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滅鬼  作者: Hideki
幼馴染 参
7/7

学校で幼馴染との再会は気まずい

「はいはい、高欄女学院弓道部の方たちッスね。本日はどうされましたか?」


健也の偶然を装った、壁からさり気なく出現作戦は成功する。


「あっ、こんにちは。王真賀高校の生徒の方ですか?」


「そうすっよ、俺は一年生の橘って言います」


彼の眼前に映るのは、私立校ならではの制服を着た女生徒の姿であった。

まず自分が通う高校は、学ラン制服着用を義務付けられている(健也は違反制服を着用中)。


対する高欄女学院は冬は紺色のブレザーを着用し、今は夏服ならではの白いブラウスに胸元に赤いリボンを結びつけていた。

スカートは紺色のチェック柄と、創作世界にある王道のお洒落な制服構成である(想像は個人差があります)。


「橘君って言うのですね。私は、高欄女学院三年生で弓道部主将を務める常盤綾音と申します。本日は、よろしくお願い致しますね」


そう自己紹介をする女生徒こと常盤綾音(ときわ あやね)三年生は、向かいに立つ健也に笑顔で応えていた。

肩幅まで伸ばしたフワフワの茶色い髪に、上品な愛らしさが有る顔の構成。

これには、健也もタジタジになってしまう。


「とっとっ常盤さん。いっいい、名前ッスね」


目の前に立つ、年上の綺麗な女生徒のせいで発する声が自然に震えてしまい、まともな対応が出来なくなっている。

これぞ美しき理想の青春グラフィティ、と思いたい所だが次に登場する人物により現実へと戻るのだ。


これから始まるかもしれないリアルなラブコメの世界。

緊張で暫く無言のまま、健也と常盤綾音が互いを見つめ合う中、玄関の外側から別の女生徒による声が聞こえてきだした。


「常盤主将、その男子に近付いてはいけません。かなり野蛮な男です」


そう言いながら新たに王真賀高校の玄関を跨いできたのは、健也がよく知る少女であった。

その少女の名は六実楓(むつみ かえで)

今年、十六歳になる健也の幼馴染だ。


「かっ楓……」


よく知る少女の成長した姿を見て健也は、思わず下の名を口に出してしまい、立つ位置を一歩引き下がってゆく。

何故なら、彼女と同じ高校の先輩を口説こうとしたのが知れると恥ずかしいからである。


そんな六実楓は、自分の背まで伸ばした絹糸の様に艶がある濡れ羽色の長髪を右手で払い、咎めるような目つきで健也に視線を送る。


「六実さん、貴女のお知り合いですか?。なにやら深い仲のような気が……」


「いいえ。その男は家の仕事で、昔から知るくらいの者です。それに見て下さい主将。

現代の高校生活に於いて、時代遅れな不良の格好をした生徒が私と深い仲な訳がないでしょう」


「それもそうね。お家が神社の六実さんとは不釣り合いですね、ふふふっ。あっ!ごめんなさい、つい……」


六実楓と常盤綾音が繰り出す、現役女子高生によるキツい言葉の連撃は、ときめこうとした彼の心を撃沈させていた。


かなり野蛮な男。

時代遅れな不良の格好。

お家が神社の六実さんとは不釣り合い、不釣り合い・・・不釣り合い・・・・・・。

健也の脳内に不釣り合いの単語が木霊していく。


「本当にごめんなさい、橘君。私、お喋りに夢中になってしまうと知らない間に相手を傷付ける癖があるんです」


少々、天然な部分が有ると自覚する常盤綾音は、健也にペコペコと頭を数回下げていた。


「いや、いいっすよ常盤さん。俺、こんなナリっすから時代遅れだってよく言われます」


何とか気を取り直して再度、華やかな会話をしようとする健也だった。


だが


「あのさ、あんた。私の高校の先輩を口説こうとしたでしょ?。さっきバスから降りる途中、あんたが壁に隠れてコソコソしてたのを私は見たのよ。

偶然装ったのか知らないけどさ、どう見ても不自然だったわ」


「くくぅーーっ!」


なんと!健也のしていた行動は全て楓に見られていたのだ。

バレてしまうと流石に腹の底から、声にならない恥ずかしさが込み上げてきてしまう。


「気持ち悪いの本当。私の学校、女子校なんだからアンタみたいなの目に毒なのよ」


「六実さん、そこまで言わなくても……」


いくら幼馴染とは言え、他校生に対しキツいのを越した楓の言動に常盤綾音は困った顔をするしかなかった。


幼馴染同士が繰り出す、気まずい雰囲気になったこの状況。

二人の間に挟まれる常盤綾音は他校へ練習試合に来た筈だが、これだと自宅に居るお母さんが観る、昼ドラのような男女間における青春奮闘劇を体験しているようだ。


「・・・・・・これだとまるで」


例えるならば、夏休みになると再放送されるキッズウォーの世界観。

一瞬だけ、綾音の脳内に『牡丹と薔薇』が脳裏に浮かんだが、あの世界は十代の自分達には過激すぎるので、近い感覚のキッズウォーへ、すぐ変換させる。


そのような状況に立ち合い、オロオロしているだけの綾音であったが、


「では主将、私たちは武道場に参りましょう。

この輩に心を射られてしまえば死気体となります。

生気体となって的を射るのが我々、弓道部の武士道精神。射位に立つまでは、常に精神統一が必要ですよ」


と六実楓がそう言いながら、右肩に掛ける名前入りの弓袋を見せてきた。

黒皮で造られ【高欄女学院 弓道部】と白い糸で刺繍がされるこの道具は、綾音に本来の目的を思い出させていく。


「そうですわね、六実さん。橘君に王真賀高校さんの弓道場の場所をお伺いしますね」


しっかり者の後輩のお陰で此処に来た目的は、リアル昼ドラを体験しにきたのでは無く、部活の練習試合に来たんだと再認識したのである。


本来の目的を思い出した常盤綾音は、健也にこう伝える。


「橘君。私たち五名の部員は、これから弓道場に向かいたいのです。なので、場所を教えて戴けませんか?」


「あっはい、弓道場ならあっちッスよ……」


右手を上げて玄関から向かって左方向に向かえば、目当ての施設は此処ですよと伝えようとしたのだが、


「常盤主将、王真賀高校の弓道場は、あちらの体育館横、武道場内に在るそうです。今ほど顧問の田中先生から、皆にLINEが入りましたよ」


「あら、いけない。私ったら、マナーモードにしていたから気が付かなかったわ」


「主将、私のiPhoneもマナーモードですよ……」


常盤綾音と六実楓の背筋へ、七月だと云うのに季節はずれの寒風が静かに『ヒュル~ッ』と吹いてゆく。

だが、そこはしっかり者の後輩部員として先輩の顔を立てる行為に出た。


「あっあんたが、主将に馴れ馴れしく話し掛けるからいけないのよっ!?」


そう言いながらも苦し紛れ感があり、楓の表情は若干であるが冷や汗を掻いている。


「えぇーっ!!俺のせいかよっ!?」


「だっ大体ね、玄関の掲示板に案内図が有るんだから、あんたなんか必要ないのよ!わかる?」


楓の言い分としては、先輩がLINEの着信に気付かなかったのは健也が原因であると主張してきたのだ。


「んだとっ!コラッ!。俺が親切でした事を必要ないってか!」


「なに逆ギレしてるの?。あんたが先輩にした親切は、色欲にまみれた煩悩そのものよ」


「うっ……{くそーっ}」


煩悩そのものと例えられた健也は、楓からの言葉に何も言い返せなかった。

言い返せなくなる理由も間違いなく、自分の欲望からきた親切心なので悪いのは自分だと納得したからだ。


後輩と口論するも一方的に言い負かされる健也の姿を見て、綾音は少し彼が可哀想だと思い、こう切り出した。


「そっそれでは、私たちは失礼いたします。六実さん、ほら行きましょう」


と場の空気を読んで移動する事を催促する。


「はい。少々、取り乱してしまい申し訳ございません」


会話のやり取りの後、常盤綾音と六実楓は健也を残して玄関先を跡にする。

その後、他の高欄女学院 弓道部の女生徒たちがスタスタと健也の前を会釈しながら歩いてゆく。


「あいつ、あの時のこと根に持ってんだな……」


既に健也は、他校から来た女生徒を気に止める事など出来なくなっていた。

ただぼう然と立ち尽くす胸中には、昼間に話していた楓との幼少期の思い出を悔やむ事だけである。

厄を祓う者として生きる運命(さだめ)は、時として互いに葛藤を生むのだと思うのだ。


高欄女学院の生徒たちが弓道場まで移動する途中、常盤綾音は隣を歩く楓にこう話していた。


「そう言えば、六実さん」


「はい、なんでしょうか?」


「武道に真面目な貴女が、長い髪を下ろすなんて珍しいわね」


「えっえっ、あぁーっ。私、髪を結ぶのを忘れていました」


突然の質問に対し楓は、かなり動揺しながら上制服(シャツ)の胸ポケットから白い髪結い紐を取り出した。

その髪結い紐を細く麗しい手指に挟み、自身の艶がある濡れ羽色の長い髪を後ろで縛って纏めていく。


「本当に忘れていましたの?。普段から綺麗に纏めてますのに貴女らしくないと言うかなんと言うか。

私の記憶が正しければバスに乗る前は、ちゃんと纏めていましたわよ」


「たまたまです!。本当に、たまたまバスで髪を解いただけです主将っ!」


「そうですか?。それならば本当に珍しいことですね」


「はははっ、私も偶にうっかりしちゃいますよ……{まさか気付かれたかしら?}」


楓は先輩からの言葉に内心、驚きを隠せなかった。

自分の長い髪を下ろしていたことが、うっかりではなく意図的であった事を知られたかと思ったからだ。


「ささっ主将、道場は目の前です。早く中に入って、挨拶を済ませましょう!」


弓道場へ入る前、楓は誤魔化すように綾音をそそくさと後押しするのだった。


一方、1年C組の教室に戻った健也。

昼から運動部特待生のクラブ活動により、クラスメートの数は25名から13名へと減っていた。

教室内に残るのは、文芸部か帰宅部の同級生たち。

少し、教室内は何時もと違って静かな雰囲気がある。


「よっこらしょ」


健也は、自分の席にへと着く。

時計の時刻は十三時三十分、五時限目の授業まで10分程度、昼休みが残っている。

健也は、自分が座る学校机の上に教科書を開くこと無く、そのまま昼寝をしようとした。


すると


「タチバナくんっ、タチバナくんっ、ちょっと聞きたい事がありマッスル」


と昼寝の邪魔をしてくるのは、織田野くん率いる文芸部の三人集。

織田野君の左右には、冴歯君と対馬君が鼻息を荒くして立っている。


「三人して、ハァハァしながら俺に何の用だ?」


鼻息が荒いクラスメートを見て健也は、少々どん引きした様子で対応に入った。


「いやその~っ、さっき僕たちは教室で君が練習試合に来た高欄女学院の女生徒と会話をしているのを見たんだよぅ。それでちょっと気になってね……」


「なっなっ何だよ、気になるってことはよ{マジか、あの光景を見られた!?}」


どうやら玄関先でのやり取りを目撃されてしまい、その時の事について健也は質問されだしたのだ。

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