第五十二話:領主の給料
自分が人からどう見られているのかは判らないが
信念を曲げずに生きていけたら最良です。
☆
トーラス王国のナキを焼いて、帰国すると住民からは大きな
歓声で迎えられた、うちの主要メンバーは微妙な笑顔で対応しているな
今回の戦争の過程が納得できないのかも知れない。
俺は部下が1人殺される位なら相手を千人殺しても問題ないと思ってるし
仲間が殺されたら、全てを焼き尽くしてもいいと思っている。
「アニタちゃん、お客さんは良くしてくれてる?」
「うん、カズマお兄ちゃん、この街へ来る人はみんな親切だよ!」
アニタスペシャルを食べながらの雑談は至福だな
朝、早めに起きた時はこうして満福亭で食事をするのが最近のお気に入りだ。
「ロキ、商業ギルドの方は上手くいってるか?」
「はい、エトワールに実力行使を目論む輩は事故を装って、排除しております」
「調査部で使えそうなのは何人位集まった?」
「外へ放っているのが100人程度、養成中が80人といった所です」
外聞を気にして所属は調査部だが、やってる事はスパイそのものだ。
「ハイムと一部の部下がエトワールを監視してくれるので、外への活動に
専念できます」
「引き続き頼む、ロキとハイム以外には、できない仕事だからな」
「承知しております」
ギルドのバカが面会に来てから、ロキにも組織的に動き始めて
もらっているが、この2人は非常に役に立つ。
「アレク、クレタの調査報告書は出来たか?」
「皆さんにお渡しした資料が、この3週間の調査の結果です」
「公式では有力者30人の処刑と反乱を起こした市民5百人と
兵士1万人の奴隷落ちか」
「市民は半信半疑ですが、実際は市民4千人以上が奴隷落ちで、兵士は指揮官は
殺害、兵士で実際に他の街へ奴隷として出されたのは4千人以下です」
「これ以上は不明です。アラン伯と側近しかわからないと思われます」
「よく調べてくれた、同士討ちで王国兵が2割減少とあるが
同士討ちではなく、敵との戦闘で2割減少が正しい」
「失礼しました、訂正しておきます」
アラン伯はナキへ侵攻して、復興中の部隊と住民を殲滅したとあるな
これで敵は大規模侵攻か、侵攻自体を諦めるかの二択だな。
☆
「ご主人、服を買いに行くんですよね。ミラもお供します」
「今日はフランの服を買いに行くんだぞ」
「ミラちゃんも、買ってもらえばいいわ」
「やったです、お姉ちゃんケチだから沢山買ってくれないんですよ」
「ケチは言いすぎだぞ」
「でも服はもちろん、家具も地味なやつが多いです」
「家具はもう揃ったのか?」
「お姉ちゃんは揃ったと言ってました」
そろそろ引っ越すか。
ペコ商会の周辺はまるで市場にように、人が集まっているな。
「カズマ、ここで買うのか?」
「そうだな、今回は奮発して大商会で購入してやろう」
「少しは、話がわかるようになったではないか」
店内は生鮮食料品と武器や防具以外は何でもありのスーパーを超えて
デパートだな、特価品を各売り場に置いて、割安感をだして、限定品は高価格だ。
「ご主人、限定品を買うには『会員』になる必要があると言われた」
買い占め防止の対策か。
「わかった、みんなで会員になろう」
会員はゴールドとシルバーがあり、エトワールの領民と貴族だけゴールドに
なれるという優越感を刺激する仕組みだ、ゴールドが年会費に金貨1枚で
シルバーが小金貨1枚だ。
「仕方ない、フラン領民証を出せ、ミラは貴族証だ」
「私も領民証でいいです」
「姫さま気分を味わえなくなるぞ」
「みんなと一緒がいいです」
「すいません、ゴールド会員の新規登録を3名、お願いします」
「説明はいりますか?」
「知り合いに聞いているので、大丈夫です」
「それでは、こちらの石に手を当てて頂き、お時間は30分程頂きます」
「ミラが最初に登録します」
「ではお願いします、金貨3枚ですね」
「2人は服を選ぶんだろう、見てきていいぞ」
「ご主人、ちょっと足りないかも知れないです」
「ミラは今、月にいくらもらってるんだ?」
「給金が7枚に、お姉ちゃんから3枚です」
「俺からの小遣い合わせて金貨20枚か、少しは節約しろ」
「今回だけ払ってやろう」
「カズマ、わたしは制限なしでいいんだな?」
「その分、しっかり働けよ」
これだけあると、見てるだけでも飽きないな、シュトラウスも売り出して
いるのか? 聞くとたいして感じないが、値札に星金貨5枚と書かれると
すごい高級感が出るな、本当に売れてるのか?
「カズマ、良い買い物ができたわ、これがカードだそうだ」
「もう買い終わったのか?」
「ミラが、『今日しかない』と目の色を変えて、買っていたが
そろそろ終わるのではないか?」
「お客様、代金の方をよろしいでしょうか?」
「お願いします」
「お嬢様方の分を合わせると、星金貨1枚と金貨40枚になります」
こいつら、金の使い方をしっかり教え込まないと奴隷落ちするぞ。
よく買ったな、これで注文した分は別にあるのか。
「あれは、母さま?」
「おるわけなかろう」
「痛い!」
フランを一発殴ってやった、感のいいやつが居たらどうするんだ?
確かにローラさん面影はあるな、個人的にはローラさんより好みだが。
「黒をこんなに沢山みつけるとは、俺たちも運がいいな!」
「商会で金を貰って、なんか良いもん食べようぜ」
「大人が3人に、子供が3人だから、全部で銀貨20枚くらいかな?」
「先生が言ってたでしょう、大人が銀貨7枚で子供が銀貨3枚だって」
「この姉ちゃん達は、子供なのか?」
「商会の人に聞いてみようよ」
フレイヤの奴、子供にも流民狩りさせていたのか?
「ご主人、あの親子が可愛そうです、助けてあげて下さい」
「ミラに免じて、街から追い出すだけにしておいてやるか」
「そこの働き者の少年?」
「おれのことか?」
「そうだ、そこの6人を合わせて金貨10枚で引き取ろう」
「金貨ってなんだ?」
「先生が言ってたじゃない、銀貨より沢山食べ物が買えるのよ!」
大丈夫か学校は、知識にバラつきがあるな、高速で銀貨に変換して袋に。
「少年、両手を大きく広げてみろ」
「こうか?」
「ほれ、銀貨で1000枚入ってるぞ、落とすなよ」
「ねえ、中を見てみましょう!」
「すげえ、沢山銀貨があるぞ」
「ほんどだ」
「あんちゃん、ありがとな」
「「「ありがと」」」
元気のいいやつらだ、しかし子供数人に捕まるとはな。
「みなさん大丈夫ですか? 私はミラと言って、これでも偉いから皆さんを
街から解放する事ができますよ」
「カズマ、この者たちは腹が減っているのではないか?」
「そうなんですか?」
「とりあえず、先日、発見したステーキハウスに行こうではないか」
「俺たちも、まだだし一緒に食べに行きませんか、おごりますよ」
「……ありがとございます」
一応はサラの補佐だから偉いのだが、役職だけのお飾りだな。
「ここがステーキハウスか、広いな?」
「主人、今日は大きめのテーブルで頼む」
「フランちゃん、いらっしゃい!」
「みな、座るが良い」
「私のおすすめでいいか?」
「それでいいぞ」
「ではお勧めのCセットのDを9人前で、サラダは5人前でいいだろう」
「はいよ、ちょっと待っててな」
「(フラン、Dって何だ)」
「焼き方で上から5段階あってな、あまり焼かない方が美味しいのだ」
レアって感じか。
「ではお話を伺いましょうか?」
「カズマ、食事の前に苦労話などしては飯がまずくなるだろう」
「そういうもんか、では取り敢えず食べてからで」
「はいよお待ち、熱いぞ」
うあ、300グラムは軽くあるな、サラダは大盛りか、豪快だな。
「みんな遠慮せず、食べようぞ、冷めるとさすがに味が落ちるぞ?」
躊躇っていたが、13才の少女が食べ始めるとみんな一気に食べ始めた。
46才の男性に、29才と28才の女性と14才の少女が2人に13才
の合計6人か。
俺が半分程度食べると。
「主人、8人前追加じゃ!」
「みんな食べれるのか?」
「問題ないわ」
やっと食べ終わったか、食べごたえあったな、このサラダもなかなかいけるな。
「主人、更に5人前追加じゃ」
よく食べるな、お子様は最後の晩餐かも知れないし、いいだろう。
「凄く美味しかったです、豪華な食事をありがとうございました」
「「「ありがとうございました」」」
「食べたの、他人のおごりだと更に美味しく感じるぞ」
「さて腹も膨れたし、みなが何故、不法滞在しているか聞こうかの?」
「……私どもは王都で家族8人で飲食店を経営していたんですが
ノースフォールの戦いで娘の主人達は戦死、新王からは恩給も出ずに内乱に
巻き込まれ、税が払えずに、家族で逃げてまいりました」
陛下は王太子に味方した兵の家族も切り捨てたか
5万も奴隷が出るのも、納得の話だな。
「ミラのお小遣いの残りを上げます」
「無理じゃな、娘達は獣人ではないのか?」
獣人なのか、そうは見えないが? そう言えば見かけないな?
「わかるものには、すぐに見破られるからな」
「獣人だと、何か問題があるのか?」
「北部では大して問題はないが、南部では差別があるからの」
「まして、飲食店の経営は元手があっても無理があるな」
「職を変えればいいんじゃないのか?」
「どこかの領主殿の決めた規則では、不法滞在者は即刻立ち退くか
内政官が認める、安定した職に就くかの二択だな」
「確か、働かざるもの食うべからずだった様な気がするぞ」
この大食らいめ、俺に嫌味とはいい度胸だ。
「ミラ様、奴隷として、わたしを買って頂けないでしょうか?」
「「お母さん」」
「切羽詰まってるようだの、そこまで覚悟があるなら家族まとめて
家で雇ってやってもいいぞ」
「フラン、最初からそのつもりだったのか?」
「飯を食べて、目に輝きが戻ってきたようだし、やっていけるのではないか」
「カズマが奥方の体が目当てなら、話は別だがな?」
「……このわがまま娘が、さっきから好き勝手言うな!」
「わらわも、気をつけないとな」
「ミラ様、みんな頑張って働きますので、よろしくおねがいします」
「え、わたしですか?」
「ミラ様、それでは役場で登録手続きをしてきて下さいね」
「ご主人、みんなミラがするんですか?」
「お小遣い上げるんだろう、がんばってな」
「みんなも、どうせ住む所にも苦労してるのだろう、今日から屋敷に住めば良い」
「「「お世話になります」」」
「(ミラ、母さま似の人と一緒に暮らせて良かったな)」
奴隷を雇おうと思ったが、料理スキル7は期待できるし
加えて、美人さんだしいいだろう。
☆☆
仕事も最近は重要な案件はないな、前ならツーリングにでも行く所だが。
そう言えば俺って、小遣いやってるけど、領地を預かってから
給料もらってないな、社長も給料出るよな、役員報酬になるのか?
払う税金は同じだし、株主いないし、給料が妥当か。
その考えでいくと、経費で生活費の一部を立て替えてもらっていいよな。
「フレイヤいるか?」
「何かありましたか?」
「ちょっと聞きたいんだけど、俺の給金ってどうなってるんだ?」
「お金が無いなら、都合致しますが」
「ミラですら、金貨7枚もらってるだろう、だから無駄使いできる金が欲しい」
「それと、家を買ったので引っ越すから、屋敷の経費を出してくれ」
「普通、領主は金庫の金貨を適当に自分の懐に入れるのですが……」
「それだと、無駄使いできないな、フレイヤが金額を決めてくれ」
「私が決めるんですか? そうですね、では月に星金貨1枚で屋敷の経費は
こちらで決めて、サラに渡しておきます」
「わかった、その金額でお願いするよ」
幾らせしめてもいいのに、月に星金貨1枚とは、俺も優秀な領主だな。
給料も貰える事になったし、仕事に専念するか。
最近は入市税も右肩上がりだな、以前のように小金貨だったら
月に星金貨100枚以上なんだが。
「子爵、よろしいですか?」
「マリアか、どうだ?」
「今月の『星の盗賊団』の報告書を持ってきました」
「奴隷商を48件、商人を14件襲って、盗賊を4グループ殲滅か」
「まあまあの戦果だな、引き続き頑張ってくれ」
「……本当に襲って奪ったお金は、私どもで使ってしまって宜しいので?」
「問題ない、基本的に殺してないし、兵の士気は上がるし、治安は良くなる
加えて、兵士の護衛を雇う商人も増えるので、他の部隊の実入りも多くなる」
「一昨日はニケの部下に追われて、逃げるのが大変でした」
「ニケは真面目だからな、適当に相手してやってくれ」
「奴隷狩りに合った者はロキに、それ以外はペコ商会に引き渡してますが
ペコ商会からの代金だけで星金貨3枚を超えますが?」
「マリアの部下は運がいいな、できるだけ連隊内で均等に分けてくれ」
「わかりした。ではこれで失礼いたします」
奴隷商は奴隷と手持ちの半分、商人は手持ちの3割、盗賊は有り金全部か
最近は有名になってきたし、シャルやリンが乗り出さないようにしないとな。
さて4時半だし帰るか、残業が無いのは楽でいいな。
「「旦那様、おかえりなさいませ」」
「みんな、様になってきたな、家に人が居るのは悪くないな」
「アオイ達への餌やりはもう終わったか?」
「言いつけ通り、朝、昼と日が沈む前の3回、与えております」
「あいつらは夜になると、すぐに寝てしまうからな」
「家にいるのは?」
「フラン様だけです」
あいつは仕事がないからな、他は居残りか。
「……旦那様お帰りなさい」
「ドーラ、呼び方を教えたはずだぞ」
「はい、……お兄ちゃんおかえりなさい」
「その調子でな」
「フィーネとフローラか、仕事には慣れたか?」
「「はい、カズマ兄さん」」
「使ってない客間や部屋は掃除不要だ、疲れない程度に働けばいいぞ」
確か、フィーネとドーラが姉妹でハンナの娘でフローラはヘルガの娘
だったはずだ、父親がカールで元兵士だな。
「フラン、暇そうだな、お前も仕事するか?」
「仕事に就いては、イザという時に手伝ってやれんぞ」
「それもそうだな」
こいつは使い勝手がいいんだよな、表も裏の仕事も関係ないし
軍務、内政共に能力も問題ないからな、当分はこのままでいいか。
春蒔きの小麦の報告があったから、そろそろ5月か、恥を覚悟でドーラに
日にちを聞いたが、知らないと言われたし。
カレンダーは無いし、案外みんなも覚えてないのかも知れないな。
364億7千万と金貨70枚




