24・地獄のパレード
それから俺は何回かサラをクエストに連れて行った。
「ぐあああああああ! 痛い痛い! アルフ……助けてくれぇ……」
「嫌なこった」
スライムやゴブリンといったモンスターに痛めつけられ、サラが涙を流している
そこには誇り高き女戦士サラの姿は最早なかった。
「ふんっ」
スライムごときならスキルを使わなくても勝てるだろう。
だが、集団になったゴブリンは少々手が余る。
一体だけならともかく、集団となったゴブリンが出てきた時は【みんな俺より弱くする】を使い駆逐していった。
「はあっ、はあっ……ありがとう。助けてくれた……んだよな?」
「はあ? 変なこと言うな、このクズが」
「痛い痛い痛い! 殴るのは……もう、止めてくれ……」
モンスターに痛めつけられ、俺に殴られたり斬られたりしているサラは無傷なところを探す方が大変であった。
「助けたんじゃねえよ。ただ——こーんな生ぬるいものでは死なせない。もっともーっとサラには底辺を味わってもらわないとな」
唾がかかるくらい、サラの顔に近付いて吐き捨てた。
「許して……くれ……」
サラが声を絞り出す。
「今までのことは全て……謝る。だから許して……くれ……。言うことならなんでも聞くからぁ……」
「うーん」
ポロポロと両目から大粒の涙をこぼすサラ。
パーティーにいる頃は気丈だったサラ。
涙一つこぼさず、剣を振るっていたサラ。
夜は勇者エリオット達と一緒に、暴虐の限りを尽くしていたサラ。
そんな彼女が涙を流しながら、許しを請うているのだ。
だから俺は——。
「ハハハ! 許すわわけないだろうが!」
回し蹴りをサラにくらわせる。
骨が折れるような変な音が聞こえた。
「…………」
「おい、起きろ」
パンパンと平手でサラを叩く。
脈を取る。
うん、死んでない。
ちゃんと死なないように手加減したんだから、死んだふりは止めろよ。
「おい、聞こえてるだろ? 返事しないと、もっともーっと殴っちゃうかもしれないなあ?」
「う……あ……」
「よし。死んでないみたいだな。今まで俺が『許してくれ』と言っても、許してくれたことあったか? なかったよな」
「それに……ついても……あ、や、まる……」
「だからいくら謝っても許さないって。それにまだまだ復讐は続くぞ」
こんなもんで終わりになると思っているとは。
サラも甘い。
「よし。パレードをしようか」
「パレード……?」
わずかにサラが視線を俺に向ける。
「ああ。だってお前が街に来た時、あんだけ華やかなにお出迎えしてもらったもんなあ」
まあ俺が石を投げたから、途中でなくなったけど。
「それ悪いって思ってさあ。だからあの時の続きだ。みんなから見られて、良い気分になりたいんだろう?」
「……パレード……パレード。英雄サラ……」
サラは虚ろな目をして、そう何度か呟いていた。
「パレードパレード。楽しいパレード」
「イーディスもそう思うか?」
そうだ、楽しいパレードだ。
こいつと一緒にストローツの街中を、気持ちよく歩こうではないか!
◆ ◆
そう、私はこの街の英雄だ。
勇者エリオットに一目つけられた時、こんな田舎町からさっさと抜け出した。
私はこんなところで終わる人間じゃない。
成功して、勝ち組になって、みんなにちやほやしてもらえるような人生。
この街で人生を過ごす負け組な友達がいたら『王都にはもっと人と物で溢れている』と上から目線で言いたい。
そして私は成し遂げた。
魔王を倒したのだ。
王都ではこれ以上ない賞賛を受けた。
しかし——それだけでは満足出来ないのだ。
成功して、この街に戻ってくる。
みんなみんな私を羨ましがって、指をくわえながら見ている。
賞賛の言葉をかけられながら、私は気持ちよく大通りを歩くのだ。
そう、私はこの街の英雄。
すごいねすごいね、と声をかけられる真の勝ち組だ。
◆ ◆
「お前! 今まで騙してたんだな!」
「ふざけるな! この愛人枠め!」
「偉そうにしやがって! メッチャ弱いじゃないか!」
大通りを歩くサラに罵声が投げかけられる。
「ひっ……うっ、止めてくれぇ……」
その中をサラは背中を丸めて、恐る恐る歩いていた。
「このっ!」
「うわあああああああ!」
両脇の人達からは石を投げられる。
ただの石投げであるが、極端に弱くなってしまっているサラにとっては一つ一つに激痛が走るだろう。
右に吹っ飛ばされそうになったら、左から石が飛んできて。
反対に左からだったら右。
サラの体が血で汚れていく。
「ハハハ! どうだ! パレードは楽しいか!」
「楽しい楽しい。アルフ、最高」
俺は高笑いを上げた。
イーディスはどこか愉快そうだ。
もちろん、これだけ人を集めて「サラを断罪するパレードを開催しよう!」と街の人達に声をかけたのは、俺である。
「サラってメチャクチャ弱いんじゃ……」
「それに子どもに手を上げようとしたと言ってたじゃないか」
「オレは最初からサラのことが気に入らなかったんだ」
「アルフさんの言ってることが本当なら、サラはオレ達のことを騙して悦に浸っていたに違いない」
そんな声が街の至る所から囁かれるようになった。
最初の頃と比べて、評価が逆転してしまっているのだ。
俺は毒液を一滴垂らしただけ。
弱くなったとしても、もしサラが謙虚な性格だったら、ここまで毒が回らなかったかもしれない。
「なあ——みんな」
毒が完全に回ったのを見計らって。
俺はパレードの計画を打ち明けた。
……そして現在だ。
サラが想像していた賞賛を投げかけられるパレードではなく、石や罵声を投げかけられる地獄のパレード。
「クッ……痛い……」
サラがとうとううずくまってしまった。
「おいおい! ちゃんと大通りくらいは歩けよ! まだ半分しか歩いてないじゃないか! みんなに失礼だろ!」
とサラの腕を持って、俺は無理矢理立たせた。
「もう限界だ……このままじゃ、死んでしまう」
「大丈夫」
俺はニイと笑い、
「死ぬギリギリのところまでで調整してやるから」
「ああ……」
がっくしとサラが肩を落とす。
死ねなくても死ねない、底辺生活をサラにプレゼントだ。
「サラに比べて……アルフ様は素晴らしい!」
「モンスターから子どもも救って!」
「しかも色々なクエストを完璧にこなしてくれる! まさに街の英雄だ!」
「アルフ様抱いて!」
サラが罵倒される一方、俺は街の人々から賞賛を受けていた。
「どうして……? アルフが?」
「決まっている。評価が逆転したんだよ」
「その賞賛は……私がもらうはずだったのに……」
「ハハハ! 残念だな。お前のその評価、ぜーんぶ俺がもらっちゃったから」
とはいっても、すぐにこうやって評価や態度を変えるここの住民は根本的にはエリオット達と同じかもしれない。
非常に醜悪。
まあ、今回はその醜悪さを利用させてもらったわけだが。
そんなことを思いながら、サラの方を見ると、
「うう……私の……私の勝ち組人生が……一瞬でパーに」
「泣くなよ。みっともない」
「あああああああ!」
まるでモンスターのように泣き叫くサラ。
そんな彼女に向かって、ひたすら罵声が浴びせられていた。




