第六十一話:ついに結婚
人の縁は不思議な物で、小さな出来事からも出会ったり別れたりと
色々あります、これも神の定めた運命に導かれた物なのでしょうか?
☆
俺は個人の意思は他人の言葉より、遥かに強いと信じるが
いい話があれば、それに乗ろうとする人間は尽きないようだ。
王国へ攻め込んできた敵兵も追いやり、今は新兵の訓練だ。
親衛隊募集から2週間後から訓練を開始して、すでに10日が経ったが
残りは3千8百人。
「正規兵は訓練にも軽くついて行けますし問題ないですね」
「アレク、志願兵はどうだ?」
「先日の大規模な土砂災害で6百人ほど死亡しましたが
その他は順調です」
ハイムがシナリオを書いて、ロキとアレクの演出でユミル近郊の山で
土砂崩れを起こして、サラを利用しようとしていた輩の殲滅は完了だ。
訓練で挫折するようなやつは、この結果を知れば諦めるか逃げ出すかの
どちらかを選ぶだろう。
「リン、サラ親衛隊は結成できない事は伝えたのか?」
「はい、それを了承した者で残り3千8百です」
「そうだな、各連隊に1個大隊を任せよう。指揮官が見つかれば連隊にする」
これで対外的にも1万近く新規に雇ったと映るだろう
邪魔者も排除できたし、あとは他国の影という存在か。
さてアニタちゃん会いに行って癒やされるか?
「ご主人さま、申し訳ありません」
ジャンピング土下座ですか? 土下座自体あるのか?
「サラどうした? 罪人でも匿っていたのか?」
「……実は先日王都へ行った際に婚約話を勧められまして
断ったのですが、手紙で相手が居るのかと執拗に聞いてくるので」
「それでどうした?」
「ご主人さまと婚約していると、嘘を書いて送ってしまいました」
「そんな事か。俺は人気がないよだから別に誰に何と思われようと
気にしないぞ」
ローラの存在に気がついたかと思ったぜ。
「それで宰相閣下から、当主の変更届を出すように通達が参りまして」
名義だけでもミラが当主か? 大丈夫なのか?
「ミラが当主になるのが不安なのはわかるが、問題ないだろう?」
「もう一通書面がありまして、それにはダテ子爵家の断絶届けと……」
「サラどうして、俺の家が断絶するんだ?」
アルトハイムさんの一緒に支えようというのは虚偽だったのか?
誰だ新しい宰相は?
「……申し訳ありません」
「どこかの有力な派閥の貴族の恨みでも買ったんだろう。仕方ないさ」
俺も死なないだけ、サラの父君よりまだ増しと思うか
また商人からやり直しか、次はガリア大陸で商売でも始めるか?
「書面には、ご主人さまは私の旦那様として、ミッターマイヤー家の
新当主としてエトワールを治めよとあります」
どのように手紙に書くとそうなるのか不思議だが俺がサラと結婚という話に
なったのか? ありかも知れないな。
「そうなったのか? とにかくよろしく頼む」
「不甲斐ない身ですが、これからよろしくお願いいたします」
いつの間に、サラが妻になるとはな、誰だシナリオを書いたのは?
伊達の名前にそれほど未練はないが、苗字が変わるとは思わなかったな。
「子爵、お話は終わりましたでしょうか?」
「フレイヤか、聞いていたのか?」
「ここに居る者はほとんど聞いていました、おめでとう御座います」
「「おめでとう御座います」」
「早速ですが、色々と手続きがございます」
「ミッターマイヤー家と縁組してサラ様の夫となる事、次に
ミッターマイヤー家の当主になる事、陛下にエトワールの領主として認可して
頂く手続き、ダテ家を断絶する手続きとなり、その間は公務が止まります」
「反対する者はいませんので、申し訳ありませんが当主になる所までは
すぐに済ませて頂き、領主の認可手続きに入って頂きたいのですが」
「それはサラに悪くないか?」
「先にダテ家の断絶が決まったら一大事でございます、サラ様の気持ちもわか
りますが、公務が止まると言う事は軍も動かせませんし、文書の決済も
できません」
告白する時間もないと言う事か、こんな物なのか、貴族というのは?
「サラがいいなら、進めてもいいが?」
「私はご主人さまに全て従います」
「ではこの書類を持って王都で手続きを行ってきて下さい
全て記入済みなので、決済を頂くだけです」
「事前に用意してあったのか?」
「サラ様が子爵になった時に、何通かご用意しておきました」
ほんとに手際がいいな、フレイヤは。
「フレイヤ、呼びましたか?」
「ヒルダ、ダテ子爵とサラ様が結婚する事になったので、ここで儀式を
大至急お願いします」
「兄様とサラちゃんが?」
「では行きます。豊穣神の名において、カズマ・ダテとサラ・ミッターマイヤ
ーの婚姻をここに認める。以上です」
「ヒルダ、今ので終わりなのか!?」
「忙しい農民たちは神官の立ち会いも無しですので、これでも正式な式です」
「では王都へお願いします、先方も用意はできてると思うので
書類の決済を止めて、お待ちしています」
「ご主人さま、参りましょう」
「そうだな」
アオイとアカネのコンビは最強だな、王都まで1時間かからないか。
「サラ、よろしく頼むよ」
「私の方こそ、末永くお慕い申し上げます」
ここで上手く口説けないとは、俺もダメなやつだな。
「アルトハイムさんに面会希望したら待たされるし、役場でいいか?」
「はい」
「すいません、ミッターマイヤー家の者だが、手続きをお願いしたい?」
「縁組と当主交代と領主の認可と断絶手続きですか、エトワールの領主様が
随分、急な手続きですね」
「少々お待ち下さい」
やはり4つの手続きを一度というのは強引だよな、待たされるか?
「おまたせしました、こちらがミッターマイヤー家の相続手続き書類
と領主の認可証です、断絶の手続きは今日中にしておきますので
明日以降はダテ家のサインの入った書類は偽造文書になります」
「随分早いですね?」
「すでに宰相閣下の指示書と陛下の認可証がありましたので」
「明日以降はミッターマイヤー家の家紋と印章をお使い下さい
以上で手続きは終わりです、ご質問はおありですか?」
「サラ何かあるか?」
「大丈夫です」
「こちらが、カズマ・ミッターマイヤー子爵の新しい貴族証になります」
呼ばれてもピンと来ないな。
「ありがとう。では失礼します」
なんか書類上は夫婦になったが実感が湧かないな?
「とりあえず帰ろうか、みんな待ってるし」
「はい」
☆
アオイで帰還すると本当にみんな待ってやがった。
「子爵、早速ですが連隊長の任命書から、サインの書き直しを
お願いします」
「わかっったよ」
「それから王都へ送る書類と人事関連に軍の決済書類、内政の決済書類……」
内政官の士気は高かったな、夜通しでサインさせられるとは
向こうは書類作りからやってるんだから、文句は言えないが。
あらかた終わったか?
「サラは仕事は終わったか?」
「はい、あと少しで終わります」
「そうか、一応けじめをつけるためにだな……」
「これを受け取ってくれないか?」
「……これはダイヤの指輪ですか?」
「結婚式が出来なかったお詫びだ、気に入らなかったらつけなくてもいいぞ」
「ありがとうございます、大事にしますね!」
本当ならトパーズあたりだろうが
そんなもんカートに入れたことないからな。
精神的に疲れたな、今日は寝てしまうか?
☆
もう朝か、今日はドーラが来る前に起きられたな。
「みんな、おはよう」
「ご主人、お姉ちゃんと結婚する事になったそうですね
これでミラの兄さんですか?」
「ミラはおこづかいが金貨3枚分、減ってしまうな?」
「なんでですか?」
「もうサラには、王国から給金は出ないからな」
「ご免なさいミラ、今まで頂いた給金の半分を渡すわ」
「そうか、お金持ちのミラにはもうおこずかいは要らないな」
「半分って、いくらあるんですか?」
食いついてきたな。
「ここで賢いミラに選ぶチャンスをあげよう、今まで通りの額をもらうか
ここでサラから半分もらって、給金のみで生活するかだ」
「ハンナ、紅茶をもらえるか?」
「はい」
「俺が紅茶を飲み終わるまでに決めてくれ」
「今まで通りの方がいい気がします」
「わかった、サラから貰っていた3枚分を俺が払ってやろう
賢いミラにはこづかいを増やして、毎月15枚にしよう」
「やったです、これで毎月金貨22枚です」
一応、妹になった訳だし、この位はやらないとな。
書類が山のように積まれているとは?
「いったい、フレイヤはいつ寝てるんだ?」
「子爵、内政官の増員をお願いできないでしょうか?」
「どの程度だ?」
「5百人程」
「3百人なら構わないぞ」
「ありがとうございます、先日の兵の募集の際に、優秀な人物が結構
居たので、早速雇います」
「クララが子爵に報告したい事があるそうです」」
港は拡張工事中か、商会も市民も金があるから
結構投資してくれたようだ。
「クララさん、お呼びとか?」
「カズマ君、いい所に来てくれたわ」
「マグロンの試験航海が終わったので、報告書をまとめておいたわ」
「どんな乗り心地でした?」
「速さは軍艦としても問題ないし、軽装の兵士なら200人は乗れるわね
それに艦首の衝角の製造をを鍛冶師に頼んだのが良かったわ」
「これで魔法師が敵と交戦中に接舷攻撃がスムーズに出来るわ」
「速度は最高でどの程度出ますか?」
「マグロンの最高速度は驚異の時速35キロで、速度が最高速になった状態で
『エアハルテン』の魔法でかければ、減速海域までは全速運航が可能ね」
通りでアレク達は速いと思ったが、一度速度に乗れば持続できるのか?
宇宙船仕様だな、減速に失敗すれば海の藻屑のようだが。
「では本格的に建造に入って下さい」
「そうね、100隻くらいまでは労働力の豊富な冬の間に一気に
作ってしまうわ」
配当金を払わないで済む、今回の港の拡張工事と船舶の製造の投資事業は
市民は金を家に置かないで済み、こちらは金を集められる上に信用も上がる
これで冬の間も住民にも仕事を供給できるな。
しかし俺が生活する地域では、ダテ子爵と呼ぶ人間はいなかったんだな?
朝も冷え込んできたな、コタツは作れない粅かな?
「子爵、王都から連絡です。アラン伯の救援に迎えとの事です」
「クレタに攻め込まれたのか?」
「違います、アラン伯がトーラスに侵攻した模様です」
「もうすぐ新年だというのに侵攻作戦か?」
「今回、アラン伯は戦功が無かったので、焦っての出兵かと存じます」
「クレタ防衛も重要な任務のはずだが?」
「価値観の違いとしか、申し上げられませんね」
新年になれば、旧公国領の領地配分があるので、焦ったか?
「リン、すぐにどれくらい集まる?」
「すでに休暇に入っているので8千集まればいいほうかと」
「リンとシャルとリリーナの3名で行くぞ、魔法師中心の編成だ」
「「はい」」
☆
かなりやられているな。
「リンどんな感じだ?」
「敵が6万以上でアラン伯が2万といった所ですね」
「もう夕方ですので、決戦は明日でしょう?
明日は朝日と共に奇襲をかけて、撤退の手助けをするのが良いかと」
「そうだな、我ら5千が加わっても戦局に変化はないな」
「シャル、アラン伯はどうだった?」
「逃げるは武人の恥、援軍無用と言っておいでです」
「では騎馬部隊で遠距離から我らが攻撃を加えよう
我らの勝手な戦いだ」
「状況が理解できている兵なら、そのチャンスに死に物狂いで逃げるだろう」
敵はゆっくり朝食ですか?
「馬が逃げればいい、敵が寄ってきたら距離を取れよ」
「攻撃開始だ!」
「【アクアフラッシュ】12連」
「「「【ウインドカッター】」」」
俺たち5千の攻撃が朝食を用意中の敵に降りかかる
1時間で反撃に転じてきたか、馬を狙いながら
こちらも後退だ。
「みんな魔法の届くぎりぎりまで離れろ!」
数が少ないので、敵の先陣の騎馬部隊以外に攻撃をかける余裕がない
開始から2時間だ、敵の馬は1万は逃げたな
回収するのに2日はかかるだろう。
「撤退するぞ!」
「「「はい」」」
「どうだリン?」
「はい、アラン伯の部隊のほとんどは逃げたようです」
「我々もエトワールまで一気に逃げよう」
1人で10万とか相手にしてるが、テテ抜きだと10倍相手でも
ぎりぎりの戦いを強いられるな。
俺たちは5千で6万の足を止めたんだ、あとはアラン伯次第だな。
352億8千万




