37話:燃える赤に
37話です。
燃えるような赤い髪に見るものを引き込む赤い唇。
でもその見た目の肉食感を真っ向から否定するような怯えた目。
そのギャップが怖いほどだ。
まるでその子が二つに分かれているよう。
心がざわつく。
この場面は既視感がある。
あの時は相手が女だったからよかったものを、
いや、よくはないが。
あの子を取り囲んでいるのは男だ。
力では勝てるはずがない。
人数も男が数人に女の子が一人だ。
明らかに仲がよさそうな感じもしない。
あの子は目でも訴えているように、
男たちに対して恐怖の感情を抱いている。
「おい、この子が怖がってるだろ。離れろ」
俺はその子を見た瞬間に飛び出していた。
気づいたときには既に女の子と男たちの間に立っていた。
男は俺のいきなりの登場に驚いた顔をしていたが、
すぐに先ほどまでのにやけた表情に戻っていた。
「お前に用はねえよ、俺はそいつと少しだけお話しをしているだけだ。
分かったらそこ、どけ」
あくまで自分は会話をしていると言いたげだ。
近くに来たから分かる、
女の子の肩は震え、俺に無言の助けを求めている。
「そういうわけにはいかない、なんなら俺が話聞くけど」
俺はできることなら大事にしたくないので、
メルビーには陰で待ってもらっている。
出てきたら殴りかかりそうだしな。
「男のお前にはできない相談だな」
ほう、この男が何故こんな路地裏にいるか分かった。
「お前のご奉仕くらいだったらできるかもしれないぞ、
まあする気にはならないけど、だから他を当たれ」
話を聞くとは言ったがやるとは言っていない。
まずそんなことしたくない。気持ち悪い。
その俺の言葉に、そいつは顔を怒りに染めた。
「お前、平民だろ。貴族に逆らっていいのか」
こいつは貴族だったのか、どうりで服が無駄に高そうなわけだ。
「お前こそ、そんなことしていいのか?
ここはサマ王国だぞ」
俺が馬車の中で話した通り、
ここでの権力の横暴は許されない。
法で決まってるはずだ。
「だからなんだ、お前ごとき一人黙らせるのは簡単だ」
そう言うと、男の隣にいた男たちが俺を囲んできた。
まるでカツアゲだな。
前世ではなかったが、こういう視点なのか、確かに圧がすごい。
まあこいつらからは何も脅威を感じないがな。
「お前が片付いたら次は…ははは」
男は俺から女の子に視線を移し、これからナニをするのか、
また気持ちの悪いにやけた顔になっている。
女の子は手で自分の体を抱き、
震えは先ほどよりも増えている。
「なるべく痛めつけろよ?
貴族に逆らった意味を教えてやれ」
その言葉を契機に周りを取り囲んでいた男たちは一斉に襲い掛かってきた。
「はぁ、大事にしたくないって言っただろ」
こいつらの拳は遅く、シルに比べたら止まって見える。
そんな拳が俺に当たるわけもなく、
避けるとは予想してなかったようで、
対角上にいた男を殴った。
「何?仲間割れ?」
俺はヘラっ、っと笑い、
他の男の攻撃をギリギリで躱し、
手を下すまでもなく次々と倒れていく。
俺は意識せずとも避けられるのでまるで観客気分だ。
一つのギャグとしても面白いな。
「な、何をしているんだ!早くやれ!」
ついに最後の一人となった。
俺はジリジリと寄ってくるそいつを前に後ずさり、
「後ろは壁だな、もう終わりだ」
殴られた。壁が。
「ああああああ!」
叫んだ。男が。
「なっ…お、覚えてろ!貴族の私に喧嘩を売ったことを後悔するんだな」
男は決め台詞?を吐き捨てるように逃げて行った。
「ふー、大丈夫か?」
女の子はずっと頭を押さえていたので、
俺の言葉にビクッと反応した後、
周りの様子を見て口をぽかんと開けた。
「…あ、ありがとうございます」
一瞬止まってたな。
「メルビー、もういいぞ」
俺はそこにいるはずの少女に声をかけた。
しかし、出てこない。
出てくるのはガサガサという袋の音。
「…おいメル」
「お前…何してんだ?」
板の後ろに隠れていたメルビーは、
さっき買ったあの二人へのお土産を食べていた。
「あっ…あむ」
「食べるな!」
俺に見つかり、もうあきらめたのか次の物にも手を出そうとした。
どんだけ食い意地が張ってるんだ…。
「だって、アーグ遅いんだもん」
「それは…謝るけど、二人のお土産はどうするんだ?
それが最後の一つだぞ」
そう、メルビーは待ってる間に買ってきたお土産を全て食べていたのだ。
「はぁ、今から買いなおすか」
今はまだ昼を少し過ぎたころだ、
買いなおす時間も十分にある。
それに…。
「君も行くか?お腹すいてるだろ?」
さっきから時々お腹の音が聞こえていた。
「すいません…私はお金がないので…」
「俺が誘ったんだ、俺が払うよ」
俺にも男の意地というものがある。
震えている女の子をほっとくほどクズじゃない。
その子がお腹を空かせているなら尚更。
「じゃあ私も!」
「お前は我慢しろ!」
そして女の子を連れて大通りにあった、
比較的すいているお店に入った。
「まあ君の好きな物頼んでよ」
「ありがとうございます…」
この子はおとなしい子なのか、
必要以上に話そうとはしない。
「ねえ、アーグ…」
「うっ…」
「はあ、いいよ頼んで、だけど一つな」
「ありがと!じゃあこのジャンボパフェで!」
「おい…」
結局押しに負けてしまったが、
いったいこの体のどこに容量があるのか。
見た目は近接なので、程よく筋肉もつき、
出るところは…まあこれからだろ。
腕も細く、しなやかだ。
そういえばさっきから女の子とか、君とかしか言ってないな。
「俺の名前はアーグ、そっちにいるのが」
「メルビーだよ!」
はいはい、元気なことで。
「君は?」
うつむいていた顔をゆっくりと上げ、
口を開く。
その唇のせいか、そのしぐさが艶めかしい。
「ルーファ。ルーファ=サラム」
小さな声だったが、はっきりと聞こえた。
ルーファ、それが彼女の名だ。
それから俺はルーファに話しかけた。
彼女は質問には答えたが、自分のことは一切話さなかった。
メルビーはパフェと格闘していた。
「じゃあ俺たちは宿に帰るけど、ルーファはここら辺に家あるのか?」
「いいえ、あと三日…最低四日は野宿でもしようかと」
「野宿?宿には止まらないのか?」
「私には泊まれるほどお金がないので」
そうか、俺がメルビーのほうを向くと、
彼女は何も言わず、ニコッと笑ってくれた。
それが答えだ。
「俺たちと一緒に来るか?」
「え…今日は助けていただいた上に食事もさせていただいた身です。
そこまでは」
「いいよ、
女の子を一人野宿させたらまたどこかのクズが襲ってくるかもしれないし」
「でも…」
「アーグがいいって言ってるんだから、好意に甘えなよ。
四日後って多分私たちと一緒だし」
そういうことか、メルビーはこういう時鋭いよな。
「そこまで言ってくっれるなら…お願いしてもいいでしょうか」
「うん、困ったときはお互い様だろ?
宿はすぐそこだ。ついてきて」
宿に帰った俺はすぐに今泊まってる部屋とは別に、
もう一つ部屋を借りた。
だって、女の子いっぱいの中に一人男とか、ねぇ?
リスタは驚いていたが、事情を聴いたらすぐにその子を受け入れてくれた。
あっちは女の子どうし仲良くなるだろう。
俺は一人で休…
「なんでついてきてるの?」
俺の後ろには寝ていたはずの姫、仮面の少女、シルがぴったりと張り付いていた。
「ん」
「分かったよ、新しい子が来て慣れないのか?」
「うん」
しょうがないな。
こいつも新たな場所に来たばかりだ。
前までは森で一人ひっそりと暮らしていた奴が急に都会に慣れるわけがない。
それにこいつが膝の上にいないと物さみしさを感じてきた。
ん?中毒になってるのか?
読んでくださりありがとうございます。
そろそろテストなんだよなぁ。




