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2・逆転スキル獲得

 ——憎い。


 憎い憎い憎い憎い憎い憎い。


 頭の中が憎悪で埋め尽くされている。

 ここまでどす黒い感情で埋め尽くされたのは、初めてかもしれない。


 今頃、勇者エリオットは三人の女と、夜の遊戯を楽しんでいるだろう。

 その中には——エリオットに心奪われたフェリシーもいる。


 やはりフェリシーもただの女だったのだ。

 男の力や金や名誉に弱い。


「憎い……復讐するだけの力が欲しい……ヤツ等を八つ裂きに出来るような力が欲しい……」


 しかし今の俺ではその夢は叶わない。

 エリオットはもちろんのこと、聖女マルレーネも戦士サラ、そして魔法使いフェリシーもレアスキル持ちであり、俺では勝てないからだ。


「あいつ等を蹂躙するだけの力……泣いて土下座させる力……小便を漏らして俺に命乞いをさせる力……力が欲しい」


 そう呟きながら、俺は夜の王都を歩き回っていた。


 ろくに風呂も入っていない俺からは悪臭がたち、さらにエリオットに殴られたせいでボロボロの格好になっている。

 そんな俺を見て、通行人が顔を歪めている。

 その中には俺を勇者パーティーの一員だと思わず、浮浪者かなにかだと思っている人もいるだろう。


「ん?」


 よろよろと歩いていると、路地裏でうずくまっている女の子がいた。


 野垂れ死にか——。


 エリオットのような勝ち組が多数いる中、王都では明日食べるものもろくにないまま餓死していく負け組もいる。


 王都の光と影。その影の部分。

 珍しくない光景だ。


 普段の俺なら、そのまま素通りしていただろう。


 だが——今日の俺は何故だかその女の子に話しかけていた。


「おい、大丈夫か」


 路地裏に入って、女の子を揺さぶる。


 すると女の子は顔を上げて、


「誰……?」

「うおっ、生きてたか」


 死んでるかも……と思っていたので、驚いてしまった。


「俺はアルフ。君は?」

「私? 私は……イーディス」

「イーディス——良い名前だね」


 イーディス教の崇めている『イーディス神』と同じ名前じゃないか、と思ったが、正直そんなことはどうでもよかった。

 それよりも……。


「獣人族か」

「…………」


 女の子——イーディスは顔を伏せる。

 イーディスの頭からは二つの耳が生えている。

 その耳は元気がなさそうにペタンと倒れていた。


「獣人族は人間が虐げられているのは知ってるだろう? どうしてこんな王都にいるんだ」

「…………」


 イーディスは口を開かない。


 獣人族は人間から避けるために、集落を作りその中で住むのが一般的だ。

 獣人族への差別は多く、こんな人間が多いような王都にやって来るなんて自殺行為だ。


「……あなたもわたしをイジめるの?」


 イーディスが怯えたような視線を向ける。


「ハハ……」


 俺はそれを聞き、思わず渇いた笑いをこぼしてしまった。


「俺が? 俺みたいなどうしようもないヤツが君を? そんなわけない。そこまで心は腐っちゃいないさ」


 大方、イーディスはこの王都に迷い込んできて、人々からイジめられこのような姿になった……といったところだろう。

 働くところもなく、泊めてもらえるところもなく——それどころか、食べるものを買うことすら出来なかっただろう。


「そうだ。これを飲みな」


 俺はポーションを取り出し、それをイーディスに手渡した。


「…………」


 イーディスは警戒して、それを飲もうとしない。

 昔、毒薬でも入れられた経験でもあるのだろうか?


「大丈夫。それはただのポーションだから」

「…………」

「心配なら飲まなくていい。でも飲まなかったらそのまま死ぬだけだ。それでもいいのかい?」

「…………」

「俺を信じて」


 俺がジッとイーディスの瞳を見ると、やがて彼女は意を決したようにポーションに口を付けた。

 そして一気に飲み干す。


「……美味しい」

「ハハ。それは良かった」


 イーディスの顔からみるみるうちに活気が戻っていた。


「お前……そんな可愛い顔してたんだな」

「え……?」


 ちゃんと顔を上げたイーディスは、髪はボサボサであるが、可愛らしい顔をした少女であった。

 髪も整え、軽く化粧をしたら誰もが振り向く美少女になるに違いない。


「あっ……ポーション、ありがとう……」

「どういたしまして」


 正直、なけなしのポーションであった。そしてポーションはそこまで安くない。

 それをこんな見ず知らずの少女に渡してしまうなんて……。

 俺もお人好しだな。だからエリオットみたいに他人を蹴落とすような勝ち組になれないんだ。


「じゃあ俺はもう行くよ」


 手を振って、イーディスに背を向ける。


 正直……こんなポーションは気休めだ。獣人族である彼女が生きていくには力がなさすぎる。


 だが、人助けをしてみたかったのだ。

 自分はあのゲスなエリオットと違う、と言い聞かせたかったのかもしれない。


「待って」


 去ろうとしたら、イーディスに服の裾をつかんで止められた。


「あなたの願いを教えて」

「俺の……?」


 少女は真っ直ぐ俺を見つめる。

 そんなの決まっているじゃないか。


「復讐するだけの力が欲しい」

「…………」


 ジッとイーディスは俺の話に耳を傾けている。


「ただ復讐するだけじゃない。殺してお終いじゃあまりにも退屈すぎる。そいつが自分で死にたくなるような……そんな無残な方法で復讐したい。そうだな、復讐相手を底辺に堕としてみても面白いかもしれない。俺以下の底辺。今まで経験したことのないような地獄。それをあいつ等に味あわせる……そんな力が欲しい」


 それは心からの声であった。

 もちろん、イーディス神の神託を受けた彼に敵う力なんて、到底得られないと思うが……。

 俺はこんな少女になにを言っているんだろうか?


「分かった」


 イーディスはそうただ一言。


「あなたにその力を与える」

「ハハ。ありがとう」


 子どもの戯れ言だと思った。

 そんな簡単にエリオットに復讐するだけの力なんて得られないと思った。


 しかしイーディスは俺の額に手を当てて、こう呟いた。


「……スキル定着実行」

 ポワッと彼女の手が光る。


 次の瞬間であった。



 ——スキル【みんな俺より弱くなる】を習得しました。



 という声が頭に響いたのは。


「これは……?」


 イーディスに問いかけると、


「これはあなたが望んだ力」


 彼女は立ち上がって、まるで神託を告げるかのように続ける。


「復讐するだけの力。相手を底辺に堕とす力。そんな呪い。みんなみんな、あなたより弱くなったら、必然的にあなたが最強だ。みんな仲良く弱くしてあげればいい」

「それが【みんな俺より弱くなる】……初めて聞くスキルだな。これは」

「当たり前。だって()()にはまだ誰も与えていないんだもん」


 だが、イーディスの言っていることが本当ならば、俺の叶えたいことが実現出来るかもしれない。

 イーディスは俺に体を寄せ、こう耳打ちした。


「さあ——復讐をはじめよう」

次からずっとアルフのターンです!

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