29話:ただいま
29話です。
「カエラ、あの時は本当にありがとう」
食事が終わった後、
各自の部屋に行ったり、
みんなで集まったりしながら談笑をしていた。
俺も混ざればよかったのだが、
今は外の空気に当たりたい気分だった。
そう思い、俺がバルコニー向かったとき、
既にカエラがそこにいた。
「カエラがいなかったら俺はシルを助けることができなかった」
俺はカエラと二人きりになれたこの機会に、
感謝を伝えておこうと思う。
「あれはアーグが押さえてくれていたからできたことなんだよ?
アーグも自分を褒めなよ?」
「それもそうかもしれないけど…そうだな、」
俺はカエラの顔を見ながら話すことがなぜか気恥ずかしくなり、
町の方を向くことにした。
「アーグ、なんか、懐かしいね」
カエラは突拍子もないことを言っているな、
他人から見ればそう思うだろう。
「今日初めてちゃんと話したんだぞ?
そんなことあるかよ」
俺は少しクスッ、と笑いながら答えた。
「でもなんか…」
「俺もそう思うぞ」
俺はカエラの言葉を遮るように肯定した。
何故か懐かしいのだ。
この安心する感じ、
この空気が。
「アーグも?
不思議だね、ふふ」
否定されなかった事がうれしかったのか、
その顔に笑顔が現れた。
「そういえばさ、」
それから俺たち二人はまるで昔から一緒にいたかのような、
そんな空気の中、
夜遅くまで話に夢中になっていた。
「私、ニムセット=カトニス=ケルセルは、
国の為、民の為、この身果てるまで、
国の未来が明るくなるよう、
全力を尽くすことをここに誓う」
王ニスフリーをはじめとした者達の圧政を止めてから一週間。
王派の兵士の捕獲や国民の回復など、
早急にやらなければいけないことが終わり、
少しのひと段落といったところで、
国民や兵士の後押しもあり、
ニムセットは次の王として、
この国の先頭に立ち、
立て直そうとした。
結果は聞かなくてもわかるだろう。
この歓声が答えだ。
国民の喜びや応援の声であふれたこの場に、
ニムセットを否定する者などいるはずがない。
ついでに言うと、
あの兵士さんは仲間からの提案で、
国の兵の隊長として任命された。
「では今まで本当にありがとう。
これからは私たちの手で立て直していこうと思う」
俺たち
アーグ、シュルガト、リスタ、
メルビー、カエラ、スフィア、
はランド王国に戻るため、
ニムセットに用意してもらった馬車の前にいる。
「いつでも俺たちを頼ってくれてもいいんだからな?
これからはもっと忙しくなるだろうし」
「私も、ランド王国の王家として、
お父様に友好な関係を結んでもらえるよう、
頼んでみますね」
「わかった、ではまたいつか」
俺たちは馬車に次々に乗り込み、
最後のスフィアが乗り込むと、
馬車は動き始めた。
遠くになってもずっと手を振り続けていたニムセットに、
やはりどこか子供っぽさを感じさせるところがあった。
「なんかいろいろあったけど一件落着ね」
森に入っていき、
ニムセットが見えなくなったところでカエラが口を開いた。
今は行きとは反対に、
緊張感もなく、
ゆったりと馬車の揺れを感じていた。
「そういえばなんでみんな俺の場所が分かったんだ?」
俺は今まで疑問に思っていたことを聞いてみた。
「あぁ、久しぶりに特訓が休みになったから、
リスタの家族には挨拶しておこうと思って。
勉強しているかどうかも怪しかったしね」
カエラは苦笑しながら話し始めた。
ていうかカエラが鋭いのか、
それともジャックさんが嘘をつくのが下手なのかどっちなんだ?
「それでついてきたのか…
全然わからなかった」
俺はいつでも敵に対応できるように、
[索敵]を常時発動しているのだが、
森に行ったときは何の反応もなかった。
「まあね、私は魔法に関しては少しすごいから」
ふふふっと鼻を鳴らしながら自慢げに腰に手を当てた。
カエラって意外とすごいんだな…
「私は水魔法しか使えませんけどね…」
カエラとは反対にえへへっと控えめに頭に手を当てた女の子はスフィアだ。
「そうなのか」
「アーグ…スフィアはその水魔法がすごいんだからね」
今度はリスタが補足するように付け加えた。
「私も水魔法だけはスフィアに負けるのよね…」
カエラは少し悔しそうに、
でも少し誇らしげに一言。
「みんなずるい!私も魔法使ってみたい!」
メルビーは少し元気に、
いやこれはうらやましいのかな?
「安心しろメルビー、俺もそんなに使えない」
俺はそんなメルビーをなだめるように、
頭をなでながらメルビーを落ち着かせた。
「うぅ…まあいいけど…」
メルビーは顔を赤くした。
なんで?
そんなに嫌だった?
オレカナシイ。
「ぁっ」
もうちょっと撫でていたかったけど、
嫌がってるならやるわけにはいかないよな。
そう思い手を離したのだが、
「嫌じゃないから…撫でていいよ?」
そんな上目遣いに言われたら…
撫でたくなるだろ!
……あれ?
馬車に乗ってから一言もしゃべらず、
ずっと膝の上にいたシルがいつの間にか俺の手首をつかんでいる。
ちょ、ちょっと痛い!痛いよ!
「ダメ…アーグ…私を撫でて」
「え…でも…」
「ダメ!私がっ…どうぞ」
ん?メルビーがシルに何か言おうとしたけど…
シルから出た何かに体中に鳥肌が立つのがわかる。
「おい…シル?」
「なに?」
シルは何事もなかったかのように振り向いた。
メルビーが固まってるぞ…
殺気でも出したのか?
これはシルを怒らせたらやばい…
「わかった、撫でるぞ?」
「うん…」
俺は恐る恐る手を近づけ、
出来るだけ優しく撫でた。
「ん…あぁっ…ぃ」
「変な声出すな!」
シルはさっきメルビーを撫でたことを根に持っているのか、
いつものクールな表情を意地悪な表情に変えた。
どうせならもっとかわいい表情が見たかったなぁ。
シルっていつも無表情なんだもん。
(ねえ、やっぱりあの二人おかしくない?)
(私もやってほしいです、なんであの子だけ…)
(私は…遠慮しておこうかな、シルさんちょっと怖いし…)
俺たちと反対側にいた三人組がこそこそと何かを話している。
小さすぎて聞き取れないが。
そこから二日間、
俺たちは馬車揺られ、
ランド王国に到着した。
道中はスフィアの水魔法のおかげで水浴びができたり、
のどが渇いたときは出してもらったりと、
特に生活に困ることはなかった。
俺はずっとシルを二日間撫で続けたせいか、
今でも撫でる感覚が残っている。
心なしか、手がすべすべするような…
皆が寝静まったころ、
「アーグ…起きてアーグ」
「んん…どうしたメルビー」
「頭を撫でてほしいなって…」
「…わかった」
俺はシルが起きないよう、
静かに数分なでて、
メルビーは満足したのか、
笑顔で感謝を伝えた。
「カエラ!無事だったか!心配したぞぉー、初めての旅はどうだったのだ?」
俺たちの馬車はランド王国の王家であるカエラを乗せていたので、
そのまま城の敷地へと入っていった。
そしてカエラに案内されるがまま城の客室に入っていったのだが、
それからしばらくして勢いよく扉を開け、
目に涙を浮かべながら、
中年の如何にも昔はイケメンだったとわかる人が入ってきた。
初めが誰だろうと思ったが、
カエラのお父さんだった。
お父さん…国王じゃん!
「お父様、恥ずかしいですよみんなの前で」
対してカエラはその手を払いのけた。
「おおすまなかった。お主はカエラの友達かの?」
「はい、俺はアーグです」
「私たちの家族です」
ていうか俺しか挨拶してないってことは皆既に会ってたのかよ…
俺が自己紹介をしてると一人のきれいな女性が部屋に入ってきた。
「あらあら、カエラにもついに男の子の友達ができたのね」
そう言ってその女性はうれしそうに笑った。
「お母様、この人はリックさんの息子さんのアーグよ」
「ああ!リックさんの…申し遅れましたね、
私はカエラの母のセレナと申します。
以後お見知りおきを」
「俺はアーグです。娘さんにはいつもお世話になっています」
「うふふ、何にお世話になっているのかしら」
いたずらめいた表情で俺に微笑んだ。
「からかわないでくださいよ…」
この国の王家ってなんか絡みやすい人が多いのかな?
さっきから全然緊張とかしないなぁ。
「冗談よ、娘をこれからも頼みますね」
「はい」
カエラの初めての旅ということもあって、
どんな国だったか、
何があったかなど質問攻めにされていた。
カトニス王国での話は冗談とはいえるようなものではないので、
その話を聞いているときのフラルドさんの顔は真剣そのものだった。
しかし、友好関係を結びたいということ、
ニムセットが頑張っていることなどに話が切り替わったときからは、
表情も和らぎ、ぜひこちらからもお願いしたいと言っていた。
これでニムセットも喜ぶことだろう。
ってことで無事シルの救出はせいこうだな。
読んでくださりありがとうございます。




