07 魔法使いと驚き少女
10才頃のお話。
少女視点。
内面成長し過ぎだろとは言わないで下さい。
その少年がやって来たのは我が家でとても悲しい事が起こってしまった数日後だった。
私としては起こした事に対する後悔なんて無かったのだけれど。
……本当は泣きたかった。でも私は姉だから。笑顔で強がってみせよう。
なんて悲しみにくれていたのも束の間。
私は思わぬ所から希望になるかも知れないお話を聞く事になる。
「――様が我が家を囲い込むと?元は私だけと言う話の筈では」
「本当はそちらが望む様に雇用主と従業員の関係にしたいのだがどうも許されそうに無くてな。家の名も使って護らねばならなくなった。すまない」
「いえ、しかし、それでは条件は――」
唯一まともに残った部屋にテーブルと椅子を引っ張り出して来客者の応対をするお父さん。
普段は使わない敬語なんかも使う相手は私と同じ年ぐらいの男の子だった。
着ている服は私達が着ている物に似てるけど雰囲気が貴族様っぽい。
ただそれにしても大人びている子だと思う。賢そう?
なんて事を考えながらこっそり扉の外で聞いていると男の子がお父さんに何か耳打ちしたのか音がぷっつりと聞こえなくなった。
多分お父さんが魔法を使ったんだろう。
あの子だって子供なのに。
偉い人なんて嫌いだ。
お父さんが働けなくなったのはアイツらのせいじゃないか。
しばらくしてお父さんと男の子が部屋から出て来た。
お父さんがとても難しい顔をしているのを見て男の子が困らせたんだと思えば怒りが湧いてくる。
ただその感情もお父さんが何かを堪えるようにして零した言葉で吹き飛んだ。
「……テオ、お前の怪我が治るかもしれない」
「え? ……治るの?」
「ああ、ただしそれにはテオが頑張らなくちゃいけない。出来るかい?」
「が、頑張る…… がんばる!」
泣くように叫べば暖かい抱き締めと共に頭を撫でられる。
思わず『包帯の隙間から見ていた』景色が滲む程度にはその言葉は衝撃的だった。
弟の泣き声に気付いた私が燃え盛る部屋に走りこんだ時には色んな物が燃えていた。
天井にも火は燃え移っていて、弟を庇う為に色んな場所に火傷を負って。
無我夢中で部屋を飛び出して廊下を走って、泣き喚く弟をきつく抱き締めながらどうにか微笑んで。
帰って来たお父さんとお母さんには大泣きされて、弟にも心配されて。
人に見せられなくなった顔を桶に張った水の反射で無理矢理見せられて。
お母さんでも治せないと言われて謝られて。いつも笑顔だったお母さんを泣かせたこの傷。
それが治るかもしれない。希望が持てるかもしれない。
そう思うと自然と張り詰めた物が切れたのか大泣きしていた。
それからしばらくして私が落ち着いた所で話し合いが長引いた理由を二人から説明された。
「本題に入ろう。まず最初にラッソさん。テオ嬢が魔術の威力を『減衰』させたと先程仰られていましたが、これは事実ですか?」
「ああ、発火元の物を調べたらどう見積もっても一軒だけで済む様な物じゃ無かった」
「減衰?」
「原因となった火事の規模をテオ嬢が減らしたと言えば縮小とも言えるか。どう思いますか?」
「自分にも詳しくは。ただテオがやったのは確かでしょう」
「私が?」
私の火傷の理由はお父さんの腕を妬んだ人が作った『魔法を真似した魔術』。
なんでも私が無意識の内に魔法を使って無かったら家が燃えるだけじゃ済まなかったぐらいの悪質な物で、それを弟が寝ていた部屋に投げ込まれたみたい。
下手人はその日の内に本気で怒ったお父さんが見つけ出して捕まえていた。
大元に辿り着くのにはまだ時間が掛かるみたい。
ここを話している時のお父さんと男の子は笑顔で激怒しているのがこっちにも伝わって来てちょっと怖かった。
男の子の実家も協力してくれるみたいでどんどん話が大きくなっている事に対して大事な話が始まる前から目を回しそうになった。
二人も熱が入り過ぎていた事に気付いたのか少し申し訳なさそうな顔をしていて笑ってしまった。
大分引き攣った笑い方になっていたけれど。それでも笑えたのだ。
私の笑い声を聞いて男の子とお父さんも表情を改める。
そして男の子が真剣な顔をして話し出す。
「さて、テオ嬢。治療法についてだが」
「は、はい!」
思わず背筋を正してしまう程に緊張する。
一体何を言われるのかと思っていれば言われたのは至極真っ当な方法。
「薬を使う」
「へ?あ、いえ。はい!」
「ただし『君の力を加えた上で』の物をだ。いや、しかし、ううむ」
「??」
一体何を悩んでいるんだろう?それに私の力?何を?
頭の中が疑問符でいっぱいになった所でお父さんが言葉を引き継ぐ。
「テオのお陰で火を小さく出来て、大火事にならずに済んだろう?」
「うん」
「じゃあ逆にもっと大きな火に出来るとは思わないかい?」
「そんな事しないよ!」
そこで父は「ごめんごめん」と笑いながら続きを詠う。
「じゃあ、『人を癒せる力』をもっと大きな力に出来るとは思わないかい?」
「へ?」
一瞬何を言われたのかがわからず、思わず二人の事をまじまじと見てしまう。
「ラッソさん、『テオ嬢に両方の力が備わっていれば』が前提の話ですよ」
「大丈夫ですよ。私と妻の子ですから」
「親馬鹿ですね」
「君も親になってみなさい。こうなりますから」
「……後十年は掛かりますが」
混乱している私を放って二人は話し続ける。
だからだろうか。その言葉を聞き逃しかけたのは。
「テオの傷が治らなかったらセン様に貰って頂きましょう」
「お父さん!?」
「ラッソさん、先程の親馬鹿は何処に行ったんですか?」
「治ったら無効になる約束ですよ?」
「……負けました」
「よろしい」
自分が割り込む暇もなくとんでもない約束が目の前で交わされる光景。
唖然としているとふと男の子が何かに気付いたようでこちらに視線を合わせて来る。
今度は一体なんだろうと思った数舜後、私は気絶した。
「自己紹介を忘れていたな。セン・フォン・ラインボルトと言う。よろしく頼む」
「えっ、ええっ、えええ~~~!?」
テオ・ラッソ。
セン・フォン・ラインボルト家付き従者の一人としてラインボルト家へと渡る。
その後治癒術を始めとした様々な分野を修める才女として名を轟かせる。
嘘か真か彼女は魔法使いであると言われており、それを探ろうとする者も後を絶たない。
その身体には大火傷があると言った貴族も居たが社交場で見られるその顔や身体には一切の傷跡が見受けられる事は無かった。
彼女は様々な他家の者の誘いの悉くを断り続け、従者として仕え続ける。
断りの理由を問えば彼女は奇麗な笑みを浮かべ、こう言い放ったと言う。
「私は手助けが得意なんです」
眉尻を下げ、想い人が居る事を表情に出しながら。
話の流れが(ガバガバ