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36話:サマ王国

36話です。

草木くさきが青く染まり、

花々が咲き始めたころ。

人々は焦りを覚えるようになる。

そう、この4人も。


「わ、わ、私大丈夫かな…」


動機を激しくしながらこれからのことを心配している。


「リスタは頑張った、だから大丈夫だ」


「そう…だよね、出来るよね」


俺は二年前のあの日。

ジャックさんに誘われ、試験勉強を始めた。

そのときからずっと見てきた。

だから分かる。

メルビーもリスタも頑張ってきた。

毎日特訓の後で疲れているはずなのに夜遅くまで勉強していた。

メルビーも最初はやる気がなかったが、

本番が近づいてくるにつれて気分が乗ってきたのか、

リスタと同じくらいやるようになった。

カエラとスフィアも見たことはないが、

カエラがかなりできるようで、

準備はできていると言っていた。


「実技はみんな心配には及ばないのだが…

シル?だよな、どうしたんだ?」


俺の膝の上で寝息をたてていた少女はまるで、

感情のない物のような。

黒い目、黒い口、他はすべて白だけの仮面をつけていた。

正直不気味だ。


「んん…うぅ」


「そうか…、段々慣れていけばいいさ」


無理に強要することはない。

シルはシルのペースで頑張っていけばいいんだ。

俺は銀色に反射するその髪をそっと撫でた。

さらさらとして、

撫でてる俺の方が気持ちよくなる。


「え?今なんて言ったの?」


「まだ人と話すのに慣れないから、

顔を見られたくないんだと」


ちゃんとはしゃべってないが、

俺には彼女がなんて言っているかなんとなく分かる。


「アーグ…いつの間にそんな関係になったの?」


「なんとなくだ、なんとなく」


彼女とはまだ2年間の付き合いだ。

それでも何故か昔から知り合いだったような。

そんな気がする。


「ううぅ」


見えていなくても分かる。

今のこいつは笑ってる。


「でもお前しゃべれるよな?」


「…仮面の時はこういうキャラ設定なの」


「そうかよ」


ちなみにカエラ達は一応貴族なので、

試験会場の問題で別の馬車に乗っている。


リスタが言うにはあっちもあっちで試験の話で盛り上がっているそうだ。

何で聞こえてるか?

風に乗って声が聞こえてくるらしい。

カエラの風魔法は一歩また一歩と、確実に上達していっている。



サマ王国。

俺たちが向かっているその場所は、

サマ王立学園が世界一であるように、

商業としても、国としても、

その大きさ、知名度は世界でも有数のものである。

ランド王国同様、その国には人族、猫族など、

種族関係なく混じりあって過ごしている。

だが、そこに住んでいる獣人は、

誰一人として弱い者はいない。

実力が伴って初めてそこに住むことを許されたのだ。

それは力だけでない、

商業としての腕、

冒険者としてのランク、

知識の深さなど、

それぞれによって多種多様なものを持っている。

故にサマ王国は世界有数など言われるのである。


サマ王立学園。

そこはサマ王国を圧縮し、小さくした物と考えていいだろう。

そこでは先ほども言った通り、

各方面のプロがいる。

入ることができれば、元々深かった知識がさらに密度を増すことだろう。

それだけではない、設備、人材、知識、

あらゆる物がそこに集結されている。

己の隠れた実力が見つかる。

そんな場所なのだ。

全世界にここを目指すものはごまんといる。


「平民だろうと貴族だろうと獣人だろうと関係はない。

実力こそが己を主張する唯一の武器だ。

権力の横暴は許されない。

それは弱者のすることだ。

驕るな。慢心するな。傲慢になるな。

知識に貪欲に。

力に強欲に。

飽くなき追及心を持て。」


それがこの国の教訓であり、

この学校の校訓でもある。

とにかくこの学校の試験を突破できるものはほんの一握りしか存在しない。

人数が限られることで生徒達の才能をさらに磨くことができる。

この世界で名の知れた人はこの学校出身といったことが多い。

長々と言ってきたが、


「この学校はすごいということだ」


その場に少しの沈黙が流れる。


「はぁ、受かってもないのによくそんな自信満々にいうね」


「んだよ、お前は落ちると思ってるのか?メルビー」


「そういわれると…落ちるわけないでしょ」


「落ちる落ちる言わないで!不吉でしょ!」


『ごめん』


俺は馬車で暇になったので、

事前に調べておいたこの学校のことについて熱く語っていると、

俺の腕の中にいたシルはいつの間にかまた夢の世界へと戻っていったみたいだ。

こいつの勉強してる姿なんて見たことないけど…

大丈夫なのか?

まあ何か策があるんだろう。


1週間後。

森を抜けた俺たちの目の前に広がっているのは、

見るもの口を開いたままにさせるであろう巨大な扉。

それを優に超える外壁。

行きかう馬車に人々。

その全てにおいて今までの“常識”が通用しない。

この半分が学校の敷地だというのだ、大したものだ。

それでもランド王国と同等か、はたまたそれ以上か。


俺たちの馬車はその流れに飲まれるように、

ゆっくりと中へと進んでいった。

この喧騒では互いに大声を上げないと声が聞こえない。

それもここら辺だけだが。

出入口の近くは荷物の運搬のしやすさから、

商業が多く発展しているのだ。

もう少し内側に行けばそんなことはない。

あと少しの辛抱だ。

今はこの新たな土地の感動に身をゆだねよう。


銀髪の眠り姫はこの騒音のなかでもぐっすり眠っていた。



「やっと着いた!」


カエラ達とは宿が違うので、分かれた。

今度は学校で会おう、と、カエラに言われたときは驚いたが、

俺はすぐに「へますんじゃねえぞ」とだけ言い残し、宿へと向かった。


ジャックさんに試験の手続きはしてもらっているので、

後はその日を待つだけだ。

って言ってもその日は今日から三日後だがな。


行きで馬車が少し遅れてしまったが、

変に長く待たされるよりこのくらいがちょうどいい。


リスタも着いたら勉強すると言っていたが、

宿に着くなり直ぐに眠ってしまった。

メルビーはお腹がすいたと、

外に出ようとしていたが、

初めての町で一人にするのは俺が心配なので、

俺も一緒に行くことにした。

俺もこの国の名産とか食べてみたいしな。

リスタには悪いが今日は二人で楽しませてもらおう。

眠り姫は…まあわかるよな?



中心に近づいたとはいえ、

流石といったところか、

賑やかさでは外に負けていない。

こちらは声的な賑やかではなく、

物やら食べ物やらといった、

種類的に賑やかだ。


「この国の名産はスライムの飲み物らしいぞ。

なんでもこの付近にしか生息してない特殊なスライムを研究に研究を重ねて、

やっと飲めるようにしたものみたいだ」


この国には知識を追い求めるが故に、

変な方向にもすごいようで、

他人からすればよく分からないものでも、

研究の過程で副産物として、人々の役に立つものが作られるらしい。。

これもその一つだ。

その人はスライムが好きで好きでたまらないみたいで…。

いや、この話はまた今度にしよう。

今はその飲み物を飲んでみるとしよう。


「スライム?あれって服とかしてくる奴だよね?

体に悪そう…」


「まあ物は試しだ。すいません、それ二つお願いします。

…ありがとうございます。ほらっ、飲んでみな?」


スライムは普通緑色をしているのだが、

それに使われているのはこの地域だけのスライム、

つまり赤色をしていた。


「うぇ、なんか、気持ち悪い」


「そう言わずさ」


「わかったよ…」


メルビーは覚悟を決め、それを口に含んだ。


「どうだ?」


まあ、顔を見ればその結果は分かるが、

敢えて聞いてみたくなった。


「おいしいっ!なんかね、口の中がシュワシュワして!

今まで食べたことない味!」


メルビーは興奮しているようで、

いつもの1.5倍速くらいの早口になっていた。


「そんなにか?じゃあ俺も…」


ん、これは…いけるな。

例えるなら強すぎず弱すぎず、

絶妙な力加減の炭酸だろう。

口の中に広がる甘さがまた絶妙だ。

スライムにこんな可能性が秘められていたとは、

雑魚キャラだとか馬鹿にできないな。


「もう一杯飲みたい!」


メルビーも相当気に入ったようで、

もう一本ご所望だ。


「ダメ」


「え…なんで?」


「だって、こんなに美味しいものがあるんだ。

他にも試してみたくないか?

帰りにもう一回よって、あの二人にも買っていってあげたいしな」


「そ、そうだね!じゃあ早く行こ!次の料理が私たちを待ってるよ!」


メルビーは俺の手を引いて駆け出す。

試験までもう間もないというのに、

これはこれでいいか。



お腹も十分に膨れ、

リスタとシルへのお見上げを手に宿に帰ろうとしていた。

少し大通りから外れた路地裏で、

俺たちは数人の男と、

そいつらに囲まれた赤髪の少女を見つけた。

これが俺と彼女の初めて出会いだった。


読んでくださりありがとうございました。

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