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4・勇者に稽古をつけてやった

 昔——俺はエリオットに剣の稽古を付けてもらったことがある。


『いい加減戦力になってもらわないと困るからね。ちょっと教えてあげるよ。君の先生としてね』


 なんて優しいんだ——とは思わなかった。

 この頃にはエリオットの本性に気付いていたからだ。


 俺には真剣が持たされて、エリオットには木製の模擬剣もぎけんが持たされた。

 武器の差に開きがあるのは、エリオットいわく『ハンデ』らしい。

 というかエリオットが真剣なんて持ってたら、すぐに俺を殺してしまうからだろう。


 そしてそれをパーティーの仲間、聖女マルレーネと戦士サラが見ていた。


 稽古の内容は一方的だった。


『ハハハ。ホントに君はノロマだな。こんな攻撃も避けられないなんて』


 エリオットが片手で適当に振った剣。

 剣筋が見えなかった。早すぎて、俺の目では捉えられないのだ。

 その剣が俺の頭だったり、肩に当たる。

 エリオットが適当に振るう剣であっても、骨が折れる衝撃を受けた。というか何本か折れていた。


「ク、クソッ!」


 ただ俺も負けじと剣を振るう。

 これでも田舎村では神童と言われていたんだ。

 元々剣の扱いには自信があった。


 だが……当たらない。

 俺がいくら真剣に剣を振るっても、遊び半分のエリオットにかすりもしなかった。


『動きが遅すぎるよ。もしかして手加減してくれてるのかな? ククク……』


 エリオットの動きはまるでダンスを踊るかのようだ。


「うわ……まるで虫けらのような動きですわ。それでモンスターに勝てるとでも思っているのですか?」

「愚かなものだな。君は真剣を渡されて、エリオットは模擬剣なのに……剣で戦うの止めたらどうだ? 才能ないよ、アルフ」


 マルレーネとサラからも罵倒が飛んでくる。

 やがて体が悲鳴を上げて、剣を持つ握力すらなくなっていた。


「ギ、ギブアップだ……」


 悔しさと痛みに耐えて、そう声を絞った。


 だが。


『おいおい、これで終わりだと思っているのか? 今度は痛みに耐える練習だよ』


 無抵抗な俺をエリオットは模擬剣でボコボコ殴った。

 頭を手で覆って、うずくまっている俺はさぞカッコ悪かっただろう。


 結局(その時はまだまともだった)幼馴染みのフェリシーが止めに入るまで、稽古は続いた。


 この稽古の際……右奥の歯が取れてしまった。

 モノが食べられにくい度にこの出来事を思い出す。


 ◆ ◆


「そうだ。稽古を付けてやるよ」


 そして今——俺はエリオットと実力が逆転してしまっている。


「稽古……だと……?」


 俺が馬乗りでボコ殴りにしたため、エリオットの顔は赤黒く腫れている。


 ハハハ。ざまあみろだ。


「ああ。お前の方はその腰にぶら下げてる剣を使ってくれてもいい」

「正気か……? 聖剣は持ってきてないが、これもSSSランクの剣なんだがな」

「構わない」


 エリオットはよろよろと立ち上がり、剣を鞘から抜いた。

 切れ味は抜群で、いくら使っても刃こぼれ一つしない剣。

 エリオットが予備として使っていた剣だ。

 とはいってもそれ一つで白金貨十枚はくだらないのだが……。


「はい……アルフ。これ」


 イーディスからそれを受け取る。

 頼んで、探してきてもらっていたのだ。


「じゃあ俺はこれを使わせてもらうよ」

「そ、それは……お、お前! 僕をバカにしてるのか!」


 エリオットが憤怒する。

 これだけ殴られてもまだ戦意を失わないとは……褒めてやりたい。


 俺が持っているのは——そこらへんで拾った木の棒である。

 正直、ちょっと固いものに当たったら、すぐに折れてしまいそうだ。


「さあ、はじめようか。本気でこい」

「後悔するなよ……! はぁぁぁあああああ!」


 エリオットがSSSランクの剣を振り上げて、向かってくる。


「おいおい、なんだ。そりゃ」


 子どもが歩くくらいの速度。

 しかも必死の形相でのろのろと向かってくるエリオットを見ていると、笑いが込み上げてくる。


「うぉぉぉぉおおおおお!」


 欠伸をしながら待っていると、やっとエリオットが俺のところまで辿り着いた。

 俺はわざと剣を寸前のところで避け、カウンター気味に木の棒でエリオットの頬をはたいた。


「グハッ!」

「ハハハ。ホントにお前はノロマだな。こんな攻撃も避けられないなんて」


 木の棒で叩かれたエリオットは、さらに顔を赤くさせて地面で悶え苦しんでいる。

 虫けらみたいだ。


「よし……今度はもっと攻撃してみようか! 安心して! 俺はお前に攻撃しないから! 一方的に攻撃加えてくれればいいから!」

「バカにするなぁぁぁああああああ!」


 エリオットが立ち上がり、もう一度剣を振り回す。

 でもただワガママ言ってる子どもが、適当に振り回しているに等しい。

 しかもかなり遅い。

 全ての動きがスローモーションだ。


「ほい、ほい、ほい」


 俺はそれをわざとギリギリで避けてみたり、わざと転けてピンチを演出してみたり、二本の指で剣をはさんでみたりした。


 おっ。

 こうするとちょっとは面白くなるな。


「動きが遅すぎるな。もしかして手加減してくれてるのか?」

「グゾォォォォオオオオ!」


 エリオットは鼻水と涙を垂らしながら、剣を一生懸命振るってる。

 でも俺にはかすりもしない。


「まるで虫けらみたいな動きだな。それでモンスターに勝てるとでも思っているのか?」

「な、なんで当たらないんだぁぁああああああ!」

「愚かなもんだな。お前はSSSランクの剣で、俺は木の棒だぞ? ……剣で戦うの止めたらどうだ? 才能ないよ、エリオット」

「ぼ、僕が才能ないだと?」


 だってそうだろ?


 弱い俺より、さらに弱いんだから。


「てい」


 俺は木の棒でエリオットの目を突く。


「ぐわぁぁああああああ! 目が! 目が!」


 エリオットは目を押さえ、よろよろと下がった。


「続きをやろうぜ」

「ギ、ギブアップだ! だからこれ以上止めろ!」

「おいおい、これで終わりだと思っているのか? 今度は痛みに耐える練習だ」

「ひ、ひぃ!」


 俺はエリオットの顔面や四肢ししを木の棒で叩いていく。

 木の棒が折れてしまったら終了だから、そうならないように、慎重にだ。


 やがてエリオットの右手がだらーんと下がった。

 もしかしたら使い物にならなくなったかもしれない。


「ぐ、ぐぅ……」


 そう地面に転がって、苦悶の声を上げるエリオットは赤子同然であった。

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