第六話:自衛の為の野宿
夜の街はツーリングで盛岡へ行った時のような感じだ、人がいる所には結構
人が集まるが、いない所へ徹底的にいない、避難勧告でも出ているのかと感心して
しまう。
街の東門から外へ出て、林の中に入り、肩リスをバイクに戻し乗車。
どうやらパネルの前の見慣れない5つのスイッチの一番左側は燃料を従来の
ガソリンで補うか魔力で補うかの違いのようで、一番左側スイッチをOFF
にして、魔力をオートバイに込めるイメージをしてみたが、無理だった。
あれこれ試行錯誤の結果、燃料計を注視しながら針を動かそうと試みる。
そうすると魔力が注ぎ込まれているのか? 燃料系の針はゆっくりと右に振れて
いく、夜道だし時速30キロの安全運転でゆっくりと進む。。
ハンドルにロードバイクの変速機のような物がついていたので、試しに左側の
レバーを押して込んでみると10メートル程の高さまで上昇してから
水平走行へ戻った。
焦った! これが女神に適当に自慢した時の効果のドラゴンの3倍の効果
の一部なのかと納得
燃費がわからないし、スピードメーターは180km迄しか表示されないし
そのまま、空に浮かんだまま走行するしかない。
タコメータの表示が4千回転程度でスピードメーター
が振り切っていると考えると、まだまだスピードは出そうだが、地理に詳しくない
のに全開走行は危険なのでやめておこう。
☆☆
しばらく走って(飛んでたわけだが)最初にいた荒野に到着、本来の目的の
魔法の練習の為にここまできたのだ。
アルトハイムさんを疑っている訳ではないが、地球の商品をかなりの高額で
売り込んだ自覚が芽生えると、この異世界に知り合いすらいない俺は
自衛手段を習得しなければならないと思い、こんな僻地まで来たのだ。
チョコレートを一袋10万で買うということは、貴族の子弟や裕福な女性に
伝手があると思われる、そこから俺の居場所を貴族に追及されたら?
中堅商会の主といえども自白に追い込まれるのではないか? 上手く立ち回って
くれる事を願うが。
ここは平和ボケの日本とは真逆の世界、最低アメリカの都市の安宿に住んでいる
程度の危機管理は必要だろう。
夜間は外では音楽を聴きながらの歩行は禁止、携帯はダメ、知らない道は
通らない、荷物は店に入店時以外、地面やテーブルに置かない。
人につけられたらすぐに表通りに出る、ロス行ったときに日本人経営の宿で
教わった注意事項だ、安宿なのに夜間は一階の鍵が施錠され、部屋は2階より上で
部屋の窓には鉄格子という、日本では見かけない防犯重視の宿だった。
「とりあえずネガティブ思考では息がつまるし、魔法の練習に入るか」
ペコからもらった、魔法教本をみながら、使えそうな魔法を確認。しかし説明文
がスキル本とは違いまったくない、只の魔法名のメモ書きである。
加えて魔法別に並べてある訳ではないようで、想像するに地上に来た時に使用
した魔法を順番に書いてあるように見える。
とりあえず魔法といえば、定番のファイアボールと思ったが載ってない。
どうやら女神は独自の概念で魔法をイメージしているのか、商業ギルドで
読んだ本によると火、風、土、水、氷、雷、光、闇、時、無の魔法があり
時と無以外は属性魔法となり生活する上でも非常に役に立つ。
属性攻撃魔法は、魔法職にとっては必須らしいが、習得には神殿でスキルの
伝授を受けるか、熟練者から魔法を見せてもらい自分の中でイメージを確立
させて習得という2種類があるらしい。
俺の場合ちょっと宗教にいいイメージがまったくないし、特にキリスト教や
イスラム教には関わりたくも無いと思っている、看取り稽古で習得したくとも
魔法を使える知り合いさえいない。
まあペコの魔法でどうしても補えない部分だけ習得して
あとはスキルポイントを使ってレベルを上げる方法が一番早いような気がする。
☆☆
朝までいろいろ、想像可能な魔法について試し打ちしてみたが、【魔力操作】の
レベルが低いせいか威力、射程、照準に非常にムラがある、星とか大陸等の名前の
つく危険を感じる魔法については試射しなかった。
宿ではないのでカセットコンロを取り出し、荷箱通販でパスタとミートソースを
購入、鍋に宿屋の井戸で汲んだ美味しい水を入れ、沸騰したらミートソースの袋を
温めつつ2分程の時間差でパスタを投入、一人暮らしをしていると
ミートソースを加熱終了してからパスタを温めるという2度手間を省く為に
加熱終了と同時にパスタも3分加熱状態となり、あとは皿にもって食べるだけ。
市場で購入した皿は木製だが悪くはない、俺はフォークとスプーンで優雅に
食べる習慣は無いので、パスタといっても自宅では基本的には箸を使う。
久々のパスタはなかなかいける、宿屋の食事と同程度に感じる。
これは化学調味料に慣れた感覚故の味覚の差か、じっくり味を考えれば素材の差
でレトルト食品より、この異世界食品のほうが上のはずなのだが化学調味料の力は
偉大のようだ。
食事も終わり、水系の魔法で鍋、皿を洗浄してアイテムボックスへ戻す。
アイテムボックスは容量不明、朝食で出された宿屋のパンを午後に食べても
柔らかかったので、中は時間停止もしくは時間遅延と予想している。
いちいち取り出す物を意識するのも面倒だし面白味もないので、街で購入した
10個のリュックサックのような物にリスの色付きリボンをつけて色分けして
それぞれにアイテムを収納している。
内訳は1.すぐ食べれる熱い食事、2.移動中に食べれる食品、3.食材
4.日本の料理、5.日本の食材(人に見せられない物)、6.異世界雑貨
7.日本の雑貨、8.異世界貴重品、9、魔法の鞄、10、日本から持ち込んだ
携帯等の希少品、実際はほとんどの袋には何も入っていない。
魔法の鞄はアルト商会との取引でも使ったが、女神が相棒のバイクをリスに
した時に機動馬車倉庫に入っていた物だ、国宝級の品かと思ったが、ギルドにも
あった(容量不明だが)。
アルト商会にももちろんあった、現在は人に盗まれない保管場所としては
機動馬車倉庫とアイテムボックスの2本立て。
商談以外では魔法の鞄は使わず、同じ色のバックをダミーとして、荷箱通販
で3個ほど購入しておいた。
街道で盗賊に出会った場合はしょうがないが
街でマフィアの方々に出会った場合は荷物を置いていけば逃げれば
危険は減るだろう
人を襲う輩の中でも相手の命が目的の人間というのは意外に少ない。
☆☆
それから再び朝日が昇るまで魔法の訓練にいそしんだ、【魔力操作】に
注意しながら魔法の射程の調整、威力の調整、範囲の調整と苦しんだが
指でビームを発射するようなアニメのイメージでやってみると、威力と範囲は
かなり向上した気がする、射程に関しては目視不可能な距離まで飛んでいくので
今度女神と会った時に聞いてみよう。
さすがにMP回復休憩を挟んだとはいえ
20時間近く練習していたので疲れた。
日本にいるときからどうも深夜になると集中力が増すような感覚になる。
しかし朝日を浴びるといきなり集中力が途切れ、疲れが押し寄せる感覚
は克服でいないものだろうか?
とりあえず攻撃系は『アクアフラッシュ』という、水系魔法と光系魔法の
混成魔法のようなもので3メートル程度の岩に放つと岩を20cm程度削り
光が岩を5メートル程度後方へ吹き飛ばすという貫通力、破壊力共に問題ないだろう。
【時間操作】もいろいろ試したが
最初は懐中時計を片手に持つので片手が塞がり面倒に思ったが、【他力本願】
の影響か慣れると時計を手に握っているとイメージしながら、親指でボタンを押す
感覚でスキルを発動可能となった、これならいきなり襲われても意識さえあれば
加速で逃げられる。
街に戻るにも眠いので仮眠を取る、気が付けば夜になっていた、地面に寝て
いたので多少体に痛みはあるが、腕時計を見ると既に9時過ぎ、これでは街の門は
既に閉まっているだろうし今夜も野宿と諦めて、近くの川まで相棒に
乗りひとっと飛び。
川で行水して、タオルで体を拭いて着替えのローブを着ようと
思ったが、下着を買い忘れていた、裸のまま荷箱通販でパンツ、半袖のV字シャツ
靴下を購入、着替えて汚れ物はポリ袋に入れてアイテムボックスへ。
「完全に昼夜逆転してしまった。とても寝れん?」
「肩リス、話し相手になってくれんか?」
……キュキュットと鳴くだけで会話は無理か?
こういう時は盗賊に襲われた商人の護衛や奴隷とか、お姫様の連れの侍女に
出会うなどが定番なのだろうが、盗賊はいるらしいが、この近辺ではあまり出没
しないらしい、領主が優秀なのだろうか?
とりあえず魔力も回復しているようだし、タンクに魔力を貯めて、港に向かって
レッツゴー。