1.遭遇
こんにちは。突然この小説のアイデアが浮かんだので衝動的に書かせていただきました。よろしくお願いします。
稚拙な文章ですがどうかよろしくお願いします。
1月5日
北海道 旭川某所で自衛隊所属の古市麟児は、今、命の危険に晒されていた。
浅い新雪の中、目を真っ赤に充血させた、体長3mは有ろうかという巨大なイノシシが麟児めがけて一直線に突進してくる。
そのイノシシには、イノシシにはあり得ないはずの鋭利な角が生えており、直撃したらひとたまりもなさそうだ。
俺はライフル銃を構え、イノシシの顔をめがけて銃を二発撃ったが、二発とも狙いが外れイノシシの顔をかすめる。ノシシは銃弾などもろともせず怒り狂った様子で更に速度を上げた。
イノシシがぶつかる直前に真横にローリングすることでなんとか回避できたものの、イノシシはすぐに身を翻し再度突進してくる。
今度は体勢が悪いため、イノシシを回避できそうにない。
「くそがっ!当たれ!」
苦し紛れに放った弾丸がイノシシの眉間に命中するとイノシシは足をつんのめらせて麟児の目の前に、前のめりに倒れ、白銀の地面を血で真っ赤に染めた。
弾丸が巨大なイノシシの眉間を貫いていなければ今頃麟児は巨大なイノシシの餌になっていただろう。
「はぁはぁ…」
今の音で魔物が集まってくる前にここを離れなきゃな…。
麟児は今置かれている状況に勢い良く舌打ちする。
くそっ、なんでこんなことに…。
彼がなぜ命をかけてイノシシと格闘していたかを知るには、およそ二日前まで遡ることになる。
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1月3日
『皆様、本日は日本総合航空をご利用くださいまして、誠にありがとうござました。お出口は前方と中央の二箇所に…………』
「ふぁぁーやっとついた〜」
アナウンスの声がすると、それが合図かのように俺は気の向くままに伸びをした。
長旅というわけでもなかったがやはり目的地に到着すると無条件に伸びをしたくなってしまうものだろう。
ここは北海道の千歳。羽田から約1時間30分のフライトで到着したので現時刻はちょうど10時40分頃だ。俺はこの北海道へお一人様旅行に来ていた。なんでかって言われても困る。何となくだ。
強いて言うなら、今は両親と仲違いをしていて帰省しようにも出来ないからだろうか。しかし折角の正月休みに家で過ごすのも気が引ける。
ゆえに正月に暇を持て余して、なんとなく北海道へ飛んできたというわけだ。
だが、それにしても1時間半で来れるという事実を知らなければ、遥々北海道までは来はしなかっただろう。
「飛行機って初めてだけど、千歳まで1時間半か…。」
現代の技術の素晴らしさに改めて感動する麟児であった。
さて、この滞在の予定ではまず札幌へ向かい、そこで昼食を食べてから、旭川へ向かうことになっている。
しかし、事前に交通手段などについて調べていなかったので(なにせ、衝動的に来たから。)空港のインフォーメションセンターで尋ねることにした。受付のお姉さんは美しい笑顔で、札幌や旭川への道程や、美味しいラーメン屋の情報を教えてくれた。俺もできるだけ柔和な笑顔でお礼を言って千歳空港を後にした。
札幌では、時計台などを軽く観光た後、インフォーメションセンターのお姉さんに聞いたお店へ行く。人気店だけあって多少並んだが、こしのある縮れ麺にマイルドなスープが絡んで最高のラーメンだった。心の中で、美味しいお店を教えてくれたお姉さんに感謝した。
札幌ラーメンを堪能したあとは他の観光地には目もくれず、足早に旭川へ向かう。現時刻は12時10分。旭川につく頃には14時頃といったところか。
ところで、札幌をたいして観光もせずに旭川ヘ向かうのは、普通ではないだろう。しかし、それにはある理由がある。ある理由とはなんだって?そう。ペンギンさんが俺を待っているからだ!ペンギンさんが俺を待っているのだ!ほかに理由なんて考えられるまい。
しかし、「なぜ旭川動物園なんだ?ほかのところでもペンギンなんていらでも見れるじゃないか。」と思うところかもしれない。しかし、旭川動物園にこだわるのにも理由がある。
実は以前に旭川動物園が舞台のペンギン映画を見たことがあって、その時にペンギンさんに心を奪われてしまったのだ。
映画で見たのだが、旭川動物園ではペンギンの散歩というイベントが冬に慣例として開催される。そのため、いつか冬に旭川動物園を訪れてみたいと思っていた。
ふふふ、あとちょっとで旭川動物園か…。
おっと、もうすぐ到着とおもうとワクワクして今にも踊り出してしまいそうだ。いや、これはさすがに言い過ぎか…。
旭川に到着。現時刻は13時58分。思っていたより到着が早い。すぐに動物園に向かう。旭川動物園へは駅からバスが出ており、それが丁度発車するところだったでそれを利用して行く。
動物園に到着。現時刻は14時20分。入園チケットを買い、入園ゲートをくぐると早々、ベンギンたちが道の真ん中を職員たちと一緒にちょこちょこ歩いていた。
かわいい!!かわいすぎるっ!
そこにはペンギンさんの楽園が広がっていた。
ペンギンさんはテクテクと飼育員と一緒に歩く姿はこの世で一番なんじゃないかと言うくらい愛くるしかった。
それはもう鬼のように写真を撮った。
これは当然の権利だろう。
こんなにかわいい生き物をみたら誰だって我慢してはいられないだろう。
嗚呼、あのもふもふにいますぐ抱きつきたい…。
ペンギン達を撮っている時間はあまりに楽しくて、とても短く感じられた。もっと長い時間ペンギンの時を楽しみたかったが仕方あるまい。俺は、この至福の時だけで、「ああ、北海道にきて良かったなぁ。」としみじみ感じた。
ペンギンたちを一通り愛でたあとは、俺は園内をまわり、いろいろな動物たちも写真に収め、この写真たちを寮の壁に貼ることを決意したのであった。
(寮というのは、自衛隊の寮だ。これでも俺は一応自衛隊に所属している。)
写真を撮り終わる頃にはもう日が暮れていたので近くに予約なしで泊まれる旅館を探し、泊り良さそうなところを選んだ。
泊まったのは和風の5階建ての旅館だった。そこは中々いい旅館で、俺は旅館などで食べるご飯などはあまり好まないのだが、晩御飯で出てきたカニはまさに絶品だった。それに加え、大浴場は乳白色の温泉であり、旅の疲れをしっかり癒やしてくれたので、ここに泊まって良かったと安堵する。
11時を回ったところで布団に入る。慣れない布団なのですぐには寝付けず「明日はどうしようか、もう一度ペンギンを見にいこうか」と明日の本来の予定をぶっ壊し、ペンギンさんにまた会いに行こうかと画策していたが、そのうちにいつの間にか意識が無くなりそのまま寝てしまっていた。
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1月4日
目を覚ますと新鮮で冷たい空気が頬をちくちくと刺してきた。
「寒っ。」
それもそのはず今日の旭川は1月の初め。晴れといえども、旭川の朝の気温は優に-2℃を下回っていた。このまま二度寝を決め込むのも悪くはないが、折角の旅行なので二度寝はやめにした。
時刻は6時。
「くっ、こいつ!なかなかやるな…!」
朝起きて歯を磨き、朝食を食べたあと、なかなか骨のある宿敵と格闘していた。宿敵とは幼少期からの因縁である。耳にかからない程度には短いのだが、坊主ではないので多少の宿敵がつく。今回の宿敵は一部だけ凹むパターンのやつだった。
奴を排除したあとは部屋で携帯を弄っていた。ある動画サイトを一時間ほど巡回してから着替えて出かける予定なのだ。しばらくゴロゴロしながら動画を見ていると、街が朝にもかかわらず異様にうるさいことに気づく。
なんだなんだと外を見やると黒煙が何本も立ち昇っていた―――。
なんだこれは…。あまりに異様な光景に絶句する。
だが、少しの間隙を置いて、また、新たな異様性―――、異常性に気付く。
それは、あんなに煙が上がっているのに、防災無線が一度も鳴っていないことだ。
俺は慌てて、ジーンズを履き、ヒートテック、タートルネックを着こみ、その上から薄くて軽いタイプのダウンジャケットを着込むスタイルに着替え、リュックの中身を整理し部屋を出る準備をする。
ニット帽をかぶり、部屋を出て鍵を閉めたところで一階から悲鳴のような、怒声のような声が聞こえた
「く、来るなァーーー!」
なんだ?!不審者が何かか…?
しかし、声の怯えように、尋常のことではないと思い、急いで階段へかける。
「うあああああああ!ヤメろぉぉ!ああああぐぁ…」
「キャァァァー!」
男と女の悲鳴が聞こえた。
階段上部にて、あまりに激しい物音に訝しげな表情で1階に降りあぐねている人たちをかき分けて階段を降りた。
階段を下ると、悲鳴の主と思しき女性は見当たらなかったが、そんな事など小さ過ぎて気にならないほどの存在感をもつ異物がそこにあった。入り口の方面に、観光客らしき男を喰らうサーベルタイガーのような風体の獣の姿があった。いや、よく見るとあれはもはや獣というより魔物と呼ぶべきような姿であった。目は真っ赤に充血し、その佇まいからは理性や知性といったようなものは一切持ち合わせていないかのような印象を受ける。それに、男の死に様は壮絶だったのであろう、顔はくしゃくしゃに歪み、下半身から腹にかけてが引きちぎられて内蔵が飛び出ている。彼の無惨な姿を見た者は、皆一様に恐怖に慄くであろう、そんな異様な光景であった。
その現実離れした様子に呆気を取られて半ば放心状態で棒立ちしていると、どうしたんですかと二階から女性が降りてきた。すると、この光景を目の当たりにするやいなや女性はやはり、あまり恐怖に悲鳴を上げた。女の悲鳴に俺は我に帰ることができたが、しかし、その魔物がこちらを振り向いたのは言うまでもあるまい。魔物はこちらを品定めするかのように凝視してきた。くそっ、あの女やたらに叫びやがって、空気読めよ!と内心悪態をつきながらも俺の中の良心が女を放っておくことは出来なかったので、
逃げるぞ!とぶっきらぼうに女の手を引き、魔物とは反対側の廊下へかける。魔物は建物の入り口の方面にいたので、建物の奥に行くことになるが、仕方あるまい。裏口よ、在れ!と心の中で願いつつ走るも、その願いは報われず、それらしきものは見当たらぬまま行き止まる。魔物はそれを理解したかのように、じりじりゆっくりと追い詰めるようにして迫ってきた。
女もべそをかきながら目を見開き、何度も何度もごめんなさいと繰り返し、首を左右に振りながら壁に背中を貼り付けるばかりだ。
苦し紛れに、近くにあった消火器を構えて、迫りくるサーベルタイガーのような魔物と視線を交錯させる。
こい!こいよ!!と虚勢を張ってみたものの、足の震えは止まらない。
この時、俺は早くも半ば己の生を諦めていた―――。