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9・勝ち組神官をボコボコにする

 あれは俺が悪魔審判を受けていた時だ。


「ハハハ! イーディス教の神官という職業は最高だな! 神官と聞いただけで、女共が寄ってきやがる!」

「そのおかげで絶世の美女を抱きまくりだ。前なんか道具屋の娘が接待してくれたぞ? 良いケツだった」


 俺は狭い部屋から閉じ込められていたが、外からいつもそんな声が聞こえてきた。


「信者がいなくなれば、今いる信者から金を巻き上げればいい。我々の栄光は永遠だ!」

「その金で美味しい飯と女を食う。オレ、親がイーディス教の神官で良かった〜。なんの苦労もせずに、ここに入れたからな」


 その声はあまりにも邪悪であった。


「こいつ等が……一番悪魔だ……」


 周りもなにも見えない部屋で膝を抱えながら、俺は一人呟いた。


 ◆ ◆


 そして今。


 大聖堂に侵入した俺は、早速暴れ回っていた。

 侵入者おれを排除しようと襲い来る神官から、武器を奪っては倒していく。


「か、体に力が入らない! これはどういうことだっ?」

「魔法も発動出来ないっ? バカな! 素晴らしい魔法スキルを授かった勝ち組のオレが、どうしてこんなことに?」


 神官達は、阿鼻叫喚を上げて逃げ回る。 

 見た者から順番に弱くなってもらい、素敵な底辺生活をプレゼントしたのだ。


 それを俺は害虫を駆除するかのごとく、順番に処理していった。


「た、助けてくれ! 神はいないのか……!」

「神はいるよ。お前の目の前にな」


 そう言いながら、ハンマーを頭に叩き落としてやった。


「そ、外に……逃げるしか……!」


 神官の何人かは戦意を消失してしまっているらしくて、正門を開いて外に逃げようとした。


 だが。


「ひ、開かない?」

「どういうことだっ? も、もしや……この悪魔が結界を敷いたということなのか!」


 いくら押しても重い扉が開かないので、神官共は焦っていた。


「結界? 俺、そんな魔法使えないよ」

「ひっ……! お助けを! お前に慈悲の心はないのか!」

「慈悲? なんだ、そりゃ。俺が悪魔審判をやられていた時、いくら命乞いをしても聞いてくれなかったよな? だから俺も容赦する必要はない」


 外に逃げようとする神官の後ろから近付き、背中に剣を突き刺した。


 ここから逃げ出そうとする神官を、どうしようかと思っていたが……労せず、その心配はなくなったらしい。


 まさか信者から巻き上げた金で作った豪華な扉が、あだになるとはな。

 中には大理石やら金やらを埋め込んでいるせいで、扉は若干じゃっかん重くなっているのだ。

 弱くなっているこいつ等には、最早それを開けることすらも出来ない。


 俺はハンマーを振り回しながら、大聖堂を闊歩かっぽしていく。

 体中を返り血で濡らした俺は、さぞこいつ等の目からは悪魔にでも見えていたに違いない。



「皆の衆、静まりかえれ」



 しばらく暴れていると、奥からのそのそと偉そうに歩いてくるジジイを見つけた。


 俺はそいつを知っている。

 悪魔審判がやられた時、こいつもいたのをずっと覚えていたのだ。


「教皇クリフトン……とうとう出てきやがったな」


 イーディス教のトップだ。

 これだけ暴れ回っても、全然出てこないので違うところから逃げたかもしれない……と思っていたが、どうやら神は俺に味方しているようである。


「クリフトン様だ……! 神々しい……!」


 さっきまで鼻水垂らして逃げ回っていた神官共であったが、教皇を見ることによって、活気を取り戻していった。


「悪魔よ。そなたはどういうつもりだ?」


 これだけの惨事であっても、教皇は落ち着き払った口調。


「腐敗したイーディス教に神罰を与えにきた」

「愚かなものめ。神の代理者のつもりか? イーディス教が腐敗しているだと?」

「ああ。金しか興味がなくて、悪魔審判だとかいう理由を付けて、可愛い女の子を奴隷にしたり、いたぶっているお前等のことだよ」

「物事の本質がそなたには見えてないようだな……それに……隣には獣人族? なんと汚らわしい。イーディス神様も嘆いておるわ」


 イーディスを見て、教皇は顔を歪めた。

 確かにイーディス神は嘆いている。


「アルフ。あいつ等、不快。やっちゃって」


 だが——俺じゃなく、お前等に対してだ。


「分かってるって」


 それにもうはじまっている。


「まずは同士達の傷を癒そう」

「おおお! 教皇様あああああ!」


 と教皇は杖をゆっくり掲げ、神官共が歓声を上げた。


 ふう。

 どうやらこいつ等は、まだ自分の負け確の状況に気付いてないらしい。


「聖なる神よ……聖戦によって傷ついた者の魂を救いたまえ。ホーリーヒール!」


 …………。


「……あれ?」


 教皇は顔に似合わない間抜けな声を出し、目を丸くした。


「ど、どうしてだ……! 私のホーリーヒールが発動しないっ?」


「お前はもうそんなの使えないよ。一生な」


 俺は教皇まで大股で近付いて、思い切り腹を殴った。


「うわああああああああ!」


 教皇は間抜けな声を上げて、吹っ飛んでいった。


「これで終わりだと思ってないよな?」


 俯せに倒れている教皇に近づき、髪を強引につかんで顔を上げてやった。


 ハハハ!

 間抜けな顔をしてやがる!

 さっきの衝撃で、歯が何本か折れているじゃねえか!


「な、何故だ……儂がこんな、悪魔なんかにやられるわけないというのに……魔法が発動しない……?」


 教皇は明らかに混乱していた。


 今までだったら絶対的な回復魔法と防御魔法で、相手を寄せ付かなかったんだろうか。

 だが、今となってはこのジジイは俺より弱くなっているため、上級魔法なんて使えなくなっているから無意味だ。


「お前……俺のこと覚えてるよな?」

「無論だ。勇者パーティー唯一の汚点であるアルフ……」

「汚点かどうかはともかく……そうだ。昔、悪魔審判で俺を大層イジめてくれたのも覚えてるよな?」

「悪魔……審判……そなたをか? なんのことだ? わ、儂はそんなことしてないぞっ!」


 必死に否定する教皇。

 本当に覚えてないのか、それともこの窮地を乗り越えるために嘘を吐いているかだろう。


 どちらにせよむかついたので、教皇の腹を蹴った。


「んぐっ、ばっ……!」

「お前は覚えてないかもしれないが、俺はしっかりと覚えてんだよ。俺がいくら『止めろ!』と叫んでも、あんたは止めてくれなかったよな? それどころか、回復魔法で俺が丁度死なないように調整してくれたよな? そのおかげで、俺は死ぬような痛みを延々と味わうことになってしまった」

「ち、違う……! あれは儂の指示ではなく……」

「俺がボロボロになっている光景を見て、嬉々とした表情を浮かべていたのを覚えているんだが? 『ほっほほ。我慢するがいい。乗り移った悪魔はもうすぐで出てくるだろう——そなたが死ななければ』と言ってたのが、耳にこびりついているんだが? 下手な嘘吐くんじゃねえ!」


 今思い出しても、はらわたが煮えくりかえる。


「た、頼む……許してくれ……! これもイーディス神が望んだことなのだ」

「そうやって、都合が悪くなったらすぐにイーディスのせいにするのもむかむかする」


 その後、俺は「許してくれ」「止めてくれ」と教皇が叫んでも、殴ったりするのを止めることはなかった。

 こいつにはまだやってもらうことがあるから、死なないように調整しながらな。

 それに簡単に死んでしまってもつまらない。


「や、止めてくれ……頼みなら、なんでも聞く。金か? 金ならいくらでもやる。だからここは儂だけでも見逃してくれ……」

「ハハハ! 人の上に立つ者が、部下を見捨てて命乞いかよ! 気に入った!」

「じゃ、じゃあ……儂だけは」

「と言うとでも思ったか?」


 そう言って、もう腹を蹴った。


 ボコボコになっていく教皇の顔を見ていると愉快になってきたが……ここでお腹いっぱいになってしまっては、もったいない。

 まだメインディッシュが残っているのだ。


 俺は教皇の髪を持ち上げ、


「今すぐあの尻軽枢機卿(すうききょう)——マルレーネをここに呼びやがれ」

「なっ……! 勇者パーティーに同伴しているマルレーネをだと……?」

「方法は色々あんだろ? 遠いヤツと連絡が取れる魔石とか持ってんじゃねえのか? 転移魔法も使えるだろう?」

「しかし……マルレーネは今どこにいるか分からぬ……」

「嘘だな」


 そもそもマルレーネが勇者パーティーとして魔王を倒し、しばらくの間王都に滞在していることは有名なはずだ。


「…………」

「ペナルティ一。指折りの刑だな」

「ぐあああああああああ!」


 手始めに人差し指を折ってやると、教皇は苦悶の声を大聖堂に響かせる。

 今となってはあれだけきらびやかだった大聖堂も、血で濡れた素敵な場所になっていた。


「早く呼びやがれ。さもなくば、このまま順番に全ての骨を折っていく——」

「わ、分かった! 今すぐ呼ぶ! だからもう止めてくれ!」


 さっきまで偉そうにしていた教皇は、今となっては顔をぐちゃぐちゃにして威厳なしであった。


「誰か遠隔連絡の魔石をここに持ってきやがれ。三分以内に持ってこないと、殺しちゃうかもしれないぞお?」

「は、はいっ! 今すぐに!」


 俺が言うと、神官共が慌てて魔石を持ってきた。


「ほらよ。魔石の仕組みは分かっている。せいぜい演技を頑張るんだな」

「た、たった一人に……しかもあっという間に大聖堂が制圧されるだと……? どうなっておるのだ……」

「早くしろって言ってんだろ」

「ぐおおおおおお!」


 軽く後頭部を小突いたつもりだが、教皇は喉が張り裂けんばかりの声を上げ痛がった。


「発声練習なんかしてないで、さっさとやりやがれ」


 そう言うと、教皇は息絶え絶えで魔石を操作し出した。


 この魔石は映像を保存し、離れている者に送信することが出来るアイテムである。


 相手も再生用の魔石を持っていることが条件であるが……。

 枢機卿すうききょうでもあるマルレーネは、いつでも大聖堂と連絡が取れるように、持ち歩いていることは明白だ。


 これを教皇にやらせるために、顔は決して攻撃しなかったのだ。

 勘ぐられて来なくなっても困るからな。

 まあそんなことはないだろうが。


「マルレーヌよ……フランバル大聖堂の緊急事態だ。今すぐ戻ってきなさい——」


 と教皇は震える声をなるべく抑えつつ、映像を作り出したのであった。



 さて——。

 大聖堂を制圧することに成功した。

 後はマルレーネを呼び出して、ここで楽しい復讐がはじまるのだ。


 それを想像したら、鳥肌が立つくらいに愉快であった。

教皇がイーディス教でトップの位置づけとしています。

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― 新着の感想 ―
[一言] 指を折る前に爪を一枚ずつ剥がしていかないと
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