第四話:商業ギルドと夕日の街並み
女神とのやりとりは楽しかった、ツンデレというのはいいものだ。
俺は小さな窓から指す光にいざなわれるように起き上がる
ほぼ同時に腕時計からアラーム音が軽やかに鳴る、むすっと起き上がり
周りを見回すが、宿屋の部屋という認識に至る迄に数秒の時間がかかる。
起き上がり時計を見るとすでに7時、一瞬あせるが仕事に行かなくて
いいと思いだすと、とりあえず服を着替える。
☆
1階の食堂に降りると、客は3人程しかいない、カウンター席
に座って朝の定食を頂く、さすがに朝は1種類らしい、この時間に
ほとんどの客を捌くとなると、日が昇る頃には起きて朝食の準備等
をしているのだろう。
朝食はごはんではないが、黒パン系ではなく白いパン、コンソメスープ
スクランブルエッグ、四角いハム、キャベツのサラダ(たぶんキャベツ
だと思う)結構日本の物と違わないのかも知れない。
食事を終え、女将さんに本日も泊まる旨を伝え、銀貨3枚と大銅貨2枚を
支払った。
明日の朝食はいいのかと聞かれたが、残り小金貨1枚と小銭しかないので
そのまま外へでた、女将さんに商品を売りたい旨を伝えると
商業ギルドというのを勧めてくれた
やはり利権団体には最初に挨拶に行かないとまずいようだ。
身分証明書も必要なので、冒険者ギルド系は後回しにして商業ギルドへ向かう。
☆☆
場所は宿で聞いていた通り歩いて15分程、街の中心街の一角にドンと
5階建ての建物があった、エレベータ無しで5階に商品を運ぶのは大変そうだな
と感じつつ、1階の店舗は販売スペースのようなので、2階の事務受付へ進む。
そうすると肩に乗っかっていたリスが左手の受付の女性に勝手にかけよる。
そうこのリスは我が相棒のなれの果て、リス型機動馬車1号である、女神の
言った通り朝起きたら、機動倉庫より取り出したらリスになっておでましである。
「可愛い肩リスね!」
リスのような耳をした獣人ぽい女性に声をかけられた。
どうやら肩リスというのはこの大陸で飼われているリスの中で人の肩を好んで
自分のポジションを主張するリスの総称で、ここに来る途中でも肩にリスを
乗せて歩いている人をかなり見かけた、リスはここでは幸運を呼ぶらしい。
その主人に幸運を呼ぶと先代の国王が国民に奨励したらしいのだ。
そうして周りを見ながら先ほどの女性から声をかけられた。
「私はリス獣人なので、飼い主に愛情を注がれているリスがわかるんです!」
「そうですか、このリスは実家で祖父が世話をしていたのですが、私が旅に
出るのを機に譲り受けたリスなのです」
「そうですか、それはよいめぐりあわせですね、本日はどのような
ご用件でしょうか?」
「はい、実家から出てきたばかりで、この国ではこの街が初めてですので
商売を始める為に商業ギルドに加入可能かどうかをお聞きしにきました」
「はい可能です。商業ギルドはこのエルミール王国を含むこの大陸全土に
支部をもっており、ここはエルミール第3支部、この街の名前からミーナ支部
とも呼ばれております」
「新規の方の受付は読み書き可能な事、ギルド規則を守っていただくことを
条件に商人の規模によって年会費に違いがでますが、大商会の方で年会費
星金貨1枚、上位の商会で金貨20枚、商会中堅で金貨5枚、商会下位で金貨
1枚、商会を立ち上げていない方は小金貨1枚となります」
「また半年に一度、商会の売り上げの十分の一を商業ギルドに預けて
頂き、当ギルドが各地方領主に代わりに収めております」
星金貨か、想像するに小金貨の上が金貨とすると、20枚より上ということは
金貨50枚か100枚、日本円にすると500万か1千万って所か……
高額決済用通貨という所か。
「では新規入会をお願いします」
「かしこまりました、こちらの用紙に必要事項をご記入下さい」
スマイルゼロ円を武器に受付嬢が用紙を渡してきた。
それを受け取り記入していく
名前はラノベに出てくる水晶みたいのがあったら困るので本名でいいとして
出身地はこの国の大きさを知らないので、隣接国の公国にしておこう
公国領ハマ村(横浜のもじりだね)、年齢は15才
今日で15才の誕生日なのだ、こちらの暦はわからんが、記入した用紙を受付嬢
に渡して審査に時間がかかるのか、30分程お待ち下さいと言われた。
壁に掛かっている地図を眺めながら、これからの予定を頭の中で組み立てる。
全財産12銅貨、朝食も食えんわ、売れそうな物は昨日購入した塩と砂糖、
カセットコンロは売れないし、水はこの世界のほうが美味しいし。
「カズマ様、カズマ・ダテ様窓口へお越しください」
受付嬢の声を聞き窓口へいく。
「審査を終了いたしました。こちらの商業ギルドカードをお受け取り下さい」
ギルドカードはピンクの花が描かれた白いカードだった。
「商業ギルドへようこそ、こちらの冊子に規約が載っており、説明文も多少
ありますが簡単に説明させていただきます、当館1階は一般の方向けの商品
展示、販売、買取をしております、2階はご覧のように事務スペースと少量の
商品の販売、買取、3階は中規模以上の販売、および買取スペースです、4階
より上は職員専用スペースで隣接する青い建物は当ギルドの倉庫になってます」
「本日は買取希望と用紙にございましたが、商品は今おもちですか?」
俺はいつも仕事中に携帯している紙袋からA4サイズの封筒に詰め替えた
塩と砂糖をそれぞれ500グラムずつ10個
合計塩5キロ、砂糖5キロを受付嬢に渡した。
「紙に包んでお持ち込みとは珍しいですね、それでは拝見します」
待つこと数分、受付嬢が戻ってきた。
「お待たせしました。かなりいい精度の塩と砂糖でしたので、買取価格ですが
塩の方が100グラム銀貨1枚、砂糖の方は100グラム当たり小金貨1枚では
いかがでしょうか?」
「はい、それでお願いします」
「かしこまりました、それではこちらが代金5金貨と5小金貨になります」
代金を受け取りポケット経由でアイテムボックスに、資料室があるようなので
閲覧許可を頂き、2階奥のブースへ移動、肩リスは定位置をキープしている。
☆☆
閲覧ブースの本の中からエルミール王国の歴史、商業ギルドの生い立ち
王国法など、パラパラと要点をかいつまんで読破、どうやらこの国はラノベ
よろしく、冒険者ギルド、商業ギルドの2つを筆頭に中規模のギルドが国の
あちらこちを管轄(つまり支配しているらしい)。
王国法には王族、貴族、国民、平民、流民、奴隷とあり、商人や冒険者は平民
扱いらしく、国民になるには納税義務を3年果たして、国民以上の紹介状があれば
国民になれるらしい、納税は商人や冒険者など資産の流動性が高い者は自己申告で
生産職など、毎日金銭の授与が無い人たちは人頭税のようで、払えない、また
払わないのが見つかった場合は奴隷落ちらしい。
このシステムだと確実に富める者は富、貧しきは没落すると想像に難しく
ないが、戦争において金銭が参加者に支給されるらしい。
戦功が大きい者は次の戦争迄、納税免除になるとあるので、貧しい者は率先して
戦場にいくらしい、これは小規模、大規模問わず戦闘行為が行われる土壌を
作っている事になる、女神が戦で死んでしまえと言っていた意味が理解できる。
エルミール王国を含むこの大陸の各国家のほとんどは元はメル王国とギラン帝国
の2大勢力の末裔で両国が滅んだ後に各国が独立した模様だ。
尚、メル王国の最後の国王が市場に並んでいる野菜、肉、魚などの名前を帝国領
の物も王国領の物も名前を共通にする為に卸売り市場を建設して、流通拠点に
して各商品の名前を統一したらしい。その流通拠点が商業ギルドの元らしい。
名前から察するに日本人の転移者と想像する部分が多分にあるが
かなりのバトルジャンキーだったのかも知れない。
窓の外を見ると、夕日が差し込んでいるのが見えるので、商業ギルドから出て
街を散策がてら、買い物買い物。
「奥さん、この大根、銅貨12枚でどうだい」
「銅貨6枚なら買ってもいいわ?!」
「それなら、キャベツをつけて、銅貨10枚でどうだ」
「おまけしてくれるなら銅貨9枚で買うわ」
「毎度あり!」
うんやはり定価で商品を購入するという概念はないらしい、半値にしてから交渉
開始とは、これは高額商品でだぶついてる物なら、かなり値切れるかも知れない。
それから服屋に入り、落ち着いた感じのローブと商人らしい服を上下3着ずつ
みつくろってもらって購入、ついでに帽子も購入、これで金貨2枚。
最初の見積もりが金貨5枚とか言っていたので60パーセントオフだ
下着は素材がいまいちなので、荷箱購入するとして、雑貨店で肩リス用のリボン
と食器、タオル、鞄大小、調味料などを入れて売るのに良さそうな小袋を大中小で
各30個ほど購入、合わせて小金貨4枚、それらを購入した鞄経由で
アイテムボックスへ収納。
潮風の満腹亭に戻り、長期宿泊なら料金を負けてくれる
らしいので、ひと月分銀貨90枚と、食事代が大銅貨90枚を
銀貨75枚と大銅貨75枚にしてくれるとの事、さらにお湯代は無料
そこをさらに掃除は5日に一度でいいと言うと、銀貨60枚と食費
を大銅貨60枚にしてくれたので、金貨で支払った。
これで残高2金貨、3小金貨、8銀貨、日本円で23万8000円
夕食は本日はアジの塩焼きにスープ、パン、りんごがデザートにでてきた。
ワインを薄めた物を別に注文して、飲んでみたが水がいいのか?薄めていても
なかなか美味しい、部屋に戻りギルドの冊子を読み9時に就寝。
夜間にする事がないのは辛いものだ。