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バナナ

作者: 片瀬

 ガンッッッッ。

レポートを書くため景気づけにと飲んでいたビールがテーブルに飛んだ。






命題:バナナはおやつか弁当の果物か。


 この問題は長きに渡って人間を苦しめてきた。俺はこの不毛極まりない問題を解決すべく、軍師 黒田官兵衛のように、あるいは偉大なる哲学者プラトンのように、はたまた今日の献立に思いを馳せる主婦のように考えた。俺は後世にこの考えを残すべく、逐一思考過程を書き表していこうと思う。

まず言っておかねばならないのは、俺はバナナは嫌い派、すなわちバナナは果物でも、ましておやつなんかではないと思っていることだ。俺がバナナと共存できる日はきっと来ないだろうし、もし世界中の人間がバナナになったら俺は舌を噛み切って死ぬつもりだ。


黄色いぬめ甘悪魔よ、退散せよ。アーメン。

 

さて、この問題の解決に当たって俺は、バナナを愛してやまない友人に協力を仰ごうと思う。彼はきっと有益な答えを、俺に太陽のごとく注いでくれるに違いない。俺は逸る気持ちを抑え、修行僧のような面持ちで発信ボタンを押した。

――はぁい。

「貴殿、バナナはおやつと果物どちらと考える。」

――そんなの簡単さぁ。果物でもおやつでも、バナナはバナナだろう?

 俺は黙って電話を切った。この場合の敗因はきっと、彼がひどいバナナ愛好家だったことにある。そして俺は畳に座って考えた。逆にバナナについて考えたこともなさそうな者に尋ねてみてはどうか。迅速果断、今度は何も食べずによく放浪している友人に電話をかけてみた。

――只今おかけになった電話は、電波の届かない場所にあるか、電源が入っていないか…。

 きっとまた携帯も持たずふらふらしているに違いない。これで俺は数少ない友人のどちらからも協力が得られなかったことになる。これは自分で考えろとバナナが俺に言っているのかもしれない。もしかしたら俺の交友関係はバナナによって阻まれたのかもしれない。

 こうなれば後は自分で考えるしかない。今の俺は四面楚歌ですらない、自分で自分を苦しめているだけの大馬鹿者かもしれない。暗いことを考えていては思考は停止する、思考が停止すればこの不毛なバナナ論争はまた生きながらえる。俺にはバナナ論争を終わらせる義務があるのだ。

景気づけにとテーブルに置かれたビールを煽った。ビールが喉を刺激的に流れ落ちていく。他人を気にせず飲めるのが一人暮らしのいいところだと、俺はこういう時いつも思うのだ。

誰の協力も得られなかった俺は、一人、思索の泥沼にバンジージャンプする。

三時間、俺は考え続けた。そして結論を出した。バナナは(くぁwせdrftgyふじこlp)






 俺のレポート紛いのものはそこで途切れていた。( )内の文字はまるで読めるようなものではなかったので昨晩の俺がどんな結論に至ったのかはわからない。つまるところ、今の俺はバナナ論争に終止符を打つことは出来なかったようである。


人類のバナナに対する完全敗北


 これが俺の答えだ。人類は永遠にあの悪魔に勝てない。だからこそバナナは生きながらえ続けているのかもしれない。


 ただ、このレポートを読んで分かることが一つだけある。

「酒の力ってこええ…。」

 バナナ論争について俺が書いた真っ白な紙は、二時間後が提出締め切りの論文用紙だった。

 我に幸あらんことを、アーメン。

 俺は静かに合掌した。

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