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40・デートスポットで幼馴染みに復讐をする

なんとか年内に更新出来ました。

遅くなってすいません……これから更新頻度上げていければと思います。

「ここを覚えてるか、フェリシー?」


 俺が殴りまくったせいで、顔が赤黒く腫れているフェリシー。

 道化のような顔をしたそいつに、俺はそう問いかけた。


「ここは……」

「おいおい、覚えてないのかよ。俺達の思い出の場所なのにな」

「あ……」


 フェリシーは言葉を発しようとするが、唇も腫れているため上手く発音出来ないみたいだ。


 ざまあみろ。

 まあ、俺としてはこいつが覚えていようが覚えてまいが、どっちでもいいんだがな。



 俺達が訪れたのは通称『獄園崖ごくえんがけ』と呼ばれる場所である。

 顔を上げて真っ直ぐ見ると、そこには雲一つない青空と、宝石が散りばめられているような海が広がっている。

 しかし一転、視線を下げると断崖絶壁になっているのだ。


 とはいっても眺めがよく、観光地にもなっている。

 俺達の生まれ故郷から歩いてでも十分来られるので、小さい頃はよく来ていたものだ。



「お前と一緒によく来たよなあ。ここに」

「…………」


 フェリシーが口を閉じる。


 こいつが猫を被っていたことに、まだ気づけていなかった俺の愚かな時代。

 フェリシーとは、よくここにデートとして訪れていたのだ。


「覚えているか? ここを見て、お前がなにを言ったのかを」

「……覚えてない」

「まあそうだろうな。お前は『キレイ! あなたとこんな光景を見られて、とっても嬉しい!』って言ってたんだ」


 こいつに騙されていた俺は、それを聞いて胸が弾んだものだった。


 あーあ。

 今思えば愚かすぎて、吐き気をもよおしてくる。


「あの頃、俺はお前のことが好きだった」


 それは遠い思い出のように感じられた。


 太陽のような笑顔。

 突き抜けるような明るさ。

 確かに……あの時、俺はお前のことが好きだった。


「アルフ……」


 フェリシーが口を開く。


「アルフ。もう一度、はじめようよ。私達の恋物語をさ」

「…………」


 俺が黙っているのを見て、もしかして悩んでいると思っているのだろうか?

 ここを好機と見て、フェリシーの口が饒舌に動く。


「やっぱり昔のように戻ろうよっ。私も反省したんだ。今思えば昔の方がずっと楽しかったように思う」

「…………」

「アルフ? だからいいでしょ? 私を抱きしめたいでしょ? 私と口づけしたいでしょ? あの()勇者は間違いだった。言うなれば私は被害者……可哀想なお姫様を、あなたの手で救ってあげて?」


 とフェリシーが俺を見上げる。

 わざとなのか、胸元のシャツが開けられ豊満な谷間が見えた。


 彼女の顔がだんだんと近付いてくる。

 俺はそいつの顔を見て、



「は? まだお前そんなこと言ってんのかよ」



 と少し手を伸ばして、思い切り後ろへと押したのだ。

「え?」


 虚を突かれたようなフェリシーの表情。

 彼女の後ろには……。


「ああああああああ!」


 フェリシーはそのまま断崖絶壁へと落ちていった。

 獄園崖ごくえんがけに悲鳴が響き渡る。


 はははは!

 最高だ!

 間抜けな悲鳴を上げながら、落ちていったぞ!


「さて……様子を見に行くか」


 俺は違うルートから、獄園崖ごくえんがけを下っていき、そこで倒れているフェリシーの元へと辿り着いた。


「う、う……」


 フェリシーは息絶え絶えながらも、なんとか生きていた。

 まあここから突き落としても、この高さだったら死なないと思っていたから予想通りだ。


 簡単に死なせるなんてつまらない。

 こんなところで終わらせる気もなかった。


「今までのお前だったら、いくら崖から突き落とされても魔法を使えたのになあ? 空も飛べたのになあ? 弱くなっているお前では、昔当たり前のようにしていたことも出来ない」


 フェリシーの前髪をつかんで持ち上げる。


 うわっ!

 ただでさえブサイクの顔が、さらに腫れ上がってモンスターのようになっている!


 さらによくよく見ると、手足が変な方向に曲がっている。

 まるで子どもに壊されたボロボロの人形にも酷似していた。


「昔に戻りたい? お前はなにを言っているんだ? あの時、お前がなにをしてくれたか覚えているよな?」


 勇者にボコボコにされている俺を見て、こいつはこう言ったのだ。


『もう私に話しかけてこないでね! 負け組がうつるから!』


 ってな。

 今でも瞼を閉じるたびに、あの時の記憶が甦る。


 加害者がなんとも思っていないようなことでも、被害者にとっては業火に焼かれているような苦しみなのだ。

 この苦しみを、俺がこのままにするはずはない!


「アルフ」

「ん? どうした、イーディス」


 付いてきていたイーディスが屈んで、フェリシーを興味津々に見る。


「これ、まだ死んでないの?」

「死んでない死んでない。まあもうまともに動くことも出来ないけどな。試しに触ってみたらどうだ?」

「うん、そうしてみる」


 イーディスが何気なく、フェリシーの折れている右腕を少しだけ持ち上げた。

 すると。


「ああああああ! 痛い痛い痛い痛い!」


 フェリシーが泣き叫んだ。

 まるで赤ん坊のようだ。

 どうやらまだ痛覚は残っているらしい。

 これは愉快だ。


「おいおい、イーディス。それだけだったら、まだ分からないだろう? こうなっても人間ってのは生きられるもんなんだ。後学のために、もっと触っておいたら?」

「うん。アルフの言う通りのする」


 イーディスはベタベタとフェリシーの体を触っていく。


「ああああああああああああああ! 止めて止めて痛い痛い痛い痛い! そこっ! 触るの止めて! お願いお願いお願いお願いお願い!」

「はははははは!」


 いい気味だ。

 最早、ボロボロになったフェリシーの全身には、壮絶な痛みが襲っているに違いない。

 イーディスがフェリシーに触るたびに、彼女が獣のような咆哮を上げる。


「…………」

「おっ? 痛みで気絶しちまったか?」


 それじゃあつまらない。

 それに俺は()()()からな。

 死なないように、貴重な回復ポーションを彼女に使ってあげる。


「い、痛い……ご、殺じで……」


 フェリシーが意識を取り戻した。


 殺して?

 なにを言ってるんだ。

 こんなもので殺すわけないだろうが!

 簡単には死なせない。


「さて。獄園崖ごくえんがけはもう飽きたな。次のデート場所に行こうぜ」

「ま、まだ終わらないの……こんな残酷なこと……?」

「おいおい、お前はなにを言ってるんだ。デートはまだはじまったばかりだろ。それに残酷なこと? 楽しい楽しいデートの間違いじゃないか!」


 フェリシーの首根っこをつかんで、無理矢理立たせる。

 彼女は生まれたての子鹿のようにしながらも、ぷるぷると両足を震わせて立ち上がった。

 それを見ると、愉快すぎて笑いが止まらなかった。


「さて……次はどこに行こうかなあ?」

ラブロマンスは復讐には不要なのです。

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