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9話:リスタとメルビー

ついに9話目です

親父と話し合ったあの夜から、

俺は森の魔獣を狩っては親父のところに持っていき、

解体のやり方を教えてもらったり、

週に一度この村の近くにあるランド王国のギルドに換金に同行させてもらっている。

そのおかげで俺の懐がかなり潤ってきた。

やっぱり異世界と言ったら収納袋だよな!

でもあれ小さいの一個買うだけで金貨50枚はするんだよなぁ…

地道にためていくしかないか。てことで今日も俺は狩りに行ってくる。



おっいたいた。[索敵]を取得してからの狩りは本当に楽になった。

敵の居場所が分かるだけでこうも違うのかと思うほどだ。

まあそれでも完璧ってわけにはいかない。

体格とか攻撃力の差でなかなかHPが削れないこともある。

今俺が見つけた敵はハイゴブリンだ。

ゴブリンの上位互換の魔獣だが、今までの経験上全く問題はない。

その背中に静かに忍び寄る。

経験上問題ないと言ってもそれはやはり経験上の話だ。

今この場において、俺の運命がどう転がるかわかったものではない。

誰にもわからない。

親父の教訓でもある。

どんな敵でも油断はするな。

当たり前のことが大事とは言うが、この場合は俺の命がかかっている。

学校のように宿題を出さなかったから怒られるではすまされないのだ。


「ギャっ!」


「っ!」


ほら見たか。

音に気を付けている俺に気づいた。

多分気配察知、もしくは索敵。

どちらにせよ俺のやることは決まっている。

相手に攻撃の隙を与える前にこちらから攻撃を仕掛け、

ゴブリンが走り出した時には既に、倒していた。


[レベルアップ]ピローン


この軽快な音も久しぶりに聞いた気がする。

自慢じゃないが俺は最近強くなったと思う。

さっきも言った通り、俺の近くの村にいるほとんどの魔獣と俺は対等に渡り合えるほどだ。

そのせいかレベルが上がるペースも遅くなってきている。

今回は1週間。

そろそろ奥に行ってさらに強い敵を見つけるか。


今日は運が悪いのか。

一時間ほど走ってきたはずの俺が出会った敵はせいぜい数匹。

こういう日もあるかと元来た道を引き返そうとしたその時。


「・・・・・・」


何かの叫び声のようなものがかすかに耳に聞こえてきた。

何か起こったのか…。

俺は衝動的にそちらへ足を走らせた。



「っあれは!」


俺の視界に広がっていたのは真っ赤な水たまり。

その周りに倒れている商人と思しき人。

そして、


「[鑑定]」

ブラックウルフ Lv 23


俺のレベルを上回る魔獣が涎を垂らしながらその肉を食らっている。

それも一匹ではない。三匹のブラックウルフが食事に励んでいた。


「っ!」


その光景に吐きたくなったが、音を出すのは危険だと必死にこらえていると、

商人が元々乗っていたと思われる荷馬車の荷台から二つの生命反応が感知される。

しかし俺は、そのレベル差故、

どうしても逃げたいという気持ちで頭が満たされていった。


「...す.....て」


小さいが、確かに聞こえてきた。


「..た...すけ...て」


敵に囲まれ四面楚歌にある状況。

誰に届くかもわからないが、必死に命をつむごうとするその声に俺は、

逃げ出そうとした自分が情けなく思えてきた。


「俺は...この子達を守れないのか?いや違う!この子達を守れないでどうする!

俺ならできる、守ってみせる!」


「[身体強化]!」


「バウ!」


「なっ!」


隙をついたと思ったが、その攻撃は爪から繰り出され、

空中を飛んできた何かによって遮られる。

しかしそれを間一髪のところで避け、


「これならっ...!」


脇腹にナイフを突き立てる。

俺の攻撃が効いたと思ったが、背後からの攻撃に気づけなかった。

目の前の敵に夢中になっている俺の背中は為すすべもなく切り刻まれる。

痛みに苦しみながらも、突き刺したナイフを引き抜き、もう一匹の狼にふるう。

だがステータスという壁は高く、避けられてしまった。

仕方がない。

ステータスは高い壁だ。

しかしそれを補うのが己の努力であり、技術であり、そしてスキルだ。

親父にはやるなと言われたが…この状況では致し方がない。


「それでも俺はお前らに負けるわけにはいかない![身体強化]重ねがけ!」


己のステータスが上がるのが分かる。


「この速さなら...」



「レベルアップ」ピローン


脳内に軽快な音が鳴り響く。

あぁ、倒したのか...いててて。


[器の力]発動

[斬撃ざんげき]入手


「そんなことよりもあの子達は!」


俺は新たなスキルに目もくれず、一目散に荷馬車へと駆けよる。

重ねがけした影響か、体が重い。


...良かったぁ、まだ生きてる。

そこには二人の少女がおりに閉じ込められていた。

そして、一人の少女がもう一人の少を庇うように爪を立て、仁王立ちしている。


「君たち大丈夫か?」


「グルルル!」


猫耳?獣人か?でもこれって威嚇されてるよな。


「って怪我してるじゃないか!このおり邪魔だな、

鍵は死んだ奴が持ってるか?…あっ、あった。今開けてやるからな」


近づいてきた俺の手を鋭い牙で咬む。

「痛い!やめろ!治してやるから動くな![回復ヒール]」


傷だらけになっていた少女の体が暖かな光に包まれ癒えていく。

それに気づいたのか、咬むのを止め、


「っ!傷が、治った?...それよりこの子も治せますか!?毒で弱ってて...私には何も…」


「(耳が長い、エルフか?)任せとけ、[状態異常回復キュア]、[回復]」


横で倒れていて青白かった顔に少しだが赤みが戻ってくる。

そして、少しずつまぶたを開き…


「うぅ、え?人間!きゃあああああああこないでええええ!」


俺の顔を見るや突如叫びだす。


「え?」


確かに檻に入れられていたし、エルフだし…そうなるか。


「リスタ!落ち着いて!この方が治してくださったんだ!」


獣人の少女がエルフの少女の肩を掴み、言い放つ。


「メルビー?治す?この方が?」


リスタと呼ばれていた少女は呼吸を荒くしながら俺とメルビーを交互に見つめる。


「そうだよ、だから落ち着いて、ね?」


メルビーの声かけに少し落ち着いてきたのか、数分後、正常な呼吸になってきた。

そして俺はタイミングを見計らい、


「俺はアーグ、荷馬車が襲われてたから助けにきたんだが、なんで檻に入れられてんだ?」


外で食われていた商人とこの少女たちがどのような関係か聞いた。

いや心の中では答えは出ていた。

エルフや獣人と商人。その関係と言えば火を見るよりも明らかだ。


そして俺の問いかけに応えたのはメルビー。

きっとリスタのことを考えてのことだろう。


「リスタ、私が話す。多分この人は私たちのことを悪いようにはしないと思うから。

それにこの状況じゃあ逃げようにもできないしね」


「俺はそんなことしないから安心しろ」


「私たちは…」


メルビーから聞いた話をまとめるとこうだ。


村で遊んでいた二人は遊びに夢中になってしまい、

気づいたころには森の中深くに迷い込んでしまったらしい。

普段なら村から離れていてもなんとなく場所がわかるリスタだが、

その時は既に夜。

周りの環境と言い、不気味な魔獣の鳴き声と言い、彼女を恐怖に陥れてしまった。

そして本来の力を出すこともできず、そこに不運が重なってしまった。

商人に見つかった二人はまだ子供。

少しの戦闘センスのあるメルビーと少しの魔法が使えるリスタ。

それでも戦闘経験豊富な大人の冒険者にかなうはずもなく、

あっけなく捕まってしまい、ここまで連れてこられたそうだ。


「そう...だったのか、辛かったな」


俺はその話を聞き、何を思ったのかメルビーの頭を撫でてしまった。


「ふぇ?」


突然俺が撫でたせいか驚いた表情のメルビー。


「あっ、ごめん、嫌だったか...」


「いえ、そんなことはありませんが、驚いてしまって」


その様子を傍で見ていたリスタも、


「あの!私も撫でてもらってもいいですか?まだ怖くて...」


震える小さな手で俺の手を握る。


「え?あぁわかった」


これを断る理由はない。

こんなに震えて…。


「ごめんな、すぐ助けられなくて...」


俺がもっと早く来ていれば…。

俺がもっと早く気付いていれば…。


「いえ、そんなことは...あなた様がいなければ今頃ブラックウルフのお腹の中でした、

本当にありがとうございます」


そんな俺の気持ちを察したのかメルビーが頭を下げてくれる。

その姿を見て俺は、イフの話なんて意味がない。

助けられてよかった、それでいいじゃないか。そう思った。


「頭を上げて、二人はこれからどうするの?」


「一度村に帰らなくてはいけません。多分親が心配しているとおもうので」


俺はその答えを聞き、うーんと唸り、


「でも今日はもう遅いから俺の村に来るか?」


この後二人と別れ、また悪い商人とかに捕まったらという想像をしてしまった。

そう思ったら俺も一緒に行きたいが、いつの間にか外は暗くなり始めている。


「あなたの村ですか...人がたくさんいますよね?」


メルビーの気持ちは分かる。こんなことをされた後だ。

人に対して恐怖を抱くのも無理はない。


「アーグでいいよ。敬語もいいから、

あとうちの村にそんな悪い人はいないと思うし、

いてもまた守るから大丈夫。ここにいてまた襲われても嫌だしね」


そして少しの間考えた末、


「リスタ、ここはアーグを信じよ?きっと大丈夫だよ」


「わかった、じゃあお願いしてもいいですか?」


俺と一緒に俺の村へ帰ることにした。

幸いここから村は走れば一時間だ。

俺が知っているかぎりメルビーは多分狼人族だ。

身体能力は人と比べれば高い。疲れていないかが心配だけど。


「メルビーは走れるか?」


「行けるぞ。アーグが回復してくれたおかげだ」


「私も…あれ、足が…」


リスタは立とうとしているが、がくっ、とひざから崩れてしまう。


「ご、ごめんなさい!何故か足が動かなくて…」


リスタは緊張が解けたからだろう。足が動かない。

なら俺がすることは一つだ。


「え?これは?」


「おんぶするから乗ってくれ」


「おんぶですか//ありがとうございます」


リスタは夕焼けのせいか、少し顔を赤らめていた。


リスタは出発してすぐ俺の背中で寝息を立てていた。本当に辛かったんだな...。

途中ゴブリンが何匹か出てくることはあったが、

さっき入手した[斬撃]がすごく使いやすく、楽に退けることが出来た。

そんなこともあったがその後は特に問題もなく村に着くことができた。


「リスタ、村に着いたぞ」


「ふぇ?あっすいません、寝てしまいました!」


「それはいいんだが、入るぞ?」


俺が村への門を通り抜けようとすると、リスタはさっき以上に体を震わせ始めた。


「人…」


ぎゅ


呼吸が粗々しくなり、俺の手をつないできた。


「リスタ、大丈夫か?もう少し休んでからでもいいんだぞ?」


「アーグさん...大丈夫です。こうしていれば少しは…」


「おーい、そこの2人イチャイチャしないで早く行こ!もう眠いよぉ〜」


そんな俺たちを横目にメルビーはずかずかと村へと入っていく。


「ごめんメルビー、今案内するから」


そこへ一人の村の人が現れた。

リスタの俺の手を握る力が一層強まる。


「おっアーグ今帰ったのか」


「ただいま」


「そっちの2人は...エルフと狼人族か?」


「あぁ」


「アーグさん...」


俺の背中に隠れ、怯えている。

そんな彼女をなだめるように、


「大丈夫だ」


「べっぴんさんじゃねーか!2人ともこの村はなんもねーけど、

らくにしてってくれよ!」


『へ?』


二人から出た声は何とも間抜けだった。

村人の反応が信じられないといった感じで立ち尽くし、

リスタの俺の手を握る手はいつしか離れていた。


「じゃあまたなー!フィルに早く言った方が良いぞ、

そろそろ俺らも怪しまれてるからな!」


「わかった!ありがと!」


「アーグ、その子たちに変なことするんじゃないぞ、

お嬢ちゃんたちもなんかあったらすぐ言うんだよ」


そこへ現れた近所のお婆ちゃんも俺たちの姿を見ては罵倒するでもリスタ達を捕まえようとするでもなく、二人を安心させようとしてくれた。


「お婆ちゃんも変な事言わないでよ」


「メルビー...」


「リスタ...」


二人は互いを見つ合い、


『この村の人はいい人ですね(だね)』


声をそろえた。


「そうだろ。それじゃあ俺の家に行くか」



「ただいまー、母さんいる?」


「アーグ、今日は遅かったな?…おいアーグちょっと来い」


親父は俺と二人を見るや否や俺だけを連れて行き、


(どうした?)


(あの子たちはどうしたんだ?)


(さっき森で助けてきた)


(そうか)


(あとで詳しいことは話す。多分二人とも疲れてるだろうから休ませてあげてほしい)


(おう)


「アーグ?今日はどこに行ってたの?…いらっしゃい、アーグ案内してあげなさい」


母さんは事情を察してくれたのか、俺に案内を促せてくれた。


「リスタ、メルビーこの人たちが俺の母さんと親父のフィルとリックだ」


「私はリスタです、アーグさんに助けてもらいました!」


「メルビーです!アーグに助けられた!」


「あらあら、無理に元気を出さなくていいのよ、疲れているのが丸わかりよ」


それからリスタとメルビーは俺に案内を促せていたはずの母さんが世話をして寝かせてくれた。

ちなみに俺の部屋で。これを期に、俺が森で戦ってることを母さんに話すことを決めた。

いつまでも黙ってるってわけには…いかないしな。



二人が寝静まった頃のリビング


「母さん、今まで黙ってたけど俺は親父に特訓をしてもらってるし、

森で魔獣と戦ったりもしてる。

でも俺は、誰かを守るために強くなりたい!

リスタとメルビーのような人たちを増やしたくない...。

だから強くなることを許してほしい...」


「フィル、俺からも謝る。俺は今までこのことを知っていた。

だがアーグの覚悟を見てこいつなら大丈夫と思ったんだ!

だからこいつの願い聞いてやってくれないか?」


再び静寂が広がったかと思うと、母さんが口を開き、


「...知ってました。」


母さんの口から出たのは意外な言葉だった。

いつからだ…?

俺は村の人にも頼んだし、気づかれないよう細心の注意をしてきたつもりだ。


『え?』


「知ってましたよ、アーグが森に行っていること。

本当は辛かったです。いついなくなってしまうかわからない、

離れたくないって、でもこれがアーグの望んだことなら私は止めません。

あの子たちはを救うことができたのはあなたがいたからですしね。」


「母さん…」


「でもこれだけは約束してください、私の前からいなくならないで...死なないで...。

そして困ってる人がいたならあなたの手を差し伸べてあげてください。

決して善人を傷つけないでください」


決して善人を傷つけない。それは俺の心にしっかりと刻まれた。


「分かってる、俺はいなくならないよ」


「そしてリック」


「はいっ!」


「アーグをもっと強くしてあげてください」


「フィル...任せとけ!俺が世界で1番強くしてやる!」


「2人とも愛してますよ」


『俺たちもだ』



俺は無事母さんに話すことができた。母さんは母さんで悩んでたんだな...。

これからは母さんに嘘はなしだ。全て隠さず話す。

そしてやっぱり俺はこの村、この家族に生まれてよかった。

そう、心から思える。


読んでくださりありがとうございます

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