第二十七話:忘却のダンジョン(3)
睡眠不足が激しいので順番がくるとすぐに眠れたがここ数日の不規則な生活の
せいで熟睡はできなかった、寝てから3時間程で目が覚めてしまった。
起きるとシャル以外はまだ寝ていた、半端に眠いと余計集中力が散漫に
なるのでお湯をわかして、ドリップ式のコーヒーをシャルと二人で飲む。
「カズマさん、これは美味しいですね」
「ああ、眠い時にはいい飲み物だよ、酒とは逆の効果だね」
「まだヒルダは当分起きないと思いますよ」
「ちびっ子は大活躍だったからな、疲れが取れるまで寝かせておいてやろう」
「前にここへ来た時は、こんな状態でボスに挑戦したのかい?」
「はい、食料もギリギリでしたし、時間がかかるといろいろと……」
「いろいろっていうと分け前とかかい?」
「はい、ここへ来る最中にパーティリーダーが死亡したパーティが
一つありましたので、人選に揉めてしまいました」
「リーダーが死ぬと問題あるのかい?」
「ボス戦に入れるのは3パーティ迄なんです、私たちの場合でいうと仮に
ソロの冒険者が3人ここに来たとします」
「その場合一緒にボス戦に挑めるのは、2人だけです、残り1人は挑めません」
「その時はソロの人にパーティを組んでもらえばいいんじゃないの?」
「パーティはダンジョンの中では結成やメンバーの入れ替えができません」
「つまり、我々のように5人パーティでも追加は無理で、ソロの場合も無理
怪我人がいても外せないという事?」
「そうなります、特にボス戦がメインの場合、討伐報酬は戦闘に参加した者
のみ選択できるので、よほど信頼関係がないと待機という選択はないですね」
「ということは、ここでヒルダを寝かせたまま突入して討伐成功した場合
ヒルダは俺たちが何を獲得できたか、参加した人間に聞くしかない訳か」
「そうです、だから揉めます、特に持ち運びが不可能な物の場合は顕著です」
「持ち運びできない物っていうと、どんなの?」
「たとえばレアスキルとか所有者を求める武器等のマジックアイテムですね」
レアスキルか、やはり早い者勝ちなんだろうか、所有者権利というのは
我に勝った証にこれを授けよう的な物だろうか?
「その戦闘に参加しないと手にできない物は選択する時間に制限があるの?」
「詳しい事は不明ですが、ボス戦に突入すると魔法陣が発動して
パーティメンバーの誰かが逃げ出すまで、外部から入れなくなります」
討伐を諦めて逃げるか、討伐してアイテムを手に入れるか二つに一つか
シビアだ、きっとギリギリで逃げ出しても逃げられないんだろうな。
「私たちの場合はみんなご主人様の取り分だから揉める心配はありませんが」
「なんでも切れる斧とかあったらシャルがもらってよ」
「そんな物でませんが、でたらありがたく頂戴しますね」
なんかいい感じで会話できてる、これはバラ色展開を期待できるか
なんといっても死線を潜り抜けた中だし、吊り橋効果発動せよ。
「ご主人さま、起きるのが遅くなってすいません」
変な事を考えていた罰なのかサラが起きてきた、もうちょっと遅くても
良かったが、これからボス戦だポーカフィイスだな。
「おはよう、コーヒーがあるから飲むかい?」
「ありがとうございます、頂きます」
サラの分のコーヒーを入れて渡す、俺がサラにコーヒーを淹れるのは
たぶんコーヒーの淹れ方を教えて以来だな、いつも俺より早いし。
「シャル、今俺たちがボスに挑んだら勝てるか?」
「ヒルダとミラちゃんがまだ寝てますし、私たちも万全ではないので勝率5割
といった所でしょうか」
「5割か、逃げ出すのが落ちだな、まる一日時間を空けるか?」
「そうですね、後続の冒険者がいないならアリかと思います」
そうだな、順番とかないだろうし、もしパーティがきたら相手が到着してすぐ
まだ疲れが残っている間に俺たちがボスに挑戦すればいいか。
「ではここで待機して、もしパーティがきたらすぐにボスに挑戦しよう」
「はい、それで問題ないかと、多少揉めますが相手も諦めるでしょう」
「前に3パーティで来た時にチャレンジしたという事は冒険者にとってここで
得られる物はかなり価値があるのかい?」
「はっきり言ってしまえば運ですね、最悪の場合ボス自体いない可能性もあり
討伐したとしても金貨10枚程度の事もあります」
「もちろん、爵位が買えるような貴重な品の場合もありますが」
一攫千金か冒険者というのは本当に夢に生きる職業だな。
「とりあえずシャルと俺が分かれて、二人ずつで魔物の見張りと
俺たちが倒しまくって道を開いた階層を通ってきた、小賢しい冒険者
を警戒しよう」
「ご主人さま、そんな冒険者がいるんですか?」
「俺たちがダンジョンに入ったのは村に居た連中ならみんな知ってるからね」
「どこの世界でも人間ほど、強欲な生き物は存在しないよ」
「サラちゃん、運がよければ凄いけど、ダメなら一晩で使い切れる程度よ」
「まあ、いいのが一つあれば良かった程度だろう、10層のボスだし」
問題はボスがどの程度で再出現するかだが、きっと不明だろうな
ゲームなら検証班が組織されるだろうが、運営がたぶんどこかの女神じゃな。
三人でいろいろ話している内にミラが起きだしてきた、用意した椅子に
腰かける前に聞いておく。
「ミラ眠いなら、また寝ていいぞ、これからシャルが寝るから一緒にどうだ?」
「ミラはもう起きたです、問題ないです」
「そうか、じゃあ仕方ないとりあえずシャルは疲れを取ってくれ、後で交代だ」
「はい、それでは寝かせ貰いますね」
そういって、ヒルダの眠っているテントにむかった、サラもミラも眠そうじゃ
ないしまあ次にシャルが起きるときはヒルダも起きてるだろう。
それから8時間ほどしてシャルとヒルダがテントからでてきたので交代
一体ヒルダは何時間寝てたんだ、とにかく交代で俺たちが眠りにつく。
☆☆
今回はいい感じで眠れたようだ、時計をみると7時間経ってる睡眠も十分だ
サラはおきていたが、ミラが寝てるので起こしてみんなと合流。
「シャルとヒルダは万全の状態かな?」
「はい、元気いっぱいです」
「それはよかった、では1時間ぐらいしたらボス戦にいくか、軽く食べておこう」
シャルとサラが食事の用意をする、全員で取る食事は久しぶりなのでパンと
シチューにトマトサラダに神戸牛の霜降りステーキガーリック風味だ。
「美味しそうです、いただきます」
「「「これ美味いです」」」
みんな美味そうに食べてくれて満足だ、高かったからな。
「ところでみんなのレベルの自己申告の時間だ、ヒルダからね」
「私はなんと、レベル29です」
「ミラはレベル35です」
「わたしもミラと同じです」
「私はレベル49です」
「みんなかなり上がったな、特にヒルダが凄いな、俺はレベル22だ」
「ご主人だけ、ちょっと残念です」
「でもご主人さまと一緒にパーティを組むようになってからスキルの上がり方
がよくなった気がします、きっと神の加護がおありなのでしょう」
加護か、一応あの幼女の加護に当たるのだろうか?
確かにスキルの上昇率はいいし、最初にステータスが激増したのには感謝だし。
レベル確認の後、30分程度で出発、10分に1体か2体の遭遇率で
レベルは50前後の魔物と遭遇するが、俺たちもかなり力がついてきたのか
1分程度で倒せる、2体いても3分かからない。
そしていよいよ扉の前に到着、さてボスはいるのか、不在は勘弁してほしいが
お宝はダメでもかなりのレベルアップが見込めるらしい。
「ではいくか、初めは俺とシャルで前衛、サラとミラが真ん中で
ヒルダが一番後ろだ」
「「「「はい」」」」
石でできた扉に触ると、扉が光、ドアが開く。
どうやら異世界自動ドアらしい。
中に入るとドアが閉まる、これで誰かがドアの触れなければ開かない訳か。
ドアの開く時間を考えると半壊した場合生き残って出られるのは数人だな。
中にはいって、3分ほどするが、何も出てこない。
これって外れかと思ったが5分経過で大きな魔物が現れた。
どうやら外れではなかったようだ、魔物は体長6メートル程ある名前ありの
ガレ・エレファント、レベルは70、なかなかの敵だ。
俺たちが囲むと、魔物の後ろから二回りは小さい魔物が出てきた
2体相手か手間取るな、小さいのから倒すか、とりあえず鑑定様で
みるとギレ・エレファント、レベル・・と出る。
鑑定さまーー仕事してよ。
焦るな、ここは鑑定様を信じるべきか急いでみんなに指示を出す
「みんな小さいほうはかなり強い、シャルは小さい方を相手に防御に徹してくれ
サラは援護、ヒルダは後方から支援と目潰しに専念だ」
「ミラと俺はデカいのを一気に倒すぞ!」
「「「「はい」」」」
俺は【ウインドカッター】で攻撃をいれるが象タイプの為に致命傷にならない
ミラも上達したホーリアローで攻撃するが、目くらましになる程度だ。
「吹き飛ばせ【アクアフラッシュ】」
3発当ててやっと足を1本切り落とした、だがまだ敵は動ける、ミラは短剣が
急所に届かないし、弓がほとんど効かないので苦戦しているが、魔法で援護して
くれている、俺はもう1本の前足に『アクアフラッシュ』を入れて前のめりに
倒す、しかしまだ戦意は落ちていないようで、今度は魔法で攻撃してくる。
ガレ・エレファントは水魔法レベル6だ、かなりの水攻撃が俺目掛けて
飛んでくるがかわして、『ウインドカッター』をお見舞いする。
隣をみると、シャルが血まみれ状態だ、怪我して随時ヒルダが『ヒーリング』で
治しているようだ、前に来た時もこんなに強い相手だったのだろうか?
もっと詳しく聞いておけばよかったが後悔している時間はない。
とにかく、このおおきい象を倒さないと援護できない。
「ミラおまえも、小さい方へまわれ、目を狙って攻撃だ、ダメージは気にするな」
「はい」
一人になったがだいぶ弱っている、刀で斬りつけゼロ距離から
『ウインドストーム』をお見舞いする、暴風の中のガレ・エレファントに斬撃を
加えつつ、効果が切れたら風魔法をお見舞いする、なんとかこっちはかたずいた。
横をみると3人で囲んで攻撃、ヒルダは完全に回復に専念、オーバーヒール気味
の『ヒール』で回復している、どうやらシャルがなんとか抑えてくれたらしい。
俺も『アクアフラッシュ』で戦闘に参加するが大してダメージが出ない
『ウインドカッター』で攻撃しても傷はできるが、体の切断には至らない。
「食らえ【ウインドストーム】」
たぶん俺が使える風魔法で継続ダメージは一番大きいと思うが傷を与えるに
留まる、決定打にかける状態だ、そこでシャルが右膝をついた、どうやら限界が
近いらしい、ここで盾役に抜けられては全滅もありえる。
使ったことはないが、ペコの魔法でいくしかないか、効果は不明だが名前で
選んだ魔法を使う。
「ミラ、シャルを連れて少し離れろ、サラは少しだけ注意を引いておいてくれ」
返事はないが、ミラが動いてシャルを移動させる、しばしサラが盾役だ。
【恨むなよ、敵を倒せ、リッヒテンドリッテル】
どうやら光魔法に属するのだろうか?
光がギレ・エレファントを包む、しかし色が赤い。
俺も久々にMPが減っているのを実感した魔法だ。
魔力を光に込めるようにイメージして威力の増加を図る、上手くいっている
ようだ、敵は動けなくなったようで、どうやら根比べらしい。
俺は魔力を秒間1000位こめる気持ちで【魔力操作】に意識を集中する
20秒くらいでギレ・エレファントも膝をついた、サラとミラが短剣で目を
攻撃する。
俺も刀で攻撃に参加するか迷ったが直感的に今拘束を解いてはダメな気が
するのでペコの魔法で押す。
そこからさらに20秒くらいでやっとギレ・エレファントは倒れた
やはり余力があったようだ、危ない危ない。
戦線復帰したシャルが首を切り落とし、なんとか勝利を収めた。
振り返ってみるとこのボス戦はレベル50以上の3パーティは必要な相手だな。
最初に小さい方から攻撃してたら、シャルが先に倒れていたら、高位の
ヒーラーのヒルダがいなかったらとかなり綱渡りの戦いだった。
魔物2体をアイテムボックスに収納した。
しばらくすると、大きな箱がでてきた、2トン車位だろうか。
「シャルこれが戦利品ってやつか?」
「はい、そうなります、開けますね」
中には鎌のような武器、短剣が一つ、弓が一つ、杖が一つ、剣が一つと
武器が全部で五つと見たことがない道具が二つ、古ぼけた袋が2つと
卵のようなものが2個入っていた。
「武器とか光ってるけど、これは取り出した人間に所有権が出るという
マジックアイテムでいいのか?」
「カズマさん、そうだと思います」
全部取れるとは限らないから優先順位をつけるか、鎌、弓、短剣、杖、剣
次に道具二つに、古ぼけた袋二つに最後に卵でいいか?
「ではシャルがまず鎌を取れ、次にサラが弓、ミラが短剣、ヒルダが杖だ」
みんな武器を取るが、まだ取れるようだ、俺が剣をまず取り、次に道具を
そして、袋を二つ取る、卵は呪われそうで迷ったが、とりあえずゲットだ。
全部取り終わり部屋から出ようとするとシャルが逆の方へ向かう。
みんなで後を追うと部屋の隅に光る魔法陣があった。
「みなさん、たぶんこれで脱出できると思います、手を繋いでおきましょう」
みんな片手に武器で左手だけ繋いで円状になって魔法陣に一斉に乗り込む。
気がつくとどうやら移動したようで村に着いたのかと思ったが
村どころか山も見えない、どうやらかなり遠くに飛ばされたらしい。
「みんな体に異常はないか?」
「「大丈夫です」」
「「だいじょーぶ」」
「誰かここがどこか見当がつくか?」
誰もわからないらしい、とりあえず移動するか、テテに乗れば大陸間移動でも
してさえいなければ大丈夫だろう。
「とりあえずみんなの武器を預かろう、アイテムボックスに入れておくよ」
「「「「はい」」」」
武器を受け取り、テテを呼び出すバイクに変形してもらいシャル以外は
荷箱にはいってもらう。
「シャル周りをよく見て、場所を特定できる物を探してくれ」
「わかりました」
「ではいくぞ」
バイクで10メートルほど浮かび、とりあえず50キロ程度で移動するが
風景が変わらない、1時間ほどすると街がみえてきた、どうやらカナンのようだ。
カナンか随分飛ばされたが、同じ大陸で良かった。
大陸間なんて地図なしじゃどうしようもないからな。
「とりあえずもう暗いしカナンによって休むか?」
「そうですね、ちょっと疲れましたし」
ちょっとじゃないだろうと突っ込んでやりたいが、かなり血を失っている
だろう、街の近くまで移動して5人で街へ。
今回はシャルがやばいので、貴族証を使って強引に割り込みだ。
門番に貴族証を見せて、そのまま素通り、ちょっと高そうな宿に二部屋取り
部屋へいく、シャルはすぐにベッドへ、ヒルダが治療しつつ見守る。
俺は一人別の部屋へ、いろいろ確認したい事があるが、俺もかなり疲れた。
久々のベッドで休ませてもらおう、まるで1か月振りの感じでベッドにダイブ
してそのまま意識を失った。
残高:23億3千9百万と金貨92枚




