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39話:試験〈1〉

昨日はすいませんでした。

明日2話投稿しようと思いますので許してください。

「それでは、始め!」


その言葉を皮切りに部屋にはペンの走る音が響き渡る。

額からは汗が流れ落ち、問題を眺めただけで頭を抱える者もいる。


実際、この部屋で受けているうちの9割はそんな感じだ。

それがこの試験の難しさを容易に物語っている。

そんな中、その男は動かしている手を止めることなく走らせている。


たしかに難しい、でもそれだけだ。

率直な感想はそれだ。

応用ができればなんてことない。

リスタとメルビーも俺が教えたことを思い出せば解けるはずだ。


俺たち3人はみんな別々の部屋にされてしまった。

まぁ、これだけの人数がいれば仕方がない。

部屋の右前、そこには燃えるような赤い髪を持った少女が、

アーグ同様ペンを走らせている。

彼女もまたその手を止めることはない。

集中しているので気づいていないが、

周りの受験生は試験そっちのけでチラチラと彼女の方を見ている。

カンニングでは?と思うが、

彼らは答えを見ているのではないだろう。

彼女の醸し出している妖艶な雰囲気が気になって仕方がないのである。


リスタとメルビーもこの問題なら充分対応できると信じている。

だから俺も今は自分のことに集中しよう。

そうしたいのは山々だが、できない。

あいつがいなければ、

俺は集中できていただろうに。



少し時をさかのぼった頃。


「リスタ、メルビー、シル、準備はできたか?」


俺は試験に向けての最後の確認を取った。

ここにいるのは三人。

リスタ、メルビーそして俺だ。

ルーファは既に試験に向かったようで、今朝起きたときにはいなかったらしい。

前日に言われていたので驚きはしなかったが。

シルは朝食を一緒に取った後、誰かと話があるとかで先に行ってしまった。

勿論もちろんいつも通りの仮面をつけて。


「うん、筆記用具も持ったし、服は…自由だからいいよね」


この世界には制服のような正装はお金持ちや貴族しか持っていない、

だから平民である俺たちは私服でもいいということだ。


「朝食は取ったし、昼ごはんも持った。あっ、お菓子持ってかなきゃ…」


「お前は何しに行くんだ」


メルビーはいつも通りのメルビー節が炸裂さくれつしている。

それを見てリスタも微笑みを浮かべた。

この様子なら変に緊張することはないだろう。


「じゃあ行くか」



学校には既に、何千、何万という人だかりができていた。

これを見ると今までの自信が少し欠けてしまう。

それほど圧巻だった。

今日の試験内容は筆記。

皆各々友達と確認したり、紙を見たりしている。

こういうところは前世の世界と変わらずといったところか、

少し懐かしい。


「うわ、これ皆受験生?」


リスタもその数に圧倒されたのか、明らかに嫌な顔をした。

無理もない。

まるで人がゴ〇のようだからな。


「ふっふっふ、私に勝てると思ってるのかな?」


こちらは自身満々なのか、緊張のきの字も見えない。

そして定刻になり、門が開かれるとなだれ込むように中へ入っていった。

壁には自分の部屋がどこか、それが分かる張り紙が張り出されている。

見事に全員離れた。


「まー、しょうがないよね。じゃあ私はあっちだから」


リスタは自分の部屋を見つけ、そそくさと行こうとした。

でも俺がそうはさせない。


「待て」


「どうしたの、腕…痛い」


「あっ、すまん」


俺は強く握りすぎたみたいだ。


「その、一人で大丈夫か」


二人の間に、少しの沈黙が流れた。


「アーグ、私はもうあの時の私じゃない。

一人でももう大丈夫。

だから、アーグは自分の全力を出して、そうじゃないと、怒るよ?」


そういってリスタは俺の胸をとんっ、と叩いた。

その手には確かに力が感じられた。

あの時の人におびえた弱々しい力ではなく、

自身がこもった、力強いものを。

それは俺を安心させるには十分すぎるものだった。


「あぁ、リスタ、頑張れよ。終わったら合流しよう」


にこっ、と微笑み今度こそ行ってしまった。


「メルビーもだ…いない」


俺とリスタが話している間に行ってしまったようだ。

でも分かる。あいつももう一人で人の中を生きていけるのだ。



ここか。

俺は自分の持っている受験票の番号とを、もう一度見比べ、

部屋の扉を開けた。

そこにはたくさんの受験生が並んでおり、

中には獣人と見られる者もいた。

俺の入場には見向きもせず、最後の追い込みに励んでいた。

皆受かるために必死なのだ。

ここに受かれば将来は決まったようなもの。

それを目指して来ているのだから。

俺は強い奴と出会いたいからだが、今は皆と同様、最後の確認といこうか。


それから数分が経ち、伸びをすると、視界の端にルーファの姿が見えた。

話しかけようと机に手をついたが、今は集中しているようなので、

休憩の時間にでも話しかけよう。


それからまた数分が経ち、部屋の席が俺の横以外全て埋まった頃。

試験官と思われる人が数人、前の扉から部屋に入ってきた。

それと同時に、後ろの扉から一人の少女が悠然と、

眠そうな目をこすりながら入ってきた。

いや、眠そうというのは俺の想像だ。

彼女は目をこすってはいるが、

肝心の目が見えていない。

正確には仮面をかぶっていて仮面の目をこすっている。

銀色の髪に小さな身長。

俺が今日の朝見た彼女、シルだ。


あいつ何やってるんだ…。

試験官もザワザワしてるぞ。


そしてシルは俺の横の席に着いた。

彼女は席に着くなり舟を漕ぎ始めた。

そんな彼女の態度に呆れたのか、

試験官も一つ、咳払いをし、今日の試験についての説明を始めた。

まあ簡単に言えば時間制限とカンニングをするな、ということだ。

はなからそんなことするつもりもないので聞き流していた。

そんなことよりも隣の彼女の方が気になる。



カリカリカリ

試験開始の合図から大体30分が経った。

この試験自体は100分と、まだまだ時間はある。

俺は既に全ての問題を解ききっているので焦ることはない。

あとはミスがないか確かめ、より正確な答えを見つけよう。

意気込んだのだが、隣の席からはスゥ…と寝息が聞こえ始めた。


マジかよこいつ…。

見た感じ問題に目を通してすらいないぞ。


それから40分が経ち、そろそろ周りの皆が自分の解けるものが終わり始めたころ。

俺の隣で寝てた彼女は目を覚ました。

試験終了まで30分だ。

俺はもう5回は見直しているので完璧だと思う。

それよりも彼女が解いているのか、ということの方が気になる。

シルは何を思ったのか、少しだけ自分の椅子を引き、

机とお腹が離れるようにした。

苦しかったのか?

まあいいか、ともう一度見直そうとした次の瞬間。

一瞬彼女の姿が見えなくなったと思ったら、

瞬きをするとそこにはペンを走らせる彼女がいた。

ははーん。なんだかんだ言ってシルも勉強してたんだな。

俺はその時そう思っていた。

ただ一つ心残りがあるとすれば、なんで姿が見えなくなったということか。



「そこまで!」


静寂に包まれていた部屋に試験官の声が響き渡る。

それから俺たち受験生の答案は回収され、

今日の試験は終了となった。

今から休憩だ。

なんで終わったのに、そう思う者もいるだろう。

休憩時間は6時間だ。

その間に答案の確認をし、明日の実技試験を受けられる生徒を決めるのだ。

この人数の人の答案の確認とか大変そうだなぁ。

そんなことを考えながら、俺はルーファのもとに向かった。


「ルーファ、弁当、美味しそうだな。

自分で作ったのか?」


急に話しかけられたからか、ビクッと体を震わせ、

ゆっくりと後ろを振り向いた。

彼女に話しかける俺は、何かの視線を感じたが無視する。

試験の内容はわざと聞かない。

彼女は受かる気がしたからだ。


「はい」


「料理できるのか」


「はい」


「俺は料理できないからうらやましいな」


「そうですか」


彼女はやはり必要最低限の会話しかしない。

俺は彼女が笑ったところを見たことがない。

いつかは拝みたいものだ。


ゴスっ


「痛ったああああ!」


多分人から出てはいけないような音が俺の腰から発せられた。

その正体は勿論彼女であって。

その仮面の下からは怒りの目を向けられている気がする。

ルーファ弁当に卵焼き入ってたな。今度食べてみたい。

…ごめんなさいごめんなさい!

だからその手を握らないで!

シルはいつの間に起きていたのか。

握っている手の反対で、小さな箱を抱えている。


「どうしたんだよ、ていうかそれはなんだ」


俺はその箱を指さしながら言う。

そして無言のまま俺を自席まで連れて行くと、座らされた。

シルも椅子に座り、いや俺の上だが。

弁当を開けると、そこには少し焦げていて、

でも頑張ったことが容易にうかがえる卵焼きが所せましと並べられていた。


「ん」


それを箸でつかみ、俺の口へと運んでくる。

さっきよりも視線が増えた気がする。

そんなことお構いなしにシルは食べさせようとしてくる。


「作ってくれたのか?」


「ん」


うん。

たぶん彼女はそう言った。

俺のために作ってくれた。それを断る理由はどこにもない。

例え視線がきつくても、拒むことはしない。


そして俺はその卵焼きを口に運んだ。


「あああああー!」


「おいしい!…?」


俺の声と誰かの叫び声が重なった。

聞こえたほうを見ると、

そこには口を半開きにした薄緑色した髪をなびかせる美少女が。

その隣には口をもぐもぐと動かす、こちらはかっこかわいい少女が。


「ん」


「うん、おいしいよ」


「ちょっと!こっち見たなら無視しないでよ!」


「ごめんて、美味しかったから」


仮面の体温が少しだけ上昇した。


「だからってなんで食べさせてもらってるの!自分で食べなよ!」


「はいはい、メルビーも食べる…ごぶぇええええ!」


食べるか?そう聞こうとした俺にシルの拳が飛んできた。

危うく卵焼きが出てくるところだったぞ。


「分かった分かった。食べるから頬にあてるのはやめてくれ」


ぐりぐりと俺の頬に卵焼きを当ててくる。

そんな俺たちへの視線はこの部屋にいる全員になったとは彼らは知らない。

そんな中、一人部屋にいる青年といった感じの男は静かに笑った。


読んでくださりありがとうございます。

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