表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/49

12・美しい聖女様はいなくなりました

前回のあらすじ・復讐のため悪魔審判をすることになりました。

「悪魔審判……? どういうつもりですか?」


 マルレーネは恐る恐るといった感じで質問した。


「そのままの意味だ。お前の中に悪魔が取り憑いてるかもしれない。それが本当なのか嘘なのか……今から見極めたいと思うんだ」

「なにを言っているんですか! わたくしに悪魔なんか取り憑いていませんわ!」


 胸に手を当て、そう否定するマルレーネ。

 しかし俺にとってはエリオット(のお金や地位)に心酔しているマルレーネは、悪魔にしか見えなかった。


「悪魔審判なんか、わたくし認めません! 即刻、わたくしと神官達をここから出しなさい!」

「それは今から俺が決めることだ」

「あながっ? あなたのようなやからに決定権などござい——な、なにをするのですか!」


 マルレーネの両肩を持って、無理矢理近くの椅子に座らせた。

 しっかりとした鉄製の椅子である。

 今までここに被害者を座らせ、何日にも渡って暴行してきた。

 随分と血が染み込んでいるんだろうなあ。


「こ、こんな汚らわしいものに、どうしてわたくしが座らなければならないのですかっ?」

「あっ、そうだ。今から悪魔審判をするって言ったけど、抵抗してくれてもいいよ。それはお前の自由だから」

「言われなくてもいたしま——か、体が動きませんわ!」


 マルレーネは椅子に座ったまま、足をバタバタと動かした。

 体が動かないんじゃない。

 俺がマルレーネを椅子に押さえて、動かなくしているだけだ。


 もっとも。


「お前、力ないんだな。俺、人差し指しか使ってないぜ?」


 俺は人差し指でマルレーネの額を押さえているだけである。

 それだけで動かなくなるとは……全く、情けないことだ。


「離しなさい! クッ……どうして、このような男に取り押さえられなければならないのですか!」

「よし、このまま悪魔審判をはじめるぞ。イーディスもよく見といてくれよ」

「分かった」


 マルレーネがなにやらわめいていたが、無視して悪魔審判をはじめることにした。


なんじに問う。汝は悪魔か?」

「悪魔じゃありませんっ! そんなの当たり前じゃないですか!」


 凜とした表情でマルレーネが口にする。


 改めて見ると、本当に整った顔だ。

 マルレーネは自分が美しいことを分かっているし、それに自信を持っている。

 昔からそうやって男をたぶらかして、良い思いもしてきたんだろう。

 その美しさに目を奪われた一人が、勇者エリオットだしな。


 そんなことを考えている腹が立ってきたので、取りあえず顔を一発殴っておいた。


「ふんぐっ!」


 マルレーネから聞いたことのないような声が聞こえた。


「悪魔はいつもそう言うんだ。殴ってたら、いつかボロを出してくれるかな?」

「あ、あなたは狂っていますわ……こんなことをするなんて」

「狂っているのはお前の方だよ」


 そう言って、もう一発顔面に拳をお見舞いする。

 血と涎が飛んだ。


「顔は……顔は止めなさい! こんのっ——」


 魔法が封じられたマルレーネは、間抜けにも俺の頬にビンタをかましてきた。


 だが……。


「おいおい、いくら女でも力なさすぎだぞ。よちよち〜、今から俺が遊んであげまちゅね〜」

「触れるな! あなたのような汚物がわたくしに触れるのでありません!」


 左手でマルレーネの平手を止め、右手で頭を撫でてあげる。

 すると悔しさのあまりマルレーネの顔が歪んだ。


 驚いた。

 あまりにもマルレーネの力が弱かったからだ。

 赤ん坊がはたいてきた、と思ってしまったぞ。


「さあ、悪魔審判の続きをはじめよう」

「…………」

「汝に問う。汝は悪魔か?」

「…………」

「ふんっ」


 今度は喋らなくなったので、マルレーネの顔をまた殴った。


「黙っているということは、悪魔ってことを認めるんだな」

「許しません……このような非道。絶対に許しませんっ」

「反抗的な態度だな。よし、悪魔が体が出てくるまで殴ってあげよう」

「か、顔はお止めなさい! 顔だけは!」

「うるせえ」


 執拗にマルレーネの顔()()を殴り続けた。

 マルレーネは抵抗しようと手を伸ばそうとしてくるが、まるで俺は赤ん坊をあやすかのように、それを払いのけた。

 マルレーネのキレイな顔がだんだん変形していく。


 そうだ。顔といえば昔こういうことがあった。




 勇者パーティーにいる頃。

 エリオット達の雑用係どれいとして働いていた時だ。


「鏡……鏡を持ってきなさい。アルフ」


 と椅子に足を組んで、マルレーネは言った。


「鏡……すいません。宿屋に忘れてきました」


 マルレーネの言っているものは、手鏡であろう。

 普段持ち歩いているが、たまたま忘れてしまった。


 それを聞いて、マルレーネは髪を逆立たせて、


「この無能がっ! 地に沈みなさい!」


 平手で俺の頬をはたいて、背中をげしげしと踏み出したのだ。

 しかもこの時、マルレーネの履いていたのはハイヒール。


「っ!」


 形容出来ないような痛みが体に襲った。


「どうしたんだい?」

「あら、エリオット様。アルフがわたくしの手鏡を忘れてきまして……」

「なにっ! 貴様、なにを考えているんだ! 手鏡がなかったら、マルレーネが髪をセット出来ないじゃないか! 化粧を整えることも出来ない!」


 言っておくが、今ここはダンジョンの中だ。

 見た目なんかその次。モンスターの討伐こそ気にすべき事項だったのだ。


 だが……マルレーネはエリオットの背中に隠れて、邪悪な笑みを作っていた。


「お仕置きしてください、エリオット様! この愚かで汚い男に!」

「ああ、任せておけ」


 ニヤリと二人の口角が吊り上がった。

 その後、地獄の『お仕置き』が続いたのは言うまでもない。




「おっ、なかなか美人になってきたじゃないか!」


 そして今!

 マルレーネがなによりも大切にしていた美貌が失われようとしている!


「許しません……絶対にあなただけは……」


 顔をボコボコにしたマルレーネが、辛うじて声を絞り出した。


 俺はマルレーネがなにを言おうと、なにをしてこようと、顔だけをひたすら攻撃し続けた。

 そのおかげで、今のマルレーネはオークのようにれ上がっていた。


「ああ、マルレーネ様が……」

「なんという罰当たりな……マルレーネ様の美しさが……」


 マルレーネのファンも多かったんだろう。

 神官共が悲しそうな声を出した。


「そうだ。昔、ダンジョン出掛けた時手鏡忘れたことあったよな?」

「そんなことありましたっけ……?」


 俺となっては地獄のことであっても、こいつ等にとってはなんとも思ってなかったんだろう。

 そう考えるとさらに腹が立ってきた。


「あの時は悪かったな。ほら、手鏡だ。髪をセットしてくれてもいいし、化粧を整えてくれてもいいぞ」


 審判室の中にあった所々血で汚れた手鏡を、マルレーネの前に差し出す。

 拷問のためだろうか。

 審判室の中には色々な道具があって、非常に有り難かった。


「お、お止めなさい……っ! こんな顔見たくない!」

「まあまあ。遠慮するなよ」


 顔を背けようとしてきたので、マルレーネの後ろから無理矢理瞼を開かせてやった。


「イーディス、その手鏡持ってくれ」

「うん、分かった」

「キャァァアアアアアアア!」


 マルレーネが鏡を見て、絶叫する。


「これがわたくし……? わたくしのキレイな顔……?」

「ああ、お前の顔だ。良かったな。もっと美人になったぞ」

「見たくない! こんな顔、見たくない!」


 マルレーネは最後の力を振り絞って逃げようとするが、俺は手を離してやらなかった。


「さて。悪魔審判の続きをやろうか」

「まだ……おやりになるつもりですか?」


 当たり前だ。


 そうだ……。


「しかし俺も鬼じゃない。自分に悪魔が乗り移っている、と白状すれば今すぐここから出してやろう」

「えっ……」


 マルレーネは一瞬の逡巡しゅんじゅん

 自分は悪魔じゃない。けど言ったら、この地獄から解放されるかもしれない……と悩んでるだろう。


 やがてマルレーネが出した答えが、


「わ、わたくしは悪魔です……だからここから早く解放しなさい」


 苦渋の決断であった。


「ハハハ!」


 俺はそれを聞いて、思わず笑い出してしまった。


「自分から悪魔を認めるとはな! よし! 安心しろ! 悪魔がお前の体から出ていくように、ずっと殴り続けてあげるから!」

「えっ……認めたら、ここから出してくれるのでは……?」

「そんなの嘘に決まってるだろ」

「そ、そんな……」


 力なく肩を落とすマルレーネ。

 容赦なく、俺はそんな彼女に対して再度拳を振り下ろすのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ