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13・イーディス教も堕ちていく

「もう……止めてください……わたくし……謝りますから……」


 顔をボコボコにしたマルレーネは、息絶え絶えに言葉を絞り出した。

 あれだけおキレイだった顔が、今となった見る影もない。


「おいおい! もうギブアップかよ!」


 まだお前への復讐は序盤なんだぞ!

 もっともっと俺を楽しませてくれよ!


「だが、謝ったのは良いことだ。お前、人に謝るってこと出来なかったもんんなあ?」


 それを考えれば、マルレーネも成長した。


「だからお前にチャンスを与えよう」

「チャン……ス……?」

「ああ。良かったなあ。俺、優しいから」


 マルレーネの髪をつかんで、俺は他の神官共にも聞こえるくらいの声で言った。


「生けにえとして信者の首を100捧げろ」

「え」

「それが出来れば、俺の怒りも収まるかもしれない。それくらい、お前等だったら簡単に出来るよな?」


 と俺が条件を提示してやると、周囲の神官がにわかに活気立つ。


「おお……! アルフ様がお素晴らしいことを言ってくれた!」

「信者の首をたった100捧げるだけで、お許しいただけるとは!」

「それくらい任せろ! 我々が適当な理由をでっち上げれば、信者は喜んで首を捧げるだろう!」


 もうここから逃げ出せるとでも思っているのか、さっきまで絶望のため顔色を暗くしていた神官だが、徐々に明るくなっていった。


 ……ゴミが。


「本当ですか?」

「ああ」

「それくらいお任せください!」


 マルレーネも胸に手を上げ、声たかだかに言う。


「信者の命など、わたくし達の命に比べればあまりにも安いですわ! 今すぐ信者かねづるの首を取ってきてあげましょう!」

「おいおい。神職者だとは思えない発言だな」

「ふんっ! アルフは神など信じているのですか?」

「信じてるよ」


 だって隣に立ってるんだから。


「神などいません! あんなものはお金を集めるために作った偽物の存在です! お金さえあれば、どうでもいいんです!」


 ハハハ!

 こいつ、とうとう言いやがったな!

 周りの神官の反応を見るに、マルレーネと同じようなことを思っていそうだ。


 それにしても愚かだな。

 俺の誘導に乗って、()()()()の発言をこれだけポロポロこぼしてくれるんだから。


「ん……?」


 ここで最初、マルレーネが気付く。


「なんでしょうか……この地鳴りのような音は……」


 怪訝そうな表情になるマルレーネ。

 俺はこの音の正体を知っている。


「俺を楽しませてくれるお礼だ。今からお前等に、底辺生活の入り口を見せてやるよ」


 と言って、俺は大聖堂の窓を開いた。


 言い忘れていたが、今俺達がいる審判室は十階だ。

 そこから下を見ると——。



 ぞろぞろと大聖堂に向かって、怒号を上げている人達の姿があったのだ。



「えっ……?」


 マルレーネが目を丸くする。

 大聖堂に向かってくる人達は、徐々に数を増やしていっているようで、とても終わりが見えなかった。


 ちゃんと説明していなかったが、フランバル大聖堂はベネディアという宗教街しゅうきょうがいの中心にある。

 大聖堂もあるということで、ベネディアの人達は全員がイーディス教の熱心な信者だと言われている。

 ここに向かってきているのは、そのベネディア中の信者だろう。


 耳をすませると、こんな声が聞こえてくる。


「さっきの発言はどういうことだ! 信者が喜んで首を捧げるって?」

「ふざけるな! いい加減、頭にきた! それに神がいないってどういうことだ?」

「やっぱりお前等はオレ達のことを金づるとしか、思っていなかったのか!」


 次々にイーディス教の不満を口にしていた。

 やはり——というか計算通りだったけど、こっちに向かってくる市民とはイーディス教の信者達らしい。


「ど、どういうことですか! どうして……わたくし達のここでの発言が、信者達に知られているのですか!」


 マルレーネが慌てたようにして、窓から身を乗り出す。


「キャアアアアア! なによ! あの化け物みたいな顔した女は?」

「モンスターだ! イーディス教は大聖堂内にモンスターを飼っているんだ!」


 信者達の言葉に耳を傾けると、窓から顔を出したマルレーネを見て悲鳴を上げていた。

 俺に殴られ、見る影もなくボコボコになったマルレーネを見て、信者達は誰か気付かないのだろう。


 マルレーネはすぐに窓を閉じてから、


「アルフ! あなたがなにかやったのね?」

「おっ。よく分かってるじゃないか。さすがは聡明そうめいな聖女様だな」

「アルフが一番賢い」


 さっきの俺の言葉が不満だったのか、イーディスが少しむーっとした顔をしていた。


「これってなんだと思う?」


 部屋の隅に言って、俺はとある魔石を持ち上げる。


「それは……遠方への連絡に使われる魔石? ま、まさかあなたは!」

「そういうことだ」


 そうだ。これはマルレーネを呼び出した際に利用した、映像を保存することが出来る魔石である。

 今までの一部始終、ちゃーんと保存させてもらいましたよ、っと。

 まあマルレーネは後ろ姿と声だけであるが。

 ボコボコになった顔を見せたら、こいつがマルレーネだと気付かないだろうからな。


「そして……他の神官に言っておいて、再生用の魔石をこれでもかっていうくらい街中にばらまいていたのさ」

「な、なんですって!」

「そしてお前の発言は! 魔石を通して生ですぐに信者達に届けられたということだ!」


 神官共には恐怖を植え付けているので、俺の言うことをほいほい聞いてくれた。

 そしてマルレーネを呼び出したり、復讐している時間の間に——どうやら、俺の指示を忠実に守ったらしかった。


 あまりにも愚かだ!

 俺の言うことを聞こうがどうしようが、お前等の底辺生活が変わらないというのに!


 当たり前だが、信者の首を100捧げたら許してやる……というのは嘘だ。

 こいつの失言を引き出すためにな。


 それをマルレーネも分かったのだろう。

 愕然とした顔をしていた。


「お前、メチャクチャ言ってくれたよな? 信者は金づるだとか、神はいないだとか」

「そ、そんなことありませんわ! これはこの男の指示で——」

「はいはい」


 と俺は言いながら、魔石を床に叩きつけた。

 そもそもこの魔石はちょっと衝撃を与えれば割れてしまう、繊細なものなのだ。

 その結果、パリンと粉々に割れてしまった。


「ああ……」


 魔石が割れるのを見て、マルレーネが床に膝を付いた。


「ハハハ! どうだ! イーディス教が失墜したのを見て、お前はどう感じるんだ!」


 絶望しているマルレーネを見ていたら、あまりにも愉快になって笑いが止まらなくなっていた。

 


 とはいっても、本当の信者だったらマルレーネの言葉を信じなかっただろう。

 これはなにかの罠だって。

 でもマルレーネの言葉を簡単に受け入れたのは、元々イーディス教の信者は不満を持っていた、ということになる。


 人からお金を搾取し、自分達はどんどん肥えていくイーディス教にな!


 それが今回、爆発しただけ。

 俺は着火をしたに過ぎないかもしれない。



「この信者達が大聖堂に押し寄せたら、お前等はどうなるっ? 弱くなったお前等じゃ暴徒化した信者を押さえきれないよな? どんなひどい目に遭わされるだろうな? ハハハ! 自分達が金づるだと思っていた信者にそんなことをされるのは、どんな気持ちだ!」


 大聖堂に響き渡るようにして言った。


 だんだん地鳴りの音は大きくなっていく。

 それはイーディス教が崩壊していく音にも聞こえた。

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