悪と呼ばれ婚約破棄され追放されたあなたを救いたい
いつも太陽をあおぎ見るようにあなたのことを見ていた。
私にとって貴女は太陽のような人だった。
周囲はよくあなたを氷女と陰口を叩いていたけれど、それは誤解だと私は知っていた。
異国の地で困り果てている私にもあなたは親切だった。
いや、あなただけが親切だった。
あなたと出会うまで私は灰色の檻に心をとらわれていたという。
その檻を壊してくれたのがあなただったのだ。
あなたと会える日が私にとっては救いだった。
異国人が意地悪で冷たくとも、あなただけは優しかった。
あなたと出会っただけで雨が上がり、雲が割れて太陽が差し込むようだった。
あなたと会えるだけで私の魂が喜びで震えていた。
あなたとめぐりあうまでは、青空が美しいことも、太陽があたたかいことも、鳥の歌声が音楽だということも分からなかった。
ただ、私にとって悲しいことがあった。
あなたは故国の王子の婚約者だった。
私はあなたと結ばれたかったのに、それがかなわないのだと思い知らされた。
そうと知った時、太陽が西に沈んでいき、鳥たちはどこかへ飛び去り、枯れた花だけが私の心に残った。
あなたはとても素晴らしい女性だった。
そのあなたが誰かに愛されることも、誰かに嫁ぐことも自然なことのように思われた。
それでも私の心はいやだと叫んでいた。
私が立ち直るまで、しばらくの歳月が必要だった。
砕けたガラスは元通りにはならないのに、私の心は何とかなおったのは不思議だった。
私はあなたが幸せなら祝福しなければならないと自分に言い聞かせた。
あなたは政略結婚だからと、あまり幸せそうではなかった。
それでもあなたのすばらしさに王子が気づけば、きっとあなたは宇宙で一番幸せな花嫁になれるだろう。
私としては王子があなたのすばらしさに気づかない暗愚でないことを祈るしかなかった。
王子が幸せかどうかはどうでもよかったが、あなたが幸せであることは私にとってなにものよりも重要だった。
少なくとも私なら全財産を、魂さえも捨てても惜しくはなかった。
私は生まれて初めて本気で神にあなたの幸せを祈った。
ところが神は私の願いをかなえなかった。
あなたはいつしか悪とさげすまれ、婚約破棄をされたあげく、流刑にされたのだ。
私の怒りが火山のように噴火しなかったのは、私の側近たちの尽力のたまものだった。
彼らの努力がなかったらどれだけの不幸が生まれたのか、分かったものではない。
あなたを苦しめた輩がどうなろうと私の知ったことではないが、あなたが愛した故郷を滅ぼすのはよくないことだった。
あなたは一生罪人として生きていくとされ、とうとう私の我慢は限界に達した。
私は故郷の惑星に帰り、父に会いに行った。
「父上、決めました。私は玉座に座ります」
「……ようやく腹を決めたか。しかし何があった、ジーク?」
宇宙帝国の皇帝たる父は鋭い目で私を見る。
この父をあざむくことは私には無理だった。
「愛する女性を不遇から救いたいのです。そのためにはこの帝国が必要です」
あなたの故郷である宇宙王国は私の故郷ほどではないが、大きな力を持っていた。
私個人の力ではあなたを救って逃げ出すことなどできなかったのだ。
「ああ、王国の貴族令嬢か」
父は瞬時に理解していた。
私が王国に留学して何をしているのか、すべて把握しているかのようだった。
「女に骨抜きにされたと聞いて、どうやって貴様に喝を入れようか悩んでいたのだが」
父はにやりと笑った。
この時、運命の女神はあなたを守ってくれたのだと私は直感した。
父がその気になればあなたを暗殺するくらいできたからだ。
私があなたと結ばれて帝国に帰る気をなくせば、おそろしい破滅が襲ってきたに違いない。
「まあいいだろう。まずは皇太子となれ。そして王国を撃破せよ。そうすれば王国の女一人くらい自由にしてもよい」
「ありがとうございます!」
父は陰謀家ではあるがうそつきではない。
私相手にうそをつく必要も感じていないだろう。
つまり父の要求をのめばあなたを救えるチャンスがあるのだ。
私が継承をいやがっていたのは、あなたの敵となりたくなかったからだ。
あなたの愛する故郷を侵略する憎い敵になりたくなかったのだ。
だが、あなたは今すべてを失い、すべてに失望している。
もう遠慮は無用だった。
私は軍の司令官となって王国へ出撃した。
めざすのはあなたが流刑にされた地域だ。
あなたを救い肥沃な地域を手に入れ、帝国を継ぐ者としての存在を臣民たちにアピールするのだ。
しかし、私は別に軍の専門家ではなかった。
大事なのは有能な専門家たちを登用し、彼らの実力を発揮させることだった。
有能な専門家たちは王国艦隊に圧勝し、私に勝利をささげてくれた。
提督として五十回出撃し、全勝している名将がいる。
勇猛果敢な豪傑タイプの提督がいる。
防衛の名手で本隊の護衛を任せるのに最適な男がいる。
巧緻極まる戦略で独立行動してもよし、他の艦隊と連携してもよしというすばらしい提督もいる。
彼らこそ帝国の巨大財産だった。
「我らが手足となって、ジーク殿下に栄光を捧げまする」
提督たちはそう唱和した。
今回の戦いの勝利で複数の星系を我らは手にした。
「ああ。忠義、大儀である。汝らの働きは私の知るところだ」
私がするのは彼らを称え、報いることを約束することだ。
そして私はあなたを迎えに行った。
「ジーク?」
驚くあなたに私はすべてを話した。
私は宇宙帝国の皇太子であり、次期皇帝だ。
あなたさえよければ妃に迎え入れたい。
だが、敵を殺せと命令するよりも、あなたにプロポーズすることの方がよっぽど難しかった。
あなたに幸せになってもらうことは、宇宙を征服することよりも難しいのではないだろうか。
それでも私はあなたに微笑んでもらいたい。
ずっと幸せでいてもらいたい。
「私と結婚してくれませんか?」
勇気を振り絞って私は言った。




