。
努力が足りない。
勝利を手にした者が出ると会場が沸くが、
それほどではない。
そんな試験に俺も飽き飽きしてきたころ、
会場から大きな歓声が上がった。
「誰だ?」
俺は不思議になってリングに立っている少女を見る。
(すごいな。今までの者が比べ物にならない)
彼女の手には刀が握られていて、
少し和風といった印象を受けた。
多分彼女は魔物と戦ったことがある。
それも何回も。
この歳でそれはすごい。
「なあ、あいつは何なんだ?」
俺はその少女のことが気になり、
隣に座っていた奴に話しかけた。
「お前知らないのか?
あの人はあの若さでランクCに到達した人だぞ!
才能もさることながら努力がすごいらしいな。
毎日剣を振っているとか。
それにかわいいよなぁ、俺もああいう人と付き合いたい」
「Cか」
「ん?…お前!なんだそのかわいい子たちは!」
「こいつらか?俺の…仲間だ」
「そ、そうか!もしよかったら俺に紹介してくれねえか?」
そういって男はずりずりと近付いてきた。
「おい近寄るな!この子がメルビーで、後ろの奴がシュルガトだ」
「メルビーちゃんにシュルガトちゃんか。
なんで仮面付けてるの?」
「そこは秘密で」
「ふーん」
「なんだよ…お前、強いな」
おおおおおおおお!
会場から歓声が上がった。
少女が勝ったのだろう。
でもそんなことより、
「おおおお!お前なんか言ったか?」
「いや、あいつすごいなって」
こいつのステータスがかなり高かったことに驚いている。
「そうだな、そういえばこれも何かの縁だ。
お前の名前は?」
「俺はアーグだ」
「アーグか、俺は大剣使いのケリフだ、よろしくな」
「あぁ、これで終わるなんて寂しいしな。
受かるといいな」
「そうだな」
ケリフが俺の初めての男友達だ。
俺はこれで終わりなんて微塵も思っていない。
読んでくださりありがとうございます。




