第七十五話:つかの間の休息
トーラス王国から帰還して1週間、ゆっくり
溜まっている仕事に手をつけている。
「リン、戦況は?」
「トーラスとスピカの占領は終了、トーラスはダリル伯、スピカは
サイモン伯が指揮を取っています」
「北は?」
「アリス王国の兵は統率が取れておらず、王都まで攻め込みましたが
ベガの援軍40万が来たために、王都から北へ3日の距離の半島部分にある
ナノの街に一時撤退しました」
「ナノの街とかで大丈夫なのか?」
「はい、半島部分の先端にある街で半島の幅は狭く、ドラロン、クジロンの
砲火を突破しなければ、街へ着く事すらできません、補給も海路で可能です」
アリスもベガも後方が不安で兵を戻さない訳にはいかないだろう。
「南は?」
「カノープス王国の海岸部分をドラロンで攻撃中です、主力の30万はベリアス
のグラナダの街で待機中です」
キャンベルの作った船は大活躍だな、あとは東のギラン共和国次第か。
飯でも食いにいくか、気分的にラーメンあたりを食べたいんだが。
「フィーネとフローラじゃないか」
「カズマ兄さん」
「どうした店の前で? 入らないのか」
「なんか高そうで」
「おごってやるよ、入ろう」
ここがフランの言ってた、今一番流行っているステーキハウスか。
「いらっしゃいませ、3名様ですか?」
「そうだな、広いテーブル席で頼むよ」
「では右奥のテーブル席へどうぞ」
「2人は何にする?」
「パフェというのがあると聞いて来たんですが?」
「お腹は減ってないのか?」
「……減ってます」
「お姉さん、最高級のステーキを3人前とパフェを2つにワインを頼むよ」
「当店の最高のステーキだと小金貨7枚になりますが……」
「構わないよ、お願いするよ」
俺って、金持ちには見えないのか?
「みんなはいつも何をしているんだ?」
「お母さん2人で食事の用意とキッチンとリビングの清掃でお爺ちゃんと
ドーラが庭と厩舎の管理で私たちがお屋敷の掃除をして
手が空いたら勉強しています」
「偉いな、給金はいくら位もらっているんだ?」
「月に小金貨3枚もらってます、ドーラは2枚ですね」
学生なら十分だが、成人で働いている身としては少し少ないな。
「よし、年も新しくなったし、2人に金貨8枚ほど小遣いをやろう」
「私たちだけもらうわけには……」
「フィーネはお姉さんだからな、ドーラの分も出すぞ」
「よろしいのですか?」
「俺の田舎では、新年になったら年長者が子供にお金を上げる習慣が
あるんだよ」
「……もう子供じゃありません」
「まあもらっておけ、服とか欲しいものがあるだろう」
「ありがとうございます」
「お待たせ、3人前ね」
あまり熱くないし、焼きすぎだな、サラダも量が少ないし
市民に経済力があるから、外見が派手な店に人気が集まるのかも
知れないな、対策を講じるべきか?
量も、少し物足りないか。
2人の顔色を伺うにパフェも期待したほどではないようだ。
「出ようか」
「「はい」」
「金貨2枚と小金貨4枚よ」
「美味くなかったな」
「お母さんの料理に比べたら、不味い部類に入ります」
「確かにな、気をつけて帰れよ」
「だから、子供じゃありません」
「女性として気をつけろと言ってるんだよ」
昼飯にくだらん出費を強いられてしまったな。
「ロキ、いい案を持ってきた」
「いい案とは?」
「内政官の経済的負担を減らす案だ」
「お聞きしましょう」
「今日、北エリアの人気のステーキハウスへ行ってきたが、高くて不味いだ
それで、内政官に街の飲食店や服飾店などに潜入調査させる」
「どの程度の規模で?」
「家族連れでも構わないし、支払い証明があれば複数店舗でも構わない
不正な店はキシリア商会の援助を受けていると広場の掲示板に公示する」
「キシリア商会は既にありませんが」
「市民は知らないし、その方が効果があるだろう。内政官も衣類や食事代が
浮くので余裕が出る」
「わかりました、私も兵士と内政官の所得の差に何か手を打たなければと
思っていた所です、その方向で調整致します」
給金は兵士の方が安いんだが、俺が何度か略奪を許可しているせいか
兵士の金周りがいいんだよな。
「それと重要な案件ではありませんが、今年は出産ラッシュになる予定ですので
一時給付金を出してよろしいでしょうか?」
「そんなにか?」
「3月までで、8千人以上が出産予定ですが、生活の余裕がありません」
「わかった、出産祝いを街で出そう」
「1人目が金貨4枚で、それ以降は1人につき金貨2枚でいいだろう」
「かしこまりました、それで告知致します」
ロキが妊婦の心配とは珍しいな
冬の間だけで妊婦が8千人か、産婦人科だけでも作るか?
まだ3時前だが帰るか。
さて電源もあるし、DVDでも観るか、新作は久しぶりだな。
「お兄ちゃん、ミラお姉ちゃんが緊急事態だから、集まって欲しいそうです」
どこか動いたか?
「緊急事態とは戦争か?」
「違います。ミラは気がついてしまったんです」
「何か名案でも浮かんだのか?」
「ミラは、お小遣いを9ヶ月ももらっていない事です」
そんな事か、焦って損したな。
「わかったよ、星金貨1枚やるから、金貨35枚お釣りを出せ」
「そんなに金貨は持ってないです」
「ダテ君、ミラちゃんのお小遣いはいくら?」
「月に金貨15枚だ」
「兄様、ミラちゃんが可愛そうですよ」
「仕方ない星金貨1枚やろう、俺は妹には優しいからな」
「ありがとです、ミラ感激です」
急に呼び出した罰で35枚はお預けだ。
「みんなにも星金貨1枚やるぞ」
「われは金貨のほうがいいぞ」
「カナデだけ、金貨にするか」
「お姉ちゃんの分は?」
「シャルには帰還命令を出したから、来月には戻るだろう
とりあえず、ヒルダに渡しておこう」
俺の留守の間の給金が消えてしまったな。
当分の間は暇だし、いいか。
☆
最近は内政問題の書類ばかりだな、戦争は膠着状態だからな。
「リン、どこか動いたか?」
「あれから2週間経ちますが、どこも兵力5千程度の小競り合いのみで
大規模な戦闘はありません」
「敵も後方にギラン共和国がいるから、動けないのだろう」
「そのギラン共和国ですが、かなり悪政を敷いている模様です
大使の話によると、住民は15才から25才までは兵役、商会は売り上げの
3割を税としてもっていかれるとか」
「良き君主の専制政治より愚かな民主政治のほうが腐敗が激しいからね」
「共和国とはどんな国なんでしょう?」
「簡単にいうと、多数決で王様を決めて、国を運営する団体だな」
「国王を市民が決めるんですか?」
「そうなるね。指導者としての器より、人気次第だけどね」
「変わった仕組みですね」
奴隷制度のある文明レベルでは共和国自体の存続は危ないと思うが。
さて、昼飯はどうするかな?
「坊ちゃんはいるか?」
「爺さん、どうした?」
「マグロンの新型に坊ちゃんの本の知識を取り入れて、新造船サメロンが
完成したので、報告じゃ」
「どんな性能だ?」
「聞いて驚け。今度は魔道砲装備を前提に作った船で、超強力な魔道砲を前部に
4門搭載していて、速度は時速65キロを記録したぞ」
大戦時の駆逐艦並みだな。
「魔道砲の威力は?」
「射程は10キロ前後、威力が旧式の6倍といった所だ。クジロンも1撃で沈むな」
よく専門書と模型だけで、そこまで作れたもんだ
さすがに飛行機は無理だったようだな。
「マグロンとクジロンの生産ラインを止めて、サメロンの増産に入ってくれ
生産費も星金貨4千枚分増額しよう」
「見なくてもよいのか?」
「自信があるんだろう」
「勿論じゃ」
射程10キロか、制海権を取られたらエトワールでも落ちるな。
☆
ペコ商会でセールか、1年以上経ってるからな
やってもおかしくないか。
「バルバラ、用意は進んでいるか?」
「勿論です、2千種類以上の商品の大セールです、ベラがユミルで総指揮を
取るので、今回は星金貨5万枚以上の利益を見込んでいます」
「頑張ってくれ」
例のステーキハウスは営業休止か
ロキのやつは上手くやっているようだな。
内政官がみんな参加するとなると、月に星金貨150枚程度はかかるが
暴利の儲けを考える店を潰すためだ。
「フレイヤ、例のスポーツイベントの告知は済んだか?」
「一応、通達しましたけど、みんな乗り気じゃないですよ」
「2勝したら、ペコ商会の半額割引券を1枚つけよう」
兵士が6チームに市民が2チームが参加か。
「これよりサッカー大会を始めるぞ、商品はペコ商会の半額割引券だ
要らないやつには金貨50枚を進呈するぞ。頑張って2回勝てよ」
「伯爵、ルールは読んできたんですが、はっきりとは」
「とにかく足だけでボールをゴールへ蹴り込め」
「ぶつかると反則を取られるとありますが?」
「最初の大会だ、多少は構わん」
「始め」
ほとんどアメフトだな、もはやファールとかそういうレベルじゃない
「真後ろから蹴りを入れるな!」
ボールに風魔法をかけてるから、スピード感が凄まじいな
こいつら体力だけならヨーロッパのプロリーグでプレイできるな。
また倒されたか、5人目だな。
「ヒルダ、回復魔法をかけてやってくれ」
「はい、兄様」
「終了だ、5-4でリンチームの勝ちだ」
「途中まで勝ってたのに」
「後2人ほど、神官の所へ送ってやれば勝てたな」
結局7試合やって、負傷者26名、優勝はマリアのチームか
次はサッカー以外にするか。
「2勝したチームは半額券か金貨か選べ」
「やはり金貨だよな」
「そうだな、50枚か」
「かなり飲めるな」
半額券を選んだのは3人だけか、もったいないな。
散々だったが、スポーツがないというのは寂しいな
戦争が多いから、余裕がないのか。
☆
冬も早く終わらないかな。
「伯爵、ただいま戻りました」
「アレク、シャル、ニケ、3人とも良く戻った
長期の遠征ご苦労だったな」
「南部方面もスピカ兵を加えて30万がグラナダに駐留
ドラロン、クジロンも多数あるので、安心して離れられました」
「3個連隊には3週間の完全休養を与えるので、ゆっくり休んでくれ」
「「「はい」」」
我らもでかくなったもんだ、公国、エリース、ベリアス、帝国
トレース、スピカと6カ国の併合か、兵数も150万を超えるか。
戦術的に考えれば兵数の少ないトーラスに攻め入るのが得策だろうが
攻め込んで乱戦になったら、敵はベガに戻るのに2週間はかかるから
ギラン共和国の動きが怖くて攻め込んでこれないか?
どこが我慢ができずに動くかだな。
残高:470億と金貨20枚




