28・復讐の序章
鬱沢の他の拙作である『おっさん、チートスキル【スローライフ】で理想のスローライフを送ろうとする2』が本日発売になります。よかったら、手に取っていただけると幸いです。
辺境の地チェールズ。
のどかな田園風景が広がる農村だ。
人口も少なく、冒険者ギルドといった施設もない。
なのでもし村にモンスターが出たら、近くの街から冒険者を派遣してもらうようになっている。
そんな田舎村で。
俺と——幼馴染みのフェリシーは生まれた。
「おう、久しぶり」
田んぼで農作業をしていたお婆ちゃんに話しかける。
「おお〜、アルフじゃないか〜」
この人はアメリアというのだが……お婆ちゃんは目を丸くして、俺の手を取った。
「久しぶりだね〜。何年ぶりだろう」
「うーん、忘れた」
それくらい、勇者パーティーとして長く旅をしていたように感じた。
しばらくアメリアさんと話していると、
「おっ、アルフ! 久しぶりだな、お前!」
「元気にしてたか?」
「ああ、そうそう。魔王を倒したって聞いたぞ! お前ってやっぱ凄かったんだな!」
「サインでもくれよ!」
村中の人達が集まってきて、俺を囲みだした。
勇者エリオットに誘われてこの村を出て行ったきり、今まで一度も帰ってきたことはなかった。
まあ正しくは、帰りたくてもエリオットが許してくれなかっただけのことだが。
——王都から離れ、情報もあまり入ってこない村なもんだから、俺がどんな状況にあったか分かってないようだ。
だからこそ、俺を見るなりこんなにちやほやしてくれるんだ。
「ん? そっちの耳を生やした可愛い女の子。もしかしてアルフの彼女か〜」
肘で突いてくる、昔の友人ベンノ。
獣人族差別……っていうのも、この田舎村にはないようだな。都会特有のものなんだろう。
そういえば、田舎村ってのは動物達と共存して暮らしている。
だから今更獣人族を見たところで「ん? それがなにか?」な感じかもしれない。
「ハハハ。そんなんじゃないさ」
「そうだよな。だってお前にはフェリシーっていう幼馴染みがいるもんな!」
「——!」
「そういや、フェリシーは帰ってきてないのか?」
フェリシーの名前を出されて、俺は思わず言葉が詰まってしまった。
はっきり宣言するが、俺はフェリシーをかばうつもりはない。
この田舎村には、フェリシーのクソ女っぷりを教えたくない……。
そんな生やさしいことなど微塵も考えていないのだ。
しかしいざ聞かれると、さすがの俺でも一瞬思考が停止してしまった。
俺は深呼吸をしてから、
「ああ。フェリシーなんだが……」
と言葉を続けた。
「アルフ。ここは?」
みんなとあれからしばらく話してから、俺とイーディスは村の外れにあるお花畑を訪れた。
「思い出の地……まあ今となっては、ただの胸くそ悪い場所だがな」
辺り一帯には色取り取りの花が並んでいる。
花は太陽の光を反射して、キラキラ輝いていた。
そんな場所だった。
「またアルフ、辛そうな顔をしてる」
「辛そう? 辛くないさ。逆にここを見てるとふつふつと怒りが込み上げてきて、同時に嬉しくなってくる」
まだ復讐の気持ちは薄れていないってな。
昔、まだ俺がフェリシーと仲の良かった頃。
幼かった俺はここの花で指輪を作り、フェリシーに求婚したのだ。
『ありがとう! 一生大事にするね!』
あの時のフェリシーは顔に笑顔の花を咲かせていた。
だが、俺はフェリシーに裏切られた。
フェリシーは負け組の俺より、勝ち組勇者エリオットに乗り換えたのだ。
もう、あの時の花の指輪も持っていないだろう。
「でもアルフ、村の人気者だった。凄い」
励ましてくれてるのだろうか、イーディスがそう言った。
「ありがとう」
「アルフにはいっぱい味方がいる」
「一番の味方はイーディスさ。俺はイーディスしか信じない」
「そう言ってくれて嬉しい」
イーディスがほのかに顔を赤くした。
昔は——エリオットに虐げられている時代——フェリシーのことだけは信じてたんだがな……。
今となってはあの時の愚かな自分を殴りたくなってくる。
「やっぱり辛そうな顔してる、アルフ。これあげる」
昔のことを思い出してる俺に、イーディスが一輪の花を摘んで渡してきた。
俺はそれを受け取り、茎を持ってクルクルと回す。
「……悪いな、イーディス。花に罪はないけれど——俺、花嫌いなんだ」
と花を手から離した。
ひらひらと風に揺られ、花がどこかに舞っていく。
「アルフ。これからどうするの?」
「決まっている」
お花畑を背景にして。
俺はこう宣言した。
「このお花畑をフェリシーの血で塗り替えてやるのさ」
◆ ◆
それから俺はここ故郷でフェリシーと再会した。
「ごめん! アルフ君! あの時の私はどうかしてたんだっ。もう一度、アルフ君の『彼女』に立候補していいかな?」
ボロボロのフェリシー。
一体何日間風呂に入らず、服も入ってないんだろうか。
鼻がつーんとするような悪臭が漂ってきた。
「…………」
手を合わせ、頭を下げているフェリシー。
そんなフェリシーの頭に、俺は——。
「は? していいわけないだろうが」
思い切り、持っていたくわを振り下ろした。
血が花に舞い散る。