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滅鬼  作者: Hideki
幼馴染 弐
6/7

学校の屋上は青春の群像

腹を空かせた同級生に嫌いなトマトもあげれて、相手も喜んでくれて互いにWINーWINな関係にもなれる。

オマケに優しい自分の格好良さを女子にアピールできて、首藤満はキラリと輝く爽やかな笑みを浮かべていた。


だが


『ぐぅるるるうぅ~っ』


ミニトマト1個ぐらいで健也の空腹など満たされない。普通に考えて満腹感は、雀の涙なのだ。


「くそーっ、余計に気分悪くなってきた」


再び空腹と戦う為、健也は机の上で疼くまり地獄のようなこの時をやり過ごそうとする。

昼寝をして気を紛らわそうと考えて、考えて、考えるが人間、飢えと言う欲求には打ち勝てない。

そんな時に健也は思った。


「小学校の時に持ってた香り付き消しゴムがあったらなぁ。コーラの香りのヤツなんか、食べれそうな感じしてたよな」


と小さい頃に使っていた勉強道具を食せるのではないかと想像する。


「でも、あの消しゴム。明らかに色がヤバいヤツだったから止めた方がいいか……」


人間、やはり消しゴムなんてモノは食べる物じゃないと我に返っていく。

空腹と戦う折、教室の廊下に隣接するドアの方から何やら猫の鳴き声が聞こえてきた。


「ニィャア”~ン」(天田益男さんボイスで脳内再生してください)


その声は、明らかに人工的に作られた猫の鳴き声。

猫なのに嗄れ(しゃがれごえ)であり、人間で例えるなら厳ついガテン系の男が可愛い自分を若い女の子に見せて喜んで貰うような態とらしい猫の鳴き声だ。


机に疼くまる健也は、猫の鳴き声を聞いて思う。


「オッさんみたいな鳴き声だな。ってか、よく聞くオッさんの声だし」


声の主は、よく知るモノだと分かってはいるのだが、こんな時間に学校へ来る筈はないと現実逃避していた。

声が似ているだけの人間なのか?、片や本当に猫なのか?。

心の奥で言い聞かせるが、深く考えないようにしようとする。


「あっ!風呂敷を担いだ猫ちゃんが来たわよ」


「本当だわ、かわいい」


「ニィヤァ”~ン、ゴロゴロ」


どうやら教室に入ってきたのは本物の猫のようだ。

クラスの女子達から黄色い声を浴びている。

と言うか、周りの反応的に猫である。


「あら、私たちの足下でスリスリしてるわよ。抱っこして欲しいのかしら?」


健也は、机に張り付けた顔を少しだけ横に向け、声が聞こえる方向に視線をやる。

向けた視線の先には、自分がよく知る、雉トラの猫がクラスの女子三名へ甘えるようにスリスリしているのを発見。

その猫は、愛らしさでソックスを履いた女生徒の足下へスリスリする傍ら、たまに片目だけを開けてスカートの中を覗いていたのだ。


「も~うっ、激カワなんだから抱っこしよっと」


「あーっ、私にも抱っこさせて~っ」


「私にも、私にも」


その雉トラ猫は、女子三人に代わり番こで抱っこされていた。


「ニィャ~オ”ン」


女子高生達に抱っこされる猫の表情は、かなりご満悦の様子である。


学校に猫がやって来て、興奮するのは女子だけではない。

1年C組のクラスには、犬や猫が好きな男子生徒が多いのだ。


「ムホォーッ!ぬこだヌコ。リアル迷いぬこ、オーバーランだヌコ!」


※若くして急逝されました松 智洋先生のご冥福をお祈りいたします※


興奮気味にインターネットスラングを用いた会話をするのは、健也と同じクラスメートの織田野(おたの) 信長(のぶなが)君。

身長は170cmで丸渕の瓶底眼鏡を掛けて少々、イタい部分は有るが根は良い男子生徒である。

本人は気付いてないが、瓶底眼鏡を取った姿はけっこう格好良いらしい(友人談)。


「織田野君っ、これは一大事でござるよ。王真賀高校内にキャッツアイが侵入した事は、何かしらのエンジェルハーツな予感が!」


織田野君に続いて猫へ興奮したのは、同じくクラスメートの冴歯(さえば) 時宗(ときむね)君。

冴歯君は、身長が160cmで少々ぽっちゃり体型では有るが友情を大切にする熱いハートを持っている少年。


「待つんだ!織田野氏、冴歯氏。この迷いのラビリンスに一匹の虎が来たのは何かしらの理由が有るんだ。見てみろ、その小さき背に背負うVignetteを!彼はブリキの迷宮を彷徨っている」


喋る言動が中二病全快な、この男子生徒の名は対馬(つしま) 吉宗(よしむね)君。

物の例えを難解な表現でするが、学年での成績はベスト3に入る秀才だ。


織田野君を含む、男子生徒の三名はニヤニヤしながら女子に抱っこされた猫の方へと歩み寄り頭を撫でようとした。


しかし……。


「グッガオォォォッ!」


頭を撫でようとした猫は、男子生徒三名を睨み付けて威嚇したのだ。

ただの威嚇ではない、三名が見て聞いたのは虎や獅子が吼える時に使う響き渡る猛獣の咆哮。


眼も猫化の猛獣が見せる恐怖の眼力と同時に


『野郎は気安く触わんじゃねーっ!触って良いのは女子だけだっ!』


と直接、脳内へ訴えかけてくるドスの利いた男声であった。


これには三人の男子たちも


『キャッツ!!危険シグナル、イエローだよっ!にゃんにゃんにゃーんっ!?』


誰かへ反応(レスポンス)するように、声を揃え叫び声をあげながら走って教室から離れていく。


今までの過程を見ていた健也は、これ以上はマズいと判断し、女子生徒が抱える猫の方へと向かう。


「ごめんっ。その猫、俺んちのなんだ。だから、返してもらうぜ!」


「あっ猫ちゃん! もう、橘くんの猫だったんだ{また、モフモフしたいな}」


健也は女子生徒に抱かれる猫を引き離し、自分の胸元に担いでから廊下へと走り出した。

走り出してから校舎の階段を一気に駆け上がり、素早く屋上まで辿り着いたのだ。

なお、彼の体力は一階から三階までのダッシュで息を切らす事はない。


「此処なら、人目につかないな」


校舎屋上に着いてから、貯水槽が置かれる設備の場所で猫を降ろす健也。

貯水槽とは、ビルやマンション、学校等の建築物に於いて給水栓での水圧を安定させるための装置。

学園物シチュエーションに欠かせない、屋上の分かり易いオブジェクトである。

健也は、猫ことドラ吉に話し掛けていく。


「どうして学校に来たんだよ?。それに尻尾も、一本じゃないか?」


「ママさんに弁当を届けるのを頼まれたのと、ついでに指令が入ったから来たぜ。

尻尾については、六実神社のシズクから変化の薬なるもんを貰って、そいつで一本消した」


背に抱える唐草模様の風呂敷の紐を解いてゆき、中から竹の皮に包んだ弁当と鏃から外された矢文を手渡すドラ吉。

竹皮の弁当箱に包まれる中には、母お手製育ち盛りの我が子のために、炊いたお米2号分(茶碗だと約4杯分)を用いた愛情たっぷりの巨大なおにぎりと一口サイズに切られた厚焼き卵二個。

空腹状態である健也は、巨大おにぎりから先に夢中で頬張ってゆく。


「旨いだろケン坊。今日の弁当の名は愛の米(ラブライス!)と言ってな、伝説のスーパー伝説おにぎりだぜ」


伝説のスーパー伝説おにぎり。

漫画的表現で有るが味は確かなもので、過去に本当の伝説となった学園愛弔絵巻に登場するお弁当だ。


母が作ってくれた手作り弁当を食した健也は、満腹となりドラ吉が学校にやって来た話の本題へ触れていく。


「腹ごしらえできたし、指令書を見るか」

指に付着した米粒を食べてから矢文を見開くのだ。



 【見習い厄祓い師への指令書】


 逢魔時 在籍見習い厄祓い師に告ぐ

 

 人を惑わせ誘惑し、その魂喰らう悪妖餓邪骸現れしけり

 餓邪骸、流行携帯通信遊戯、往くぞ’刻者を用い遊戯者の射幸心を利用

 射幸心煽られし人、周り見えぬまま餓邪骸餌場向い生奪われし

 尚、餓邪骸、現れし場所 莫之公園内

 

 厄祓いする者

 

 橘健也 見習い(西地区獄門寺)

 六実楓 同上 (東地区六実神社)


 此度、厄祓い師上記 二名協調性持ち 厄を祓い賜え


 以上




健也は、矢文の内容を読んで思った。


「往くぞ’刻者って、なんの事だよ?」

と訳が分からない単語が有ったのでドラ吉に単語の意味を聞く。


「往くぞ’刻者ってのは、Let'sキザモンの事だ。地獄の奴ら、横文字(西洋文)に弱いからな{既に横文字だけど}」


「余計にややこしいだろっ!。横文字使ってくれよ」


「あっちの世界は、幕末の頃から文法が変わってねえらしい。まあ、細けえこたぁ気にすんなケン坊」


そう説明するドラ吉は、横に寝転がり煙草のわかばに火を点けてプカプカと吹かしている。


学校屋上、貯水タンクの上空に漂う煙草の煙り。

無論、学校での喫煙は御法度である。


「わわっ、バカ猫。煙草バレたら後で全校集会になっちゃうから、止めろってか止めてくれっ!」


「おっとと、いけねえいけねえ。そいつは人間様に迷惑掛けちまうな」


昨今の喫煙事情、煙草を吸う人への風当たりは厳しいものが有るが、そもそも未成年が通う学び舎で喫煙など道徳的に許されない。

尾を一本消した猫又ドラ吉は、急いで煙草の火を消す。


「あとな、ケン坊。今回の厄は、六実神社の楓と一緒に祓いなさいって達しが来ている。

楓のことについては、幼馴染だからよ~く知ってるだろ? 」


「ああ、知ってるよ……」


健也は何故か、幼馴染の話題となると気難しい顔付きになっていく。

何処か、気まずそうで大丈夫なのか?と言いたそうな表情だ。


「なんでぃ、その面は楓と何かあったのか?。まさか、楓にTo LOVEる的なトラブルでもやっちまったのか{転けた拍子でパンツずらしたとか}?」


「するかっ!あんなラッキースケベ起きたら捕まるぜ!。あと楓とは、小6の時から会ってない」


「なんだそうかい。で、あの小娘とは何があったんだ?」


健也は質問をしてくるドラ吉に対し、その幼馴染へ抱く胸中を話していく。


「小さい頃は、うちの寺と神社の関係であいつとよく遊んでいた。

神社の中で厄祓い師ごっこもしてたしな。それで、あいつは言ってたんだ。

わたしは、おおきくなったら『めっき』になって人をやくから守るってな。でも実際の話、滅鬼になれんのは」


「鬼の血を引く、お前だけだケン坊。鬼神(おにがみ)の力は、先代滅鬼となった者から引き継がれねえと使えない」


「そうだ。小さい頃の俺は、そんな事を知らなかったからあいつに大人になったら滅鬼になってよ!って言っちまってその事が、今も心残りなんだ」


「ケン坊。現実ってのは後から知った時、それを受け入れてからこそ人間は成長する生きもんだ。

小さい頃のお前が話した事なんざ、楓の方も今になって分かってると思うぜ?」


「だと、いいけどな。だから俺は今になって、あいつの目の前で滅鬼になるのがツラい」


「成るか?ならねぇか?は、お前が決める事じゃねえ。厄に怯える人が居てこそ、あの力は発揮される。

昔ばなしで有るだろ?。

地獄から来たその鬼は善の心を持ち、暴れる厄たちを退治していき村人を救ったってよ。

滅鬼に成ることは、お前に与えられた人を守る使命ってもんだ」


「ドラ吉……」


普段はいがみ合ったり喧嘩したりする仲だが、自分が産まれる前より橘家の飼い猫であるドラ吉は、自分の良き理解者であり、人生の先輩でもあった。


そんなドラ吉は健也に背を向けてこう言った。


「さてと、オレ様の方は家に帰るぜ。ママさんからのお使いも終わった事だし、帰ってからやることも色々あんだよ{道具造りとスクフェスな}。

じゃあな、弁当の唐揚げ美味かったぜ!」


そう去り際に衝撃の事実を告げたドラ吉は、トゲ状の舌で前足の肉球を舐めまわしながら健也に伝えていた。

ふてぶてしくも悪意のある笑みを浮かべてから、貯水槽の上からピョンッと降りると四つ足で走りながら学校を去っていく。


「あっあのクソ猫……。帰ったら母ちゃんに同級生のスカート中、覗いてたことチクってやる!?」


そそくさと逃げていく猫の姿に健也は、握り拳をして怒りを抑えるしかなかった。

こうして王真賀高校の昼休みは、チャイムが鳴り響き終わりを告げていく。


本日の学園生活は、午後からは教室で授業を受ける者と部活動に励む者のグループに分かれる。

ここ王真賀高校は文武両道の内、武芸の方に力を入れている高校であり、中でも運動部の活躍は高校総体で優秀な成績を残す学園だ。


橘健也はと言うと、スポーツは余り得意ではない……ようにしている。

片や学業の方はと言えば、こちらは素で苦手なご様子。

彼の場合、昼行灯を振る舞い一般人とは少し距離を置いた学園生活をしている。


人と鬼の間に生まれ、夜になれば鬼の力を用いて妖魔を祓いし者となる生活。

父や母からは、自分の学園生活について周りと楽しく過ごせと言われてはいるが人として生きるならば世の影となる事を幼き日に誓い今に至る。


彼は幼き日に悲しい体験をし、それ以来、人と深く関わる事を恐れている。

例外で同業者(厄祓い師)に対しては、本当の自分をさらけ出してはいるが、本来の意味で厄祓い師もまた自分とは違う普通の人間であることに違いはない。


「教室に帰ったら、現代史か~っ。寝るしかないな」


次の授業に対し、健也は溜め息を吐いてから違反学生ズボンにハンドポケットをしたまま屋上から教室にへと戻っていく。

彼は三階から階段を降りている途中、外の世界を映す硝子窓に目を向けると校舎の駐車場内に普段は見慣れない灰色の中型バスが停まっているのを発見する。


駐車場に停まる灰色のバスの車体横には、

王真賀私立高欄女学院(こうらんじょがくいん)と学校名がラッピング施工されていた。


「高欄女学院?。女子校のやつが、此処に来たのかよ」


健也は、学校に来たバスが女子校の物だと分かると


「誰か可愛い子、居ねえかな~っ」


と階段を降りる足取りに気持ちが舞い上がっていく。

さっきまでクールだった本来の自分を忘れて、他校から来た女子校生に期待していたのだ。


健也も齢十六歳になる男子高校生の例に漏れず、女子校と言う、自分の知らない未知の世界から来る使者には感心があった。


どんな()が来たんだろう~っ。

何が目的で此処に来たんだろう~っ。

ときめいて一緒にメモリアル作れっかな~っ。


そう頭の中で妄想しながら階段を降りて廊下を歩けば、駐車場が目の前に見える校舎の玄関先まで来ていた。

玄関先に来てからは、流石に他校の女子生徒を待ち構えて居るのは恥ずかしいので、あくまで偶然を装って鉢合わせるシチュエーションを作り出そうとする。

こうする事により、さり気なく他校生に自分をアピールできると思う彼なりの算段だ。


「おっ!バスから女の子たちが降りてきたぜ」


健也は廊下の壁柱に背を預けて身を隠し、これから玄関先に上がってくる女子校生達を今か、今かと待ちわびていた。


すると


「こんにちは、私たち高欄女学院弓道部の者たちです。本日は、王真賀高校さんへ練習試合に参りました」


身を隠す柱越しに聞こえてくるのは、まるで蝶が舞うような華の声。


キタ━━━━━━━━ッ!!


健也は、心の中でガッツポーズをしていた。

今だっ!。姿を出して弓道部の武道場まで案内すれば好感度アップが出来ると思い、壁に隠した身をさらけ出そうとする。

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