2.まだ気付いていない。
なんて言うか…寒い。そして空腹。あと……。
「くすぐったい!」
と跳ね起きた。さっきまでの場所…じゃない? 今度は、これは…洞窟?
「いてててててて」
勢いよく起き上がってはみたものの、身体中が痛くて涙目になる。
「わ!」
足下には……子供? えー、10歳くらいの男の子だ。オレの大声に驚いて飛び退き、目をまん丸にしてこちらを伺っている。姿形は小さな農夫としか言いようがない。きっと農夫の子供だろう。
そのガ…お子さんはどうやら、オレの靴を脱がそうとしていた模様。なかなか脱がせず悪戦苦闘していたのが、どうにもくすぐったかったというわけだ。
その顔に指を突きつけようと思ったら、自分の右手首がへし折れていることに気付いたので慌てて右手首を庇いながら
「なななななにしてたんだ、おい。靴なんか脱がしてどうするんだよ!」
「死体に靴はいらないだろ!」
子供もオレが突然目覚めたことに驚いていたが、反発して大声になる。
「誰が死体だ!」
なるほど。死体だと思って…って、死体の履き物とか衣服を剥いだりするなんて、そーとーな「乱世」感ない? 「羅生門」かよ。あれは老婆か。応仁の乱か。
「どこのガ…子供か知らないけど、人の靴なんか持っていこうとせずに、もっと健全な遊びしろよな。ところで、ここはどこなんだ? スマホ持ってたら貸して欲しいんだけど…」
ガ…子供は、まくし立てるオレを呆然と眺めている。まあ、死んでいると思っていたら生きていたのだから、そりゃ驚くか。
あたりを眺めてみると、ここは比較的広めの洞窟のようだ。10mくらい先に外の陽光が差している。奥は広まっているとは言え、せいぜい4〜5人で寝泊まりできる程度?
「さっきまでオレが倒れてたのは別の場所だよな。ここまで引き摺ってきたのか?」
「…うん」
ようやく子供が答えた。落ち着いてきたのだろうか。口を尖らせてぽつぽつと説明する。
「ここは、村で使っている作業場。あんたは…森の西側の崖の下に倒れてたんだよ」
「それで死体と勘違いして身ぐるみ剥がそうとここまで引き摺ってきた、と。ご苦労な話だな」
「だって…」
「そんなことしてるとろくな大人にならねえぞ。スマホは? 持ってないの? 持ってたとしても、こんな洞窟の中じゃ圏外か」
「?」
…スマホ知らないのか? たいがい田舎でも普及してるだろうに…。
そこでオレはようやく思い出した。
(あの血…!)
と、自分の身体を見回すのと同時に子供が言った。
「どう見たって、あんた死んでるんだけど」
「え…」
「自分の背中の傷、気付いてないの?」
何を言ってるんだと思いながら自分の両手を眺めると血糊がこびりついているばかりではなく、ひどく青ざめた肌の色に気がついた。
(これは…出血多量じゃ…)
ひどく寒いのは血を失いすぎて体温低下を招いているせいかもしれない。
「おい! 救急車呼べるか?」
子供の手を掴もうとしたが、子供は身を引いて俺の手をするりと躱す。
同時に、後頭部に鈍器による激しい打撃を受け、俺は瞬時に昏倒した。




