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★38・幼馴染み、アルフと再会する

さあ復讐をはじめよう。

「うわっ、なんだこいつは!」

「確か勇者パーティーの魔法使い?」

「王都から追放されたんじゃねえのか! どうしてこんな田舎村に?」


 うるさい。

 フェリシーは馬車に乗って隣町に辿り着いた瞬間、そこで殺戮を決行した。


「ははは。やっぱり力って正義だよ」


 建物を焼き払いながら、フェリシーは進んでいく。


 悲鳴が街中に響き渡る。

 それが心地良い音楽となって、奏でられていた。


「エリオット! マルレーネ! サラ! あいつ等は力を失ったけど、私には力がある! 力があるものはなにもしていいんだ! はははははははは!」


 高らかに笑いながら、フェリシーは魔法を放ち、ありとあらゆる金品を奪い去っていく。



「あ、悪魔だ……」

「いや、悪魔なんて生やさしい。こいつこそがモンスターだったんだ!」



「私が……モンスター?」

「ひっ!」


 彼女をバカにした村人まで近づき、その頭をわしづかみにした。

 もちろん、掴む力は魔法にて強くしてあるので、村人の骨がみしみしという音を立てる。


「誰がモンスターだって?」

「だ、だってそうじゃないか! こんなことをするなんて……お前が火炎魔法を放ったあの家には、生まれて一ヶ月の赤ちゃんが住んでるんだぞ! これをモンスターの所業と言わずになんという!」

「君達がお金を出し渋るから仕方ないじゃん」

「と、途中からは逆らわなかったじゃないか! それなのに——」

「ああ、もう君うるさいな」


 そのままフェリシーは顔を握る力を強くした。

 ブチッという音がして、反抗していた村人は死んでしまった。


「私に逆らうヤツはみんな死んじゃえばいいんだ」


 確かにフェリシーの求めていた金品類は手に入った。

 だが、それでは彼女の心の渇きは潤せない。

 この世界中の全てを破壊してやる。

 私の魔法さえあったら……それも出来るはずだ。


 そうだ。私は強い!

 エリオット達みたいに弱くならない!


「はははははははは! なんて楽しいんだろう!」


 ポンポン次から次へと魔法を放っていく。

【魔力貯蔵量無限】のスキルを持っている彼女にとっては、これだけ魔法を連発しても疲れるどころか、体がみなぎっていくように感じた。



 やがて、たっぷり二時間。

 一つの街を壊滅させるために、フェリシーは楽しんだ。



 建物は焼かれ、人々は一人残らず地面に倒れている。

 その光景を見て、フェリシーはブルッと震えた。


「うん! とっても良い光景だね。私みたいな美少女に張り合おうとするから、死んでしまっても仕方がなかったんだ! 二度と私に逆らおうとしないでね!」


 両手からはみ出るばかりの金貨を握りしめて、フェリシーは死体の頭を踏みつける。

 そうすると、だんだんと思い出してきた。


「そうだ……私は勝ち組なんだ」


 エリオット達はこれからますます堕ちていくだろう。

 だが、生まれながらの勝ち組である私はこの先も勝ち続ける。


 そうだ。

 アルフのヤツに会いに行ってもいいかもしれない。


 信じられないことなのだが、王様の話を聞く限り、アルフは英雄の階段を昇っているらしい。

 今までのアルフでは考えられなかったことだ。

 そこでフェリシーは一つの仮説を立てた。


(もしかして……新しいスキルをなにか得たんじゃ?)


 この歳になって、考えられにくいことだ。


 しかしエリオットもマルレーネもサラも、アルフに会ってからおかしくなった。

 なにか相手に呪いをかけるようなスキルに発言した?


「……もしアルフがすっごい力を持っていたら、エリオットから乗り換えてもいいかも。どうせ私が好き好き好き! って嘘吐いたら、バカのあいつだったら騙されてくれるだろうしね」


 となったら、まずは今アルフがどこにいるか情報収集をしなければならない。

 街の外に待たせている馬車に乗って、また隣町に向かうとするか。


 ボロボロになった街に背を向けて、再びフェリシーは歩き出した。



 彼女の頭の中には——アルフに自分がまさか呪いをかけられるとは、全くもって浮かんでいない。



 愚かなフェリシーはアルフに会って負け組となる。

 そのことを彼女が知るはずもなかった。


 ◆ ◆


 アルフの情報はすぐに集めることが出来た。

 なんでもチェールズに住んで、魔族の駆除をやっているらしい。


(アルフ一人で魔族に勝てるとは思えないけど……)


 だが、あのクソ王様も言ってたことだし、本当のことである可能性が高い。

 やはりアルフはフェリシー達がいない間に、新たな力に目覚めたというのか。


(だったら……籠絡ろうらくしてあげる! どうせあいつはバカだから、私の魅力さえあったらイチコロだよ!)


 とフェリシーはポジティブに考えていた。



 フェリシーはそのまま馬車をいくつか乗り継いで、生まれ故郷のチェールズまでやって来た。



 どうして()()()()馬車を乗り継いだのかというと、気に入らないことがあったら、いちいち御者を殺してしまっていたからだ。


 殺した御者の数は十に及ぶだろう。

 道中、立ち寄った村でも金品を奪いながら、村人を皆殺しにして……チェールズまでやっとのこさ辿り着いたのだ。


「懐かしいな……このなんにもない田舎村!」


 チェールズに足を踏み入れて、フェリシーは背伸びをした。

 アルフのことがない限り、今となってはなるべくこの村に近付きたくなかった。


 このさびれた田舎村は、彼女にとって負け組の象徴であった。

 外部からの情報もあまり仕入れられず、狭い空間で生きるだけの退屈な生活。

 それにうんざりしていた頃、元勇者エリオットに誘われてこの村を出たのだ。


「フェリシー……?」


 声をかけられる。

 フェリシーが振り向くと、醜い老婆がいた。


「えーっと……誰?」


 訝しむような視線をフェリシーが向けると、


「あんた、戻ってきていたんだね。それにしても私のことを忘れたのかい? フェリシーだろ?」

「私が老いぼれの名前を覚えているわけないよ! だって私は勝ち組なんだからね!」

「……あんた、変わっちまったね。アルフはちゃんと私の名前を覚えてくれていたのに」

「アルフっ? アルフはどこにいるの?」

「アルフは村はずれの花畑にいるはずだ」


 老婆は溜息を吐きながら、そう答えた。


 花畑——ああ。確かそんな場所があったように思える。

 昔、そこでなにかを作ってアルフにあげたような気がしたが……詳しいことは忘れた。

 フェリシーはチェールズで、その花畑だけが好きだった。



 駆け足でフェリシーは花畑に向かった。



 ……いた!

 アルフの後ろ姿だ。


 隣には……あれは誰だ?

 汚そうな獣人族だ。


「アルフ——」


 声をかけようとしたが、ここではじめてフェリシーは自分の姿に気付く。


 ……そういえば、最近お風呂に入っていなかった。

 忙しかったからな。つい忘れていた。

 血の匂いが体に染みついていて、髪もボサボサだ。


 でもここまで来てしまったのだから仕方がない。

 それに大した問題でもないだろう。

 だって私は美しいんだから! 可愛いんだから!

 こんなハンデもろともしないはずだ。


「アルフ!」


 フェリシーはもう一度手を挙げて、アルフに近付いていった。


「フェリシー……?」


 アルフは彼女を見るなり、目を見開いた。


 やっぱり、私のことがまだ好きなんだ!

 フェリシーはアルフの表情を見て、確信した。


(……アルフが本当に力に目覚めているのか分からないけど、キープしてても問題ないよね? ダメそうだったら、どうせまた捨てればいいし)


 元勇者エリオットのように。


 フェリシーはアルフの目を見て、


「ごめん! アルフ君! あの時の私はどうかしてたんだっ。もう一度、アルフ君の『彼女』に立候補していいかな?」


 と手を合わせ、頭を下げた。


 しばしの沈黙。

 やがてアルフの口がゆっくりと開き、



「は? していいわけないだろうが」



 フェリシーの頭に()()が振り下ろされた。

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