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38話:試験前は食べ歩き

38話目です。

わあすごい。

今までランド王国が大きいと思っていた私は、

そのスケールの違いに驚かされることになった。

ここは確かに世界一かもしれない。

そう確信するほど予想を上回っていた。


「こんなところ見たことない…」


「すごいなぁ」


私は心の声が表に出てしまった。

でもそれはスフィアも同じようで、

互いの声に気づき、二人して苦笑いした。


見た目の豪華さもさながら、

揺れにも強く、足場の悪いところでも問題なく進める名馬。

一足中に入ると、

そこが家かのようにくつろぐことができる解放的な空間。

ふつうの貴族が乗っているものとは、

一味も二味も違う。

それは勿論王家が乗るものだからであって、

たとえ貴族だとしても簡単には乗ることができない。

それ一台で少し豪華な家が建つほどの値段だ。

スフィアも最初は断っていたが、

カエラの押しに耐えきれず、結局乗ることになってしまった。

光栄なことだが、男爵の自分なんかがいいのか…。

そう思ってしまった。

それが顔に出てたのか、

カエラに、


「スフィアは私の親友でしょ」


そう一言告げられ、やっぱりカエラはカエラなんだな、と思った。

私も今度お礼をしたいな。

あっ、もし試験に受かったら合格祝いにパーティーでも開こう。

そこで私がカエラにケーキを作るんだ。

勿論彼らも呼んで。


「カエラ、楽しみだね」


思わず未来の自分たちの姿を想像して口走ってしまった。

カエラは一瞬戸惑ったが、一呼吸し、


「うん!」


飛び切りの笑顔を返してくれた。

あの時、話しかけてくれた彼女には感謝しか浮かばない。

もし彼女がいなかったら、

学校に行こうなど思っていない。

もし彼女がいなかったら、

沢山の仲間に会えていない。

もし彼女がいなかったら、

こんなに楽しい生活が送れていない。

一時期はすれ違うこともあったけど、

彼女との絆は本物だ。

私はそう信じている。

彼女もそれは同じ気持ち。

今はそう確信できる。


試験。

これが私の人生の一つの区切りとなるだろう。

ゲームで言えばチュートリアルは終わった。

チュートリアルと言っても、

私の中ではとても充実した、濃密な時だった。

一人ぼっちになってしまった私を迎えたのは暖かい家族だった。

未来を彩ってくれるのはいつだって私の仲間達だった。

きっとこれからの人生はもっと素晴らしい物になる。

そう信じている。

だってスフィアがいるから。

仲間がいるから。

大切な人の為ならきっと、

私は何だってできる。

いつか、私の宝物は見つかるかな。

いや、見つけてみせる。

そして言おう。

元気だった?って。

そして言おう。

自分の本当の気持ちを。

飛び切りの笑顔で。


「スフィア」


「どうしたの?」


外を向いていたカエラが私の方を向いた。


「絶対受かろうね!みんなで一緒に行こ!」


その“みんな“というのには彼らも入っているだろう。

私には彼らなしの学校生活が想像できない。


「うん!」


今度はスフィアが笑顔をくれた。

その笑顔は嘘偽りのない、

純粋で、真っすぐなスフィアの気持ちが浮かんでいた。



「お嬢様、お帰りなさいませ」


今二人はサマ王国の一角にある一つの大きな屋敷に来ている。


「えーっと、ただいま?」


カエラ達は兵士に勧められるままここに来たので何も知らなかった。

玄関にはたくさんのメイドと執事が待っていた。

カエラはランド王国とカトニス王国にしか言ったことがないので、

ここに自分の家があることもしたなかった。


「お嬢様、私はこの家の執事長をしております。

何か気になることがございましたらなんなりと、お申し付けください。

では荷物を失礼して。

お部屋にご案内いたします。

お連れのお嬢さんもご一緒にどうぞ」


「ありがとう」


「え?あ…ありがとうございます」


スフィアは執事など雇ってはいないので戸惑っていた。



それから彼女たちは荷物の整理、食事をした後、二人一緒に眠りについた。


翌日、彼女たちは残りの二日間をどうしようかと話し合っていた。


「今から勉強してもそんなに意味ないよね?」


「そうだね、実技の練習はするけど」


「じゃあ…町で遊んじゃう?」


「カエラ…」


「ダメかな?」


「いいよ!」


「最後の確認は明日すればいいよね!」


こんな状態で大丈夫なのか、

そんなことを思われるかもしれない。

でも彼女達は新しい街が見てみたくてしょうがなかった。


「そういえばアーグたちってどこにいるかな」


二人の手にはあの、スライムのジュースがある。


「この国に入るけど、まあ試験で会えるよ、多分…

おいしいっ!」


「ほんと?ごくごく…ほんとだ!

あっ、あっちのもおいしそうだよ!」


「行こ!」


二人はまた試験の話はほったらかしで、食べ歩きに出向いた。

あれからいろいろな物を食べた二人は見覚えのある後ろ姿を見つけた。


「あれってアーグじゃない?」


黒い髪をなびかせるその姿はこの国では目立つ。


「そうだね、でもメルビーと…赤い子はだ誰だろ?」


その見知った二人の姿とは別に、

今まで見たことのない子がいることに二人は不思議に思った。


「今は…忙しそうだね、また今度話しかければいいかな」


カエラは早くその場を離れたくなった。

こう…モヤっとするような。


「じゃあ私たちもカフェでも入ろうか」



「さっきの子って誰だったんだろうね」


やはり会話の一言目はそれだった。


「うーん、分からないけど、女の子…だったね」


その隣に歩いている人が男だったらこの話はしてなかったかもしれない。


「カエラって…アーグのこと」


「そんなわけないじゃん!」


「まだ言い終わってないよ…でも、安心するよね、

アーグといると」


「それは分かる」


「前にさ、一回森で死にかけたことあったよね?」


それは今でも鮮明に思い出せる。

あの恐怖を忘れるわけない。


「うん、でもそれがどうしたの」


「あの時の男の子って、アーグだよね」


「それは私も思ってた、けどアーグ私たちに会ったとき何も言わなかったし」


「そうだけどさ、さっきの後ろ姿を見て思い出したんだ。

多分、あの時に隣にいたのはシルさんかな」


でも、あの時の暖かさも忘れてない。

一緒にいるだけで安心するよう。

それはスフィアも一緒だ。


「…この話はまた今度にしよっか、今日は帰って特訓しよ」


私は前世で女の子の友達がいなかったので恋バナなどはしたことがないのだ。

だから何を話していいかもわからない。

この空気は苦手だ。

今は特訓で気分を紛らわそう。

それにしても今日は顔が熱いな。

日が強いわけでもないのに。


「そこっ!」


「[大海]」


「あっ」


気づいたときにはもう遅かった。

時すでに遅しというべきか。

スフィアの魔法で辺り一面が水浸し、いや海水で埋もれている。


「あれ…抑えたつもりなのに…」


その海水はただの海水ではなく、塩分濃度が異常に高い。

それもスフィアの水魔法が特出した才能があるせいだろう。

試験前で大丈夫なのか、と思う人もいるだろう。

彼女達には同世代の人の実力を見たことがないのでわからないと思うが、

彼女達を超えるものはそうそういないだろう。

それくらい成長している。


「あーぁ、ちょっと待って、[業火]」


「あっ」


気づいたときにはもう遅かった。

これは今日二回目か。

スフィアが作り出した海水を蒸発させようと、

火属性魔法を発動したカエラ。

確かに海水はすべて消えてなくなっている。

それどころか、魔法が放たれた場所にはぽっかりと穴が開いている。

そこにはまだ火が残っている。

もう一度言おう。

彼女たちはすごいのだ。


「な、なんで…抑えたのに…」


「今日は、帰ろっか」


「うん…そうしよ」


「ちょっとそこの君たち!今すぐそこから離れなさい!」


二人に近づいてくるのはサマ王国の紋章が記された鎧を身にまとった、

十数人の兵士。


「どうかしたんですか?もしかして強い魔獣でも?」


「いや、先ほここら辺からものすごい爆発音がしたのでな、

君たちも早く中に戻りなさい。もしかしたら君の言う通り魔獣が出たのかもしれない」


あっ、二人の頭にはとある記憶が流れた。

つい1分ほど前の。

カエラが放った業火が出した爆発音だろう。

そう思った。


「あのー」


「どうした?早く帰りなさい。

私たちが調査をするから」


「多分それ私です」


「…何を言ってるんだ」


「だから、その音を出したのは私です。

ほら、あそこに穴が開いてるでしょ?

そこに魔法を放ったら」


「そんなことないだろ、馬鹿なことは言ってないで早く帰りなさい。

君みたいな女の子ができるはずないだろう」


カチンっ


「君みたいな?あぁそうですか、私たちはそんなに女の子らしいですか、

ありがとうございます」


カエラは全力で皮肉を言ったつもりだ。


「そうだな、女の子らしいっていうか、女の子だしな」


「う、うるさいです!」


「カエラっ!待っ」


「[業火]!」


「あっ」


長至近距離からのその音は兵士だけでなく、

出した本人も驚いた。

さっきは少し遠くだったからスフィアも言わなかったものを。

いつもこれだけはやめてって言ってるのに…。

怒ったら聞かないからなぁ。


「なんだ今のは…耳がキンキンするぞ」


「ふふん!これでわかりましたか!」


「あ、あぁ、分かったから怒らないでくれ…」


「それならいいです」


「もう…」


カエラは満足そうな表情をしていたが、

スフィアは少し疲れたような顔をしていた。



読んでくださりありがとうございます。

明日はもしかしたら出せないかもしれません。

本当にごめんなさい。

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