30話:ランド王国にて
ついに30話到達しました!
今までありがとうございます!
これからもよろしくお願いします。
では30話どうぞ。
シルの救出から一月が経ち、
俺たち5人の仲も順調に深まったころ。
俺もたまに闘技場に来て見学させてもらっている。
シルは人と一緒にいるのはまだ慣れないようで、
森の家に帰っている。
なんか昔のリスタとメルビーみたいだな。
シルも学校に行く頃には慣れさせとくとは言っていたが…大丈夫か?
そんなわけで今は、
リスタ、メルビー、カエラ、スフィア4人の特訓を見学させてもらっている。
「メルビー!ちょっと疲れてきたんじゃないかー?」
「うるさい!外野は黙ってて!」
たまに誰かを煽りながら…。
いやこれは俺なりの応援だからな!
怒りで元気になる…的な。
皆そのことに気づいてくれるよな?
嫌いにならないよな?
ちょっと心配になってきた。
「カエラ!威力落ちてないか?」
まあ止めないけど。
それにしてもカトニス王国ではシルを助けることに夢中で、
あまり集中して見ることはなかったが、
俺の知らない間にリスタもメルビーもかなり成長している。
カエラとスフィアも魔法に関していえばリスタにも引けを取らないほどだ。
カエラに関していえば、今まで見たことも内容な魔法で、
頭一つ分くらい上を行っているといったところか。
それでもリスタの風魔法、スフィアの水魔法にはかなわない。
一方のメルビーはジャックさんと同等レベルにやりあっている。
速さも以前のメルビーに比べ、各段に早くなっている。
でも俺の知ってる筋肉が多い人たちはなんであんなに早い動きができるんだ?
う~ん、考えてもわからん。
そして4人の特訓も終わり、
お昼をみんなで食べに行くことなった。
早くいかないとメルビーが騒ぐようなので早くとスフィアに催促された。
スフィアも落ち着いてるようで色々あんだなぁ、
元凶はうちの者ですけどね…
コラ、少しは我慢しなさい。
お昼はいつも4人の行きつけの食堂を紹介された。
大通りを一つ横にずれた、
あまり人通りの多くない細い路地にひっそりと佇むその食堂は、
特訓の後の落ち着きたいときにはとても打って付けといえるような場所だった。
客は多くも少なくもなく、
それぞれ読書や、食事など各々やりたいことをやっており、
決して騒いだりするようなものは居なかった。
「あぁ~疲れた~!」
居たわ…。
おいメルビー静かにしろ周りのお客さんにめいわ…
ん?周りの人もそれが当たり前かのように微笑んでるぞ…。
(これがいつものメルビーですよ)
疑問が顔に出ていたのか、
静かにリスタに耳打ちされた。
あいつ…。
まあでもなんか、メルビーだからって言葉で片付けられそう。
店の主人も待っていたかのように今まで皿を洗っていた手を止め、
俺たちを席へ案内した。
って言ってもいつもの定位置らしいけど。
いいなあ、俺のいない間に行きつけの店とか作っちゃって…。
騒いでいたメルビーも何故かその空気に溶け込んでいて、
そんな喧騒も一つのBGMとして。
俺はこの空気に包まれ、
どこか安心するような気分になった。
「アーグ、何食べたい?」
俺がそんな空気にすっかり心を奪われていると、
不意にカエラが話しかけてきた。
「そうだな、何があるんだ?」
いつの間にか周りのお客さんはそれぞれやりたいことに戻っていた。
「食べたい物を言えば、なんでも作ってくれるよ。
主人もその言葉が聞こえたのか、
俺に微笑みかけた。
「じゃあ…」
数分後、
主人の奥さんと思われる人が、
俺の食欲をそそらせるような匂いと共に、
俺たちの料理を運んできた。
とても美味しそうだ。
見ているだけで涎が溢れてくる。
それをゴクっと喉を鳴らしながら飲み込むと。
「それじゃあ、今日もお疲れ様、いただきます!」
『いただきます!』
カエラの一声を合図に、
俺はその食事に飛びついた。
それは予想通り、
いや、予想以上に美味しかった。
口に広がる味。
鼻から抜ける香。
目に見える視界。
周りの雰囲気。
その全てが計算し尽されたかのように、
その美味しさは計り知れないものだった。
前世でもこれほどおいしい物は食べたことがない。
まあ、うちは裕福とは程遠かったけどな。
さぞ値段が高いのかと思ったが、
予想に反してリーズナブルなお値段だった。
それも庶民でも簡単に手を出せるほど。
……主人、いい仕事してるぜ。
俺は心の中でつぶやき、
主人に目で合図した。
主人は何も言わず、ただ親指を立てた。
確かに、この店には何回も来たくなる。
そうして食事を終えた俺たちはそれぞれの帰路についた。
リスタとメルビーにはシルのところに行くとだけ伝え、
俺は森へと向かった。
…今度はちゃんといるよな?
俺はそんな少しの心配から、
いつもより足取りが早くなった。
いつもの道。
いつもの魔獣。
そんないつもの日常。
シルの家が見えてきた。
索敵をかけているのでシルがいることは分かっている。
それでもちゃんと自分の目でその姿を見ないと、
この胸の曇りは取れないだろう。
俺は扉に手をかけた。
「よっ、今日もよろしくな」
そんな心配なんてご無用といった感じで、
シルはサンドイッチを口にほおばっていた。
俺は抱いていた危惧を出さないように、
いつも通り、普通に声をかけた。
「モグモグ…ちょっと…モグモグ…まっ…モグモグ」
「食べたいなら食べろよ!」
俺はしゃべることより食べることを優先したシルにツッコミを入れながら、
そんなシルを見つめて笑った。
相変わらずシルは無表情だったが、
俺が椅子に座ると、
その膝の上に乗ってきた。
「だからそこは俺の膝だって…まあいいけど」
この風景にはもう慣れた。
シルは俺の膝の上での食事が気に入ったようで、
最近はいつもこんな感じだ。
やがてシルの食事も終わり、
庭に出ると。
「アーグ…そろそろ魔素の特訓を次の段階に進める」
俺は今までシルと行っていた、
魔素の感知は既に完璧に近くなったので、
シルは次の段階に進められると思ったのだろう。
「分かった。次は何をするんだ?」
「こうする…」
そしてシルは徐に俺に近づき、
「ぐわああああ!」
魔素を大量に送り込んできた。
魔素は魔力とは違い、
使うだけで体力を持っていかれる。
魔力がなくなったときのような状態がずっと続いているような感覚だ。
前に一度カトニス王国で使ったが、
その反動で動けなくなったほどだ。
「大丈夫…慣れれば良い」
「そ…そんな問題じゃないんだよぉお!」
そんな俺なんかお構いなしにシルは魔素を送り続ける。
し…死ぬぅ。
そんなことを思うと、シルは送る手を止めた。
「はあ…最初はこんなもの…だんだん許容量を増やせばいい」
魔素は魔力とは違い、
こんな風に強硬手段でも増えるみたい。
それにしても…
「もう動けねえ…」
「まだまだ…」
でも魔素の力はもう知っている。
あれを使えば最終手段としてつかえるな。
「私は常に身体強化(改)使ってる」
最終手段じゃなくなっちゃったよ…
本当にシルは化け物だな。
読んでくださりありがとうございました。




