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プロローグ

「あなたに、異世界に行ってほしいのです」


 俺はそんな事を言われた。


 別段特別な場所ではなく、神社仏閣のような神聖な場所でもなく、この世ならざる幻想的な空間などでもない、俺の家、俺の部屋でそう言われた。


「異世界って」


 途惑いながらそうつぶやく俺の目の前には、高校生の俺よりも明らかに年上の女性が一人立っている。明らかに年上と言ったが、それは一歳だけかもしれないし五十歳年上なのかもしれない。とにかく年齢を感じさせない女性なのだが、年上であることは間違いない、そんな神秘的な雰囲気の人物だった。


 あるいは、神仏なのかもしれないと、そう思うくらいには。


「異世界です。と言ってもこの世界とそこまで異なっているわけではありません。『魔力』と呼ばれる概念はありますが」

「『魔力』? それって魔法とかが存在するってことですか?」


 俺のその問いに、彼女はこくりと頷いた。


 頷かれた程度じゃ魔法なんて信じるはずがないじゃないか――なんて考えは不思議と浮かばない。彼女の存在そのものが魔法を肯定しているような気がして、まるで完全に証明された数式を教え込まれたみたいに、そんなあり得ない方法で俺はそれを信じてしまった。


 いや、魔法を信じたところで、「それじゃぁこの世界と大部違うじゃないか」なんて疑問も出てくるわけだけど。


「その世界には『魔力』があり、それを源に『体力』、『魔法』、『スキル』の三種の力を行使できます。『スキル』は低い確率でしか授かれない物ですから、それを使えるか使えないかは人それぞれなんですけどね。後は『獣人じゅうじん』とか『亜人あじん』とか『妖人ようじん』とか他にも数種類の人がいるんですけど、この世界と違う事なんてその程度ですよ」


 彼女は他にも何かを言っていた気がするけど、この時の俺に辛うじて聞き取れたのはその程度だった。ようするに、彼女の『その程度』とか『そこまで』とかいう単語の定義が俺の定義とかなり異なっているというのを確認できたわけだ。


 異世界があるとするならば――もう俺はその存在を信じてしまっていたわけだけども――こうやって彼女と会話しているこの部屋はすでに異世界と化しているのかもしれない。


「で、何で俺なんかに異世界に行ってほしいんですか?」


 言ってから考えて、それに言う前に考えた分を合わせても、その理由は思いつかなかった。


 俺に『魔法』なんて物が使えたためしはないし、『体力』がある方でもないし、『スキル』は俺が元々知っている方の意味でも持っていた覚えがない。俺の特徴を一つ上げるとしたら、あらゆる分野において平均以下だと言う事だろう。


「あなたに助けてほしい人がいるんです」


 言われてから思い出した。


 いや。正確には彼女がそう言って頭を下げた時、女神かと思うくらい神々しい彼女が俺なんかに頭を下げた時、俺の心に少し罪悪感が生まれた時に思い出した。


 俺にはもう一つ、他の人とは大きく違う特徴がある。


 それは――困っている人を見捨てられないと言う事だ。


 だから僕が彼女に導かれてよくわからない次元の穴をくぐった事も、その後に起きた諸々の事件も全て、必然だったんじゃないだろうか。俺は、そう信じている。

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