第三十五話:エトワール奪還(2)
昨日から妙な噂が流れてる、王国軍の精鋭がこの街に攻め込んで来る。
ガーンファミリーは南地区に集まって、異国の商人から奪った大陸の
食べ物をと酒で昨夜は宴会を開いて気分を紛らわしている。
「お前も例の噂を聞いてるだろう?」
「ああ、王国軍の精鋭の前にミッターマイヤー家の姫が先発隊として
エトワールへ攻め込んで来る話だろう」
「俺たちはどうすればいいんだろうな?」
☆
エトワールの北地区は混乱状態にある、夜明け前に前触れも無く
解放軍を名乗る者の魔法攻撃を受けている。
本来、衛兵が門で厳重に見張りに着き、敵が来れば斥候が報告に来る
はずなのに、何の報告もなかった。
敵は噂に聞いた王国軍の先発隊かも知れない。
そうなると王国軍の精鋭2万という噂も信憑性が増してきた。
ギレン様は既に逃げたようで屋敷の金庫は空で貴金属もなかった
西地区にある港に逃げたのだろう?
報告では北と東から攻撃を受けている状態で中央部は
既に占拠されたとあった。
これでは南地区にいるガーンファミリーと連絡が取れないので
港にむかって逃げ込むしかない。
☆☆
「いい感じだな、順調じゃないか?」
俺たちの後方にはミッターマイヤー家の家紋の入った旗を持っている人間が
800人位いる。
こいつらはイリカ村の住人だ俺が起きた時には既に殆ど捕らえられていた。
2時半には全員を村の中央に集め終わっていたが協力的では無かったので
俺から金貨を奪った兵士達に【ウインドストーム】を食らわせてやった。
5人目の兵士の所で全員が旗持ちを承諾したので1人金貨1枚で雇った
俺は脅しはするけど、前金払いは基本だ。
1人背中に1本、両手で2本旗を持っているだけで金貨1枚ですよ
ダテ商会は優良企業だね。
解放軍というイメージ戦略の為にはある程度の数が必要なのだ。
2500近い旗が風で揺れ俺たちの後方で第2陣のように待機しているのは
敵に取っては脅威だろう。
敵は俺たちの実数を噂と意図的に流した情報で10倍程度に感じてるはず。
何事も形から入らないとね。
「カズマさん、相手は西地区に逃げていますが、追いますか?」
「いや、放おって置こう、とりあえず街の中央広場を抑えよう」
俺は事前に侵入してギレンを葬って機動倉庫に入れて、屋敷の品は全て
アイテムボックスに収納済みだ。
人の死体をアイテムボックスには入れたくなかっただけだ。
敵は1班のシャルの部隊150人と2班のミラの部隊80人の魔法師主力の
部隊に依って混乱し敗走状態だ。
エトワールの街は北地区にに兵舎、南地区にガーンファミリー率いる
傭兵ギルド、東地区がクリス教の神殿があり、西地区にはキシリア商会が
ある、攻め込まれる事をまったく想定していない。
「今頃、東地区はサラたちが抑えてるだろう、住民がクリス教に味方しないと
有り難いが、サラ次第だな」
「サラ様なら、この大役こなせるでしょう?」
北地区は軍の施設や公共施設が多くあるせいか、一般住民の数は少ない。
☆
俺たちの実数は数百だが魔法師の数は相手の3倍以上いるので
いきなり攻め込まれて、混乱した状態ではまともな指示も出せない。
一応司令官であるギレ君はすでに金品を持って側近と逃亡
したと触れ回ってあるし。
ノースフォールの戦闘で実に正規兵の8割以上を失っており、諸勢力が
力を合わせてやっと敵対者と戦える状態であり。
それも各個撃破の攻撃で残る戦力は南地区と港に逃げた兵士のみ。
時間も午前8時過ぎ、潜入からすでに4時間、普段行政府からの告知に
使われている、中央部北側の広場でサラが壇上に立ち演説をしている。
「みなさん、私はミッターマイヤー家長女、サラ・ミッターマイヤーと言います」
「すでに北地区の兵士は敗走、東地区のクリス教も抑えました、皆さんの協力
を得られれば王国軍の精鋭が到着する前に……」
一息入れたか、ここが勝負だからな。
「みなさん私達の手でエトワールを解放しましょう、もし王国軍が到着した時に
内乱が続いて場合、見せしめに数千人が処刑されるでしょう」
「ギレンは半月以上前に既に代官を罷免されていたにも関わらず、みなさんを
苦しめていました、そして金品を持ち逃げして逃走した様子です」
サラは集まった3千人程度に向かって大きな声でみんなに聞こえるように叫ぶ。
「みなさんに残された選択肢は3つしかありません我々と共に戦い新王に任命
された領主の元、前のような活気溢れる街にするか」
「街と財産と家族をを捨てて王国からの逃亡するか」
「最後はギレの残存兵とガーンファミリーと共に王国軍とぶつかり自滅するか」
「ここに内務卿から預かった書類があります、これに記帳して、王国の為に戦に
参加してくれた方は新王へ助命嘆願書と共に送りましょう」
「参加されなかった方はの処分は不明ですが、エトワール市民はクリス教の狂信者
として処罰されるかも知れません」
「俺は狂信者なんかじゃないぞ」
「俺もだ」
「わたしは旅の商人なんだぞ」
みんないいたい放題だな、だが世の中甘くない、すぐに改宗しないやつは
見せしめだろう、出ていくやつはそれもありか。
市民の行動は様々だ、すぐに記帳する人間、逃げ出す相談をする人間
俺たちと敵対しそうなやつもいるな、本当に狂信者か。
☆
30分程度過ぎた。
「では西地区へ進軍します」
サラが動くとみんな何か持ってついてくる、武器や包丁や棒はいいとして
鍋とかどうするつもりなんだ、この街で領主なんて務まるだろうか?
「ではみんな行っていてくれ、俺は用事があるんでな」」
「カズマさんお一人ですか?」
「そうだ、問題ないさ」
「西地区の兵は動揺してるだろう、指揮官もいないしな
魔法師で遠距離から攻めれば寄せ集めでもなんとか成るだろう」
みんなと別れ、俺1人で南地区へ向かった、もちろん途中からは
バイクに乗ってだ、テテの強度を試すには丁度いい。
☆☆
「聞こえるかガーンファミリーのバカ共、残るは貴様らだけだ、降伏すれば
命だけは助けてやる」
「変な格好の男に降伏なんてありえんな」
「変な格好じゃなければ降伏するのか?」
「バカが死ぬのはお前だ、俺達は3千人近くいるんだぞ!」
「では交渉決裂という事でいいのか、もうチャンスはないぞ」
「おまえにも逃げるチャンスは無いがな」
大笑いしてやがる、何がそんなにおかしいのだろうか?
笑いながら死ねるなら本望だろう、散々悪事に手を染めてきたんだ。
ドラゴンの牙がどの程度か知らんが人間なら問題ないだろう。
「1人で来るとは運が無かったな死ね、仲間も今日中にあの世へ送ってやるよ」
バイクで加速しながら魔法で攻撃だ。
「運の無いやつめ【アクアフラッシュ】」
テテに跳ねられたヤツはまるで特急列車に衝突したような無残な姿になって
四散していく、40分ほどで見える範囲に人影は無い。
「テテ凄いな、今度はミミやララに自慢してもいいぞ」
悪路を港に向けて走った。
☆
「おお、戦ってるじゃん真面目に、我が軍は圧倒的じゃないか」
前から言ってみたかった台詞を1人呟く。
これなら5時間もあれば終結するな、サラは甘いからクリス教徒に慈悲を
示した可能性があるな。
ギブン公に後で面倒な事を言われるかも知れない、既にクリス教は敵だからな
領主に正式に就任したら派手にできないから今の内に排除しておくか?
広場は通らなかったが、かなり人が居たな、東はほとんど戦闘の跡が見えない
困るんだよな、優しさは時に人の命を奪うんだよ。
今度はバイクから降りるか、使えそうなやつがいるといいが。
「神殿のみなさん随分余裕がありますね?」
「貴様も反乱軍の仲間か?」
「反乱軍はひどい言い方ですね、せめて解放軍か王国軍と言ってくださいよ」
「どうでもいい、先程は娘に奇襲を受けたがクリス教に逆らって生きて
行けると思ったのか、冒険者こいつを殺せ、報酬は話したとおりだ」
冒険者雇って縄解いてもらったのか、悪知恵だけは働くな。
「恨むなよ、金の為だ」
「恨まないから、貴様こそ恨むなよ」
カリンに直してもらった刀を久々に振ったぜ、いい切れ味だ
やはり残りの4本も早く直してもらわないと。
「どうしたかかってこいよ、金の為なんだろう」
「こないならいくぞ、【ウインドストーム】」
「この化物め」
自称冒険者はあと10人か頭悪そうだしいらないか。
「【アクアフラッシュ】」
2発で死んだか、あれなんか強くなってないか?
ステータスを見ると『ペコの魔法』がレベル3になってるよ。
先程マフィアを殺した時に上がったのか、ついに3段目か。
「どうしたんだ時間がないんだよ、とんどんかかってこいよ」
「貴様、わたしは神聖なクリス教の司祭だ……」
面倒だから斬ってしまった、きっと年収1億以上組だろう?
「残念だが俺の都合のために一月に金貨50枚以上支給されていた神官は
ここで死んでくれ、マルム教の神官だけは助けよう」
☆☆
「まあこんなもんか、聞きたい事は聞けたしな」
残りの司祭クラスは職業がマルム教だったやつとクリス教の下っ端だけだ。
「運良く生き残った諸君、貴公らはこの広場で即席でマルム教に改宗せよ」
「俺は用があるので、マルム教の者は港付近にいるシャルロッテという
女性冒険者の元へ8の鐘がなるまでに行って書面に記帳しろ」
「遅れたり、逃げたりしたら、そこにいる司祭と同じ運命だ」
さて神殿の本館の台座の下だったな。
おお、大量じゃないか、金貨類だけでも50億はあるな、跡は貴重品に
帳簿か、魔道具に、本、書類辺りか、装飾品ももらっておこう。
あとは北地区をパトロールしたら戻るか。
北地区はまるで盗賊にあらされたような酷い状況だった、火をつけたやつが
いるな、面倒な事をしてくれる。
商会を抑えられなかったのが悔やまれるが、多少の金がないと街の運営費が
ないだろう、キシリア商会の隠し財宝は街の金庫にいれてやるか?
西地区の港周辺はいつのまにか10万人くらいの人が集まっている
全部敵だったら最終奥義を出さないといけないが。
双眼鏡で見るとサラが指揮しているようだ、市民は勝ち馬に乗ったようだな
シャルが無双状態だし、部下の手柄を横取りはできないな。
1時間ほどで終わったか。
処罰としては最後までがんばったやつは奴隷で、指揮官は斬首あたりで
キシリアの連中もも斬首だな、サラに夕方までに降伏したやつの処遇に関しての
意見を聞いておくか。
「サラ終わったようだね」
「ご主人さま何とか港は奪取しました」
そうかアニタちゃんの歓迎セレモニー開くんだったな忘れてたよ
王都経由だから7日後くらいか。
「みんなよくやってくれた、ミッターマイヤー恩顧の部隊での死者は?」
「怪我人はおりますが、ヒルダがだいたい治しました」
「それは良かった、後はキシリア商会はもう押さえたのかい?」
「はい、全員捕虜にしました」
「捕虜でいいのか、サラたちの父親を嵌めた共犯だろう、今ならなんでも有りだ」
「お姉ちゃんが降伏条件で命の保証をしちゃったの?」
「ミラ気にするな、俺はサラの上官だサラの約束を全部守る義務はない」
「カズマさん、かなりの人数の前で約束したので反故にするのは?」
「シャルまだ戦争中なんだよ、そういうのは終結宣言後に有効なんだ」
これはキシリア商会の上前もはねられるか。
「ご主人様、まだ本命のガーンファミリーが残っています、只今戦力を
調整中ですので、1時間ほどで南地区へいけるかと」
「それね、強いやつが残っていれば別だけど、もう人数的にはその辺の
盗賊以下だから行く必要はないぞ」
☆☆
かなりの時間をかけて、西地区で抵抗していた者を捕縛して北地区へ連行して
もう時間は夜の10時を過ぎている。
集結したなんちゃって解放軍10万にキシリア商会から押収した金の一部を
与え簡単な宴会を開く事になった。
キシリア商会の財産はかなり有り、隠し財産に至っては数えるだけで数日
はかかりそうだ、よく一介の商会がここまで集めたものだ。
数が多いので一箇所では無理なので北地区を除く全域で今夜は
酔いつぶれる迄、みんな飲み明かすだろう。
「ハイム、お前は包丁をあつかえるか?」
「……はい、料理は得意です」
「シン殿の無念を晴らす機会を与えよう、サラたちに敵対しそうなヤツを殺れ」
サラ達は宴会会場の中央部にいってるしハイムの苦労に報いてやらないとな。
北地区の施設にバラバラに捕虜を押し込める、魔法師はもちろん隔離だ。
「ダテ子爵、なぜ捕虜をバラバラにするんですか? かなり監視に
人数を割かないといけなくなりますが」
「逃げたやつは死あるのみだ、監視も適当で構わないぞ」
捕虜の数は3000人程度か、既にイリカ村の住人は解放したし
明日からは街の復興の為に働くようにサラから通達させてある。
南地区の住人は運がないと諦めてもらおう。
まだ領主の住んでいた城には入れない、ギレ君は律儀に屋敷に住んでいて
くれて助かった、城はノースフォールへの出兵以降使われていないようで
状態もいい、すぐに入ってしまいたいが、俺は街に着いてない事になっている。
☆
夜が明けて、100人程度が変死したという報告以外は大きな変化は無い
街は静かで、昨日内乱があったとは思えないほど日常的な一日の始まりだ。
「ミラ大丈夫か食べ過ぎか、大丈夫ですみんなにお礼を言われて疲れました」
「そうだな、サラとミラが今回の戦いの首謀者になっているからな」
雑務は山のようにあるが、俺は今日到着予定になっているので暫く寝て待つか。
残りの仕事はハイム達に任せて一休みさせてもらおう。
残高:9億6千万と金貨75枚と金貨袋1つと押収した金貨




