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3

 そんなわけで、俺は異世界に来た――のだと思う。


 確証がないのはなぜかと言うと、俺はこの世界に来てから、彼女の言っていた『魔法』やら『魔力』やら『スキル』やらといった、俺の居た世界に存在しなかったものを見ていないからだ。


 周囲に見えるのはかなり巨大な木、木、木、木、木、木、そして少しばかりの竹、竹。空を見上げれば太陽が一つあり、少しばかりの雲が浮かぶ青空と、それに覆いかぶさるように木の枝葉が広がっている。この状況から異世界かどうか判断できる人間がいるとしたら、植物学者か何かだろう。そして俺は学者じゃなく学生だ。


 竹と木が入り混じって群生しているというのはあまりイメージしたことが無いけれど、一つ間違いなく言えるのは、俺が林とか竹林とかそんな感じの場所にいるという事だった。地面は山あり谷ありだが、激しく高い所も激しく低い所も無いという事を考えると、山ではないのだと思う。もちろんそんな専門知識も持ち合わせていないから憶測に過ぎないが。


 まぁとにかく。俺はそんな林だか竹林だか森だかはっきりしない木々の中を、ゆくあてもなく真っ直ぐに歩いていた。かれこれ数十分は経過したと思う。


「はぁ」


 俺は何度目か分からないため息をつく。


 体の方は常に前へ前へと移動するために運動していたが、これだけの間に変わり映えの無い場所を歩いていると、思考の方は暇を持て余してしまい、否応なく様々な事を考えさせられた。


 まずはあのよく分からない女が言っていた件について。


 『助けてほしい人がいる』とか言っていたが、本当に最低限でも名前くらいは伝えてもらわないと話にならない。欲を言えば居場所も知りたいし、何に困っているのかも知りたいし、なぜ俺じゃなければ助けられないかも伝えてもらえれば万全だ。現状持ち合わせている情報では(持ち合わせていない、というのが正しいが)、俺が目についた人全員を助けなければいけない。


 馬鹿げてるからその考えは保留した。


 そもそもあの女について考えること自体が無理難題な気がしなくもない。


 じゃぁ、あれらの話全てが無かった物と仮定して、俺が今するべきことを考える。


 とりあえず人を探すべきだろう。そして何とかこの林を脱出し、何とか俺の家に帰る。来ることができたのだから帰ることも出来るだろうという簡単な理論だ、一方通行は知らない。そしてその過程でもし困っている人に出会ったのならば……俺は俺の性分からしてその人物を助けるのだろう。


「ん?」


 そこまで考えた時、俺は何やら歩きやすそうな空間を見つけた。道路と呼んでいいほど舗装されているわけではないが、木や竹に邪魔されずに移動できそうな、平らで幅のある曲線だ。かなり原始的だが、道ではあるのだろう。


 ようやく人の存在に近づけた、と。俺は自分が少し浮足立つのを感じた。数十分の事ではあるが、ただの一人でわけのわからない場所を歩くと言うのは精神的にこたえる。


 そしてその道をたどって数分程歩くと、俺は開けた場所にでた。


 木々は綺麗に伐採され、しっかりと踏み鳴らされた地面が二十メートルの円を描くように広がっている。そしてその中央に――人が一人いた。


 俺と同じぐらいの歳のその少女は、周りの大木に溶け込みそうな濃い茶色の長髪を風にたなびかせ、まるで舞でも踊るかのように優美に木刀を振っている。こんな辺ぴな場所でそういった事をしているその姿は、まるで修行でもしているようだった。だが同時に、彼女の着ていた紅白の巫女服のような宗教じみた姿を見ると、何かに祈りを捧げているんじゃないかという気もする。


 俺が彼女を見てしばらくほうけていると、彼女の方が俺に気付いたみたいだった。まぁ、かなり凝視していたから当然と言えば当然かもしれないけど。


 そして彼女は振っていた木刀を左手に納めると、これだけ遠くからでもはっきりと見てとれるような笑顔で叫んだ。


「ねぇ~! キミ、誰?!」


 俺も聞きたかった質問だが、先手を取られては仕方がない。俺はとりあえず話しやすい距離まで移動する事にした。

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