01.プロローグ。
目覚めると、そこは薄暗い、鼻をつく何か異臭の漂う場所だった。ゆっくりと目を開き、身体を少しだけ動かしてみる。どこもかしこもひどく痛む。
(どこか怪我してるのか…?)
至るところの関節が猛烈に痛い。なんだこれ?
顔だけ少し動かして見回してみるが、周囲に動くものはなさそうだ。広い…倉庫か何かだろうか? 何の音もしない。あまりに静かすぎて、音を立てるのは憚られる。
このままここに寝ているわけには行かない…と思う。だらだらと寝そべっていても、やがて母親がけたたましく扉を開いて自分を起こしにくることはないだろうから。
(母親…?)
思い出そうと試みるが、顔も声も浮かばない。学校に行かなくちゃ…。
ちょっと怖くなってきたので、思い切って立ち上がることにした。
さっき気が付いたときからうつ伏せの状態ではあったので、両手をついて上半身を持ち上げればいい。
だが、このなんでもない動作がひどく辛い。痛みが依然として続いている上に、自分の身体であるにも関わらずどうにも動かしにくい。数十秒をかけて自分の両手を引きつけて、手の平を地面に押しつける……あれ?
そして気付く。右手首が…有り得ない方向に曲がっている。というか、この突き出た白っぽいのは骨…?
「えええええーっ!」
思わず叫び声を上げてしまった。あたりはしんと静まったまま、自分の叫び声は妙に響いた。特にどこからも反応はない。ないが…右手、右手が…。
(折れてる…ポッキリと…)
どおりで痛むはずだ。やはり自分は事故に遭ったのだろう。ひき逃げにでも遭って怪我をして、一時的なショックで記憶もあやふや、といったところか。なるほど、それなら合点がいく。
合点がいくと、不思議と安心した。ひどい事態だが最悪というわけではない。何しろ生きている。立ち上がって、道路か人里まで出て救急車を呼んでもらえばいい。ひょっとしたら家族から捜索願いも出ているかもしれない。
楽観的な想像に力づけられて、折れた右手首を気遣いながら少し身体を持ち上げる。嫌な匂いがする…いや、これは血の匂いだ。ひどい想像が頭を占めていく。
着ている服の布地が水分を吸ってひどく重く感じられた。
(まさか…)
想像通りというか、それよりわずかにひどく、持ち上げた身体の下は血の海であることを自分の目で発見してしまった。真っ赤な血が…いや、暗いのでほぼ真っ黒に見える血が、地べた…そしてオレの身体にもべったりと。それも尋常な量ではない。スプラッター映画以外で、こんな量の血を見たことはなかった。着ていた服の色が分からないほどぐっしょりと濡れている。
もしこれが自分の血だとしたら、すぐさま輸血しないとオレは失血死してしまうのではないか…?
「うわあああああっ!」
俺の意識は急速にブラックアウトした。




