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滅鬼  作者: Hideki
幼馴染
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夏の陽射しは頭をクラクラさせる

七月初旬。


春が終わり夏へと移り変わる季節。


夏本番まで、まだ肌寒い七月の夜は魍魎たちが八月の盆に向け力を蓄える期間だ。



王真賀市の中央区と呼ばれる地区に一つの公園がある。

公園の名は王真賀市(おうまがし) 莫之公園(なかのこうえん)


この莫之公園は自然の良さを活かした遊具があり、朝は子ども達と老人達の遊び場で王真賀市の人々から愛されている場所。

子ども達は杉の木製のすべり台や蔦を飾りにしたジャングルジム、サラサラの海砂で遊べる砂場、一人乗りブランコなど当たり障りの無い遊具で遊び、老人達にとっては、運動場でゲートボールを嗜める憩いの場だ。


そんな老若男女が楽しめる莫之公園は、夜になるとまた違った雰囲気となる。

夕方まで遊ぶ近所の子ども達は、ゲートボールをする老人達から言われるのだ。


「坊やたち、莫之公園で遊ぶのは夕方までだよ」


と子ども達に自宅へ帰る催促をする。


これは大人が、夜になる前に帰りなさいと伝える道徳教育であるが、老人達はこの公園が夜になると危険な場所になるのを知っているが為に伝える事だ。


「わかりました。おじいちゃん、おばあちゃん」


素直に老人達の言うことを聞いて、子ども達は帰る支度をする。

夕陽を背景に仲良く友達と手を繋いで、帰っていく子どもを見送る老人男性の一人が言った。


「七月に入れば餓邪骸(がじゃむくろ)が餌を求めて出て来ちまう。厄祓い師に祓ってもらわんば、莫之公園で遊ぶのは危険じゃ」


そう老人男性は、ゲートボールで使うスティックを杖にして不安な表情の虚ろ目へなり静かに呟いていた。

男性の呟きに反応したのは、ゲートボール仲間の老人女性。


「あらあら、厄祓い師に祓ってもらわなければって言うけど、六実さんとこのお孫さん春から見習いになったでしょ?」


「そうじゃあな~っ。確かに孫は見習いながら優秀な厄祓い師じゃけど、孫一人で餓邪骸を祓うのは危険じゃと思うてな、わしは恐いんじゃよ」


「六実さんや、この町の見習い厄祓い師は六実さんのお孫さんだけじゃないよ。獄門寺の息子も、春から見習いで頑張っておるさね」


老人男性は友人の言葉を聞いて、不安な表情から活気のある顔になっていく。


「そうか獄門寺の息子が見習いになったか。あの寺の子の事は、わしゃ昔から知っとる。確か、名は貴乃花 健也君だったけな?。獄門寺の子が厄祓い師なら孫の修行も安心できるぞい」


「六実さんや。獄門寺は貴乃花じゃなく、橘さんとこだよ」


老婆の背中に涼しい風がヒュルりと吹いた所で、ゲートボールをしていた老人グループは各自自宅へと帰っていった。


子ども達と老人グループが帰った後の莫之公園。


少々、欠けた月の夜が訪れる。


公園の様子は、昼間と違って人気がなく寂しい雰囲気を溢れさせていた。

杉の木に止まる梟の声が、ホォーッ・・・ホォーッ・・・と不気味に聞こえてくる、そんな公園の中へ三人の男女が誘われるようにたどり着いて来た。


「はあはあっ、マップ通りなら此処にレアモンがいるはずっ」


スマートフォン片手に20代前半の若い男性がそう言いながら、公園の砂場前に置かれたベンチへと座りにきた。


「ここよ、ここの筈よ。レアモンが居る場所は!」


続いて来たのは、同じく20代前半の大学生の女性。


「ぜってーっ、この場所に居るんだよな?レアモン。ラインがウソだったら承知しねえぞっ!」


最後に来たのは、20代半ばの少しチャラチャラした男性。

この三人、同じ公園と云う場所に来るがお互いについては全く面識が無い。

しかし、三人は共通する行動を取っていた。


「マップで赤いマークが付いてるのにどうして、レアモンが映らないのよ、どうして!どうしてよ!」


「マジ!ムカつくーっ!スマホ割りてーっ!」


「どこに居るんだよ、迎えに来たから出ておいで僕のキザモンっ!」


三人が共通する行動とは皆、血眼になった状態でスマートフォン片手に画面を見ながら歩いている事である。


スマートフォンの画面に映し出された、仮想世界の地図と現実世界の動きが連動している三人の行動。


捜しモノが見付からない苛立ちで頭を掻き毟り、絶頂に達した鬱憤で癇癪を起こしながら画面を見つめて同じ場所を行ったり来たり。


狂ったように行ったり来たり、周りを一切見ないで行ったり来たりを繰り返し、行き着く先は街灯が照らされるベンチの横で三人は互いの背中を合わせていた。



『お前たち欲しいか?』


すると何処からか、おぞましい女の声が聞こえてくる。

声を聞いた三人は顔を見合わせる、誰の声なのか確認するために。

だが声は三人の誰の物でもない、人の口から出る声と言うよりも頭の中に直接、聞こえてくる声だからだ。


『欲しいのならくれてやる、お前たちの死をなっ!』


声が聞こえてくると三人がそれぞれ手に持つスマートフォンの画面から骸骨の手が湧いてきて、それぞれの持ち主の顔を掴むのだ。

画面から湧き出る骸骨の手は持ち主の口を塞いだまま生気を奪い、悲鳴を上げさせない状態で絶命させていくのだった。


『ふふふふっ、人間は馬鹿なものよ。こんな遊戯で夢中になり警戒せんとはな・・・・・・ふふふふっ、ふふふふっ』


手元から離れる三台のスマートフォンの画面には、身体が痩せ細り骨と筋だけとなる女が不気味に笑う姿が映し出されていた。


翌日の朝。


場所は獄門寺境内方丈内の居間。

時刻は午前十時の時間帯。


橘瑞希とドラ吉は、居間で朝テレビのワイドショーを視聴していた。


瑞希は朝早く起きてから朝食と弁当を作り、仕事と学校に向かう主人と息子を見送ってから、寺院内の掃除や家事で主婦の仕事をし、一息吐いた所でテレビを観るのが日課だ。


なお、家事に関する仕事は猫又のドラ吉もお手伝いし瑞希を助けている。


居間の卓上前に座布団を敷き、足を崩しながらテレビを観る瑞希の膝上に座りドラ吉が休む姿、これが獄門寺の日常だ。


「視聴者の皆さん、おはようございます。朝のニュースの時間です」


瑞希とドラ吉が視聴するテレビのニュースが始まった。

ニュースを読み上げるキャスターのテロップには、滝野川エクステルアナウンサーと表記されている。


「今日の午前6時頃、王真賀市莫之公園内にて男性二名、女性一名が死亡されているのを近所を散歩する住民から通報を受け、駆けつけた警察官に発見されました。

死亡した三名は、何者かに他殺されたような状態ではなく共通してスマートフォンを持ったまま息を引き取っているそうです。

検死をした検察によりますと、三人は何れも流行りのスマートフォンゲームLet'sキザモンで遊んでいたようでして、Let'sキザモンによる死亡事故と断定されております」


ニュースは、昨夜に起きた事を伝えていた。


ニュースキャスターを務める滝野川エクステルアナウンサーが、ゲストの番組コメンテーターに事件の話題を振る。


「流行りのスマートフォンゲームLet'sキザモンによる、死亡事故について布柿監督はどう思われますか?」


カメラは滝野川エクステルアナウンサーからコメンテーターの男性、プロ野球チーム大阪トラトラズの布柿監督へ切り替わるのだ。


「はい、あの~っ、非常にですね流行りのゲームですので、夢中になるのは分かりますが危険ですよね」


「やはり、布柿監督もLet'sキザモンについて夢中になるのは危険だと思われておりますか?」


「あの~っですね、私が監督するチームにもキザモンにハマった選手が居ましてですね、その選手が試合中にも遊んでいたんで後で怒ったんですよ。

それでですね、私もその選手に誘われましてですね、Let'sキザモンをダウンロードしましたら、メチャクチャハマりましたですね」


「と言うことは、布柿監督自らもハマってしまったと言うことですか?」


「そう言うことですね。あっ、カメラマンの後ろにレアモンのシロサキーが出て来ましたよ」


布柿監督は座っていた席から立ち上がり、スマートフォンを片手にカメラを構える人間の前まで歩きだした。


布柿監督が歩くと


「えっ!どこどこっ!シロサキー何処に居るの?」


と滝野川エクステルアナウンサーもカメラまで歩いてしまう。


するとテレビの画面に【しばらくお待ち下さい】の画像が出ていた。


「なんだぁ?このニュースは?」


瑞希の膝上で座るドラ吉が呆れ顔になって呟いていた。


「そんなに面白いのかしらね?Let'sキザモン」


「まあ若い世代の人間には、ウケてるゲームらしいですぜママさん」


「そうなんだ、じゃあドラちゃんも遊んでいるの?」


「ママさん、あっしはスクフェス一本でさぁ。

キザモン如きにライバーは動かせないですぜ」


「へぇーっ、ドラちゃんは意志が固いのね。じゃあ、お母さんも流行りに乗ってみようかしら?」


すると瑞希はスマートフォンのGoogle Playから、ゲームのダウンロードを始めた。

ゲームの名前はLet'sキザモン、先ほどのニュースで紹介された流行りのアプリである。


「えっと、まずは名前と性別を決めるのね。私は女だから女の子に設定して、こうするのね」


ゲームの設定が終わると瑞希が持つスマートフォンの画面に、仮想空間の地図が表示されていく。

Let'sキザモンの遊び方は、プレイヤーはホストクラブを経営するマネージャーとなり、スマートフォンのGPS機能を用いてゲーム上に出現するホストをGETしていくゲームである。


このゲームの正式なタイトルは

【Let'sキザなやつを自分のモンにしようぜ!】と長いタイトルな為、略してキザモンとプレイヤー達からは呼ばれている。


瑞希は膝上に乗るドラ吉を優しく降ろすと座布団から立ち上がり、方丈内を歩き出した。

ゲーム画面の地図と現実世界がリンクするこのゲーム、プレイヤーは歩いて画面上に出て来たホストの影に近付いて名刺を渡さねばならない。


「あら、お台所にキザモンが出て来たみたい」


そう言った瑞希は画面を下から上に向けて指でフリックした。

ホストの影に向けてフリックすると名刺が飛ばされていき、名刺が対象に当たると


『キザモンっ!ゲットだぜっ!!』

と元気な掛け声がスマートフォンから聞こえてくる。


「何をゲットしたのかしら?。」


瑞希が手に入れたホストの影は、キザモンへと変化し画面内に現れた。


『ムハァ・・・ムハァ、ムハァ・・・ムハァ、ベロチュウ』


ゲットしたのは、深酒し屁部れげになった中年サラリーマン男性の姿をしたキザモン。

ゲーム内のロボ声音声でGETできたキザモンの説明が始まる。


『ベロチュウ、チカンキザモン。酔っ払い過ぎてホステスに歩み寄り、ボーイたちから後でボコボコにされる前のキザモン。プレイヤーが女性だと、ムハァ・・・の息が荒くなる。好みのタイプは人妻だ』


暫く無言のままで画面を見つめる瑞希は


「気持ち悪いから・・・お母さんこのゲーム、削除するわ・・・・・・」


そう呟いて、ダウンロードしたアプリをアンインストールした。


アンインストールした後、台所から居間まで戻る途中、境内の庭に立つ一本の松の木に矢文が刺さる。

その矢文、矢の中心に白い和紙が巻かれており和紙には、地獄通信と書き記されていた。

矢文は異世界から人間界へと放たれた物で、松の木に構える的を射ていたのだ。


「地獄から指令が来たわね」


的に刺さる矢文を見た瑞希は、矢文を手に取り居間まで戻る事にする。


「ドラちゃん、矢文が届いたわよ」


「へいへいっ、どれどれ」


畳の上で日向ぼっこをしていたドラ吉は起き上がり、手渡された矢文の中を見る。


「なるほどな、今日の厄祓いは一人じゃちとキツいやつだな。ママさん、今すぐケン坊に知らせましょうか?」


「そうねぇ~っ、あっそうだわあの子、朝遅刻しそうになってお弁当を忘れて行ったのよ。

だからドラちゃん、お弁当を持って行くついでに矢文も渡して頂戴」


「マジですか?。あっしが学校に行くんすよね?」


ドラ吉は頼まれた事に少々、難色を示していた。

理由については、自分の存在が普通の人の目に触れるのはマズいからである。


「大丈夫よドラちゃん。この間、六実神社のシズクちゃんが尻尾を消せる変化の薬を持ってきてくれたから、それを飲めば尻尾を一本にできるわよ」


そう言い、瑞希はタイミングよく着物の袖の奥から一本の瓶を取り出した。


小さな瓶の容器内には、透明で不思議な液体のナニかが入っている。

ドラ吉はその瓶を取り、蓋を開けて飲み干すのだ。

すると


「おおおっ、うおぉぉぉっ!?」


身体から白煙が焚いてきたかと思えば、煙が消えるとドラ吉の二本に生えていた尾は一本に変わる。


「シズクのやろう~っ、この煙はイタズラで仕掛けやがったな~っ」


「あらあら、シズクちゃんも好きねぇ」


こうして尾が一本に変化したドラ吉は、瑞希から荷物の入った唐草模様の風呂敷を背に巻かれると健也が居る、王真賀高校に向けて歩くのだった。




一方、王真賀高校の1年C組の教室内では


「しくったぜ、弁当を忘れちまった」


健也は4時限目に訪れる数学の授業中であるが、腹を空かせて机に疼くまっていた。

元々、学校でする勉強の時間帯は寝ている事が多い健也の学園生活。

彼の学園生活の1日は、寝るか食うか遊ぶかの三つが大半を占めており、まともに授業を受ける事など殆ど無いのだ。


「では、今日の数学はここまで。みんな家に帰って予習するなら、さんすうすいすいを見るようにな~っ」


数学担当の女性教員が生徒達に伝えると1年C組の教室から出ていく。


4時限目の授業が終わると、食べ盛りの生徒達にとって最大の楽しみである昼食の時間がやってくるのだ。

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