第三十六話:会議は踊る
内乱という言葉で、みんなどんな事を想像するのでしょうか?
簡単な住民の衝突か武力行使を前提とした軍事行為等いろいろ
有りそうです。
今回のエトワールの街での戦闘は領主不在という事もあり一部住民による
暴動という事で市民は納得してくれたようです。
俺はミッターマイヤー家の者にしか正体を明かしていないし問題ないかな。
「俺は明日到着と言う事でいいんだな?」
「ご主人さま、現在街の復旧を急速に進めています」
「1日で今回の戦闘の爪痕は消えるかと」
現在、混乱した兵士や住民によって破壊された北地区を中心に数万人規模で
街の復旧作業が続いている。
俺が既に着いている事は秘密で、明日内政官を引き連れて到着するという
シナリオをハイムさん達が作った。
商人から街で戦闘があった事は伝わるだろうが公式には一部住民による
暴動で戦闘があったが、それ程被害は無かったと示さないといけない。
起きたら既に夜になっていた、みんなは仮眠を取っただけで働いていた
ようで、大部分の住民は大宴会の後、少し寝てから復旧作業に就いたらしい。
『皆さん、戦闘が有った事が領主に知られれば制裁もあります』
サラの言った言葉の影響力は大きくみんなで復旧作業に力を注いでいるらしい。
☆☆
翌日の午後2時過ぎに質素な馬車が3台、王都からエトワールへやって来た。
「私はサラと申します、新領主様お待ちしておりました、城へご案内致します」
「ご苦労、街の状況把握をせねばならんので、市民への挨拶はいずれ行う」
「かしこまりました、街の資料は既に城に揃えてあるのでご検分下さい」
そうやって、城に向かう馬車を見送る。
もちろん、サラの相手をしたのは俺と年の近い代役だ。
俺は街へ来てからはサングラスをかけていたし、サラに髪を切って貰い
今では伸び放題の髪は短髪になり、普通の商人といった感じだ。
王都で知った事だが、夏の日差し対策だろうか? 眼鏡は無いがサングラスは
裕福な者なら大抵持っている。
「ヒルダどうする、飯でも食べに行くか」
「兄様そうですね、お姉ちゃんも忙しそうだし行きます」
「港の近くに美味しい店があるらしいから、行ってみるか」
現在内乱で一躍有名になった三人はみんなの注目の的であり、俺の部下の
手当しかしていないヒルダと謎の男の俺は対外的には暇なのである。
俺たちは西地区にある有名店に入る。
「いらっしゃい、何にしますか?」
「赤マグロはあるかな?」
「もちろん、当店では扱ってますよ」
「では赤マグロの料理を2人前頼むよ、飲み物はワインで」
「少々お待ち下さい」
ウエイトレスが軽快に注文をとって厨房に駆け込む。
マグロか久しぶりだな、トロなのかな、でも焼いて出すなら赤身かな。
有名店なので待たされると思ったが10分で、マグロのステーキが出てきた。
「美味しそうだな、ヒルダ食べよう」
「これが兄様の好物ですか?」
「そうだな、生で食べるのが一番好きだが焼いても美味いぞ」
「本当です、食べたことのない味です」
なかなか美味しい刺身じゃないのが残念だが有名店というのは伊達じゃ
ないな、しかし客が少ないな、内装を立派だしもっと客がいても
いいもんなんだが、何かあるのか?
美味かったしそろそろ出るか、出る際に代金は金貨2枚と言われた。
「女将さん、申し訳ないが以前からこの値段なんですか?」
「そうだよ、領主に3割、キシリア商会に5割持っていかれるからね」
「確か、昨日サラ様が税の減税を約束してくれたはずですが」
「ああ、姫様の話を信じたやつもいるが、新領主がまた高額の
税を要求するかも知れないからね」
「でもキシリア商会は全員捕まったのではないですか?」
「新領主の取り巻きがキシリアみたいにならないとは限らないからね」
俺はまったく信用されていないようだ
なぜか暗い気持ちで店を出て、まだ営業している店を見て回る。
確かに値段を下げてる店は、見た感じでは1割程度、ほとんど王都より
遥かに高い、有名店はまだしも、こんな商店まで取り立てに有っていたのか。
「兄様、高いお店ばかりですね」
「ああ、何とかしないと本当の暴動が起こるな」
ギレの居た屋敷に戻ってきた、他の所に移りたいがどうせ城に引っ越すし
そのまま使ってる。
「みんな呼び出して悪かったな」
「ダテ子爵、急用でしょうか?」
「ハイム、今日は港近くの有名店で食事をしてきたんだが金貨2枚取られた」
「ご主人さま申し訳ありません、まだ通達が徹底していないようです」
「はっきり言おう、徹底どころじゃない、全体の一割程度しか下げていない」
「このままでは一般市民が暴動を起こしても可笑しくない、よって明日の3の鐘
より先行して税制改革の会議を行い、明後日に中央広場で告知する旨通達せよ」
みんな焦っているな、税制改革なんて一月位かけてやるもんだが、そんな
呑気な事を言っていられない状況なのを理解してないな。
「シャル、部下を使って市内全域に明後日の5の鐘に告知する旨、触れわ回れ」
「後、5日後迄に適正価格に戻さなかった場合は奴隷落ちと噂を流してくれ」
「それから会議は城で行う、有力者を集めておいてくれ、強制ではないとな」
「奴隷落ちですか?」
「本当にやるつもりは無いが、キシリアの後釜を狙うバカがいるかも知れん
市民から金を巻き上げる土壌はできているからな」
「では解散、君たちに期待する、疲労で倒れるなよ睡眠は取れよ、命令だ」
さて、幹部のやつらはほとんど寝れまい、どんな案が出てくるか
俺もギレンやキシリアの帳簿や書類を読んでおくか。
夜も更けてきたが書類を読んでると怒りが湧いてくる、よくも直接7割採取
しておいて、その他の税の数の多いこと、150グラムのマグロで金貨1枚と
いうのを高級店なら納得できてしまう。
2時か寝るか、明日は荒れそうだ、もう今日だけどな。
☆☆
朝起きて、まずヒルダと食事を取る、他のみんなはいない、今頃大慌てだろう
しかし今日は何人過労で倒れるだろうか?
9時半か行くか、馬車で城へ向かう500メートルしか離れていないが必要だ
基本的に領主の初お目見えだからな。
「アルト商会、エトワール支店代表のエマと申します、領主様今回は重要な会議
への参加を認めて頂き有難うございます」
「こちらこそ、兄君にはよくして頂いています、今日は期待していますよ」
9時50分に俺が大広間に着くと主要メンバーはテーブルに資料を広げて
まだ検討している、入学式の説明会のような会場だ、俺が一段高い場所で
側近がその付近、あとは椅子を並べて300人程度が手に資料を持って
座っている。
そして3の鐘が鳴る
「皆様今から税制改革会議を初めます、議事進行はこのハイムが務めさせて頂く」
ハイムが説明を始める、俺の直臣が200名、有力者が100名といった所か。
「では新領主のダテ子爵より挨拶を頂きます」
「みなさん、お初にお目にかかるカズマ・ダテと言います、私はみんなが笑って
暮らせる街作りを目指してはいない」
周りが少々ざわつくがいいだろう。
「私が目指すのは努力する者が報われる統治社会だ、その為には最悪武力に
訴えるのも辞さない」
「会議の終了時間は明日の3の鐘までです、寝てない方は途中で倒れるでしょう」
「隣の部屋に男女別にベッドが用意してある、倒れる前に休息を取るように」
「言い忘れましたが、期限迄に決まらなかった場合、私の案にみなさんの署名を
入れて告知させてもらう、討論は歓迎するが、妨害は容赦するつもりはない」
これだけ言っておけば余程のバカじゃなければ理解するだろう
でもキシリア商会みたいな野心家がいるかも知れん注意しなければ
最悪おれが前伯爵みたいにならないとも限らない。
「情報共有の為に最初の議題内容は、エトワール独自のの税の徴収方法です」
ハイムの話が30分続いた、集まった者の認識を共有させる為だ。
王国は本来、人頭税、自己申告の納税、商業ギルドによる税徴収の3本柱だ。
しかし、この街の商業ギルドは早々に撤退してキシリア商会の代行を認めた
冒険者ギルドもほとんど閉鎖状態だ、なので税を誰が幾ら徴収されているのか
みんな知らない、上手く考えた徴収システムだ。
今回は無様に撤退した商業ギルドに頼るつもりはない。
よって市民からの取り立ては徴税所を作って、そこに納めてもらう。
これが一番討論になる議題だろう、冒険者ギルドと傭兵ギルド以外は
商業ギルドがいなくなると一緒に出ていったので、もう戻らないだろう。
「議長、つまり徴税所が今まで憲兵とキシリア商会に納めていた分を
徴収する訳ですね?」
「そうなります、名前は後でもっと受け入れやすい名前に変更予定です」
「わたしも質問です、商人の税金はいくらになるんですか?」
「これは売上ではなく、利益に対して税を払って頂きます」
「つまり利益を毎日記帳しろという事か?」
こいつ何言ってんだ、記録してないのか、ギレですら記録してたぞ。
「別に売上に対して商業ギルドのように税を課しても構いませんよ」
「しかし、払えなければ奴隷落ちは王国の法ですので」
「この前まで奴隷落ちは無かったぞ」
「それはキシリア商会が利益を上げるために、わざと奴隷にしなかったんです」
「私も商会を営んでいますが、具体的な数字を示して頂きたい」
「そうですな、例えばアルト商会の場合とします、一年の利益が星金貨100枚と
すると、星金貨40枚を税として納めて頂きます」
「そんなにか、取りすぎじゃないのか?」
「ではアルト商会の売上が星金貨1000枚としましょう、その場合
星金貨100枚が税になります」
そこで出席者の罵り合いが始まる、頭の悪いやつは利益の激減が許せないし。
商会の規模によっても立場が異なるので、言いたいことは山ほどあるんだろう。
俺は推移を見ながら、報告書に目を透している。
それから3時間紛糾が続き一時休憩になった。
☆
「ハイムどうだ、まとまりそうか、ダメなら商業ギルドと同じ機能を持った組織を
立ち上げ王国と同じでも構わんぞ」
「……もう暫く時間を下さい」
20分休憩してまた再開、休憩というのは休む為ではなくトイレ休憩だ。
一部の人間を既に静観している、理解できたのだ、理解できないやつが問題だ。
まったく進行しないので2個目の議題を出す、特殊税の改正だ。
現在は出産、婚姻、独立、商店登録、管理費、葬儀、相続税、街からの退去等に
税がかかっている、これを商会登録、相続税、管理費を利益によって変動性に
しようとする物だ、加えるのは土地取得の際の土地の使用料だ。
なんと今まで勝手に空いた土地に家や店を建てていた
その方が、独立税、登録税、別途に管理税を採取できるかららしい。
ハイムはまだ最初の議題の対応中なので、サラが説明するが聞いているのは
静観していた一部だけだ。
「つまり、新たに商店を立ち上げるには内政官の許可が必要な訳ですね」
「そうなります」
これも揉めるが、30分程でエマさんの発言で流れが変わった。
「みなさん、これまでいろいろ徴収されましたが激減して、3つになりました」
「つまり、小規模の店舗は客が誰もこない場合は、月に管理費小金貨2枚のみ」
「うちの場合は管理費が月にたった金貨8枚だけです、皆さんはどうですか?」
「うーん、悪くないかも知れないな、みんなどうだ」
「そうだな、いいかも知れん」
いいに決まってるだろう、多分、今まで月に金貨3枚取られていたのが
小金貨2枚になるんだ。
4回目の休憩に入った所で菓子とチョコを配った、まだ倒れたやつは8人だけだ。
すでに時間は午前4時を回っている、ヒルダは2回目の休憩で退出している。
今回は特別に休憩時間2時間だ、開始は1の鐘なので俺も寝る。
☆
「ヒルダ戻ってきたか」
「兄様どんな感じですか?」
「そうだな、9時には終わるかな」
「サラの予想はどうだ?」
「そうですね、ギリギリまで縺れそうな感じですね」
「もう6時前か、では行こう」
会議は多少荒れているが、大方はもうメモしながらこの案をどうやって市民に
理解できるように説明するか検討を初めている、新聞とかテレビはないからね。
2の鐘が鳴った段階でハイムが決を取った、反対者は周りに言いくるめられ
なんとか成った、結局終了は午前9時40分、実にまる1日だ。
こちらからはハイム、有力者からはエマさんが中心に議案が文面に起される。
結局内容はシンプルで
1・商品取引所を新設し、ここで商店、商会の申請を行い、税もここで治める。
2・農民、漁師等は収穫物の4割を物納、職人の納税額は少なめ設定だが
加えて指定する生産物の物納とする。
3・市民は人頭税で決着、役人は所得税。
4・商人は土地使用料及び、税は年間売上金貨10000以上が利益の4割
1000枚以上が利益の3割、、100枚以上が利益の4分の1、10枚以上
が利益の2割。
5・管理費が上から月に金貨8枚、2枚、1枚、小金貨2枚と4段階とする。
6.相続税は貴族同様、後継者を役所に届ける事、相続税は所持金の3割。
7・入市税は1人銀貨1枚で所持品検査有り。
それに告知から5日以内に、規則を順守できない場合は財産没収。
俺としては人頭税を変えたかったが負けてしまった、
3の鐘で書面が6枚完成、1枚は俺が保管で5枚を各地区に張り出す。
☆☆
ほとんどが中央広場に居たらしいが、期待していなかった住民は同じ地区に
貼られてる告知を見ていたと報告があった。
「ご主人さま、市民のみなさんは納得してくれるでしょうか」
「納得するとかそういう問題ではないんだ、これは決定だし、俺たちの独断
でもない、後は理解の早いやつが口頭で説明するさ」
「シャル捕虜の方はどうなった?」
「一度一般奴隷に落としてから尋問を行った結果、1820人が子爵に仕えると
残り1205名が敵対すると答えましたので犯罪奴隷に落としました」
「ハイム部下に奴隷を王都で売ってくるように伝えてくれ」
「承知しました」
「ミラ、兵役希望者は見つかったかな?」
「だいたい、3500人位ですね、腕が立つ人は1000人切るかと思います」
「ヒルダ、司祭はこちらの意見に納得したかい?」
「兄様、全員マルム教徒として街の発展に協力してくれるそうです」
「後は内政に向いた人材だけだな」
とりあえず捕虜護送の人間以外は休ませるか、俺もいろいろやらないと。
☆
あれから5日立った、書類の決済やいろいろあったが
捕虜も王都へ押し付けたし、街の周辺も安定してきた。
商会は各方面に投資している、主が死んだら金が3割減るからな。
後はそろそろ来る南部の諸侯への遠征準備だな、エルミール王が
どの程度我慢できるか。
それとも自殺願望のある諸侯が先に進撃してくるか。
「ヒルダいくぞ」
「待って下さい」
カラーンとドアの開く音がする。
「女将さん、先に尋ねるが赤マグロのステーキ2人分で幾らですか」
「ああ、ワイン込で小金貨2枚だよ!」
「では2人前よろしく!」
「あいよ」
残高:9億6千万と金貨70枚と金貨袋1つと押収した金貨




