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2話:雪

よろしくお願いします。



私の名前は春日雪。

私たち春日兄妹には親がいません。

でもそれを不幸だと思ったことはありません。

だってお兄ちゃんがずっと一緒にいてくれたから。

だってお兄ちゃんだけは私の前からいなくならないって信じてたから。

どんな時でも傍で見守ってくれて、

私に優しい笑顔を向けてくれた。



いつからこれが恋だと気づいたのかは分からない。

でもそれは決して遅くはなかったと思う。

勘違い、そう思わせようとするけど私の中では既にお兄ちゃんの存在が大きすぎた。

その気持ちを決定的な物にした事件が起きたのは中学1年生の2学期。

クラスメイトの女子にいじめを受けている場面をお兄ちゃんに見つかってしまい、それをお兄ちゃんが解決してくれたこと。

あの時のお兄ちゃんは怖かったけどそれに怯えて相手の女子もしてこなくなったみたい。

でも許せないのはお兄ちゃんの悪い噂が流れたこと。

お兄ちゃんは笑ってたけど、苦しんでた。

それを見るのが嫌で、一度家出をしたことがある。

私を見つけてくれたのはお兄ちゃんで、どうしたのって聞かれてもそれを私が答えるわけにはいかない。

だってお兄ちゃんをさらに苦しめることになるから。

だからこう決めた。

——お兄ちゃんの傍で幸せを願おう。



お兄ちゃんに、少し笑顔を向けられるだけで心地よかった、

どれだけお兄ちゃんのことが好きでも、

私はそれ以上は望まなかった。

こんなに迷惑をかけた私がそれ以上を、なんて望む資格がない。

本当はずっと、一緒にいて、二人で幸せな毎日を過ごしたいけど…。

大人になったら私から離れていかなきゃ。

そんなことを思うだけで胸が苦しかった。



高校生になりお兄ちゃんに男性の友達ができました。俊君です。

お兄ちゃんは私にも紹介してくれました。

良い奴だから雪もって。

お兄ちゃんが紹介してくれたんだからいい人に決まってる。

それからというもの、私たち3人はいつも一緒に過ごしています。



まあ最近悩みがあって…。お兄ちゃんが私に隠れて働いていたことです。

お兄ちゃんは、「ファミレスで勉強してるから遅くなる」とだけ言って家を出ていき、

夜中に帰ってくる。そんな日々を繰り返していました。

でも帰ってくる時間が時間なので、

流石に怪しいと思い、

お兄ちゃんに内緒で俊君に聞いてみることにしました。


「あぁ、それか、実はあいつには内緒って言われてんだけど…」


「教えて!」


俊は少し考えた様子を見せた後、息を吸った。


「まあいっか、あいつ高校入ってから放課後は夜中まで働いてるんだよ、

それのせいで最近授業中も寝ちゃっててさ、

困るよな、俺起こすの大変なんだぞって。

なんで働いてるかは知らないけど、趣味にでも使ってるんじゃないか?」


「うそ…」


「ん?どうかしたのか?」


「いや…なんでもない、ありがとね」


「おう、なんでも聞いてくれよな」


嘘だ…趣味になんて使ってるわけない。

お兄ちゃんの持ち物なんて学校で必要なものと洋服…はいつも制服だし…。

全くと言っていいほどない。趣味なんかに使ってるわけがない。

じゃあなんで働いているの?あんな夜中まで、それも授業中が眠くなるほど。

お兄ちゃんは高校に入ってから成績が毎回上位に入っている。

もし夜中まで働いているのが本当ならいつ勉強しているのか…。

私はお兄ちゃんが変な女に貢いでるんじゃないか心配になり、

私たちを引き取ってくれたおばあちゃんに聞いてみることにした。



ピンポーン。この家の呼び鈴は古いタイプなのでカメラがない。

だから私は大声を出す。


「おばあちゃんいる?」


しばらくすると中から物音が聞こえてきておばあちゃんが顔を出してきた。

私の顔を見ると笑顔になった。

この人には本当にお世話になっている。


「雪かい、どうしたの?」


「あのさ、お兄ちゃんここを出てく前何か言ってなかった?

それか今誰かと付き合ってるとか」


「雪本当にどうしたんだ?葉一の恋事情が気になるのかい?」


「そういうわけじゃないけど…」


いや確かに気になるけど!


「う~ん、特に何も言ってなかったけどねぇ」


「そっかぁ…」


私が肩を落とすと、お婆ちゃんが急に思いついたような顔をした。

もしかしたら何か思い出したのかも知れない。


「あっそうだちゃんと生活費とか足りてる?

アパートのお金とかあるだろ、本当に私が払わなくていいのかい?」


「足りてると思うけど…え?おばあちゃんが払ってるんじゃないの?」


「私も最初は払ってたんだけど、途中から止めてくれって」


「そうだったの…ありがとう、おばあちゃん」


「いいのよ、大変だったら言うのよ」



生活費なんて私が払えるわけないし、

お兄ちゃんもおばあちゃんが払ってるって言ってたから。

たまに私をショッピングに誘ってくれたりもしたし…。

お兄ちゃんが払ってるの?え?え?だって、

いくらすると思ってるの?二人といっても決して安くないはずだよね、なんで?

また、ひとりで抱え込んでるの…?私に何も言わずに。

おばあちゃんが楽になるように?



「俊…」


「どうした雪?」


それから私はお兄ちゃんのことを話した、おばあちゃんが何も助けていない事、

なのに毎月きちんと生活費やその他のお金が出ていること、私は何もしていない事…。


「なんで?お兄ちゃんは何をしているの?」


「雪…あいつはな、毎日目にクマを作りながら学校に来ている、

しかも帰った後すぐに働き始めている、しかも毎日だ。

勉強も夜中に雪が寝ているときにしている。なんでだと思う?」


「なんでって、分からないよ…」


俊は一呼吸だけおき、


「お前に気づかれないためだよ」


「私に…気づかれないように?」


「俺は前に雪の昔の話をあいつから聞いた。

その時の葉一は見てられないほど悲しそうな表情をしてた。

そして、雪のことを最優先に、それも自分を犠牲にしてでもと考えるようになった。

それほどあいつの中で雪が大切なんだ」


「私が…大切?私の為?」


「そうだ、あいつは雪のことをいつも本当にうれしそうに話す、いい表情だよ」


なんで?おにいちゃんは私のせいで、また辛いことをしてるの…?

そんな表情、いつも私に見せないじゃない…。

いつも笑顔を見せてくれるじゃない…私の知らないところで何してるの…。


「うぅ…お兄ちゃん…うわぁぁぁああああん」


「雪…」


「なんでよお兄ちゃん…。なんで私を頼ってくれないの…。

お兄ちゃんが大変な思いする必要なんてないよ…」


「雪…それじゃあ、手作りの何か作って感謝でも伝えろよ。

あいつにとってそれだけで幸せだとおもうぞ、あとは二人で話し合うんだな」


「でもお金が…」


「そんなの俺に任せろ、俺もあいつには感謝してるんだから、それくらいは出すさ」


「俊…ありがとう」



今私のポケットには手作りのお守りが入っている、もちろん私の手作りだ…。


「おい起きろ!葉一!」


「…んだよ。あまり驚かさないでくれ(しゅん)


お兄ちゃんに今日の帰り渡す予定だ、今は廊下に俊と二人でいる。


「雪、俺は遠くで見てるから、ちゃんと渡すんだぞ」


「わかった、本当に何から何までありがとね」


「お前がちゃんとそれを葉一に行ってくれればいいよ、お、来たぞ」



「お二人さん、イチャイチャしているところ悪いが、俺教室に忘れ物してきたわ。

先行っててくれ」


「わかった」


ふぅー、あとはこれを渡すだけ…でもいざ渡すとなると緊張するなぁ…。

お兄ちゃん喜んでくれるかな?よ、よし!渡すぞ!


「おに


ぷおーん


「え?何の音?」


「あぶなぁぁぁい!」


バン!



あれ?私なんで寝てるの?なんか全身が痛い…

周りに人が集まってる…

トラック…え?私轢かれたの?

まだ…お兄ちゃんに渡せてないよ…お兄ちゃん…どこ…お兄ちゃん!

血だらけ…そんな…死んじゃうの?

やだよ…お兄ちゃん、これは…手が…暖かい。あぁもう無理だ。

死にたくない死にたくない死にたくない…

ヤダヤダヤダヤダヤダ!

お兄ちゃんがいなくなるなんて無理だよ!

お兄ちゃんに好きって言いたい!大好きですって!

っあ…。

そこで私の記憶は終わった。



「おーい、そこの子、名前は?」


一面真っ白な世界で真っ白な少女に話しかけられた。


「え?春日雪です」


「へえー」


「あのあなたは?」


「私はレグ、残念ながらあなたは死んだわ」


「そうですか」


「あれ、驚かない?」


「そんなことよりも」


「ん?」


「葉一っていう男の人いませんでしたか?」


「……いなかったよ」


「お兄ちゃん…」


それから私はこの世界のこと、

転生することスキルのことなどたくさんのことを聞いた。

ちなみに私はスキルを選ばず、称号をもらった、[魔導士への道]というものだ。

MPが増えたり、魔法そのものの威力が増えたり魔法に関することが得意になるらしい。

お兄ちゃんが今何をしているか分からないけど、もし次があるなら、

次こそは、お兄ちゃんを守れるくらい頼りがいのある人になりたい。

そして、伝えられなかった思いが伝えられたらいいな…。


読んでくださりありがとうございます。


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