1-2 俺は人間だ!まじで。
それから数十分は歩いただろうか。
怠惰な生活を送っていた俺からすれば、たかが数十分歩くだけでもしんどい。
それにスラヴの街までは少なくとも1日は歩き続けなければならない。
ぶっちゃけもう日本に帰りたい。
俺は先を歩くコウを呼び止めた。
「なぁコウ。少し休憩しないか?靴擦れしちゃってさ。」
「休憩!?お前いつからそんな貧弱な身体になったんだよ?」
「いや、仕方ないだろ。こんな所に来るなんて思ってなかったから、靴下履かないで、素足でスニーカー履いて来ちゃってさ。」
「仕方ねぇな。5分だけだぞ。」
「あぁ悪い。」
俺達は街道の脇の木陰に腰を降ろした。
「ちくしょう。こんな事になるんだったらちゃんと靴下履いてくれば良かったよ。」
しかしこれは参った。この先1日も歩き続けると考えると、死にたくなる。
そんな事を考えていると、俺達が歩いてきた方から、何かがこちらに向かって来るのが見えた。
コウはすぐさま立ち上がり、そちらに目を向けると大きく手を振った。
「お~い!!!」
俺もそちらを見るが、遠すぎて何かがこちらに向かってくるのは理解できても、それがなんなのかまでは見えなかった。これは別に俺の目が悪い訳ではない。きっとこれもコウの能力の1つなのだろう。
「コウ、あれはなんだ?」
「馬車だよ馬車!!あれに乗せて貰おうぜ!」
それは名案だ。しかしよくあんな遠くが見えるな。
「おぉ!!それはいいな!でも乗せてくれるのかねぇ?」
「俺に任せとけ。こう見えても交渉は得意なんだよまじで。」
「そ、そうか。じゃあ頼んだわ。」
「おうよ!」
コウは自信満々に胸を叩くと、こちらに迫ってくる馬車の前に出て大きく手を広げた。
「そこの馭者さんよ!一度馬を止めて………」
「わわわ。なんです!?そこを退いて下さい!!そうじゃないと……」
__グシャリ。
「えっーー!?」
いきなり飛び出して行ったコウは、馬車に勢いよく轢かれて、地面に倒れた。
轢いてしまった馭者の少女?も慌てて馬を止めて振り返る。
俺はその様子を木陰からそっと窺う
「だだだ、大丈夫ですか…………?」
操車していた、まん丸の目をした少女が、馬から降りてコウを心配そうに見つめる。
コウの反応はない。
そんなコウの様子を見て少女はあたふたとしだし、まん丸の目に涙を浮かべ
「たた、大変ですぅ~。わ、わたし人を殺してしまいました~。ど、どうしましょう……。」
今にも泣き出しそうそうな少女を尻目に、俺はコウがこんな事で死ぬわけ無いだろうと思いつつも、こちらに気付いて無い様子の少女の前にどうやって登場するかと悩んでいると、車輪と蹄の痕を付けたまま、ムクリと立ち上がるコウ。
さすがだなと感心していると、それを見た少女は距離を取り、ポーチから巻物の様な物を取り出した。
「っ!?生きてる!?あ、あなたは一体何者なんですっ!?」
瞳を瞬かせて驚く少女。
しかし、より一層、警戒心を増した少女は持っている巻物を掲げた。
「……痛てて。ん!?いやいや、待ってくれ俺は人間だ!!」
目の前の少女を確認して両手を挙げるコウ。
しかし少女は警戒心を解く事はなく
「に、人間!?う、嘘を付かないで下さい!新手の山賊か何かでしょうか?と、とりあえず拘束させて頂きます!バインドっ!!」
少女が巻物を広げると、閃光が迸ると同時に鋼鉄製のワイヤーが数本コウ目掛けて投射された。
が、しかしそのワイヤーはコウの身体に触れると霧散してしまった。
「っな!?ぐっ。まさか拘束呪文も効かないなんて、あ、あなたは本当に何者なんですかっ!?」
まるで幻を見ているかのように驚く少女。
しかし、呪文を受けた当の本人は気まずそうにポリポリと頭を掻きながら苦笑を浮かべ
「あ、わりぃ。俺もよくわかんねぇんだけど魔法の類いは効かないんだよな……。」
「魔法が効かない!?やはり人間ではないのですね。い、一体なんの目的で接触してきたのです!?」
「い、いや、だから人間だって言ってるじゃないかまじで。」
「いいえ!そんな人間見たことありません!わたしの事子供だと思って騙そうとしても無駄ですっ!こう見えてわたし成人してるんですからっ!」
………これは埒が明かないな。そろそろ俺の出番か。
…………ってかあの少女が成人してるだと!?どうみても小学生ぐらいにしか見えないのだが。
仕方ないので木陰から少女の前へ出ていった。
「そいつは見た目はアレだし、色々と規格外だが人間だからそう警戒しないでやって欲しいのだが………」
「っ!?な、仲間が居たのですかっ!?まるで気配を感じなかったです。何が目的なんですか!?今は山賊に構ってる場合では……」
どうやら俺も警戒対象らしい。
どうやってこの誤解を解こうか悩んで居ると、馬車のワゴンから声が聞こえてきた。
「アナトさん?どうかされたのですか?」
「る、ルナ様!?出て来ては駄目です!野蛮な山賊の相手はこのアナトが……」
「一度ちゃんとお話を聞いてあげてはどうでしょうか?そちらの方々も戦意はないみたいですし。」
美しい声と共にワゴンの扉が開かれた。
皆さんこんばんわ。
いやー前回の後書きでメインヒロイン登場と、言いましたが、中々分量が多くなってしまったので、次回となりますね。(笑)
一応最後に台詞だけは入れたのですけどねw
次回こそはちゃんとメインヒロインが登場します!
次回もよろしくお願いします。