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32・魔族と復讐をぶつけ合う

久しぶりのアルフ視点です。

 生まれ故郷のチェールズにて。

 子ども達が目を輝かせながら、俺のところに寄ってきた。


「ねえねえ、アルフ。魔王を倒した時の話聞かせて−よ」

「やっぱりアルフ、カッコ良かった? フェリシーお姉ちゃんはどうだった?」

「なんか面白い話してー」


 子どもは無邪気だ。

 俺が勇者パーティーの『雑用係』だったことは、さすがにここ辺境の地までは知れ渡っていないみたいだった。


「そうだな……魔王か。魔王は勇者が一発で倒したんだよ」

「えー! アルフはー」

「俺は……俺はなにもしなかった」

「アルフ弱っちいじゃーん」

「ハハハ! そうだな、俺は弱い。でも()の勇者はもっと弱いぞ」

「勇者も弱いのー?」

「ああ、弱い」

「ふーん。じゃあ魔王も弱いんだ!」

「そういうことかもしれんな」


 聡明な子だ。

 俺は子ども達の頭をわしゃわしゃ撫でてやる。


「むーっ。アルフ、わたしもわたしも」


 そうこうしてたら、イーディスも頭を突き出してきた。

 彼女もわしゃわしゃ撫でてやった。


「アルフの手、おっきくて気持ちいい」

「そうか?」


 はじめて言われたかもしれない。

 ただ手が大きくても、なんの役に立つんだという話だが。

 フェリシーと手を繋ぐことも出来ない。大切ななにかを掴むことも出来ない。

 だから俺は【みんな俺より弱くなる】を使って、みんな奪うことにした。


「ククク……俺はなに感傷に浸ってるんだ? チェールズに来て、郷愁に心奪われたってことなのか」

「アルフー?」


 独り言を呟いていると、子ども達が目を丸くしていた。


「ああ、ごめんごめん」


 と俺は謝るのであった。




 そしてチェールズ近くの森に、俺とイーディスは訪れていた。


「アルフ? なにする?」

「薬草でも摘もうかな、と思って」

「薬草?」

「ああ。折角村に戻ってきたんだ。ただ食っちゃ寝してるだけじゃ、申し訳ないだろ?」


 少しでも村の役に立てれば。

 だからといって、そんなに強いモンスターも出ないので、薬草でも摘んで少しでも村の財政の足しに……。


「「——っ!」」


 瞬間、イーディスの耳がぴーんと立った。


「アルフ」

「ああ。やっぱりイーディスも感じたか」


 空気がピリピリ張り詰めるような。

 そんな感覚を受けた。


 パーティーから虐げられた経験もあって、相手の敵意や殺意に体が敏感になってしまう。

 その結果、俺は遠くにモンスターがいる場合でも、瞬時に察知することが出来る。

 もっとも、本職の鑑定スキルとか持っているヤツに比べれば、数段落ちるが。


「アルフ。行ってみよ」


 厄介事はごめんだ。

 ただこの『脅威』が村の方に行ってしまわないとも限らない。


 俺達は気配がする方向へと足を進めた。


 すると……。



「お前タチはダレだ。ニンゲンとケモノか」



 人型ではあるが、頭から角を生やした異形がそこにはいた。


「お前から名乗れ」

「フンッ。エラソウな人間ダ。仕方ない。冥土の土産ニ聞かせてやる。ワレはルコシエル。魔族公爵の位ヲモッテイル」

「魔族だと?」


 異形——ルコシエルの周りには、黒いオーラが漂っているようにも見えた。


 魔族というのはモンスターの中でも数段強い存在、と思ってもらえればいい。

 魔王軍の幹部をしている者も多く、その一体で大都市一個くらいは簡単に滅んでしまうのだ。

 魔王が死んでからも、一斉にモンスター達がいなくなるわけではない。

 だからこそ、残党のような魔族がいるのだ。


「魔族がなにをしにきた」

「ソレをお前に説明するギムがワレに? そんなことよりも、お前も名乗レ。お前は何者ダ」

「俺の質問に答えろ」

「フンッ。生意気なヤツだ。ワレがここに来たのはな……」


 魔族の体から魔力が迸る。



「魔王様を倒した人間に、復讐スルタメだ!」



 そのまま強力な魔法を使おうとした。

 だが、使おうとしただけで、ルコシエルからはなんら一切の魔法が発動したりはしない。


「……! ドウイウことだ!」

「お前、もう俺には勝てないよ」


 俺はルコシエルのところまで近づき、顔面を思い切り殴る。


「グオッ!」

「村に危害を及ぼそうとするヤツは全員敵。俺とイーディスに危害がくわわりそうな時は、容赦なくぶっ倒す」


 俺はそのまま護身用のために持ってきた剣で、ルコシエルを斬りつけた。

 いくら魔族だろうが、目が合った瞬間に【みんな俺より弱くなる】を発動してしまっているのだ。


「グギャアアアアアア!」


 右手を切断すると、ルコシエルから断末魔の叫びが発せられた。

 俺はそのまま容赦なく、他の手足も斬りつけまともに動けなくした。


「ドウイウ事だ……ワレの力が、封じられてイルのか?」


 四肢がなくなったルコシエルは、体中から血を出している。


 ああ、そうだ——。

 俺には辺境の地に戻ってきてスローライフ、なんてものは似合わない。

 そしてそんなものは俺も望んでいない。


 この血を見て、甘ったれた心に喝が入ったような気がした。


「お前、感謝するよ。俺に血の味を思い出させてくれて」

「ナニを言ってるのダ、貴様は。ソシテ……お前は何者ダ?」

「最後に聞かせてやる。俺はアルフだ」


 こいつも魔王を倒した人間に復讐をする、と言っていた。


 しかし俺等も勇者パーティーのヤツ等に復讐を完遂させなければならないのだ。

 復讐と復讐。より濃い復讐が生き残るべきだ。

 そして俺の復讐はどこまでも濃い黒。周囲のものをどん底に堕とすような漆黒だ。


 俺はそのままルコシエルの首を切りつけた。

 復讐対象なら、この状態ではりつけにでもくくりつけて、一生の苦しみをプレゼントするのだが、魔族にそこまでしなくてもいいだろう。


「アルフ。なんか嬉しそうな顔してる」

「ん? そうか?」


 血で濡れた右手で、俺はイーディスの頭を撫でてやった。

 イーディスも血が好きだったのか、いつも以上に嬉しそうな顔をしていた。


 さあ——フェリシー。

 エリオット、マルレーネにサラ。お前以外はみんな弱くなった。


 そんなクソみたいなパーティーで、今頃なにを思っている?


 そしてパーティーから逃げて、ここチェールズに戻ってこい。


 そこで——きっちり血の復讐を遂行してやるよ。

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