0-1 ようこそ異世界へ初めましてドラゴン
「あれ?なんだこれは?……何も…無いな。」
此処は、どこだ?
今、俺は何をしている?
それが全てわからない。
ただ理解する事が出来るのは
ここには真っ暗で何も無い。俺の身体の感覚すら無い。
そう。ここには俺の意識しか無いのだ。
「でも確か……さっき神様と会って、俺はこれから 勇者 になるはずじゃ…………」
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太陽の光が俺を包み込む。それは生い茂る木々の隙間から差し込んでいる。
気がつくと、俺はいつの間にか森の中で倒れていた。
「ここは、森の中なのか…………異世界!?」
上体を起こし、キョロキョロと周囲を見渡す。
俺の記憶が正確であるのなら、此処は異世界であるはずなのだが…… 日本のどこかの森だと言われても違和感はない。と、言うかなんも変わらない。
今は何かを考えるより、此処がどこなのかを調べる必要があるだろう。
俺はパーカーのフードを深く被り直し、未知なる森の散策を開始した。
「あーーーーー。つかれたーーー。どこなんだよ此処はよ…。」
ここ最近怠惰な生活を送っていた俺からすれば、たかが数分森を歩いただけで息があがってしまう。
「うわぁっ!!!??なな、なんだこれ!?」
木の幹にかけた自身の左手の甲を見て驚きの声を上げた。
だって、俺の左手の甲には見たことの無い紋章の様なものが浮かび上がっており、不気味にも青白く光っていたのだ。
……しかし、それ以外に変わった様子は無いようだ。
俺はとある神様と一つの約束をした。
俺の願いを叶える代わりに、『異世界』で『勇者』になれ。と言われた訳だ。
でも、具体的な事は何も聞かされておらず、ここが、どんな『異世界』なのかも『勇者』とは一体なにをするのかもわからないのだ。
その時だった。
どこか遠くの方から、なにか大きな物が動く音が聴こえてきた。
俺は草木を掻き分けながら、音の発生源の方へと近付くと
音は大きな振動へと変わった。
恐らく、巨大な何かが移動する足音だろう。
「あれ!?音が止まったな。」
不自然にも急に音は鳴り止んだ。
少し先が拓けていたので、俺は木の隙間から、そっと様子を窺った。
「っな!?こ、これはなんだ!?」
正直、この時は息を飲んだ。
目の前にいたのは、超巨大なトカゲだ。
その大きさを例えるならば、電車の車両を二両、横に並べたぐらいだ。
ここまできたら、翼こそ無いが、ドラゴンと言っても過言では無いだろう。
俺は息を潜めながら、少し冷静に考えた。
まず、この光景を目の当たりにして此処が、異世界である事は明確だろう。
だとすれば、俺はこの世界では『勇者』な訳なんだが、何だろう………。
情報少なくねぇかっ!!?
召喚されて、間もなく、ドラゴンと遭遇!?
こんなの完全に無理ゲーだろ。
でもよく考えて見れば、まだ見つかって無いみたいだし、このまま逃げるのが得策だろう。
多分、此処は、森の街道沿いなのだろう。
その街道は舗装こそされていないが、綺麗に整備されていた。
そしてその街道を通せんぼする様にドシンと構えるドラゴン。
俺はその脇の森の中をこっそり移動していた。
「あれ!?なんか急に寒くなってきたな。」
まるで、目の前で冷凍庫を開けたかの様に、サッーと空気が冷え込んできた。
「どうなってんだ!?……ん?霜が降りてるのか?」
心地の良い気候だったはずが、いつの間にか足元の草花には霜が降りていた。
慌てて、街道の方へと目をやると、ドラゴンの視線の先には一人の女性と、一頭の馬が居た。
恐らくこの冷気はその女性が放っているのだろう。
彼女の足元の地面から徐々に範囲を広げ、次第には街道沿いの木々もが凍りついて行く。
「おいおいおい。まさか、この森ごと、あのドラゴンと一緒に氷付けにするんじゃねぇだろうな!?勘弁してくれよー!!」
「ちょっと待ったーー!!!ストップ!!ストップ!!死んじゃうからっ!俺も凍っちゃうからっ!!」
俺は慌てて、術者である女性の前へと、飛び出した。
女性はこちらに気付き、術を解除したのだろうか、凍りついていた地面が、元に戻っていく。
「死ぬかと思ったー。ハァ」
と、その時だった。
術を解除した隙を付いてドラゴンは女性へと猛烈な体当たりをした。
虚を突かれる形になり、為す術も無く地面を転げる女性。
………俺の所為だ。
俺は地面に倒れた女性の元へと駆け寄った。
この時ドラゴンの事なんてどうでもよかった。
「大丈夫ですか!!?ごめんなさい!俺の…俺の所為で……。」
恥ずかしかった。悔しかった。そして俺の所為で人を傷付けた。
泣きそうな俺に対し、
ボロボロの身体を起こし、こちらをちらりと見て
「この程度の怪我なら全然問題ないわ。それより、あなたこそ…………。」
「えっ?ど、どうかした……。」
俺の顔を見ると急に固まる女性……
てか、目の部分を黒い布の様な物で完全に覆っている。
そもそもこの人は俺の事見えてるのか?でもすげぇ見られてんだよな…。
「……えっと。」
「………っ!?……ごめんなさい。なんでもないわ。あたしは平気だからあなたは逃げなさい。」
俺が声を掛けると、ふっと視線を逸らす様な素振りする女性。
…えっ!?それ見えてるの?その布もしかして透けてるのか?
なんて考えていると、
「何をボケっとしてんのよ?何?私の顔に何か付いてる?」
付いてるよ!!!
その目全体を覆うように巻いてるそれ何っ!?
とは聞けず、
「…悪い。何でもない。逃げろって言うけど、あんたボロボロじゃないか。そんなんで戦えるのかよ?」
女性は素早く立ち上がり
「人の心配より、自分の心配したらどう?」
ドラゴンが放った火炎放射を巨大な氷の壁を顕現させて、防ぎながら言い放った。
俺には分かっていた。
この人は強い。逃げるべきなのだろう。
だけどさ、俺の所為で一人の女性に怪我をさせて、更にその人を戦場に置いて逃げろだって?
……そんな勇者聞いた事ないよな?
って言うより、そんなダサい事俺のプライドが許さない!!
次回公開は近いうちに。
皆さん是非次も読んで下さいね!