1-4 エルフの王女様
「ひ、姫様だと!?」
これは秘匿情報だったのか、アナトは何度も何度もルナに頭を下げている。
「すいません。すいません。つい、うっかりと口走ってしまいました。」
「そんな謝らなくても大丈夫ですよアナトさん。エルさんもそれにコウさんも悪い方ではないでしょうし、知られたところで問題はありませんよ。」
「で、ですが………。」
「姫様ってバレると何かまずいのか?」
俺はアナトに問うた。
「……それは……。」
何かを誤魔化す様にボソリと呟くアナト。
これはなにか深い事情があるのだろうか?気になる事は沢山あるが、それより先からコウが妙に静かだ。
「どうしたんだコウ?さっきから随分大人しいじゃないか?」
「そうか?俺はいつも通りだよ?」
……やはりなんか様子が変だ。語尾にまじでが付いてない。それになんだか顔付きが普段より男前になっている気が………。
「まぁいいや。姫様……いや、ルナさん?急いでいるんじゃなかったんですか?」
「そうでしたね。皆さんも馬車にお乗りになって下さい!お話は馬車の中でゆっくりと聞かせてもらうとします。アナトさんも操車よろしくお願いしますね。」
「ではお言葉に甘えて。」
ルナと一緒に馬車に乗り込んだ。
人生で初めての馬車だが、お姫様が乗る馬車にしては随分造りがショボい。と言うか勝手に華やかなイメージを持っていた俺からすればちょっと残念に思えただけなのだが。
ルナと向かい合う形で俺とコウは座り、アナトが馬に跨がり、鞭を入れると、ゆっくりと走り出した。
板張りの床と椅子から伝わってくる振動と小さな窓から吹き抜ける風がなんとも心地よい。
少しはしゃいでしまいそうだが、お姫様の前だ。冷静にいこう。
ルナはお上品に座り、少し真剣な面持ちで言った。
「お二人は、どこの街からいらっしゃったのですか?」
「なんと説明したらいいかわからないのですけど、遠くから来たとしか今は………」
苦笑して誤魔化す俺にルナはそれ以上言及する事は無かった。
すると突然コウが口を開いた。
「姫君、わたくしめはどうやら落とし物をしてしまったみたいです。」
「何を落としてしまったのですか?さっきの場所まで戻りますか?」
するとコウは急に立ち上がったかと思うと、片膝をついて、胸に手を当てる。
その動作により、大きく馬車が揺れる。
………………。
「いいえ、物ではありません。これは恋………恋に落ちてしまいました。」
…………………。
空気が凍りついた。シズクが近くにいるのか?って程に凍りついた。
………やっちまったなこいつ。さっきから妙に静かだったのはこれが原因か。
俺はわざとらしく咳払いをし、冷えきった空気に暖を入れた。
「…ま、こいつはいつもこんな調子だから気にしないでくれ。」
「はぁ!?てめぇ俺の真剣な告白を邪魔するんじゃねぇぞっまじで。あと、ルナ様にタメ口使ってんじゃねぇぞ!」
と胸ぐらを掴まれる。
俺はコウの手を振り払おうと………
……ってどんだけ力強いんだよ。
「ああすいません。つい、いつもの口調で話してしまいました。」
「フフフ。お二人は仲がよろしいのですね。気にされなくていいですよ。私の事は気安く呼んでもらって結構ですし、いつも通りで構いませんよ?」
優しく微笑むルナ。
なんてお優しいお姫様なんだろう。
「それじゃお言葉に甘えて。早速聞きたいんだけど、ルナはスラヴの姫様なのか?」
「てめぇルナ様の事呼び捨てにしてんじゃねぇぞ?表出ろこらぁ!!」
胸ぐらを掴むコウの手に更に力が込められる。
「ちょ、ちょ、息……いき…が、わわわ、わかったから手を離せって!話が全然進まねぇだろ。」
こんな馬鹿なやりとりを目前にして、それでも優しく微笑むルナ。
「コウさんも、私に気を使われなくて結構ですよ?」
「そ、そんな事言われましても……」
「仲良くおしゃべりしましょ?」
少し上目遣いをするルナ。これにはコウも悩殺されたのだろう。俺の事を突き飛ばすと、鼻の下を30センチぐらい伸ばして、静かに椅子に座った。
「是非!!おしゃべりしましょう!」
くっそしょうもねぇ男だな全く。
「……えっと、それで話を戻すけど、ルナはスラヴのお姫様なのか?」
「いえ、そうではありません。私はエルフなんです。エルフの国ストレア国の第一王女なんです。」
__っ!?
「エルフ!?」
「はい!エルフです。」
そう言いながら、艶やかな銀色のロングヘアーを掻き上げ、とんがった長い耳を見せてくれた。
本物だ。本物のエルフだ!ゲームや映画やアニメでしか見たこと無かったが、まさかに実物のエルフに会えるとは、異世界も捨てたもんじゃないな!それに第一王女だと?
「それじゃ、どうしてスラヴに向かってるんだ?それに王女様なら、普通護衛とか付いてるもんじゃないのか?」
俺が質問すると、少し神妙な面持ちになるルナ。
「はい。実は、現在私の国では流行り病が蔓延しておりまして、被害はエルフ族の8割と、とても深刻な状況になっています。そこで王族で唯一感染しなかった私を隣国のスラヴへと避難させると言うのがお父様……いえ国王の意向でして……。」
「それは深刻だな。それで護衛もまともに付けれない状況って訳か。しかし流行り病と言うが、何か治療薬とかはないのか?」
「……それだけでは無いのです……。」
更に表情を曇らせるルナ。
「と言うと?」
「ただの流行り病では無いのですよ。我々エルフ族は、長寿で、本来病に対する免疫もかなり高いのです。しかし、最初の発症から数日後には、国の全体へと広がり、死者も出ているのです。そこで考えられるのは、恐らく悪魔による呪いだと私は思っています。」
__!? 悪魔だと!?
「……悪魔!? そんな奴が居るのか?」
「はい……。そこで大変、不躾なお願いだとは思っておりますが、お二人に私の護衛に就いては貰えないでしょうか?」
こんばんは~!
やっとここまで来ました(笑)
書いてるとどうしても脱線してしまい、長々ストーリーが展開していかないんですよw
ルナの護衛とか俺だったら即答でオッケイなんですけどね(笑)
さぁさ、次回はこの世界の構造などのお話を書きたいと思います!
次回もよろしくお願いします。