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魔獣の壺シリーズ

魔獣の壺 - 番外編 - 天才たる所以

作者: 夢之中

(ドレアル)は、研究室で魔法陣の研究をしていた。

研究室と言っても、自宅の1部屋を研究スペースに

割り当てただけであった。

年老いた魔導士は、魔獣王討伐に参加することもできずに

研究や弟子の育成のみが仕事だった。


魔導士は、大きく分けると、魔法の品を作る者達と

研究を行う者達の2派にわかれていた。


魔法の品の研究を行う者。

これは、魔導具や魔法薬の研究となる。


研究を行う者といってもさらに分かれている。

魔法語(精霊語)の研究を行う者。

これは、攻撃や防御などの唱える魔法の研究となる。


魔法文字(精霊文字)の研究を行う者。

これは、主に魔法陣の研究となる。

魔法文字には、1文字毎に意味があり、

その意味の組み合わせで魔法陣は構成されている。

その魔法文字の意味の調査研究が中心となるのだ。


私は、魔法陣の研究を行っていた。

研究の為の資金は、スポンサーを見つけるか、あるいは、

弟子を指導することによる国からの補助のみであった。

この頃は、魔法学校など無かったため、

魔法を覚えるためには、魔導士の元で修行する以外に

道はなかったのだ。

特に魔法陣の研究を行う魔導士は、外に出る事もなく、

黙々と研究に没頭していたのだ。


私が研究結果を纏めていると、

不意に玄関のノッカーが音を発した。


ドレアル:「一体なんじゃ?

     あと少しだというのに、、、。」

私は、それほど長くない廊下を通り玄関に向かった。


玄関に到着すると、

ドレアル:「どちらさまでしょうか?」

と言いながら、扉を開ける。


私は、目を見張った。

そこには、2人の女性が立っていたのだ。

女性といっても、かなり若い女性だ。

女の子と言っても良いだろう。


1人の女の子は私を見ると言った。

???:「ドレアル先生ですか?」

ドレアル:「そうじゃが、何の用じゃな?」


もう1人の女の子が突然、紙を私に差し出した。

???:「これを、、、。」


私は、少し警戒しながら、その紙を受け取った。

そして、その紙に目を通す。

なんと、それは王宮発行の推薦状だったのだ。


推薦状は、誰が推薦を行ったかが非常に重要になる。

最も一般的なのは、他の魔導士によるものだ。

これは、知り合いの魔導士によるものが最も多く、自分では

手一杯であった場合や研究対象が違うなどの理由により、

他の魔導士に推薦する場合が多い。


2つ目は、王宮魔導士からのものだ。

特に優秀な場合に王宮魔導士から推薦をもらえるのだが、

これを実現するためには、

一般の魔導士から王宮魔導士に推薦状の作成を依頼し、

さらに王宮魔導士が認めなければ発行されない。


3つ目は、王宮からのものだ。

これは、王宮魔導士がその実力を優秀以上と認め、

さらに国王がそれを認めなければ実現しない。


私は、その推薦状を食い入るように読んだ。

そして、それが本物であることを理解し、驚いた。

王宮の推薦状が2枚も、それも2人が同時に持ってきたのだ。


推薦状には希望の欄がある。

そう、希望の師匠を書く欄があるのだ。

そこには、2枚ともドレアルの名が記入されていた。


私は、少しの間考えた。

さすがに、2人同時に弟子にするのは無理がある。

しかし、王宮の推薦を断るには、正当な理由を王宮に説明

しなければならないのだ。

それも、研究に支障をきたす理由でないと通らない。

残念ながら私には、すぐには思いつかなかった。

それに、この2人の少女の実力を見極めてみたいという

好奇心もあった。

そして、2人の少女を家の中へと招き入れた。


2人の少女は、バーバラとレミューズと名乗った。

そして、唐突に質問した。


ドレアル:「何故、私の所を希望したのかね?」

その質問を想定していたのだろう。

2人は、1度お互いを見つめると、レミューズが話し出した。


レミューズ:「私たちは、詠唱については、

      ある程度の実力は持っていると思っています。

      前の師匠に魔法陣研究を行いたいと告げたところ、

      魔法陣研究の第一人者でもある、

      ドレアル先生を推薦してくれたのです。

      そして王宮に推薦状の発行を依頼してくれた

      というわけです。」      

ドレアル:「なるほど、分かった。

     とりあえず、その実力とやらを見せてもらおう。

     弟子にするかは、そのあとに考える。」

そして、独自の方法で試験を行う事を決めた。

後から考えれば、王宮の推薦状を持つ者であれば、

私の試験など、難なく突破することは予想できただろう。

2人は、私の予想を遥かに超えた実力を持っていた。

当時で言えば、マスタークラスの実力は持っていたと

言ってもよいだろう。

もし、もう少し年齢が上であったなら、魔獣王討伐隊への

参加依頼がきていたとしても、おかしくは無い。


当然の結果であるが、2人は、私の弟子として経験を積むことと

なった。

バーバラがもしも1人で弟子になっていたら、私は彼女を天才と

呼んでいただろう。

人並み外れた理解力と熱心に研究するその姿勢および発想力は、

素晴らしいものだった。

しかし、同時に弟子になったのがレミューズであったことが、

彼女にとって不運だった。

レミューズは、バーバラを遥かに凌ぐ理解力を持っていた。

さらに、特筆すべき点は、その発想力だった。

それを知ったのは、2人を弟子にして半年後のことだった。


私は既に完成していた転移の魔法陣の改良を考えていた。

私の作った転移の魔法陣は、1人のみを転移するものだったが、

複数の人を同時に転移することを次の研究としていた。

そこで、2人にそのことを告げ、研究の助手として手伝う事を

指示した。

ここで、問題が発生した。

レミューズが意見したのだ。

彼女が言うには、今の魔法陣では、複数人の転移は

出来ないのではないかというのだ。

彼女にその理由を説明されたが、その根拠となる理由が

まだ解明されていない未知の領域の話だったのだ。

確かに、多くの理由はその可能性を指摘していた。

しかし、私は30年ほどの研究が否定される事にも繋がるため、

それを認めることができなかった。

そして、ある提案を行った。

バーバラには、自分の研究を手伝わせ、レミューズには、

独自の方法で研究させることにした。


そして、半年後、レミューズがパーティーの魔法陣の基礎を

作り上げたのだ。

パーティーを1つの固まりとしてみることにより、転移を実現

させようというのだ。

この技術の基本になったのが、魔法文字の考え方だった。

レミューズが考えたことは、

魔法文字は、1文字でも意味をなすが、複数文字でも同じ意味に

することが出来るというものだった。

別の見方をすると、複数文字の組み合わせによっては、

意味が変わってしまうという事だった。

そして、複数文字の1文字を変えることによって、

意味が変わる事を証明してみせたのだ。

これは、魔法陣研究を飛躍的に進歩させる発見だった。

私は、認めなければならなかった。

そして、3人でこの方法を使った複数転移の魔法陣の

研究を始めた。


そして、1年の歳月が流れた。

その日はやってきた。

レミューズとバーバラ両名に対してクライム王宮より

魔獣王討伐隊参加依頼書が届いたのだ。

それは、強制ではなかったが、平和を考えた場合、

参加を拒否することは皆無だった。

そして、2人が私の元を離れることが決まった。

残念ながら複数転移の魔法陣は完成までは至らなかった。


2人は仲が良かったが、1つだけ意見が合わないことがあった。

それは少数の犠牲で、大多数の人は助かるかという状況下で、

どのような選択があるのかという究極の問題だった。


バーバラは、少数の犠牲があっても、

多くの人が助かることを選んだ。

当然のことだが、自らも犠牲になる覚悟を持っていた。

後の彼女の行動を見れば良く分かることだろう。

彼女は常に危険な任務に率先して参加しているのだ。

現に、

  「その覚悟がなければ言ってはならない。」

とも語っている。


レミューズは、1人の人を助けられないのであれば、

多くの人を助けることなど出来ないという信念を持っていた。


どちらの主張も納得できるものだった。

1つ言える事は、国などの大きな組織を束ねなければならない

人間を選ぶのなら、バーバラなのだろうと思う。

しかし、一人の人として見るのであるならば、レミューズの

意見を尊重したい。


その後を見れば良く分かる。

バーバラは傭兵協会の会長へ、

レミューズは単独行動へと進んでいったのだ。

各自の考え方が、その方向を選ばせたと言っても過言ではない。

私の見立てでは、カイン王もレミューズと同じ考えを持つが、

王という立場が、それを抑えていると思われる。


2人が私の元を巣立つとき。

この考え方が2人の間を壊さないように、

次の言葉を贈った。


  「2人の進む道が分かれようとも、

  同じ未来を見つめている限り、

  その道の先は必ずつながっている。」


そのことは、決して忘れないようにと、、、。



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