第五話:現状把握と初めての商談
お金は天下の回りもの、まずは俺自身の天下がこの街なのか、この国なのか
それともこの大陸なのか、それを定めなければならない。
☆
15才の1人の少年としては、生きていく指針を示さなければ
死を待つだけの存在になってしまうだろう。
後ろ盾無し、物価が日本の半分程度とみても、21万では2か月程度
で無くなるだろう、どうやらポーション類がこの世界にも存在するようなので
怪我程度は何とかなりそうだが、病気は微妙である。
権力、名声、富、この3つの中の一つでもあれば、後ろ盾を得る事が可能
かもしれないが、これらをもってるのは貴族や大商会だ、いきなり国会議員や
1部上場企業の後ろ盾を得るのは無理だろう。
自分の見た目は細身のサッカー選手程度の筋肉と高身長で体重は60キロ位か
顔は普通なのが残念ではあるが、目立つよりはいいだろう。
「女将さん、朝食を頂けますか?」
「今日は、肉団子入り具沢山のスープとサラダにパンよ」
「美味しそうですね」
夏に熱々のスープときたか、しかし体力をつけておかないとな。
こちらは無農薬の食材に水がとても美味しいから、食事には満足だ。
街はいい加減都市と言いたいが人口がわからん、街の人口の2割位が徴兵人口
らしく、人口の繊細はギルドの幹部か貴族しか知らない機密に該当するようだ。
ここのギルドは第3支部とあったから、この街ミーナの人口は王都が一番
として、3番か4番目位ではないかと思う。
夜は人通りが少ないが、朝が早いので仕方ないとして、昼間は東京と比べれば交
通量は激減だが、、歩行者の数なら品川駅前位はいるだろう
肩リスで計測した結果、街の長さが6キロ程度、幅が5キロ程度だから
俺のようなよそ者が住むには妥当な街かも知れない。
☆☆
とりあえず今朝、朝一番でみてきた市場の様子から荷箱通販で売れそうな物を
いくつか挙げると、砂糖、胡椒、紙、タオル、酒、菓子といった所か。
「何を売るかな? 目立たない物にしないと」
胡椒チートは無理で砂糖より安かった、商品の品数は豊富で、米もあったし大豆
もあったが醤油や味噌はなかったのが残念だ、機械類を魔道具と偽って売る
という方法もあるが、これは販路が一方的になるので、足がつくので却下。
売りにいくとすれば中規模の商会か活気のある小規模商会だが、とりあえず
潮風の満腹亭の店主の先代から付き合いがあるという、アルト商会へ行って
みるか?
この宿の主人を見かけないと思ったら女将さんの旦那は板場にはりつき、女将さ
んと娘さんの2人でお客の相手をしているようだ。
おやじの名前がダン、こいつの料理スキルはなんとレベル6、女将さんはアルマ
算術スキルがレベル5、娘さんはアニタ12才で算術スキルがレベル3と
かなりの戦力である、ちなみにスキルは使い込まないとレベルが上昇しない。
とりあえず、商品を注文してみないとな?
肩リスの尻尾をタッチすると、荷箱通販画面が表示されるので、そこから注文
商品は注文確定後に通販ボタンを押すと、肩リスの周辺の尻尾の位置を起点に
北側に商品が陳列される、あの女神には容量という概念は無いらしい。
大きさに悩む必要はなくなった、広い場所と残高さえあればある程度の
商品の取り出しが可能だ。
砂糖500g、胡椒200g、紙100枚、タオルを各100セット購入
紙はコピー用紙、タオルは赤、青、灰、茶、緑の5色セットを選ぶ。
合計して17万飛んで500円、食品や雑貨の多くはバイクで
帰宅中にスーパーでセール品を買いあさったり、特売店で仕事の待機時間に
買いあさったりしたので、荷箱通販の2割程度の商品が中古扱い品になる。
しかしこちらの商品は新品を荷箱に入れて登録して、半額の商品として
購入出来るようになったが、新しく通販で購入した物は実験の為
試しに荷箱に入れた事のない銘柄の缶ビールを入れてみたが半額
にはならなかった。
どうやら日本にいたときに荷箱に入れた物だけが荷箱通販の
半額適用品になるらしい。
食品、コピー用紙、タオル等は問題なく半額になったので、8万5千250円だ
金貨は昨日すでにタララ預金の預け入れで10万の価値が
あるのを確認済なので、残金は小金貨1枚を残して預金してある。
ビールを飲みつつ、ウイスキーとウオッカを各10本、お菓子は安めを中心
に20種類10個ずつ購入、これで半額特価で9万6千円、残高はビール代
含めて21250円+小金貨1枚、食品の再包装に2時間以上取られたが
無事終了してアルト商会へ出発。
「お出かけですか?」
「はい、ご紹介頂いたアルト商会へ行ってきます」
「お気をつけて」
☆☆
潮風の満腹亭は南よりにありアルト商会は西よりにあるので
ショートカットすればいいんだが、どうやら南西地区はスラム街が外側にあり
あまり近寄らないようリス耳のお姉さんに言われている。
北地区は領主様を含めた富裕層が、東地区は生産職の方々や冒険者ギルド等が
あり門からでてすぐに王都へ続く街道に出る。
西地区はこの街から10キロ程度離れた港からの水揚げがあり俺が朝行った
市場もここにある、南地区は宿屋、小規模商店、住宅エリアとなっている。
南西の一角と壁の外側がスラム街となっているらしい、武器は無いし
魔法は実戦経験無し、時間操作があるが不意打ちを食らえば成す術がない。
☆☆
一度中央広場経由でアルト商会へ、昼を少し過ぎた時間だ、南欧当たり
ならシェスタと洒落込み昼寝をしたい熱気の中、大柄な男性をを中心に倉庫
付近に肉体労働者らしき人が30人程度、せっせと働いている。
とりあえずダンさんに書いてもらった紹介状を30代位の男性に渡して
気長に玄関の隅で待機だ、待つこと20分程で大学生程度の人物がぼやきながら
やってきた。
「ダンさんの宿屋に宿泊している行商人らしいが、うちに何を売りに来たんだ?」
「はい、潮風の満腹亭のダン様がこちらとお取引があるという事でお願いして
紹介状を書いて頂きました。長期保存可能な調味料と高級和紙と私の村で
流行っていた色付きタオル、それに強いお酒と甘味を持参しました」
「ほう、行商人にしてはなかなか手広いな」
「しかし今は忙しい。明後日の夕方なら時間を取ってやろう、出直してこい」
仕方ないな、この態度じゃ他の店に行くかギルドに行った方がマシか。
「では失礼します、こちらはミルクチョコレートという甘い食品です、よければ
おひとつサンプルにどうぞ」
帰ろうと商会の玄関を出ようとした所、40代と思われる男性が現れ呼び止め
られた。
「バカ息子が申し訳ない、アルト商会の店主のアルトハイムと申します」
いざなわれるように中に進み応接室のような場所へ連行されてしまった。
「さて、先ほどから見ていましたが、そのチョコとかいうのを愚息がサンプルで
頂いたようなので、ここで食べてもよろしいですかな?」
「どうぞ、お口に合わないかもしれませんが、甘いのが苦手でなければ」
「なかなかですな。これはかなり甘いですが美味ですよ」
「歯ごたえ、食感、甘さに加えて乳製品が混じっているようですな」
☆☆
10種類程食べた後に、おもむろに語り始めた。
「カズマ様のお持ちの商品をまとめて購入させていただきたく存じます」
「全部ですか、かなりの量ですし、お酒はたぶんご主人の飲んだ事の無い味かと
思われますが、よろしいので?」
「これらの菓子の味と見せていただいた砂糖、胡椒、紙、タオルの品質を見れば
信用できる商人の方と判断いたしました。ぜひこれ以降もお付き合いを願いたい」
まあアルト商会の活気と満腹亭のような宿屋と懇意にしている姿勢を考慮すれば
妥当だろう、愚息殿の代になったら終わると思うが。
「ではここで商品を出すと机に傷がつきそうなので、倉庫のような物があるなら
そちらで出したいと思います。祖父が現役時代に使用していた魔法の鞄があるので
かなりの量になります」
「では私のコレクション部屋にいきましょう、そこならここより広いですし」
移動するとワインを中心に酒類が並べられていた、魔道具で部屋を冷やしている
らしく、かなり部屋の室温が下がっている。
そこに砂糖、胡椒、お菓子類を出して
少し離れたテーブルの上にタオルと紙と酒を置いた。
「では商談ですが、砂糖100g小金貨1枚と銀貨4枚、胡椒が小金貨1枚
紙が100枚で小金貨5枚、お菓子はアメと呼ばれる物が一袋小金貨7枚
チョコレートと呼ばれた物が金貨1枚、酒類はひと瓶金貨4枚、タオルが5組
で小金貨5枚で如何ですか?」
……ちょっとあまりの高額に焦ったが、全部捌けるなら、この商談に乗るか。
「はい、わざわざお忙しい中行商人見習いの私の商品を吟味していただき
こちらこそ光栄でございます。ご主人の言い値ですべてお売りします」
「それはこちらとしてもありがたい。てっきりここから値上げ
の商談に入るかと思っておりましたが、欲のない事ですな?」
「いえいえ、こちらはまだ見習いの状態、お付き合いいただける商会を得られた
事が今回の最大の利益でございます」
……ちょっと謙遜してみて様子を伺うが? ポーカフェイスのスキルでも
持っているのか? 感情が顔や態度に出ない。
「それでは少々お待ちください。只今代金をお持ちします」
そして1分程で金貨の入った袋を持ってきた、計算機でもあるのかと疑問に
おもってしまう。
「ではこちらが取引明細になります、砂糖が金貨70枚、胡椒が金貨20枚
和紙が金貨50枚、菓子類が金貨16枚、一つはサンプルとの事なので
酒類が金貨80枚、タオルが金貨50枚で合計金貨286枚になります」
「星金貨をご用意しましょうか?」
「いえできれば普通の金貨でお願いします!」
「では金貨をお確かめください」
笑いながら2860万渡してきたよ。
「来月あたりにまた仕入れに行ってまいりますので、その前に
商品のご感想を頂ければ幸いでございます」
「では失礼します」
さあ逃げよう、見た目はゆっくりと玄関に移動し、そこで一度
会釈をして街の中心に向けて足早に歩いていく(もちろん金貨は収納済)
181000円が2860万か100倍超えたな、あまり頻繁には取引
できないのが残念だ、残高28631250円。
金貨286枚、小金貨1枚、タララ預金21250円也。
中央広場で露店を冷かしながら、商品を詰める為の袋を各種50個程度購入。
満腹亭に戻ってきたが、夕方は満腹亭も夕食のラッシュだ
食堂で夕食を食べて部屋に戻り、今日の自分の行動の確認と反省点を考える
朝は2か月程度の生活費しかなかったはずだが、今は3千万近い預金がある。
時間はまだ7時だが、炎の魔道具のランプのお陰で部屋は明るいが
PCもTVも無いので非常に退屈だ、アニメが観たい、ネットでいろいろ検索したい
欲求不満の状態だが、まだ目立った行動は慎むべきだろう。
そしておもむろに夜の街へ飛び出すのであった。