プロローグ ~奴隷商人が世界を救う~
『普通。 普通の人生だった。』
大抵、みんなそうなのだと思う。高校行って、大学卒業して、就職して、初任給で親に何か買ってあげて、彼女と遊んで、友達と風俗行って、結婚して、子供生まれて、父になって、おじいさんになって、死ぬ。
ーそして俺は今日死ぬ。死因は不明。
不明というのは「わからない」というわけではなく。行方不明。現実的には、つまり神隠しにあうのだ。
「すいません!入金金額メモし忘れっちゃって、金額教えてもらえますか? 」
今は、仕事中だ。とは言っても入金しに行くだけでへまっている。
「11,011円 10,001円 23,001円 」聞いた数字を左手にメモしていく。
「 金額の確認いいですか? 」 「 違う? 」
「 10100円? 」俺は二段目の金額を10φ0φ円に書き直した。
「ありがとうございます!助かりました!」お礼を言って電話を切った。
「まったくどうして最近の若い子は、金額をイチゼロイチゼロゼロとかいうのか?」「アホか」 そんな独り言をつぶやいてみて、そんな子よりも役職が低い自分が情けなくなる。
手早く入金を済ませて会社へもどる。
俺の名前は笛吹新。現在32歳のまだ独身の人間である。まだ!いつかは結婚する!したい!
本当に、普通!むしろ平凡。 特技なし! 頭の良さも普通! 運動は嫌いじゃない。 あえて言うなら勘はいい方で、朝のニュース番組のじゃんけんの勝率は8割5分勝てる。
あと『 女が大好きです! 』 以上!
高校と大学を順調に卒業したとは言っても、所詮田舎の3流大学では大した給料はもらえない。仕事は長続きしなくて、転職を繰り返している。
奨学金の返済と車のローン返済、実家暮らしで親のすねを「しゃぶり」ながら生きながらえている、寄生息子である。 東京からたまに帰省してきて、俺にもお小遣いをくれる姉とは大違いだ。
まあ、そんなわけでツミである。人生のツミ。罪。
これくらいで不幸だなんて、普通? まだまだ下がいる?
それは上を見ても、下も見たらたくさん人がいて限りないけどでも、俺は詰んでいると思う。
税金を納めるために働いて、誰だが知らないじいさんを支えるために年金を納めて、自分の将来に投資した借金を背負って生きている、だけである。将来に希望なんてない。ただの歯車。働きバチ、兵隊蟻、使い捨て、消耗品。そうだ!地球の消耗品なのだ!
「幸せってなんだったのかな」言ったってしょうもないことを言いながら、入金を済ませて職場に戻る。奨学金と甘い言葉で隠した借金に徐々に追い込まれながら地獄に落とされていく、殺されていく。そんな現状だ。
「返済が終わる50歳には、幸せが待っているだろうか…」意味のない独り言をつぶやいてみた。
なんて言った瞬間! 左手が急に光りだした!
すごい光だ! 前が見えない!
あわてて、急ブレーキを踏む!
いったい何がっ!......
そして俺は今日、行方不明になった。運転していた車内から、忽然と消えたのである。残された者からすれば神隠しと思うだろう。
いや、もう死んだと一緒らしい。
死因は不明。 だったけど目の前にいる神様が教えてくれた。
「 サイガ オワルゴ ジュッサイニ 」
異世界への転生呪文だった。らしい?






