第六十二話:白い蛇
成り行きで結婚してしまったが、サラの真意もわからないし
とりあえず静観しておこう。
アラン伯救援から帰還して1週間、兵士も街の衛兵以外は休暇に入り
エトワール解放から1年が経った今、街にも活気が溢れている。
「坊ちゃん、どうだったマグロンは?」
「いい出来だな。とりあえず100隻の建造をお願いしておいたよ」
「クララから聞いたぞ。クジロンのテストも終わってな、魔法兵中心の我が
軍なら700人は輸送出来るな。速度は時速25キロが限界だがな」
従来は時速10キロ~15キロでれば上出来だから、かなりの上昇だな
「クジロンも30隻ほど建造に入ってもらおうか?」
「金の方は大丈夫か?」
「建造費に星金貨8千枚ほど計上してある。なんとかなるだろう」
「坊ちゃん、太っ腹だな。それなら俺たちも最高の船を作れるぜ」
「明日は予算配分会議だ、気合いを入れないと建造費を横から
奪い取られるぞ」
「そうだったな、何人くらい集まるんだ?」
「88人だな」
「気合いを入れていくぜ!」
金庫に星金貨が30万枚あるというのは極秘だし、公式には3万枚だ
揉めそうだな、やりたくはないが、出資をさせている以上
多少は透明性を示さないとな。
☆
面倒だが行かないとな。
「みんな早いな?」
「みんな税制会議以来ですからね」
みんな自分の関係する分野に予算が振られる為に必死だな。
「ハイム初めてくれ」
「予算配分会議を始めますが、はじめにお伝えしておく事があります」
「ここに居る方は、税制会議に出席された方も多いと思いますが
税の徴収は終わり、本来は開示する必要のない事を話し合いますので
自分勝手な意見を主張する方は退席して頂きますので、ご了承ください」
「今回は内務から40名、軍務は連隊長7名を含む10名、技術方から2名
商会から10名、神殿から3名、各現場担当の20名の85名に
子爵とサラ様と私の88名になります」
さて参加者にバカは居ないが、今回は承諾不要の報告会だ
存分にいかせて貰おう。
「みなさん。税制会議から1年経ち、エトワールも人口50万
市民も星金貨を手に入れられるようになったが、今年は3国から攻められた
のも事実、利益以外にも目を向けてくれる事に期待する」
「では私から、現在決まっている、おおまかな予算配分を申し上げます」
「現在金庫には金貨4万5千枚があり、内1万7千枚は秋の税収分です
港関連に8千枚、人件費に7千枚がすでに決定事項で2万枚は
緊急時の為に保管しておく事になります」
「残り1万枚ですか? 港関連は我々も投資をしているので合計で
1万5千枚を超えますな」
「市民の購買力を持続させる為にも港関連の投資は重要案件です
船が沈んだ場合は、金庫から支払いますのでご安心を」
「港の工事はいつごろまでの予定ですか?」
「秋蒔きの小麦の収穫時期の前には終わらせる予定です」
「完成した船は順次、輸送に使う予定なので皆様も潤うかと?」
今までの倍以上の速さだ、かなり儲かるだろう。
「冒険者ギルドの領民君の支給対象をランクDにしてもらいたいが」
「ギルド長と職員1名の推薦があれば、それでも構わないが
推薦した者の内10名が法に触れた場合は、ランクB以上にして頂く」
「それは…… 」
「鍛冶ギルドなどを誘致してはいかがですか?」
「そんな事をすれば、商業ギルドが乗り出して来るぞ」
「農地の開発と新種の開発に千枚ほど融通して欲しいのですが?」
「職人連中にも千枚ほどおねがいします」
「新規の商会立ち上げに2千枚」
「食料の備蓄に千枚と神官の派遣に5百枚を?」
「備蓄に関しては問題ありませんが、神官については神殿に決定権がありま
す」
「申し上げにくいのですが、人種以外の迫害対策に
5百枚お願いできないでしょうか?」
「構いませんよ、都合つけましょう」
「獣人を擁護するという事ですか?」
「問題ないでしょう、北部ではうまくいっているんですし」
「子爵、だいたい出そろったようなのでよろしいでしょうか?」
「ハイムに任せるよ」
「皆様の要求を飲み、5千5百枚で今回だけ神官とギルドと獣人対策に
500枚の追加を行い、合計で星金貨7千枚とします」
「来年は公国の併合に合わせて、かなりの人の移動が見込まれますので
用意だけはお願いします」
2時間で終わったか、助かったな
しかし、獣人対策費用を提案する人間がいるとは。
「フラン居るか?」
「なんじゃ、ステーキを食べている所だぞ」
「俺にはステーキセットを1人前頼む」
「はいよ、焼き方はフランちゃんと同じでいいかい?」
「それでいいよ」
「フラン、ダンジョンに行かないか? 無理強いはしないが」
「星のダンジョンか?」
「A級冒険者3パーティでも攻略不可とされている20層だ」
「ほかのメンバーは?」
「新婚の嫁さんは連れて行けないし、レベル的にはあとはシャル位だな」
「カズマが私の息子とは、最初に聞いた時は大笑いしてしまったぞ」
「サラが色々、気を遣った結果だ」
「サラは要領が悪いからの」
「おまちどう、Cセットだよ」
毎度、量が多いな。
「最近は少々体の調子が悪いので、遠慮しておこう」
「そうか、仕方ないな」
アオイと行くか。
「子爵、ダンジョンに入られるのですか?」
「悪いが、15層まで案内をおねがいしたい」
「わかりました」
ポータル作ったやつは天才だな、弱いの倒しても仕方ないし
目指すは20層だ、行くぞ。
15層~17層は人が居たが、18層は無人か。
デスエレファントの上位種だな。
「【アクアフラッシュ】3連」
レベル8に進化したペコの魔法に単体で挑んでくるとは。
俺もレベル72だ、伯爵を倒したときに一気に22上がったのが
大きかったな。
刀スキルは9だし、そろそろ魔力操作がレベル10になっても
いい頃なんだが。
アオイだから1時間で19層まで踏破できたが、普通なら戦闘だけで1日は
かかるな、薬品よし、武器よし。
20層に行ってみるか。
「アオイどうした?」
アオイが怯える相手か? でも階段消えちゃったしな
道理でみんな戻れない訳だ。
視線を合わせたら死ぬ系統の魔物で強敵は困るな?
「どなたか居ませんか?」
居ても返事しないだろう? 俺も動揺してるのか?
まずどこかで待機する、魔法を撃ち込み続ける
どちらも決めてにかけるな、そもそも相手の数がわからない。
こんな小部屋に宝箱ですか?
確実にトラップですね、欲は身を滅ぼすといいますし
敵がトラップを用意するなら我慢比べだな。
「アオイ、取れたての薬草だ」
俺はご飯でも炊いてゆっくり待ちますか。
もう1週間経ったか? 魔力操作の練習だけでは暇が潰れんな
アニメでも見るか?
「……奏」
いい夢だったな、アニメを連続で見ると、たまに夢にでてくるのは
俺的にはご褒美だな。
宝箱はすぐ横にあるな、誰かが移動させたのか?
アオイのキック力をもってしても無理となると、ミミックか?
開けなければ大丈夫だろう。
10日経ったか、陛下の新年会に行かないと不味いな、でも探したけど出口
ないしな、再来年の新年会に出ればいいか?
「こんにちは、冒険者の方ですか?」
誰だろう、この人はソロでここの攻略に来たバカか、俺以外にも居たのか?
「こんにちはカズマと言います、商人をやってます」
「宝箱がありますが、開けないのですか?」
「開けたければどうぞ、私は中身はいらないので」
何か入っているのか? ミミックで死の魔法を使ってくるようなヤツは
お断りだが。
開けないのかな、魔力操作の続きでもするか?
「ここの宝箱の中身は不死の薬があると言われていますよ」
「不死になったら、50年くらいはいいですが、退屈で死にたくなって
しまいますよ、寿命があるから気楽に生きられるんじゃないですか?」
「売れば凄いお金になるのではありませんか?」
「お金も赤マグロのステーキを死ぬまで食べられる程度はありますので」
「王に献上すれば貴族になれるのでは?」
「贅沢な庶民という身分が俺には一番合ってますよ」
金か、昔は300万程度稼いで、経費と食費を抜くと
残るのは50万程度だったな、そこからアニメのディスクとか買ってたから
ほとんど残らなかったな。
29才で貯金70万というのは、かなり危なかったな
転生に感謝しないと。
「地位も金も永遠の命も欲しがらないとは変わった方ですね?」
「そうですか、これでも苦労はしてたんですよ」
チョコでも食べて寝るか、寝る前だとビター系がいいか?
兵士にも緊急用に、持たせるのもいいかもしれないな。
「それは、なんじゃ?」
「チョコレートと言って、甘いお菓子ですが」
「われも所望じゃ?」
ずいぶん、口調が変わる人だな、もう気が触れたか?
「どうぞ。食べ終わってすぐに、このブランデーを飲んでみて下さい」
チョコ4個を一気に食べますか?
「これは素晴らしいぞ。うまくて程よい甘さ、それに酒が加わって絶妙な余韻
を残しおる」
「貴様、このチョコというのと酒を置いてゆけ!」
「欲しければ、いくらでもありますよ」
「アイテムボックス持ちか? よし決闘じゃ
我が勝ったら全て貰うぞ」
別に200個くらいあげてもいいんだが、虫歯は大丈夫か?
「そうですね、では将棋というゲームで勝負しましょう?」
「武器をもっておるではないか?」
「勝負というのは、受け手に選択する権利があるとか?」
「仕方ないの」
「金は強い駒ですが、攻め上がるとこういう風に取られますよ」
「我が親衛隊を取るとは」
「桂馬で王手飛車取りです」
「また我の負けか?」
「これで31敗ですね」
将棋を始めて3日か、だいぶ腕が上がってきたが
小学生の頃に神童と恐れられた俺の敵ではないな。
「仕方ないの、それでは約束通り
お主を地上へ戻してやろう」
「我を見て、恐怖するがいい!」
人では無いと思ったが20メートル程の白い蛇だったか。
これは御利益がありそうだ。
「金運が上がりますように、原価の千倍で商品が売れますように……」
「我を見ても驚くどころか、祈りを捧げるとは殊勝な心がけじゃ」
「褒美に刀というやつを一振り、恵んでやろう」
ここは地上なのか? 意識が途絶えたようだな
あそこに見えるのはエトワールか?
「気がついたか、では行くぞ」
「あなたも行くんですか?」
「我でもチョコと酒は造れんからな。しばらくの間
人の世で過ごすのも悪くないと思ってな」
外見は13才程度か? 鑑定様も鑑定不能か?
「名前はどうます?」
「我の真名は教えられんぞ、適当な名前で良い」
「しばらくというなら、カナデと言う名でどうですか?」
「カナデか変わった名前だが、いいだろう」
アニメのパクリで申し訳ないが、短い付き合いだろう。
「どこで暮らすんですか?」
「お主と一緒に決まっておろう、チョコとあの酒が手に入らなければ
意味がないからな」
部屋は空いてるし、御利益に期待してしばらく預かるか。
「帰ったぞ」
「旦那様、みなさん捜索隊を組んで
探しておりましたよ、お怪我はないようでなによりです」
「それは悪かったな、今日から居候でうちに泊まるカナデだ
適当に相手してやってくれ」
「世話になるぞ、ほんのしばらくじゃ」
「カナデ、うちで暮らすなら行儀良くしろよ」
「我に指図するのか?」
「チョコと酒は高いが、商会でも売っている
金を渡すから、宿暮らしで自分で買って食べてもいいんだぞ」
「宿はずいぶん昔に泊まったが好きになれぬ、ここに居る間は言う事は
聞いてやろう」
さて俺が法を破る訳にはいかないし、領民君を申請するか?
「ご主人さま、お帰りになられたと聞き安心しました」
「心配かけたようだな、これからは気をつけるよ」
「3日後には王都へ出発ですので、お戻りになられてよかったです」
もう新年会か、カリーナ様はどうなったかな?
352億7千万




