33話:スフィアの悩み〈3〉
33話です。
バンっ!
勢いよく扉が開かれた。
スフィアは驚き、抱き着かれた。
「ごめん…ごめんね…そんなことになっていたなんて…」
「え?カエラ…なんでいるの…」
俺には助けることができない。
だから扉の前にいた彼女に頼るしかなかった。
「スフィアの部屋に行こうと思ったら、
話し声が聞こえてきて、廊下で聞いてたんだけど…
私がついていればこんなことにはならなかった。
スフィアが苦しむ必要はなかった」
「カエラ…聞いちゃったの…
一番言いたくなかったのに…」
「なんで!私はあなたの一番の友達だと思ってる!」
「私もだよ!だから…だからこそ!言いたくなくなかった…
迷惑かけたくなかった…」
スフィアは優しい女の子だ。
いつも誰かを思い、考え、行動する。
俺なんかよりもよっぽど。
「あなたにとっての友達って何!
一緒にいる時間?
共に戦う仲間?」
「そうじゃないよ…!
そんなものじゃない…」
「迷惑かけてよ!悩んでるなら教えてよ!
助けさせてよ…」
「カエラ…」
カエラは膝から崩れ落ちた。
「一人で抱え込まないでよ…
私を…頼って…」
スフィアの服をつかんでいた手は弱々しく落ちて行った。
「私にとってのカエラはね、
憧れでもあって、とても頼りがいがあって、
一番心の許せる人なんだ」
「じゃあ…!」
「どんな敵でも立ち向かっていくカエラはすごい。
でもね、その強さに漬け込む自分が嫌なの。
自分の弱さでカエラを失うのが嫌なの」
「あ…」
カエラは思い出した。
森での記憶。
変異種に襲われたとき、
私はスフィアを守るために奴と戦った。
誰の力も借りず、一人で。
「目の前でカエラが傷ついていく姿なんて見てられなかった。
私は確かに動けなかった。
だけど!カエラは頼ってくれなかったよね…?」
「それは…」
「私だってカエラの力になりたい。
頼ってほしい。
でも、私のせいでカエラを失ってしまうのが怖いの」
カエラは黙って聞いていた。
「分かってくれるよね?」
俺は彼女たちが今までどんな生活を過ごしてきたかわからない。
今どんな気持ちで、
どんな思いで話しているのか、
俺には見当もつかない。
だけど今彼女たちは本気でぶつかろうとしている。
互いへの不満、それが爆発している。
「そう…だったの…」
「うん」
スフィアは静かに答える。
「確かに、私も分かってなかった。
そんなこと考えたことなかった。
私を頼ってくれればそれでいいと思ってた」
「うん」
「違うよね…そんなの…ただの自己満足だよね」
「…うん」
「ねえスフィア…」
「うん?」
「今度はさ…本当の友達。
ううん、“本当の親友”に、
なれるかな?」
「……うんっ!」
互いの弱い部分をさらけ出した。
今まで交差してきた気持ちを伝え、
今度こそ本当の関係になるために。
「ありがと…スフィア…大好きだよ」
「私も…カエラが大好き…一番ね!」
二人は抱き合い、
そして泣いた。
その涙に、今までの不満、思い、悩みをのせて。
「じゃあもう一回まとめると、
スフィアに付きまとうストーカーを何とかすればいいのね」
時は過ぎて二人が落ち着いたころ。
「うん、でもカエラがいるなら安心かな」
改めてスフィアの悩みについて話し合っている。
「うふふ、そうだね、
でもそいつ、国の法に背いてるよね?」
「そうだけど…あんな脅され方したら何もできないよ…」
「他の子もそんなところかな?」
「多分…」
「よし、じゃあついでに助けちゃおっか?」
「カエラ…頼りになるよ」
「えへへ、そうかなぁ」
「そうだよ」
今までのことなんかなかったかのように、
二人は笑いあった。
その笑顔にはもう、
何も悩ませるようなものなんか感じられなかった。
「俺っていらないよね?」
「あぁごめん、二人で夢中になってたよ」
「カエラとのことが嬉しすぎて…」
マジかよ…俺最初に悩み言われたよね?
はぁ、まあいいか、二人とも仲良くなったみたいだし。
「そうか、じゃあ俺は他の部屋に行くな?」
「待ってください!」
部屋から出て行こうとした俺を、
また彼女が引き留める。
「今日は…一緒にいて」
顔を赤らめながら言うなよ…。
「…分かった」
俺ってやっぱり女の子に弱いな。
「ちょっとアーグ、スフィアに何かしたら許さないから…」
「っ!」
カエラの目から光が消えていた。
怖いよ!なんでそんなに怒ってるの!
俺にスフィアを取られるとでも思ったの?
カエラ、それはないから安心しろ。
…俺は前世童貞だぞ?
もしもなんてあるわけがない…。
「分かったから…光を戻せ」
「それならいいけど」
本当に戻ったよ…。
「アーグ!久しぶりっ!」
「アリサ!…だよな?」
アリサなのは分かるが、
前回分かれたときとは別人のように成長していた。
「そうだよー、アーグも大きくなったね!」
前までは子供みたいで、
可愛いと思っていたが、
今ではきれいに、大人っぽくなっていた。
正直鼓動が止まらない。
「ちょ、ちょっと抱き着くな!」
色々な部分が大きくなって…
「えーいいじゃん、昔からやってるんだし」
「そういうことじゃないって…」
「じゃあ何?」
「それは…なんでもないけど離れて!」
じゃないと俺の理性が…なんてことはないな。
俺ヘタレだし…。
「ぶー、分かったよ」
大人っぽくなったけどやっぱり子供だな。
「でも本当に大きくなったね、
なんか、男っぽくなった…かな」
あぁまただよ。
不意にそういうのやめてくれるかな…。
「今日は一緒にご飯食べたいな」
「あぁ、母さんに言っておくよ。
リサさんも呼んでおいて」
「うん!」
「皆いっぱい食べてね!」
「おいしそうだな…」
「今日はリスタちゃんも手伝ってくれたからね!
メルビーちゃんは…うん」
つまみ食いでもしたのか?
「ん?何?」
既に食べ始めようとしていた。
「おいっ!少しは我慢しろよ!」
メルビーの口にタオルを詰めてやった。
「うぐッ…グわ…ううぅ」
両手は俺が塞いでいるので取られる心配はない。
「お邪魔しまーす!」
「あら、アリサちゃんいらっしゃい」
「こんばんは!」
「お邪魔するわね」
「リサもいらっしゃい、もう準備はできてるから食べましょ」
「久しぶりだなー、フィルさんの料理。
楽しみ!」
「今日はいつもより頑張ったからね、たくさん食べてね」
「アーグ、どこに座るの?」
「俺は…どこでもいいけど」
「じゃあ私の隣ね!」
「まあいいけど」
「ちょっと待って!今日は私が料理作ったんだから、
私が隣でしょ!」
「え?」
「私はカエラの隣がいいかな」
「スフィア…私もよ!
あっ、リックさんっているんですか?」
「もうすぐ帰ってくると思うけど…」
「ただいまー!おぉ今日は賑やかだな!」
「親父、久しぶりだな」
「アーグ…強くなったな、
リスタちゃんもメルビーもよく頑張った」
「はいっ!」
「今度勝負しようね!」
「おう、望むところだ!」
「あの…」
「嬢ちゃんも来てたのか、それに…おいアーグ」
「なんだよ…?」
なんかすごい睨まれたぞ…。
「んで…」
「ん?」
「なんでお前は女の子ばっかり連れてくるんだよ!」
「は?」
「しかもみんなかわいいし、
お前は何なんだ!
あとお前はっ…」
あ、倒れた。
「今は食事中なので静かにしましょうね」
母さんが杖持ってる…。
連れてかれた…。
帰ってきた…。
「ではいただきましょうか」
え?親父は?
…まあいっか、あんなこと言う奴だし。
『いただきます』
結局俺の隣にはリスタとアリサがいる。
「これは私が一人で作ったんですよ!
是非食べてください!」
「これをリスタが…すごいな」
「えへへ、私も隠れて頑張ってたんですよ。
ほら、あーん」
「おいやめろ!」
なんで皆といるときに限ってこういうことしてくるのかなぁ…。
「私の料理は食べたくないって言うの?」
「うっ…あ、あーん」
負けてしまった…。
「あっずるい!私もする!」
「アリサはやめてください!
これは私の料理です!」
「そんなの関係ないし!
ほらっあーん」
「お、おいっむぐ…」
俺なんかお構いなしに突っ込んできたぞ。
メルビー助け…。
ベー。
こいつ…っ。
さっきのこと根に持ってんな…。
「ふふ、アーグも成長したのね。
母さんうれしいわ!」
「母さん見てないで止めて!」
「息子の成長って早いものね」
「そうねリサ」
ちょっと二人で話さないで…。
そうだ、カエラは…。
「これ美味しいね!スフィア」
「うん!あっ、ここについてるよ」
「あ//ありがと…」
だーめだこりゃ。
読んでくださりありがとうございました。




