第四十九話:星の流星団
国は滅んでも人は生きるために集団を作らなければ生きていけない
きっとそれが国になるんだろう?
☆
自分の国が滅びた事を知らないであろう農地で作業する方々を
眺めながら、俺たちはアオイでゆっくり北へ進む。
「この辺はエルミールの領土になるのかな?」
「そんな事知りませんよ。来たことないし」
フランと成立しない言葉のキャッチボールをしながらダーナを目指す。
オノ伯の屋敷を見ようと思ったが、兵士が多くてとても近寄れなかった
特に見るべき街は無かったので旧ベリアス最北の街からアオイで1時間の
場所にあるダーナに来た、アオイは何も言わないと170キロ程度で
走るので、王都とエトワール程度の距離だと思う。
ダーナの街は以前とたいした変化はないようだ、支配者が代わっても
市民には大した問題ではないのか。
「おじさん。魚の塩焼きを2人前下さい」
「はいよ、大銅貨2枚だぞ」
食べながら街を歩く、これはサヨリか干してあるな、悪くない。
「景気はどうです? 新しい領主様に代わったとか?」
「特に変わりはないな、兵士は来てすぐ出ていったがな」
「そうだな、前みたいに他国の兵がいない分安定してるな」
「そうだな、肉の値段も下がったしな」
「酒もな!」
「それが一番だな。ハハハ」
酒場に活気があるという事はダリルさんは上手くやってるようだ
アオイの夜休憩が終わったら戻るか。
翌日の昼すぎにエトワールへ到着、アオイが100羽もいれば心強いのだが。
エトワールは平常運転だ、兵がいなくても治安がいいのは
市民の生活が安定してる証拠だろう。
「フレイヤ帰ったぞ」
「おかえりなさい」
「変わりないか?」
「子爵がお帰りという事は終わったんですね」
「そうだな。激戦だったがとりあえず勝ったな」
「とりあえずですか?」
「ベリアスはみんな強兵だったし、ガリアの技術力は俺達より上だったな」
「そうですか、私達も色々考えなければいけませんね」
あいつはいるかな?
「ここに居たか。キム検査の結果はどうだ?」
「カズマか。A級はその通りだが、S級というのは治りは速いが効果は大して
変わらんな、エリクサーは爺ちゃんに言わせると前に見たやつは病気にも効果が
あったらしが、これはダメだな」
「そうか、劣化品か」
「カズマ君、来てましたか? 戦争はどうなりました?」
「クララさん。戦争は終わったが、ガリアの船は千人乗りで速いときたよ」
「そうですか、うちも新造船の建造に入りましたが、まだ試行錯誤ですね」
「相手は200隻以上揃えられますからね、こちらも用心しないと」
「任せ下さい。現在カズマ君の新しい案を取り入れた新造船の設計図を
起こしている所です、これが完成すれば従来の船はただの的ですね」
「お願いしますよ」
スキルで何でもというのは嘘だったか、俺のスキルはどうだろうか?
そうそう留守にできないし、しばらく留守番だな。
「フラン、冒険者ギルドへ行って登録してきてくれ」
「えー、ギルドって嫌いなんですよ」
「良いから、行って来いこれは推薦状だ持ってけ」
☆
部下が優秀だとあまり仕事がないな、家探しでもするか。
「ヴァールハイトじゃないか、王都から戻ってたのか」
「子爵。今日はサラ様たちへの婚約話を預かってきたんですが」
「不在だったな。残念だな、どんな所から来てるんだ?」
「上は伯爵家。下は上位商会で18件ですね」
「人気者だな」
「サラ様は15才で子爵家当主ですからね。可愛いですし」
サラも婿取りか、さすがに貴族は早いな。
「俺にはないのか?」
「……すいません。話が来ませんね」
どうやら俺の人気がかなり低いらしいな。
☆
俺は今、ラインから帰ってきたシャルとヒルダと会っているが
二人の表情は暗い。
「兵がそんなにやられたのか?」
「違います。我々は全員騎馬で向かったので……」
「別に逃げ帰っても問題ないぞ」
「……着いた時は戦闘は始まってました」
「勝つには勝ったんですが」
「住民の男はほとんと殺されて、年配の女性も殺され」
「若い女は奴隷落ちです。我々は奴隷狩りに遭う女性の確保を試みましたが」
「逆に我が軍の女性兵が狙われ、逃げ帰る羽目になりました」
凄いな、住民は虐殺で、美人さんだけ奴隷落ちか?
「内容を報告書にまとめてきました」
「預かろう。疲れてるようだな、二人とも休んでくれ」
「コルトどう思う」
「酷い内容じゃな」
「暴動起こした腹いせに、皆殺しだからな」
降伏勧告無しで、アラン伯の2万と合わせて5万で街を攻撃し
暴動が起きたとでっち上げ、高く売れる女性のみ
奴隷落ちという暴挙に出たのか。
原因は候爵の溜め込んだ財産と女性の質の高さのようで、噂では
星金貨8万枚とか、本来は国庫へ収める物だが金を見て争奪戦となり
アラン伯は3千枚だけ要求し、国王直属部隊1万と共に
すぐに兵を引いたようだ。
他の諸侯が分配で揉めて、市民を虐殺して証拠を無くそうと
計画したらしい、諸侯軍2万で7万5千枚以上に、奴隷が8万人か。
「わしはシャルの報告書に少々、手を加えて提出しておく」
「あいつら、ここを通るんだよな。締め出すか?」
「10万も入れられんし、外で補給だけしとけばいいじゃろう」
「女奴隷はどうする? 家に籠もって隠れていただけのようだが?」
「選別したとあるし、いい女奴隷は安くても1人星金貨1枚にはなるからの」
「安くて星金貨8万枚、高ければ数倍か?」
この街の金庫を超えるか、女でボロ儲けとは個人的に許せんな。
「子爵。発言をお許し頂けないでしょうか?」
「フレイヤ、言いたい事があれば、気のする必要ないぞ」
「女性の捕虜を、こちらで確保できないかと」
「どうだろうな?」
「ここに着いてしまっては無理じゃな」
「着く前なら、何とかなるという事か?」
「最近は、この辺りも物騒じゃからな」
「盗賊か。襲われたことはあるが、襲ったことは無かったな」
「相手は友軍を襲うバカで烏合の衆じゃ。警戒心もないじゃろう」
「盗賊も悪くないな、白鴎を偵察に出しておいてくれ」
「参加したいバカは明日の朝5時に南地区の広場に集合だ」
「はい」
フレイヤはやる気みたいだし2百程度いれば、様になるか。
☆
どこの誰だ朝の5時に集合なんて、言ったバカは
昨日はバカな事言ってしまった、せめて9時にすべきだった、これも
時計が普及した弊害だな。
4時40分か、流石に早かったと思ったが。
「バカ共がいる、揃っていやがる」
「イダテンさん、星の流星団3千揃いました!」
「フレイヤ、随分集まったな」
「みんな乗り気ですよ」
俺は正体を隠す時は気に入った、イダテンを使っている。
「偵察では、街道を2日行った所で発見したとあるので」
「主力のラウス隊は一旦南へ出て敵を南から奇襲。西へ逃げる部隊を騎馬隊
で更に襲い、敵をユミル方面へ追い込みます」
「今回は、敵に正体がバレているシャルさんは、後から援軍と偽って
我々と戦ってもらいます」
「フレイヤに任せよう。俺は1人で動くので、存分にやってくれ」
「かしこまりました」
みんな乗り気のようだし、相手は運が無かったな、今度は狩られる番か。
☆
王都を目指す部隊に休憩中に紛れ込んだが、前に1万5千程度で後ろが5千弱か
捕虜は8万以上はいるな、どうやら内政官不足で奴隷に落としてないな
何と言っても財宝を一箇所に集めて警護しているのは褒めてやらねば。
「明日の夜にはエトワールだな」
「そうだな、たっぷり楽しんだ後に、王都で奴隷を売るぜ」
「もう我慢するのも辛いぜ」
「俺もだ。上玉が揃ってるからな」
「いい宿で楽しもうぜ」
「そうだな。上等なベッドに女と酒か、格別だな」
しかし捕虜の魔法スキルは結構高いな、なぜ言いなりになってんだ
よくわからんな、金貨だけ一時預かっておくか。
馬車で32台分か、どんだけ財宝集めてきたんだか、近寄って先程作った
アイテムボックスの『一時預かりフォルダー』に警護を装いながら近づき
2メートル位離れた馬上から金貨と銅貨を入れ替える。
やった事は無かったが、中身入れ替え作業は順調だ、用意した500万枚の
銅貨が星金貨や金貨などと入れ替わったはず、銅貨も混じってるな
街にある物を適当に詰め込んできたようだ。
タララ預金に入れれば金額が解るんだが、今は金額不明だ。
俺が作業中に攻撃か、もうフレイヤ達が来たのか、仕方ないので
馬で俺も慌てた振りをしながら捕虜の方へ移動。
「あれは最近、この近辺を荒らし回っている盗賊だ」
「盗賊だと、俺たち正規兵を相手に、いい度胸だ」
「みんな盗賊共を皆殺しだ」
「俺の女と金を奪う野郎は殺せ」
「俺に続けーー」
酔っ払っている割には割には初動が早いな、敵を1割り程度叩いて終わりの
予定だが、俺も援護しないと不味いな。
『アクアフラッシュ』は使えないし、混乱目的だから適当でいいか。
「【ウインドストーム】」
なかなか効果あるな5人程度は一度に倒せる。
「私は『星の流星団』のイダテンだ、捕虜を置いていけば
命だけは見逃してやろう」
「キサマは盗賊の一味か、みんな殺せ」
仕方ないな、寄せ集めだが執着心は凄まじい。
「受けてみよ、【ダークアロー】24連」
なんか凄まじいな闇属性の魔法は、当たるとほぼ即死か、対人戦では最強かも
知れない。
うちの部隊はラウス隊だ、追いつけないし近寄れば魔法隊の攻撃だ、
頭の中は大丈夫か、シュトラウスの部隊と戦ったことがないのか?
ラウス隊はその速さと魔法攻撃で敵を攻撃するが、数が10分の一なので
敵を崩せてもダメージ不足だ。
1時間程度戦って、千人程の負傷者を出したが混乱には陥らない
ラウス隊は後方の部隊に攻撃を集中しているが、今日は撤退すべきか
うちの騎馬隊も前方を塞ぐように展開しているが敵は
進路を変えないようだな、金の力は凄いな。
「女共、魔法で盗賊を殺せ、1割だけ奴隷に落とすのを勘弁してやる」
「やらなければ、お前たちも殺されるぞ」
これはやばい、俺たちが殲滅されていまう。
俺は馬でフレイヤたちの側まで行く。
「みんなやばい、捕虜が攻撃してくる。一旦撤退だ」
俺たちが態勢を整え、離れ始めると、女性たちが魔法を。
王国軍に向けて放ち始めた。
合わせて数万発の魔法は、態勢の崩れた王国軍を葬るには
十分過ぎる。
捕虜の女性達は自分たちの攻撃の成果が理解出来ないのか、戸惑って
いるようだが、いつ俺たちに向けて撃ってくるかわからない。
「フレイヤ退くぞ、あとはシャルに任せよう」
「はい」
俺たちはエトワールに向かって逃げ出す羽目になった、途中でシャルに簡単な
経緯だけ説明して後を任せてきた。
☆
「星の流星団は初戦敗退だな」
「あれはやばかった、下手したら俺たちが全滅だった」
「そんなに敵は凄かったんですか?」
「ロキか。敵じゃなくて、女性の方々の魔法が凄かったんだよ」
「たぶん、今まで実際に戦争で人を殺したことが無かったんじゃろう」
「そうですね、あれだけの使い手が揃っていれば
ラインは5万で囲んでも3ヶ月以上は持つでしょう」
「自分たちの力は自覚しただろう、ラインに戻るならよし。王都へ攻め込むと
いうなら、戦わねばならんな」
「助けるつもりが、今度は王国の敵ですか?」
「俺も3流の指揮官だと痛感したな、いきなり強力な力を持った人間は
何を仕出かすか想像できないからな」
「現在は王国の脅威にはなるまい。指揮官がいないようじゃし、物資もない
力だけあっても、ここは落ちんよ」
「シャルは面識があるようだから、任せよう」
☆
3日後の昼前にシャルとヒルダが戻ってきた。
「兄様、みんなを連れて戻ってきました」
「みんなと言うと?」
「全員で89889名で、一番上が35才で、下は子供となります」
「一時休憩の為かそれとも永住か、どちらじゃ?」
爺さんのいう通りだな、王都へ攻め上がる準備だったら目も当てられん。
「ここでの永住希望という事です」
「わしらと共に戦うと言うことでいいのじゃな?」
「兵士として参加してもいいというのは1万ほどで、残りは普通の市民として
暮らしたいそうです」
「わたしからも疑問を言えば、復讐はいいのかね?」
「ロキ、みんなも王国転覆を夢見た事を恥じています。大丈夫でしょう」
「なぜエトワールなんだ、王都でもそれこそ他の国でも問題ないぞ」
「兄様もみんなも、男の人達はなんで信用してくれないんです?」
ヒルダのこんなに必死な表情は初めて見るかも知れない
それだけ思い入れが強いのか?
「俺たちだけでガブリエルの兵を5万は倒しているからな」
「カズマさん、攻め込んだのは自分たちで、みんな恨みはもう無いと言って
います、私を信じて頂けないでしょうか?」
3日掛かったという事は話し合ったんだろうが、ここでシャルの言葉を無視
すると凝りを残すことになるし、一度だけ信じてみるか。
「わかった、受け入れよう、条件はフレイヤと決めてくれ」
「……その代表者2名をすでに連れてきています」
俺ってそんなに物分り良く無いんだが、意気込みを感じるな。
「通してくれるか、みんなで会ってみよう、俺だけじゃわからん」
シャルが合図すると美人さんが2人会議室に。
「お初にお目にかかります、リリーナと申します」
「私は、タチアナと申します」
リリーナさんは22才、タチアナさんは21才で王国兵が狂気するのも
理解できる超のつく美人さんだ、魔法スキルがレベル8ですよ
クール系美人と可愛い系ですね。
「シャルロッテの話では、エトワールに定住希望とありますが、いいんですね?」
「知り合いも多数この街には住んでいますし、王都は抵抗がありますので」
「わかりました。シャルが強く推薦した貴方方だ、歓迎しましょう
繊細は女性陣で決めて下さい」
「「ご配慮、ありがとうございます」」
☆
結局、会議が終わってすぐに女性たちはエトワールに入ったらしい
審査無しには驚いたが、今更言えないしな。
「子爵。会議のお時間です」
仕方ない行くか。
「やっときたか、遅いぞ」
「爺さんは朝から元気だな」
「では話し合いの結果を申し上げます」
フレイヤも強引に話を進めるようになってきたな。
「着いて2日間の休養の後、討論を重ねた結果。金貨換算で602万3千枚程
になり、貴金属は別ですが、その内の400万枚と貴金属を国庫へ納め
残りを難民で分配する事になりました」
「それで問題ないよ、元々彼らと家族の財産だしね」
「……それでまだ土地は余っているのですが、出来れば東方面に拡張の許可を」
そう来たか、もう王都を拡張した気持ちが少し理解できるぜ。
「カズマ君、街道を残したまま拡張する設計図はすでにできてる」
「クララさんですか、会議に参加してたんですね」
「街道部分だけ残して、更に東に街を、そうだね東エトワールといった感じかな」
「わかりました、イリカ村まで拡張をしてもらって結構です」
会議が終わって部屋に戻る。
問題は星金貨1万枚しか取れなかった事だ、やはり遠隔操作だと限界があるな
3万枚は交換できたと思ったが、ヤキが回ったな。
これで国内で動いている軍は帰還中の部隊だけか
サラとミラはどこまで探しているんだろうな。
65億8千万と金貨35枚




