第四十八話:ベリアス王国滅亡
俺の前には少女が並んでいる、俺には並列処理ができるようなスキルはない。
目の前で俺を真剣な眼差しで見つめる少女と幼女を見ながら考える
どうする? でも逃げられない。
1人金貨10枚か、幼女趣味なら大歓迎だろうが、流石に7才はな
なんかみんな必死だし、だが荷箱に入らないな。
「わかりました、全員引き取りましょう」
言ってしまって、俺の悪い癖だな適当に話をあわせてしまう。
何故か歓声が上がる、悲壮感がないな
小さい子は売られた事すら理解してるのか?
「別室で待っててくれるかな、こちらのご主人と話があるから」
「それとこの店の7件先の古着屋に金色と銀色の髪の15才位の女の子が
いるから呼んできてくれますか?」
敵も少し動揺したか、俺だけ動揺していては気が収まらん。
「ローラさん、失礼ですがおいくつですか?」
「30です」
「確かにそうですね、今日は?」
見破られるとは思ってなかったか? 俺は気づいていたが、この人は年を
偽るんじゃ無く、年を変更できるという飛んでも人間だ。
最初に見た時は30才で、今が34才だ、スラムの時が15才の少女だった
鑑定様が教えてくれる、伯爵戦で進化した鑑定様に敵は無し、なぜ年齢を
変えるのかは不明だが。
そもそも30才な訳ないはずだ、俺もミラの言う事をそのまま信じて
しまった、別れている間に年齢が変わらない訳がない。
「そうですね、スラムに行った時の15才に戻ってもらえますか?」
「……それは」
「私も一つ明かしましょう、私は他人のスキルが見えます、ステータスも」
「早くしないと、エトワールに住んでる女の子が来ますよ」
目の前で怪しげな言葉をつぶやくと、若返りましたよ、鑑定様は
15才と告げている、欲しいな永遠の15才とか。
「凄いですね、そのスキルで牢から逃げたんですか?」
「それは」
「そうそう、私が現在エトワールを治めていて、ガブロンはたぶん死にました」
「……死にましたか」
「それで何故、こんな短期間に年齢を変えるんです?」
「言えませんか、ではお嬢さんの前で話し合いましょうか」
「……いいます、娘には黙っていて頂けませんか」
内容は俺の想像を超えていた。
会話した事のある人間に変化できるという驚愕のスキルだ
昨日の少女はその中でも一番のお気に入りで、レベル10になった時に初めて
スキルが使用可能になり、現在は5人まで登録出来ると言う。
それから奴隷商を営んでいる理由等を詳しく聞き出した、余程自分の娘に
知られるのが怖いようで色々喋ってくれたよ。
☆
「母さまミラです、わかりますか?」
「私はサラです、会いたかったです」
二人は感無量と言った感じでローラさんに抱きつき泣いている
どうするかな? ユニークスキルなんて、今の鑑定様でも見れないしな
他人も気がつくまい、店の財政も火の車だと言うし提案に乗るか。
「みんな、明日に迎えに来るから、暫くの間一緒に居なさい」
俺が出ていくが二人はそのままだ、サラまで俺の言葉が届かないとは。
夜の10時に待っていると、少女になったローラさんがやって来た。
「上手く、言いくるめてきたか?」
「はいよ!」
人格が変わると言葉使いまで若返るようだ、それからローラと一緒に
スラム街へ事情説明に行く。
そもそも王国から逃げて公国に来て、ガブロンと共にシン殿を嵌めた商会の
主に復讐を果たし、奴隷に落ちた娘の行方を探すのが目的だったはずだが。
商会に戻ると奴隷に情が移り、殺害した店主に成り変わり奴隷商となり
娘を探しながら、スラムの救済にも手を貸し初めたようだ。
「みなさん残念ですがギルドに借り入れしていた分と次の税が支払えません」
「当店の売上を差し上げるので、それでやり繰りして下さい、私達は今晩夜逃げ
します、みなさんの無事をお祈りします」
「フランさま、もう会えないんですか?」
「税は払えても商業ギルドの追求を逃れる術はありません」
そして俺が渡した金貨3000枚を置いて俺たちは立ち去る
フランは少女の名前で、なんとレベル80だ。
2年近く頑張ったんだ、十分義理は果たしたし家は再興してるんだが
逃げる時に衛兵と貴族まで殺してるんだよな。
脱走の経歴と賞金まで掛かってる、娘が生きている事も知らなかったし
ギルドに星金貨100枚借りるってどんだけ危険を渡ってるんだか。
俺に衝撃を与えた少女たちは1人金貨50枚を渡して解放だ。
☆
「ご主人さま、母がいなくなりました、何かご存知ありませんか?」
やっときたか、もうすぐ夕方だ、昨夜スラムに行って説明後に俺は宿に戻り
二人を待った、母親をかなり探したようだな。
「伝言が宿にきていた、ギルドへの借り入れ金が払えないので他の国へ逃げる
そうだ、残念だが王国ではないので力になれない」
「そんな、母さまが」
「母は責任感の強い人ですから……」
払ったら奴隷商を辞めるきっかけがないからな。
「ミラは母さまを探します」
2人は必死だな、離れるのは辛いが、俺が何を言っても納得はしないだろう
気持ちの整理がつくまで待つか。
「……そうか2人の気持ちが晴れるまで探していいぞ」
「アカネを置いていく、気をつけろよ」
二人はすぐに出ていった、これから探すのか騙して悪いがしかたない
こちらも事情があるしな、ローラを連れ帰ると公表しないといけない。
「ローラついてこい」
「もうローラではないです」
「フランだったな、金貨3000枚分働いて貰うぞ、いつか対面させてやる」
俺はフランと外へ出て、一旦戻らないと。
「フラン驚くなよ、俺のスキルだ他言無用だがお前の娘は知っている」
「テテこい、変形だ」
バイクになったテテを見て驚いてるが、ローラのスキルもびっくりだぞ。
面倒なので詳しい説明は無しでエトワールへ戻る、久しぶりの故郷なので
荷箱には入れずに爆走だ、夜明けと共に街へ入りペコ商会に匿う。
☆
バルバラに身分証の手配を指示して俺は商会の帳簿を検査だ
ローラは、今はフランだが領主の補佐を努め、商会を2年切り盛りしただけあり
甘い所を抜けばかなりの切れ者だ、実際より見た目だ、こき使ってやろう。
「フラン、エトワールの税収はどんな感じだ」
「以前より高いですね、人の出入りも多いです」
「あまり以前とか言うなよ、バレるぞ」
「わかりました」
スキルを使うとサラのように疲れるので、一日3回程度なのが残念だ
進化してもっと色々な人間に変われれば、かなり使えるのだが。
☆
城に戻るのも久しぶりだな、しかし兵が少ないな大丈夫かあの爺さんは?
「子爵お帰りでしたか?」
「フレイヤか、兵が少ないな休暇か?」
「違います、現在アレクとリンがそれぞれ兵を連れて出兵中です」
「詳しく聞こう」
「では会議室で、みなさんいますので」
フレイヤと共に会議室に入ると、みんな書類と格闘してるよ。
「おお、やっと帰ってきたか?」
「爺さん、何かあったようだな?」
「そうじゃな、この街は安全じゃがな」
「フレイヤ詳しく聞こう」
俺が公国に出かけてすぐに王都から白鴎便が主要な街に送られ、西のガリア
大陸の国々が連合を組んでベリアス王国に攻め込むという報せで、この大陸の
港を持つ国にも援軍要請が来たらしい。
王都からは船で兵4万が先発、諸侯へも兵を出すよう命令が来た。
「アレクが船で兵3千と共に先発、リンが7日前に3千を率いて出発しました」
「ガリア大陸の国は連合国なのか?」
「違います、繊細は不明ですがガリア大陸の国が3カ国程、ベリアスにより
滅亡に追い込まれたと主張していて、危機感を覚えての連合のようです」
ベリアスってそんなに強いのか、よく勝てたもんだ。
「そうか、命令なら俺も行かないとな?」
「これは噂ですが……ガブリエルがベリアスの国王になっという話が
王都で囁かれているようです」
「そうか、2カ国の王を目指していたか? 度胸のあるやつだな」
「ラインの制圧は終わりましたので、我が国における勢力は無くなりました」
ほとんど兵は残ってないしな、シャルとヒルダもラインに偵察となると
俺1人か、そう言えば暇そうなのが居たな。
「諸君、俺はベリアスに行ってくる、あとはコルトに任せる」
さてベリアス兵がみんなダーナにいたような強兵だったら辛いが。
「フラン仕事だ、ついてこい」
「カズマ、帳簿のチェックが忙しい」
「反抗するな、借金を戦場で返せ」
嫌がるフランを連れて、テテでベリアスへ出発だ。
☆☆
この前に来たのがこの街だから、この先か。
王都と思われる都市の港ではすでに戦闘中のようだ、船は多くて数え
切れないな、ダーナの部隊の数倍に見えるが、とにかく混乱してるので
王都潜入だな。
「こんにちは旅の傭兵ですが王国軍に加勢する為に参りました」
「あんちゃん達、今は戦争中だ港で防戦に加わってくれ」
「魔法は使えるなら港の右手の部隊だ」
「「了解しました、がんばりますよ」」
俺とフランは混乱している部隊に参加して港に張った防壁の維持を手伝う。
かなり押されてるようで、敵の艦隊と言ってもいい船団が港に入港を
初めているな。
「あんちゃん達がんばれよ、追い返せば1人星金貨2枚だ、気合入れろ」
また星金貨か、余程裕福らしいな、これは先に頂戴にいくべきだな。
「フラン適当にやれよ、1時間後に城へ行くぞ」
「1時間後って?」
「時計渡してなかったな、安物だが持ってろ」
ここは持って3日だろう。
フランを連れて城へ侵入、戦争中だ、みんな港へ兵力を集中していて
ほとんど残っていない、陸路は安全ということか。
1時間程見つからないように探索した結果、扉を守ってる部隊が怪しい。
「フランあそこに警備が厳重だ、きっと金庫だと思う襲うぞ」
「泥棒ですか、気が進みませんね」
「ついてくるだけでいい、俺の後ろを警戒しろ」
20人近くいる兵を倒して金庫内へ。
嘘だろう、なんだ光ってるぞこれは凄いな、キシリアの金貨の山が塵のようだぜ
ここまで裕福な国だとは傭兵雇い放題だな、俺なら星金貨5枚出すな。
「フラン、後ろから兵が来たら残念だが退場願え」
それからは至福の1時間だった、まさに金銀財宝のオンパレードだ
手が2本しかないのが残念だ、全部取ると港のお客様が激怒しそうなので
金貨は2割程、それ以外は8割程度残しておいた。
個人的にはもう戦争なんてどうでもいい
今は俺の正体がバレるのが一番まずい、情報は欲しいが見物しよう。
「フラン、逃げるぞ見つかるなよ」
「戦争はいいんですか?」
「気にするな事情が変わった、何事も臨機応変だ」
俺とフランは城を抜け出し、テテでエルミール方向へ爆走する。
1時間程で見たことのある旗が見えた、船に潜入するが誰も気が付かない
みんな寝てるのか? 200キロ離れると戦況もわからないよな。
「起きろアレク、来てやったぞ」
「……もしかして子爵ですか?」
「そうだよ、どうだ状況は?」
「どこで乗ったんですか?」
「連隊長が小さい事を気にするな」
「そうですか、ダーナで補給を受けて6日経過しています、予定では
ベリアスの王都へ3日後に到着予定です」
「そうか、ガリア大陸の軍勢の規模は分かるか?」
「推測ですが、巨大な船を100隻ほど見かけたので20万以上かと?」
そうか、確かにうちの船より大きかったな、100隻に追い越されて
港にあれだけいるとなると、合計200隻として兵力40万か?
「アレク、こいつはフランと言って俺の護衛だ、着くまで厄介になるぞ」
「どうぞ、指揮権をお返しします」
「アレクがこのまま指揮しろ、俺たちの事は気にするな」
「暇だねカズマ、これで借金返せるの」
「適当に過ごしてろ、寝てても良いぞ」
精神が肉体に引っ張られてるのか?、だんだんローラさんの面影が消えるな。
翌日も俺たちを追い越す船がいる、ガリアの船は大きさも速さも上か?
「アレク見えたか?」
「ガリア連合の後続部隊と共に上陸します」
「うちの本隊は?」
「白鴎便の連絡ではガリアの本隊と共に既に上陸した模様です」
王都の部隊はもう戦場か、急がないと役立たつだな。
「俺達も乗り込むぞ」
2時間後に上陸すると大型船が100隻ほど北へ去っていく、もう終戦か。
そのまま進軍すると王都の南でエルミールの兵とベリアスの兵が戦闘中なので
俺たちも参戦だ。
「吠えろ【アクアフラッシュ】12連」
「【ダークアロー】」
フレアが何か怖い魔法を使っているが2人でガンガン削る
うちの魔法隊も攻撃を開始する、敵は1万以上だな結構激戦だな。
1時間程度の戦ったが、相変わらず士気が高いやつらだ、こちらは3万は
いるのに健闘してるぞ。
「王都の主力は東側で戦闘中です、ダテ殿、敵を押し出し援護に向かいます」
ここにいるのが予備兵力か、ダリルさんと共に掃討戦に入る。
「【アクアフラッシュ】12連」
「【ダークアロー】」
かなり敵が崩れてきたな。
「爆裂が援軍に来たぞ」
「俺たちも押すぞ」
「オー」
それから2時間でやっと敵が後退した、ダリルさんはそのまま東へ向かう
ので俺たちも続く、東にはうちの本隊4万程度が敵と交戦中だ。
「このダリル、ダテ殿と共に援軍に参った、みな敵をなぎ倒せ!」
ダリルさん乗ってるな、陛下の直臣は凄いな。
俺たちが加わってエルミール勢が押し始めた、ベリアスと同兵力では戦い
たくないな、どんだけ士気が高いんだ。
「行け、もう少しで敵の左翼が崩れるぞ」
「魔法隊、弓隊は中央へ攻撃、我々は左翼に突撃」
「こっちは敵の倍はいるぞ、押せ押せ」
ガリア勢は城に兵力を集中か、引き返した100隻は何してんだか。
3時間程度経って日も暮れてきてやっと、双方共に兵を一旦引く
「ダリルさんどうですか? 俺たちより前から戦闘だったんでしょう?」
「敵の兵は王都防衛の為に懸命です、傭兵もかなり手練が揃ってますね」
「ガリア勢以外は?」
「どうもエルミール王国以外は来てないようですね」
「それじゃあ、すぐに戦闘再開ですね?」
「そうなりますな、明日には城も落ちるでしょう?」
それから3時間程度で敵が再び仕掛けてきたので戦闘開始だ、みんないるから
全力で行けないが魔法で敵を削る、朝日が昇ってきて戦場全体を見渡すと
敵は1万も残っていないな、よく戦線を維持してたもんだ。
「どうやら勝ちは見えましたね」
「ダテ殿、押し切りましょう、あとひと押しです」
「全軍進め、敵はもう僅かだ」
疲れたな、やつらおかしい、死ぬのが怖くないのか。
6万以上で敵を殲滅するのに4時間以上かかった、海で少し殲滅しといて
助かったな、この兵が4万でエトワールを攻められたらやばかったな。
「勝ったぞ、全軍勝どきを上げろ!」
「エイエイオー」
「オー!」
「オー!」
城へ着くと、ガリア勢によって既に占拠されている、王都から随行した
内政官が城に入って行ったので、俺たちは休憩だ。
死体がかなり転がってるな俺たち以上の激戦だったようだな、ここまで戦う
とはガリア勢も凄いな。
俺たちは4時間ぐらい休養した所で指揮官だけ王都の内政官に呼び出された。
「皆さんこの度は激しい戦闘でしたがご苦労さまです、ガリアの勢力との会談
結果をお知らせします」
内容はエルミール王国にベリアスの一部割譲と支援金、兵士を出した諸侯
は戦果によって後日報酬を支給、王都及び南半分はガリアの勢力で分配。
微妙な結果だが連合国に攻められたら仕方ないので妥当だろう。
今回の出兵理由はベリアス兵の殲滅とのオノ伯の確保が目的でガリア勢は4万
の駐留兵を残して帰還するらしい、ガブリエルと主要人物は明日に公開処刑
俺たちも守備隊だけ残して戻るよう言われたらしい。
「ダテ殿、どうやらオノ伯というのがガリア大陸の3カ国を滅亡に導いた
主役のようですな」
「そうですね、かなりの特殊な部隊を持っていたんでしょう」
薬を使ったと女神が言ってたが、自分で作った薬で人を殺すと自分の
経験になるのか、いったいどれだけ殺したのか、499番さんは。
☆
翌日12時にガブリエルと24名の公開処刑が実施された。
凄まじい歓声が響き渡る。
全部で20万はいるか、一度連合組んだからには次もある、俺たちも海軍を
本格的に作らないと明日は我が身だな。
引きずり出された囚人は、すでに全身アザだらけで尋問の苛烈さが伺える
オノ伯は見つからないはずだから、しばらくは大変そうだ
サラとミラにしか見せていないから大丈夫だろう。
俺たちは到着したリンの部隊を残して撤退だ、指揮官はニケとマリアだ
経験を積ませないとな、どうせ長引くだろう。
リンはトンボ返りだが連隊長が少ないからな、シャルとヒルダはラインで
サラとミラは未定だし偵察を兼ねてアオイで帰るか。
「リン、俺はアオイで帰るからトンボ返りで悪いが簡潔に情報収集したら
エトワールへ帰還してくれ」
「かしこまりました」
ベリアスはいい眺めの国だ、他国へ侵攻などしなければ
それなりの暮らしが出来ただろうに、支配者に恵まれなかったな。
俺たち二人と1匹は北へ向かい緩やかに進む。
65億8千万と金貨38枚




