0-2 本当の敵は、この女だったのかもしれない
俺は『勇者』だぞ!?
いや、わからないけど、多分そうだ!
…………なんでもいいけど、俺はこの人の力になりたい!!
「逃げられません。そんなボロボロの女性を置いて、一人で逃げろと仰るのですか?」
ドラゴンの火炎放射を巨大な氷の壁で防ぐ女性の背中は先程の攻撃を受け、土と血で汚れている。
そんな姿になってまでもドラゴンに一人で立ち向かうなんて、この女性は一体何者なんだろうか?
術に集中しているのか、こちらには一切視線を向けずに彼女は言った。
「そうよ。今すぐ逃げなさい!これは別に強がってる訳じゃない。あたしなら大丈夫だから。」
「……そうかもしれないな。あんたは強い……だけど、そういう問題じゃないだろっ!」
「いや、そういう問題よっ!!あなたが其処に居ると、あたしの魔法が全力で使えないの?わかる?あなたさっき凍りかけたでしょ?また氷付けになりたいならそれでも構わないけど。」
「……っぐ……。」
「それとも、なにかあなたにはこの状況を打開する策があるのかしら?」
ハッキリ邪魔だと言われ、言い返す言葉が無くなった俺を、不適に笑って挑発する彼女。
そんな最中、ドラゴンの火炎放射の勢いは衰えるどころか、寧ろ威力が増していた。
「……ある………かもしれない……。」
「だったらさっさやりなさいよ!!このままじゃ、二人とも蒸し殺されるわよ?」
ドラゴンの炎に彼女の氷。
考えて見れば相性は最悪だろう。
炎によって、氷は溶かされ、その水は一瞬で蒸発してしまう。
それに、ずっと氷で守り続けていると云う事は、
この森全体が高温の蒸気に包まれ、巨大サウナ化してしまっている訳だ。
俺は額から垂れる汗を拭いながら、
「驚かないで聞いて欲しいんだが、……えっと名前はなんて?」
「シズクよ!そんな事はどうでもいいから、さっさと言いなさいよ!」
さすがのシズクもこの暑さは堪えるのだろう。
溢れ出る汗を腕で拭いながら、少し息が上がってる様だ。
「シズクか。……し、シズク…さん……。驚かないで聞いて欲しいんだが……実は俺、勇者 なんだ!」
そんな事言われても、簡単に信じて貰えるとは思っちゃいない。
だけど、それ以外になんと説明したらいいものかと少し困惑気味の俺の左腕を強引に掴むと、氷の壁から目を離せないのか、前を向きながらもチラチラと俺の左手の紋章を確認するシズク。
「はぁ!?あんたが 勇者 !!?信じられないわっ!」
まるで目を見開いてその紋章と俺の顔を交互に確認している様だ。
様だ。と言うのは目を何かで覆っているから、実際にはどうかわからないからである。
「驚くところが少し違うだろっ!なんかその言い方じゃまるで、俺が勇者に見えないみたいじゃないかっ!…それと、あんた本当は目見えてるだろ?透けてるのかその布??」
俺に指摘されて、プイッとそっぽを向くと、
暑さからなのか、照れからなのかはわからないが、頬を赤く染めながら小さな声で言った。
「す、透けてないわよ………」
そんな事より暑い………。
「お、おい。それより氷の威力落ちて無いか?暑くて倒れそうだ………。」
だ、駄目だ意識が朦朧と……………
「ちょっと!あんた大丈夫?勇者だって言うならその力魅せてみなさいよ。」
「…………っと!」
「ちょっと!ねぇ!!」
「……い…てるの?」
「あんたしっかりしなさいよ!!」
「……………_っは!?」
あまりの暑さで意識が飛びかけていた様だ……
朦朧とし、視界がうっすらとぼやけながらも、
頬を染め、汗を拭いながらも必死にドラゴンの攻撃に耐えてるシズクの姿はとんでもなくエロい!!
それだけは理解出来た。
それに、汗で濡れ濡れになって下着が透けているではないかっ!!
「……シ…ズクさん…………今日は…黒ですかっ!」
「黒!?な、なんの話よ?まさか、この暑さで……………」
地面にうつ伏せに倒れながらも渾身の力で、頭だけを起こしシズクの決して大きくは無い胸を凝視していると、俺の視線に気付いたのか、暑さで元々赤く染まっていた頬をさらに紅潮させ、
「…………あんたねぇ。人があんたの事庇いながら戦って、心配してやってるに……そんなふざけた事がまだ言えるのねっ!!」
「いやっ!ち、ちがっ………」
パキパキと周囲の空気が冷たさを増していく。
「ごめん!ごめんごめんってーー!!!」
シズクを中心から発する冷気の勢いはどんどん増して、次第には、ドラゴンの炎の熱なんて全く感じられない程に極寒となった。
当然、周囲の草花や、地面はガチガチに凍っている。
「あら?勇者ならこれぐらい耐えられるんじゃないの?」
まさに氷の魔女と言わんばかりの冷たい目線が俺に突き刺さる。
「わわわ、悪かったって!!ほんとに死ぬからっ!俺凍死しちゃうからっ!」
「大丈夫よ。街に帰ったら解凍してあげるわよ。」
顔が笑ってない。
どうやら本当の脅威はドラゴンではなく、この女だったのかも知れない。
あーあ。髪の毛パリパリなってきたし、手足の感覚無くなってきたな。
まさか、この数分間で暑さで死にかけ、今度は寒さで死にかけるとはな……。
勇者生活始まったばかりなのに……散々だな。
シズクの放つ冷気に為す術なく、ブルブルと震えていると、
森の奥から、凄まじいスピードで何かがこちらに迫ってくる気配を感じた。
「………なんかこっちに来るみたいだけど、何かしたのか?」
俺は真っ青な唇でシズクに問いかけたが、どうやらシズクが何かをした訳ではないらしい。
「………そうね。……何か来るわね。」
「何か来るわね。じゃねーよ!おいおい、今度はなんだよ。もう勘弁してーーーーー。」
次回公開は近いうちに!
次もよろしくお願いいたします!